尾張統一前夜
1558年、岩倉城の織田伊勢守信安が息子信賢に追放されました。好機とみた兄上は犬山城主の織田信清と手を組み、岩倉城を攻めるため途中合流をする。
どのように攻めるか主だったものを本陣に集めると評定をおこなうことになりました。
私が本陣にはいると兄上の横には信清が座っておりまだ始まらぬ評定にいらつきながら始まりを待っている。
評定がようやく始まり兄上は丁寧に、
「信清殿、援軍ありがとうございます、今回の攻めについた何かありますか。」
そう言われ待たされていたので、
「上総介殿さっさと攻め滅ぼしてしまえばいいではないか、なにをしておる。」
そうすると筆頭である林佐渡守が進み出て、
「信清殿、岩倉勢は多く損害もばかにならないと思われます。」
信清はそっぽを向き、
「そんなことわかっておる、さっさと決着をつけるに越したことはない。」
兄上が信清をちらっと見たあと、
「岩倉城の南は沼地が多く攻めにくい、そこで一度北側にいきそこから攻めることとする、他には何かあるか。」
私は百地の草より、信賢士気が思った以上に低いことがわかったので、
「兄上、信賢勢は信安の追放により動揺し士気も低いです。今なら兄上の直属でも充分勝てます。まずは鉄砲を前衛に展開し発砲し信賢勢が混乱したところを衝けば容易く倒せると思います。」
そう言うと兄上は嬉しそうに頷き、
「小十郎のげんやよし、成政と原田は小十郎の鉄砲とともに前衛に、権六(柴田)佐久間は右翼から鉄砲の合図で蹂躙し、佐渡(林)と一益(滝川)は左翼より権六が潰したところにとどめをさせ、出陣だ。」
織田勢は陣を整えると岩倉城を落とすべく北上する。浮野と言う所で信賢勢に遭遇したが、すぐさま陣を変えて鉄砲隊を前面にくり出し足軽を後ろに待機させる。佐々と原田の両鉄砲隊が合流するのを待ち、信賢勢の様子を見るとに勢いはなく襲いかかってこようとせず士気の低下がみてとれる。
ようやくそれぞれが左右に配置が終わり佐々と原田がやって来たので、
「今回は今までの戦いよりも敵も味方も数が多い。なればこそ二十間の目印の石を越えたら発砲するようにしてほしい。くれぐれも恐怖に負け勝手に撃ち出さないようにしっかり隊を掌握してくれ、これからもこれ以上の戦いもあるだろうし、いずれは武田の騎馬隊などにも遭遇することもあろう、頼むぞ両名」
そう伝うと頷き、佐々と原田は両翼に戻り叱咤激励をはじめる。
私は自分の隊にも、
「今までの戦いのなかでも敵も味方も一番多い。これからもっと大きな戦いを経験するだろうだがすることはかわらないと思え。合図と共に一斉に撃ち敵を恐怖に陥れ味方に勝ちをもたらそうではないか。」
鉄砲隊の面々は頷き、迫り来る信賢勢を今か今かと待つ。相手はようやく長槍を構え押し潰そうと私たちの前にくり出してきた。
「構え」
二列重隊で前列が鉄砲を構え、信賢勢があらかじめ置いた目印を越えたのを見計らい私は、
「撃て」
叫ぶと共に発砲と同時に白い煙が立ち込め前が見えない状態になる。
「弾込め、撃ち方用意」
足軽鉄砲は次々と弾と火薬を再度装填し終えたものから構え始める。煙が流れ視界が広がると目の前には呻き倒れもがき戦列乱す信賢勢がおり、混乱しながら指揮する武将が倒れたのか未だに混乱を静めようとするものはおらず再度発砲しようかと思ったが、右翼からは喚声と共に権六の突撃が始まり文字通り蹂躙し始めた。
同時に左翼からも林佐渡と一益が突撃し一方的な戦いになりはじめ、その戦果は普段ではあり得ない半数以上を死傷させその後は動くことのない信賢勢が残った。
私は鉄砲で撃たれたであろう足軽に近づくと、弾がどこに当たったか確認をする。時々呻き声をあげる者は止めをさしていき、私はその横を歩きながら確認をしていくと、
「信照殿、いかがなされた。」
振り向くと成政と原田が私の様子を見ていたので、
「体のどの部分に弾が当たっているか確認しています、以前鉄砲の教練で体のどこを狙うかと言う話をしたのを覚えていますか。」
「腹を狙えと、頭は小さくよく動く、その点腹は大きく外れても胸にあたる」
