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神君伊賀越え

兄上が亡くなり家康と共に浜松へと向かうことになったが、途中は織田憎しの伊賀であり同盟の家康にとっても危険な道だった。


集合場所に勢揃いしたので慶次郎を先導とし四條畷を通りぬけ、北東に進み京田辺を通過、東へ向かい宇治田原に入りそのまま抜けていくと、慶次郎は道をそれ森の中へ入っていった。

みな怪訝な顔をしながらついていくと奥は広くなっており、そこに馬が何頭も繋げてあった。

慶次郎は馬から降りると


「馬の乗り換えを、水を飲みすぐに出発する。」


用意された馬に乗り換え、鉄砲をくらにしばり水を飲み、また慶次郎が先導で走り始める。

田畑がなくなり勾配が少しずつきつくなり山間へ入り始めた鷲峰山の北を通りすぎさらに草木で道は見えず奥深くなりつつあり、急に慶次郎が馬を止めた。

前に警戒しつつ私が並ぶのを待って、


「前に二左上の枝、右下の茂み、左右に五ずつ木の上にいる」


私は火縄をつけ鉄砲を茂みに向かい構えた。

慶次郎が前に進み出て、


「前田利益と申す、隠れているなら敵と見なす。」


しばらくするとしげみから、まんま忍という格好で一人、進み出てきた。


「その鉄砲を構えているのは織田信照か」


私は目を離さず頷いた、


「百地から聞いている。協力はできないが通ることは見過ごそう」


私は鉄砲の火縄を消して進み出ると、


「甲賀か、護衛を頼むことも出来なさそうだな、通させてもらう」


慶次郎が前に進みそれにつづいて家康とそれを囲んだ重臣が進み最後尾は穴山が通りすぎていく。最後に通りすぎようとすると忍が、


「この先、伊賀手前の桜峠、伊賀の恨みを持つものが五十人ほど待ち構えております。」

思いもよらぬことばに馬を止め頭を下げ、

「甲賀は親切だな通すだけであきたらず、まあ感謝しよう何かあれば中根に頼ってくれ」


頭を上げると姿はなかった、急ぎ走り先頭に追い付き、信楽の先伊賀に入る手前の桜峠が待ち伏せをしていると言うことを話しながら進む、


信楽を過ぎた辺りで百地が合流してきて、

「この先、伊賀の若い遺児が五十人ほど立ちふさがっております。」

百地は眉をひそめて来るのを気にするなと手をふり、


「織田の征伐の恨みか、金では転ばぬか」

「はい、その他の土豪は通す事を了解させましたが申し訳ありません。」

慶次郎も忍の危険を知っているため提案をして来たので家康に、

「ここまで無事にこれたが殿、義兄や猛将の手をお借りしてよろしいでしょうか」

家康は即座に、

「忠実、任せる」


こうして義兄である忠勝や、井伊、榊原や服部、渡辺を十二人集め、

「この先に伊賀の若造が待ち受けている、古強者の怖さを知らしめましょうぞ」


そう言いながら先行して桜峠まで来ると峠には誰も見えず百地が、

「この先の道の真ん中に木がありその両側と、木上から狙っております」


「わかった峠を一気に下り、小僧どもが飛び出してきたところを叩き落とし、殺さず通りすぎ追撃しにきたら反転しはたき落とすぞ、逃げ出すまで続ける。」


皆を見るとなぜか嬉しそうにしながらついてきており、峠を越え木が見えたところで一気に突撃を始めた。


通りすぎようとする手前で左右から二十名ほどが飛び出してきたところをそれぞれが怒号を叫び一瞬怯ませる。

木の上から刀をつきだしながら飛び降りてきた者を槍の石突きでみぞおちを突きさし、そのまま横へ放り投げる。

そのまま通りすぎ三十間ほど走り抜け反転すると、十数人ほどが倒れ残りは刀を構え立ち尽くしており、私の左右を慶次郎と忠勝が追い抜きながら、耳がいたくなるほどの叫びをあげ再度突撃を開始した。


