大久保党と息子の元服
私は家康に呼び出された。
「忠実、真田にやられたわ上杉へ寝返りをしたぞ」
苦虫を噛み潰したような顔でため息をついた
「狸おやじですから、気は抜けませんな、と言うことは真田は上杉をかえして秀吉に結び付こうと言うことですかね」
「そうなるな、目の上のたんこぶになりそうだな、いずれは」
「北条と連携を取りですねいずれにしても真田を攻めるにはですね」
「そうそう、頼むことがあったのだが、信濃と甲斐を手に入れたので、駿府に本拠地を移したいと思うが築城を任せてもいいか」
「わかりました、天主閣ををたて、堀を深くし徳川の新しい城を作ります」
浜松へ一度戻り、新たに今回頂いた領地を岩倉から移ってきた古渡と中根の爺に兵と共に任せ、利忠と共に駿府へ向かった。
現状の駿府の城は安部川に西側をおさえられており、天然の堀としてはいいが氾濫をおこすことと、それにより町の発展が阻害されている。
今回中根として徳川にはいるにあたり伊奈も徳川へと復帰を果たした。
その伊奈が合流し城がよく見える賎機山まで上がり伊奈に駿府の簡単な地図を見せながら、
「伊奈よ、安部川の工事を大掛かりにするか、それとも現状か、それとも氾濫だけおさえるか」
「中根殿、大規模ですと何年かかるか、氾濫を起こしやすいところと、城の西側の川が分かれているところを西側だけ流れるように堤と流れを弱め、そこを城郭と町をつくればよろしいと思いますが」
「岩倉と同じ様に伊奈には治水は任せる。私は町割を再度するのと、西に規模を広げ拡張し天主閣を三層で建てることにする」
そうして私は石川数正に大まかな城の説明をして、設計と工程を頼み町割りを行うのに実際町中で歩くと、清水の港からの道が不便と感じ東に延びている東海道を拡張し、品物の流通を良くすることを考えながら歩いていると、安部川の河原でもめていた。
一方は自由の河の民、もう一方は徳川家の侍が三人でありもめており、民の長老が前に立ちはだかっていた。
侍は、
「いい加減に娘を渡せばいいと言っているだけだ、我々に逆らうと言うのか」
若者3人がにやけた顔で迫る。
「何度も申し上げておりますが、ここは公儀の支配が及ばない河原ですよ、お帰りくだされ」
やんわりと言ったが侍は調子にのり、
「そんなことは知ったことではないか、そこにいる娘を出せと言うに」
強引にしようとするのを阻んでいたがその中の一人が長老の横を抜け小屋に向かった。
それを長老は止めようとし、騒ぎに気が付いた若者などが集まり、侍を囲み始め一触即発になり若者の侍は、
「貴様たち徳川の家臣に手を出そうと言うのか、出せばどうなるかわかっているのか」
そう言いながら二人は下がり始めたが、小屋に入った若者が娘の手を引っ張り刀を持ち出てきた。
「仲持、佐々木娘を捕まえたぞ、こやつらをはやくどけろ」
そう言いながらにらみつけていた民に刀を向け血走った眼をむけており悲鳴と怒号が乱れ飛び始める。
仲間の侍は、出てきたと言われあわてて刀を構え周りを威嚇しており、河原の民は百人以上に増えて手には棒などをもちかなり危険な状態であった。
私は石川の家臣で案内役に来ていた者に急ぎ石川殿に知らせるように伝え、そうして土手の上から、
「双方それまで、侍は刀を引け民は下がれ」
いきなり現れた私に双方とも動きをとめたので、私は下りながら二人の侍に近づくと、
「駿府城改築奉行の中根だ、その方らの狼藉しかと確認した、刀を収め土手の上で待て」
二人は私の名前に顔を見合わせ、あわてて刀を収め土手まで登って行った。
そのまま長老のところへ向かい、
「われらの同僚が申し訳ないことをした、後でまたあいさつにいくのでここは引いてくれないか」
私を見て何か察したのか長老は、
「わかりましたが、さえが侍様につかまっております」
「娘は怪我がないようにする、なのでけが人が出ないように下げてくれ」
私は長老に頭をさげお願いすると、長老は頷き近くのものに下がるように指示を出して、私と娘をとらえている侍との間に道ができた。
私は侍をにらむと近寄って行きながら、
「奉行の中根である。娘を離し神妙にしろ」
いきなり現れた私に侍は固まりそして、