「そうです原田殿の言うとおりです。そしてその結果が殆ど腹に当たっており佐々殿と原田殿の教えの賜物であります。」
そう言うと嬉しそうに二人は頷き、
「そう言っていただけると苦労したかいがありました、これからも色々なことをお教えくだされ。」
「そうですねまずはこの戦いで問題点がいくつかあるのでそれを補うことを考えましょう。」
「信照殿、清洲に戻ったら早速始めましょうぞ。」
せっかちな成政はもう戻ってからの事を言いはじめたので、
「成政、熱心なのはいいが目の前の岩倉城を何とかしないと、気合いは良いが兄上に呆れられるぞ。」
「岩倉なぞこれだけの損害、実が熟すように落ちましょう。」
そう元々猛将の成政が威勢よく言いながら兵を集めると岩倉へ進んでいった。
兄上は岩倉城を包囲したが秋も深まり雪がちらつきはじめたため、来年に持ち越しとなり不満そうな信清をなだめて撤退をした。
年が明けたばかりの1559年、京にいる将軍義輝の命により兄上は家臣百人ほどつれ上洛をはたしました。
正月の挨拶もまだ終わらないのに兄上から呼び出しをうける。
「将軍からお声がかかったぞ、尾張の抑えのため上洛をするから仕度せよ」
そう言われて慶次郎を呼び鷲尾に騎馬と鉄砲ができる者を選び準備させる。公方である将軍と天皇家への献上の品々を準備させ待っていると兄上が出てきてこちらをみると馬に乗った。
私は百地に先行させ替えの馬を準備させており、あとは上洛途中の義龍の動きだけが気になる。
兄上が馬を進ませ美濃との国境近くへと到着すると百地が待っており、
「斎藤は追っ手を出したようです。関ヶ原に抜ける途中で追い付かれると思います」
兄上は頷き、
「その方先に進め、追い付かれたら反撃をするだけだ」
それだけ言うと百地を先頭に進む、徒歩だが馬よりも早く走り抜け改めて忍びはすごいと思いながら兄上の背中を追った。
山道を抜けて雪が残っている山あいを進むと横から草が百地に接触すると足を止めた。
「予想より早く右の山間から斉藤勢が鎧を身につけもう少しで追い付きそうです。」
献上の品々を載せている馬に合わせているために遅く追い付きそうであり兄上を見ると、
「ここで迎撃する。鉄砲の威力を試そうぞ」
淡々と言いながら降りて鞍に取り付けてある3匁の鉄砲を持つとなれた手つきで火薬と弾を装填する。
私たちもすぐに準備して兄上と私、慶次郎など10人が並び狭い山間の道に並んだ。
その後ろにはそれぞれ二人ずつ鉄砲をもって待機した。
馬の走る音が徐々に大きくなり黒い鎧をきた騎馬が槍を構え突撃してくる。手に汗が徐々に吹き出し始めたが火縄をつけているので黙って動かずに待つ。
私の横にいる兄上がギリギリまで引き付けた騎馬に向け発砲し私達も続いて発砲した。
目の前の馬は見えない壁に当たったかのように前のめりにつんのめり転ぶ、私は前を向いたまま鉄砲を後ろに差し出し手から鉄砲が消え、また鉄砲が手元に戻る。
構えると間髪を入れず兄上が発砲し続けて発砲、倒れた馬を越えようとした武将や騎馬が悲鳴をあげながら倒れ、直ぐに鉄砲をかえて撃った、
「向かうぞ」
兄上はすぐ馬に乗り私も慌てて乗るとついていく、
「後始末は草にさせます」
百地がそれだけ言うと兄上の前に出て走った。
それからは妨害もなく馬をかえて六角氏の領地をぬけ京の手前に到着する。
兄上は直ぐにと思ったようだが将軍からの返事は明日の午後にと言う返事があり、兄上は眉を潜め宿である本能寺で待つことになった。
私はゆっくりできずに内裏へ向かい近衛関白に面会をお願いした。
「初めて御目にかかります。尾張織田家当主上総介信長の名代として関白にご挨拶をさせていただきました」
関白は幼い私を見て嬉しそうに頷き、
「尾張から織田上総介信長が上洛したということ、父である信秀殿には内裏の修理の費用を用立ててくれ助かっておるぞ」
私は和紙を広げ革袋に入れた砂金を広げる
「ういいやつじゃ、上総介はいつこられる」
「明日、公方様に面会をしますれば明後日にお伺いいたします」
「楽しみに待っておくぞ」
私は夕方に戻り兄上に報告をした。
翌日兄上と共に荒れ果てた二条城へと入る。
「先約がおられますので少しお待ちを」