後ろからも徳川の猛将達の怒号が聞こえ耳がいたいほどであり、遺児達も魂がぬけたように立ち尽くしており接近してきて慌てて刀をつき出した。


つきだされた刀を凪ぎ払い、槍で吹き飛ばし暴風と思える二人が通りすぎていき、

後続の我々も通りすぎもう一度反転をすると立っているものはなかった。


そのまま近づきその中の身なりの良さそうな若者に水筒の水を馬上からかけると、うなりながら目をさます。


「このまま皆と死ぬか、話を聞くかどうする。」


私の回りにいる強者を見て、ただただ頷くので、


「その方らは伊賀の織田攻めで生き残りの者か」

そう言うと思い出したのか睨み付け、

「はい、みな親を殺され徳川が通ると聞き皆で待ち伏せていた。」


「そうか、それなら私は名前は変えたが元織田を名乗るものである。」

そう言うと反射的に起きたが義兄と慶次郎の槍で機先を制されて動けず、

「父上の敵か」


私の事をにらむので、

「参加はしてないが関与はしている。しかしその方たちは恨みを晴らすのか、家を再興したいのかどちらなのだ。」

そう聞くと、

「恨みもあるし再興もしたい」

素直な青年であり好感が持てるので、

「それなら私に仕えぬか、殿の許しをもらわねばならないが功名を立てよ、すきあれば狙ってもいいぞ」

しばらく若者は考え込み、

「私はわかりました、しかし仲間がどうするか聞かねばなりません」

最もだと思い、

「それでは信楽に一度戻るのでここに来る間に決めておけ、次はない我々は強いぞ」

私は笑いながら峠へ引き返し、家康の待機している信楽に戻った。


「しかし名が変わってもアホさ加減はかわらんな、仕えさらに命を狙わせるとは」

「率直な青年だったからな、まあ慶次郎にぼこぼこにされとけばそんなことを考える暇もないだろうしな」

「酒が飲みたいな灘のを」

そう言いながら嬉しそうにしている慶次郎であった。


家康を連れて改めて峠へ登ると、その先には若者が平伏して待っており私を見ると、


「野原新之助と申します。みなお仕えしたくよろしくお願いします。」

私は家康に振り返り、

「と言うことですが、私が雇いいれてもよろしいでしょうか」


「任せよう、心強いぞ」

命を狙うものが少しでも減ったので家康は安堵の顔を見せたが気を許してはない、用心深さに感心しつつ先を急ぐことにした。


「もう少し進むと私達を指揮していた後瑠璃の冷が戦果をまっていますがどうしたら良いのでしょう」

私は慶次郎に先行させ野原を連れてそこへ向かった。


「あそこにおられます。少し小高い丘の木の下に数人」

草影から見るとそこには鎧を着た男達がおりなにか話している。

「そこにいろ」

そう言って立ち上がると火縄に点火して真ん中の男に狙いを定め引き金を握る。


轟音と共に男は吹っ飛び、早合を装填して構え、隠れようとする男を撃ち倒した。

「後ろで隠れている卑怯者、織田信照が鉛をご馳走しようぞ」

そう言うと織田に反応して、私しかいないのを見てこちらに走ってきた。

しかしすでに装填しており、狙いを定め引き金を絞りもう一人吹き飛ばす。

「卑怯者め、尋常に・・・」

その男も最後まで言えずに吹き飛び、残った男達も逃げ始めたが誰一人として逃がしはしなかった。

「新之助、裏切ったな」

生き残りの男が私の横に表れた野原を見て血を吐きながら言う、

「安全な後ろで隠れていた癖に卑怯者の最後に丁度良い」

そう言って刀を抜くととどめをさした。

「気にするな、自分の行った結果だ」

そう言って先を急ぎ合流した。

伊賀の里に降りてくると、ここも織田の伊賀討伐の激戦の場所だったが、茶屋四郎次郎がお金をばらまき通す事を許される。


「しかし討伐から一年がたとうというのにまだ爪痕が残っておるの」

誰かが呟く、

「信雄は前回の失敗があったため自領となった後も忍を狩り苛烈な政治を行い、何度か改めるようにと手紙をしましたが結局この有り様、当主としての器はないと思っています。」

言い訳ではないのだが報告書にあった現状を見ると、そう言わざるおえないのかと思いながら家康に言う、

「忠実は織田の当主として誰をと思っているか」

家康から聞かれ少し考えると、

「信雄と信孝、信雄は寡言を聞かず父と同じようにできると考え何より恩を仇で返す男です。信孝は父の好奇心一杯の性格で、もっと安定した世ならばと考えますが疑心暗鬼が強いのが困ります。一番一族でと言うなら信行の息子である信澄でしょう。気の利く利発な青年で、父の事で暗くなったりもせず家臣からも信頼されております」

「それでは光秀を討った者が次期当主となりますかな」


「もし一致団結するのであれば長子の子、三法師を当主として後見をおけばですが無理でしょう」

「忠実なればだが本人は望まないと言うことか」

私は頷くと家康はその場でこれからをどうするかと言うことを考え始めているようだった。


里を抜け東へ進路を変えて笠取山の北を通りすぎ、ようやく津の町へ入り角屋に入ることができ、角屋はいきなりボロボロの姿になった私たちにびっくりしたが、私が浜松への廻船を依頼するとすぐに準備を始めてくれた。