「丁度良い、こやつらがこの娘をたぶらかしそれを助けに来たのだが、囲まれてしまった、私は大久保党のものである、助けてくれ」
この場になっても嘘と大久保と呼ばれる一党の名を出してきたので、私はその言葉に怒り一歩ずつ進みながら、
「もう一度言う、娘をはなせそしておとなしくしろ」
そう言ったが私の顔を知らない者なので、
「中根がだれかしらんが大久保党と事を構えるつもりか、このような者の味方をし血迷ったか」
私に刀を向け必死の形相で叫んだ。
私は無言で近づき、そのまま刀を持つ右手首を抜き打ちで切り落とすと、侍は最初何が起きたかわからず、自分の手が刀と共に落ち娘が私に助け出された時に初めて気が付きのたうち回った。
娘を長老に渡すと、侍の手首を締め付け止血をおこなっていると、ようやく石川と配下が土手を降りてきた。
「中根殿、ご無事でしたか無茶をしないでください」
数正は安堵の顔と血まみれで倒れている若者を見て驚く。
「石川殿すまない、しかしあのままでは収拾がつかなくなるからな、それとあの上の二人と、あそこに倒れている止血はした連れて行ってくれ、詳細は後で報告する」
数正は部下に命令して、
「わかりました、このようなところに長居をしないでください、よろしくお願いします」
そうして石川は城へ戻っていったのを確認し、長老の所に戻った。
「すまぬ娘は大丈夫でしたか、私は中根小十郎忠実と申す」
背丈はそんなに大きくないが深い堀の顔をした長老が娘を連れ出て来ると、
「ここの民の長をしております二川と申します。娘を助けていただきありがとうございます。この通り元気でございます」
娘は私を見ると礼をしてきたので私はふと思い出し、
「そういえば山の民とはつながりはあるのか、私も織田のころに世話になっているし今も採掘を依頼しているのだが」
驚きながらも頷き、
「山の民なら時々下りてきて交易をしています。もしや岩倉の信照様でしょうか」
この人々の情報網はすごいと思いつつ、
「名前は変えたが昔はその名前でしたが今は中根です」
長老は嬉しそうに頭を下げ、
「そうでしたか、われらに平等に接していただき礼を、よろしければあそこにお座りにらりませんか」
河原の真ん中にたき火があり、そこにそれぞれ腰かけている民がおりその一角に招待してきた。
「ありがとうございます、お話したいこともありますから」
そうして座ると器に入った食べ物が出てくる。長老は不安な目をしながら私を見ていたが、私は気にもせず食べると、すきっ腹には美味しすぎたので持ってきた娘に、
「すまないがもう一杯もらえるか、美味しすぎて食べるのが止まらん」
笑って返すと、嬉しそうに器を受け取り鍋に取りに行った。
それを見ていた長老と取り巻きは嬉しそうに笑ってくれる。
「ところでお話と言うのはどのようなことでしょうか、中根様」
長老は嬉しそうに聞いてくる。
「小十郎でいい、実は駿府城の拡張工事と共に安部川の流れを西側のみにし、ここは干上がらせ町にしたいと思う、申し訳ないが河原が西側の向こうだけになる」
長老は少しだけ驚くが、
「いつの時代も施政者はお構いなしになされます、小十郎様も気にされずお勤めを果たしてください」
頭を下げ、
「すまない、もし何かあれば私を訪ねてくれ協力をしよう」
お代わりの器が来てそれも食べ、おなごり惜しかったが報告のため城へっもどった。
石川殿に詳細を話、案内役からも裏を取り殿からの裁可に任せた。
翌日から城の石や木材を各城主に手配し、作業はまず清水港までの道を整備しはじる。
道をしっかりとならし一週間ほどで終わり駿府へ戻った。
家康が戻ってきており計画と進捗報告を行っていると、大久保忠為が上様にお目にかかりたいと伝えてきたので家康はすぐに通す様に言いすぐに通されると、私の顔を見てぎょっとしながら、
「殿、言上認めていただきありがとうございます。実はそこにおる中根に大久保党の一門に連なる者が切られ昨日亡くなりました。それについて仇討ちをお願いいたしたく、お願いに参りました。」
家康は、
「それは数正(石川)が報告してきたが、とがめられるのは大久保ではないか」
そう言うが頑固者の三河侍を地でいく大久保は、