控えの間で待たされようやく呼びに来た。兄上だけが向かい私は暇をもて甘し厠へと向かう。
さっぱりして控えの間に戻ろうとしたがどうやら間違えた部屋に戻ってしまった。
「あっ、すいません間違えてしまいました」
私は慌てて中で静かに座っている男性に謝り行こうとすると、
「公方殿の家臣かな」
「いえ、尾張の織田上総介信長が弟、信照と申します。間違えてしまい申し訳ありません」
「そうか、いや呼び止めてすまない昔の私に似ていてつい呼び止めてしまった。長尾景虎と申す」
私は驚き上杉謙信、上杉謙信と心の中で繰り返しながら、
「越後守護である長尾景虎殿ですか、会えるとは嬉しいです」
景虎は嬉しそうに頷き、
「私の様なものを知っておられるとは、しかし若いな昔の私にそっくりだ」
お世辞でもいってもらえて嬉しい、
「昨日、関白の近衛殿が言っておられた若者とは貴方でしたか、とても喜ばれておりましたぞ」
「若輩者の私にも好意的に接していただき幸せにございます」
「これからも足利幕府の再興のため尽力を尽くしてくれ」
そう言いながら太刀を私の前に置くと、
「これは備前長船だ、これからも頼むぞ」
男気にあふれた謙信に会えて私は興奮しながら礼を何度も言うと控えの間に戻った。
翌日、兄上は内裏に向かいに献上して帰途へとついた。
「信照、朝廷も京の既得権益で辛うじて生き延びており即位の礼も金がなくできずにおるし将軍もしかり、命数を使い果たしいる。わしはこの古いものを破壊し新しい国を作っていきたいと思うておる」
私は幕府を潰すことには賛成だが朝廷までというと考えてしまい、
「幕府はいずれ滅びるでしょうが、朝廷と言う力は武力がない分だけその力は浸透しておると考えます。目的のために利用するのが一番かと思います」
兄上は少し考え、
「ちごの言うことは一理あるな、誠仁親王と言うのがいたな、その方取り込んでおけ」
それだけ言うと軽やかに尾張へと戻った。
上洛から戻り直ちに岩倉城を包囲、三重にも包囲し高い櫓をたてその上から鉄砲で打ち掛けさせ城内を疲弊させていく。
そしてようやく三ヶ月後、信賢は美濃へ逃げていき岩倉城うを落とすことができた。
戦勝後の岩倉城大広間、それぞれが嬉しそうな顔をし兄上の挨拶のあと信清が話始める。
「信長殿、岩倉城は今回の功によりわしに貰えることでいかがじゃ。」
今回特に先陣をきったわけでもない信清が図々しく兄上に言うと、
「今回の功で言うなら信照と思うが、信清殿の言うことなら信照を城代とし三千貫を与えるとします。」
そう言うと信清は私をにらむと、
「なに、信照なんぞ何にもしておらんし、わしのほうが功をあげたのだから岩倉をもらうのが当然ではないか。」
兄上はそんな信清の態度にきっぱりと、
「武功では信照である。しかしながら信清殿には隣接する二郡をもちお礼といたす。」
それを聞いて顔を真っ赤にすると、
「うつけの信長、貴様の考えはわかったぞ覚えておれ。」
信清は広間から出ていきわめきながら犬山城へ戻っていった。
兄上は、
「信照その方も14才、今回の武勲により先ほどのとおり城代とする。重要な城のため直轄にはしておくがしっかり頼むぞ、与力は丹羽長秀と滝川一益をつける。」
そう言われ城代とはいえ城を持つことができて興奮してしまい大声で、
「ありがたき幸せにございます、岩倉城は清洲の守のかなめしっかりと勤めさせていただきます。」
そうして始めての城代となり現状足軽二百五十と鉄砲百を、足軽五百と鉄砲三百にするため、貯めに貯めた貿易と金採掘のお金を殆ど後先考えず使いはたしてしまい、必要な馬さえ買うことができないことをいまさらながらに気がついた。
私は編成には足りないのをごまかすため、朝から晩まで馬を洗わせ多くいるように見せ見事にしてやったり思い嬉しく思う。
久しぶりに部屋にこもりっきりになると前から考えていたことを部屋から出ずに始める。何かと言うと兄上の怒りの相手である山口教継親子を謀略で取り除こうと思い、兄上のところにある山口教継の古い手紙を借り受け二ヶ月以上かけて、織田に内通しますと言う手紙をいくつも作成する。