私は一息つき、脱落者がいないか人数を確認すると、いつの間にか穴山がおらず、他の者に聞くと途中で離脱したようだった。

準備ができ、廻船にのり海へ出ると皆は力が抜けへたりこんでお互いの無事ましてや家康の無事を喜び泣き、直ぐに戻ったら仇討ちをすると息巻いた。


「忠実、軍を編成して直ちに仇討ちにむかうぞ」

家康が気を使ってくれているのかそう言ってくれる。多分途中で秀吉の仇討ちを聞くことにはなるが、家康の配慮に、

「仇討ち感謝いたします。」

「明智を撃ち近畿を制することが出来ればだが」

「時間との勝負になりましょう。光秀が京を押さえる前にですね」

そう言って風が追い風になるように皆は祈り船は波をかき分け進んだ。


二日後にようやく浜松へつくことができた。


直ちに編成を行い明智討伐と思って皆忙しくしていると、

「申し上げます。明智が羽柴に山崎にて敗れました」

百地からの知らせを家康に知らせにいくと皆動きを止め悔しがり、なかでも若く大柄な伊賀越えでも見かけた武将が悔しがり騒ぐ、

義兄が、

「直政殿と山根の前でうるさい静かにしておれ」

そう言うと不満そうにしておりこちらをにらんでいる。あれが井伊直政かと驚きながら、

「直政か、会うのは2度目だが直虎殿は元気かな」

そう言われ直政はなにを言ってると言う顔をするのを家康が、

「今川時代に助けられたと聞いたし、こちらへの橋渡しをしていただいたのだ直政」

驚きながら頭を下げる。

「直虎殿にもご無沙汰しているので会いに行きたいが息災か」

「近頃元気がないので心配しております」

私は家康に断り井伊谷へと向かうことにした。


「寝込んでおられるとは、そのままそのまま」

直虎は疲れた顔で寝ており出迎えてくれる。

「信照殿、ご無沙汰をしております。あの後も金銭などをいただき助かりました」

「いやいや、大したこともできずに今回直政殿とお会いして元気がないと聞いておりまして」

「調子が悪いというか心配事なのですが、聞いていただけますでしょうか」

直虎が言うのを頷くと、

「直政にございます。家康殿の娘をいただくことになっておりますがあの通りの正確なので心配にございます」

四天王と言われたなおだが直虎にしてみればあのプライドが高そうな正確が気になると言うことらしい、

「武勇は義兄の忠勝も認めておりますが若者特有の気の強さがありますね、しかし大なり小なり誰にでもあると考えますが」

「いいえ、元服前なら家康殿も許されましょうが元服をした身、許されるとは思いませぬ」

「確かに、しかし一番の原因は直虎殿、自らと思われておりますが」

「はい、優しい子にございますれば、私に良いところを見せようと気にしすぎると思います」

浜松で会った直政のあの行動を見ればそうかと思えるふしもあるので、

「どうかと思いますが直政殿に親離れをとお思いなら亡くなったことにして神隠しにしては」

直虎は興奮したようで少し赤みがさし、

「信照殿にお任せいたします」

そう言われいくつか手紙を書くと流行り病と言うことで偽の医者(百地)を呼び急に亡くなった事にして代わりの遺体を準備して荼毘にふした。


知らせを受けた直政が真っ青な顔で入ってくるなりその風貌に似合わず床に伏して大泣きする。

「私に会って気が抜けたのか静かに亡くなられた、医者が流行り病ではと言うことで火葬にした」

そう言うと私に掴みかかり、

「何故ですか、1日待てば直ぐに私がこれるのに何故ですか」

私はこぶしを握りしめ私より大きい直政を殴り、

「もし直政にうつれば井伊はどうする。そう言うところを心配していられたのだ、い加減直虎殿の為ではなく井伊の為と家康に仕えよと言うお言葉だ、これから武田の旧領を納めることになろう、そこで武田の旧臣を取り込めるかがこれからの徳川家の行く末をきめることにもなる。悲しむ間があれば殿の側で必死に働くように、これを殿に渡しなさい」

そう言って喪に関係なく直政を浜松へ帰した。


「信照殿は私を殺してしまわれたなあ簡単に」

裏で見ていた直虎が嬉しそうに立って馬で走り去る直政を見送る。、

「あれで自分のみと思い徳川の柱としてがんばろうと言うことです」

直虎は久しぶりに笑ったのか貧血でこちらに倒れこむのをささえお姫さま抱っこで裏へと向かう。

「あややどうしましょう尼僧ですのに、捨てたのに体が熱くなります」

顔を真っ赤にしている直虎を百地に手伝ってもらい東へと馬を走らせ、天竜川を登り信康が住んでいる集落へと到着した。


「こへい息災か」

馬を降りると信康が少年をつれ出てくる。

「信照殿には久しく元気そうで何よりです」

野良仕事で日焼けした顔で嬉しそうにしており少年はこちらをにらんでいる。

「こうか元気そうで何より、父や兄の分まで生きろよ」

そう言うとこへいの後ろに隠れる。

「しかしどの様なご用件でこられましたか」

私は直虎の手を取り、

「死に人を連れてきた。親ばなれをしないとな」

そう言うと嬉しそうに直虎は頷きこうの前に座り、

「こうです。貴方と同じくここで住むことになりましたよろしくね」

母親が息子を見るように優しく見つめるとこうは抱きついた。

「そんなことで世話をかけるなこへい」

信康は嬉しそうに笑顔で、

「いえいえ家族が増えることが嬉しいです」

そう言って見送ってくれた。


「ご苦労、手間をかけたな忠光よ、我らは信濃と甲斐へと向かう尾張は頼むぞ、他に何かあるか」

家康と会うと織田の会議が清洲で開かれるため織田信照として最後に向かう事になっている。

「上杉や北条との戦いになると思われますが武田の旧臣を受け入れればよろしいかと、北条とは直政を当てればそれでうまくやるならば武田を引きいらせ赤備えを引きいらせればよろしいかと思います」

そう言うと家康は頷き行ってしまった。






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