「そうであろうと、大久保党を名乗った者を切るとはいかがでございましょう、われらは三河の父上のころからの譜代でございます礎ですぞ」
家康は困った顔をして私の顔を見たので私は、
「殿、大久保党が納得されないと言うなら気の済むような事をされてはいかがでしょうか」
私の奔放な発言に眉を潜めながら、
「忠実よ、それはまずいのではないか」
「大勢では戦争ですが、人数を十名と決め場所は原因となった河原で、何があっても後腐れなし、飛び道具もなしと言うことでいかがでしょうか」
家康は少し考え、
「忠為、いかがだろうか忠実の提案をのみ後腐れなくするか」
老体は喜び、
「わかりました、それでは四日後のお昼でいかがでしょう」
「わかった、数正を目付として裁定をまかす」
仮の館に戻ると、すぐに浜松に使者をだすと利忠(前田)を呼びだし説明した。
「利忠、すまぬが命をもらうぞこんな下らんことだがな」
私が茶をたてながら言うと、
「いえいえ、義父から言われるとは嬉しく思います。加賀の父もこれを聞けば参加できず悔しがるでしょう」
嬉しそうに母親の美しさと父親の力強さの顔を見せて嬉しそうにしている。
「たぶん後で文句たれるだろうな慶次郎は、ところで百地に調べさせたが大久保は五十人ほどで来るらしい」
利忠は驚きもせず逆に嬉しそうに、
「十人と言う約定ではありませんか、多ければ多いほど楽しみが増えますが」
利忠の反応に嬉しく思いながら、
「まあ、解釈だな侍を十人とあと足軽は数に入れずだな」
「こちらも数を揃えますか、義父」
少しだけ考え、
「いや、二人でいいだろう巻き込むと面倒だしな」
そう言うと真面目な顔になった利忠が、
「それについて義父お願いが、義弟の平八郎の元服を行い今回のに参加を許していただきたい」
少しだけ驚きながら、
「来年と思ったが、本人はなんともうしてる」
慶次郎に似たしぐさでいたずらをした顔をしながら、
「実は連れてきております、鎧等も準備し」
嬉しくなり頷き、
「準備がいいな、よし明日殿の了解を得て元服を行う」
「わかりました、私から伝えておきます、場所はいかがなさいますか」
「殿に相談してから決める」
そうして翌日朝早くに登城し家康に相談をした。
家康は喜び、
「わかった、ここでしようぞ鳥帽子親は昨日浜松から忠勝がきているそれでよかろう」
早速、利忠に平八郎と鎧等を持ってくるように伝え準備をはじめた。
昼には準備を終え駿府の広間に集まった、義兄の忠勝をむかえると、
「義兄、申し訳ないいきなりの親役、そしてありがとうございます」
義兄は嬉しそうに、
「いやいや同じ平八郎、親役をさせてもらえるとはありがたい」
そうして元服の儀が始まった、緊張したわが子を見て私も年なんだなとおもいつつ嬉しく見ていた。
ようやく終わり名も中根平八郎家忠と名乗り、私よりも幾分大きい体で誇らしげにしており義兄に
「ばか親のような顔をしているぞ、もう少ししまらんか」
「自分の子が元服するとこんなに嬉しいのかと感じてしまいまして、にやけるのを押さえられませぬ」
明日、もしかしたら命を落とすかもしれないと思いつつ、お祝いの宴を開きようやく私と利忠と家忠の三名になった。
「家忠、元服して父もうれしいぞ、この家は義兄の家忠と中根を任せるぞ」
中根をいきなり譲ると言われ少しだけはにかみながら、
「父上ありがとうございます、義兄上の助けを借りこんなことがあってもやり遂げてまいります」
利忠も、
「家忠、義兄として今日ほど嬉しいことはないぞ」
話しておかなければと思い私はきつい顔をして、
「家忠、承知していると思うが二日後に大久保と果たし合いをする、相手は五十人ここで命尽きるかもしれないが嫡男としてよろしく頼むぞ」
家忠は真面目な顔になり、
「義兄上とも鍛錬を怠らず行っており、果たし合いでも後れを取るつもりはありません」
「なかなか猛勇です家忠は、義父もびっくりされると思いますぞ」
私は槍はさほど上手ではないが忠勝の血を引いたのか体も大きく顔は母親である中根氏に良くにていた。
そんなこんなで果たし合いの当日になり、時間の半刻前に向かった。
裁定役の石川が渋い顔をしており私に近づいてきて、