それを今川方にうまく流れるように行うと見事に親子を今川に殺害してくれ一人部屋の中で小躍りしてこれで安心して布団でゆっくり寝られると思ったが、どうやら偽物の手紙を製作している間は外に出ず、新たな岩倉の領民と家臣からは閉じ籠ってるうつけの弟と覚えられてしまったらしく成功をさせたがその噂を聞き落ち込んでしまった。
そして年がかわり1560年元旦、何度かの兄上からの呼びかけに仮病を使い断っていたが部屋にいつまでもこもっているわけにもいかず兄上のところに挨拶したついでに茶室でお茶をふるまってもらう。
「小十郎、最近その方は引きこもっていると言う噂と、馬を購入出来ずに見栄で馬を洗ってたくさんに見せようとしてるそうでゃないか。」
そう兄上から改めて指摘され耳が熱くなるのを感じながらあわてて、
「引きこもっていたのは、例の借りた手紙で偽の内通を作るのに手間取っただけで、馬は鉄砲を買いすぎて貧乏なので編成に足りずこのようなことになっただけで他に意味はないです。」
そう顔を下に向けていると兄上は下りてきて私の前に座り頭をくしゃくしゃにしてくれながら、
「案外間抜けだな、馬に関しては山口のこともあるから馬50を贈ろう、しかし鉄砲を買い急いでいる理由はなんだ。」
そう言われこもっていて伝えるのを忘れていたのを思いだし、
「津の中根の爺から、今川勢が兵糧を集めていると聞き急遽かき集めてございます」
そう言うと忘れていたことに対しての拳骨が私の頭に落ち、
「今年中には動くと言うことか。」
そう言われ涙目で頭をさすりながら、
「はい、この尾張を取りに来るでしょう。」
目を細めた兄上は、
「今川に対する我々の基本方針はどう考える」
「兄上も考えておられるでしょうが籠城は愚の骨頂でしょう、思考が停止して籠城しても道三が生きておれば援軍もと考えましょうが、何処からも得られません。やはり野戦での勝利でしょう、一昨年の岩倉での戦いのように兄上の直属で突破し本陣をつけば勝機はあるかもしれませ。」
兄上は嬉しそうに今度は私の頭をくしゃくしゃになでると、
「まあ重臣どもは騒ぎ立てまくるだろうが、敵には籠城すると見せかけるために味方にもそう思わせておくほうがいいな。」
「はい、敵を騙すならまず味方と言うことで何時ものうつけでいてください」
兄上は笑い
「小十郎、おおいにうつけとなろうぞ」
「はい、それと今川義元がどこにいるか情報が欲しいです、これがなければ勝ちは拾えないでしょうから。」
そう言うと少し考え、
「簗田正綱という沓掛に住んでいるものがいる、その者に調べさせるとしよう。」
私は頷きさらに情報を確実するため、
「百地の草を簗田の配下につけてもよろしいでしょうか。」
兄上は目を細め私が忍を雇っていることにあまりいい印象は持たなそうなのだが、
「小十郎の忍びか、よかろう後でその方のところにいかせよう」
そう言うと兄上は大広間で待つ家臣からの年賀を受けるため出ていった。
私も一族として並びあらためて新年の挨拶を行い、清洲が終わると自分の館に戻り鷲尾等の家臣からの新年のあいさつをうける。
私は一通り挨拶を受けると、
「しばらくは具足と武器をもち野山を駆けまわること、何れその事が生きてくるから。」
そう言うと皆は真剣な顔で頷く。
「それと兄上から馬を五十程融通してもらえることになったので鷲尾受け取りを頼む。」
岩倉の経緯を知っていたので鷲尾は笑い正月明けに引き渡しに行くことになり、こうして今川に対する準備を伝え正月の挨拶を解散した。
城に戻り市ねえ様とお犬に会いに行く。忙しくて(殆ど寝てたけど)いけずにいて兄上からたまには顔を出してやれと正月に言われたのでお見上をたくさん持ってうかがった。
「にいさまおそい、何度呼んでも来てくれないんだから犬は待ちくたびれてしまいました」
幼い犬からそう言われて何度もごめんと畳におでこをすり付ける。
「こらお犬、信照を困らせるのではありませんよ、でもご無沙汰なのはほんとですよね」
「ご無沙汰して申し訳ありません、これにあるお見上でご容赦を、おねがします市ねえ様」
堺や津で買った髪飾りや御手玉、南蛮の珍しい物を出していく、
「こんなのじゃ騙されないんだからね、これきれいねえねえ市ねえ様きれいだよ」
お犬は嬉しそうにあれやこれや手に持って嬉しそうにしている。
「まだまだ子供なのですね、そう言えば聞きましたよ戦いで功をたてたと、でも気をつけてくださいね信照、なれたときが危険だと言われていますからね」
「わかりました。何かあれば兄上の後ろに隠れておきますから」
市ねえ様は口許を隠して笑いながら、
「でも兄上なら後ろに信照がいたら前に行けと言われそうですね」
私は泣き真似をして頷きながら、
「そうなんです市ねえ様、兄上のわがままにいつも付き合わされて泣いているんですよ」
「ほう、いつわしがいじめたと言うのかな」
後ろから声がしたので振り向くと縁側に信長が立っていて私は悲鳴と共に市ねえ様の後ろに隠れる。
わざと足音をたてながら入ってくるなり私を捕まえようとするのでにげてお犬の後ろにいく、
「ちご大人しくしろ」
「勘弁を兄上、お犬助けて」
そう言うとお犬は頷き、
「ににさまにいさまをいじめたらだめ、めなんです」
そう言いながら兄上の足元にいき私は市ねえ様の後ろに戻る。
目元をピクピクさせ笑顔になる兄上はお犬を抱き上げ、
「お犬よちごをいじめているのではないぞ、悪いことをしているから叱るだけだ」
お犬は少し考え、
「ならいいけどにいさまを叱らないで」
「ああ、叱らないなあちごよ」
あの目はあとで覚えていろよと言う事を物語っており私は涙目で市ねえ様の後ろにいた。
兄上が笑いながら部屋を出ていき力なく私は座り込んだ、
「にいさまだらしがないですよ」
お犬がかけよって背中に乗ってきてゆらすが、なかなか力が入らず苦笑いしか出ないのでしばらくお犬のされるがままでした。
数日のち兄上からお呼びがかかる。茶室に呼び出されるとお茶を出されながらいきなり、
「斯波の息子を取り込み足利繋がりで吉良氏や今川を押さえる。」
それだけ言うと席をたちさっさと行ってしまう。
将軍の一族である足利一族に連なる名門と言う意識の連中で、尾張の守護であった斯波氏の息子を御輿にかつぎ一族の繋がりで進行を送らせると言う意味と丹羽から説明を受ける。
数日のち豪農にかくまわれてた斯波の息子を迎えにいく、
「おっ、織田の弟自らの出迎え痛み入る。その方の力で守護としての斯波をもり立てていってくれ」
義銀と呼ばれるこの青年は清洲を取り戻すことができると考えており、兄上がもっとも嫌うタイプの人物であり利用することだけの目的なのだが本人はそう思っていない。
那古屋城の城下に館を準備しておりそこに逗留してもらう。
接待を行いながら三河の吉良氏等に連絡を取り向かうことになった。
酒などの贈答品を馬に乗せて義銀を先頭にして20人ほどの配下をつれて進む、三河の国境で吉良義昭が出迎えると館へと向かう。
私は今回もだが守護同士で盟約を結ばせることが第一なので義銀の配下として表状は行動しており発言をしない。
吉良氏の館にはいると一人の和尚が待っており義銀と義昭と共に話し合いの場をもうけ話始めた。
将軍家の凋落やかく守護の力のなさを嘆き足利一族で力を合わせていくと言うことが決まり盟約を結ぶこととなった。
宴会が行われ翌日和尚が出発するとに私を見て、
「今回は足利と言う名において盟約を結ぶがいずれ合間見えることになろう」
輿に乗ったときに和尚が話しかけてきて私は自分だと言う事をわざと気がつかずにいると、
「うつけものの弟は立派なうつけものか」
そう最後に言うと行ってしまった。
「あの御仁は」
義銀が、
「今川家宰相、太原雪斎殿になる」
そう言われて義元の右腕としている名前が出て驚きながらも尾張へと戻った。
「信照ごくろう、どうであった」
「無事に盟約を結ぶことができて1年ほどは安泰と思われます」
「坊主は気がついたな」
「はい、太原和尚は私に気づいておりました。」
兄上は笑いながら、
「どうだった」
「さすがと言うことですが、ただ父上と同じ死相が出ておりました。長いことはないでしょう」
「それが一番の情報だ」
そう言うと出ていってしまった。
「桶狭間まで数年、どういう役割ができるか考えないとな」
そう呟いて館へと戻っていった。