「忠実殿、実は大久保が侍を十人と足軽を四十人、合わせて五十人ですると言い河原で待っている、足軽は数に入らないといってな」
予想道理なので頷き、
「問題ありますまい、数でできるなら桶狭間は決まったものですが、そうもいかないのが戦、問題ないです」
数正は悩みながらも、
「そう言って頂き助かる、それで忠実殿は三名でしょうか」
「そうです私と息子二人で十分かと」
そう言いながら土手をのぼると、安部川を背にした大久保の五十人がおり始まるのを待っていた。
さて、始めようかと思っていると後ろから
「まてまて、参加するぞ」
そう言って、義兄の忠勝と、弟の利勝(土井)が鎧をつけ馬で駆けつけた。
「お二人方、これは中根と大久保の果たし合いですが」
無駄だと思いながら笑って言うと忠勝が、
「中根はわしの義兄弟であるし、初陣の家忠の鳥帽子親でもある参加するのは当たり前だ」
そして土井を継いだ利勝は、
「弟をないがしろにするとは、殿にも気持ちよく見送られましたから」
私は大笑いしながら、
「二人とも馬鹿だな、こんな面倒なことに顔を出して、ありがとう」
馬上から礼を言い河原に降りた。皆にだけ聞こえるように、
「始まったら一度土手の上に上がり、雄叫びと共に一気に大久保へ切り込む遅れるなよ」
私が真面目に言うと皆は笑い頷く、
石川が降りてきて私たちと大久保の間に立つと、これが終われば後腐れがないようにと言うことを伝え下がっていき、大久保党の顔を見るとこちらの十倍いる余裕で、にやにやしながら始まるのを待っており指をさしながら始まるのを待った。
太鼓の音が響き始まりの合図となる。
私たちは一斉に土手へ駆け上り向きなおすと、いきなり退却した我々をみて追撃をせず大久保党は笑っている。
真ん中に忠勝が左右に私と利忠が、そのさらに外側に利勝と家忠が並び槍をしごく。
次の瞬間、忠勝の気合の声が内臓まで響き渡り一斉に突撃を開始した。
大久保党のみならず、周りで見学をしていた者の顔も忠勝の気合で顔を真っ青にし
飲み込まれており、若い者は自分達に来ると錯覚したらしく反射的に逃げ出していく。
突撃をしてきた我々を見て、大久保党の足軽は槍を構えながらじりじりと下がり始め、後ろの武将が鼓舞しつつ前に出させようとしていた。
忠勝は見逃さず、突き出された槍を蜻蛉切りで左から右へ跳ね飛ばし戦列へ入り込んだ。
私たちも忠勝が開けた所に入り込みそこからそれぞれ左右に槍を薙ぎ払い突破を成功させ突破する。
すぐ目の前が川なので、そのまま止まらず右へ旋回し左横からもう一度突撃した。
この時点で足軽は逃げ出しており、意地か逃げ遅れただけなのか侍だけが十人残り馬上で槍を構えた。
そこに向かい忠勝が気合いと共に突撃を開始し、そのあとを私と入れ替わりに家忠が入り、私は利勝(文官)の援護のため左横を走った。
残りの十人は必死に槍を突き出すが、前を行く三人になぎ倒され全員地面に転がされたところで石川が飛び出してきて、
「忠勝殿もうお終いでよかろう、これ以上はおやめくだされ」
水をさされたが、これ以上は味方の損失にもつながると言うことで、忠勝は私を見たので私も首を縦に振りそこで終了をした。
奇跡的に大久保党は死亡したのはおらず、骨折等はいたがひどいことはなく、我々は先頭を忠勝が走ってくれたおかげで怪我もなく、忠勝の駿府の屋敷に戻ってくると風呂に入り、夕食を食べようとしていると殿からお祝いの酒が一樽届けられ、皆で大いに酔い楽しむ、
「利勝、見事であったな文官としても胆力がついたであろう」
忠勝が誉めると顔を赤くした利勝は嬉しそうにしており私に、
「兄上は我らが来れなかった場合どうしようと考えておられましたかな」
私は少しだけ笑いながら、
「突撃して突破しているときに炮烙玉を転がして爆発した混乱のなか敗走させようかと思ってた」
「それは飛び道具として不味いのでは」
「たまたま転がったのが爆発しただけ、まあ勝てば良いのさ勝てば」
忠勝が、
「戦にずるいも何も有るものか、しぶとく最後まで生きる事が大事だ、負けても諦めず次で勝てば良い」
酒を飲みながら織田での戦いを話しながら夜遅くまで飲み明かした。




