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本能寺の変

安土での饗宴の翌日、兄上は家康殿を連れ立ち京へ小姓のみをつれ向かった。

結局一睡もできず顔色を隠すため薄化粧と紅をさして誤魔化して館を出る。

兄上の事だから多分臼化粧に気づいているが無理矢理声を張り上げている私を見ても特になにも言わなかった。


私は信隆に堺に京の後いく予定で、岩倉勢は兄上から光秀と秀吉の援軍に向かえと言うことだったので、中根信隆を主将として副将に前田利照、それに鷲尾と宇部、長谷川と小野寺に四千の兵をつけ送り出す。


送り出すときに皆を集め、

「私は一緒に行けぬ、これから何が起きても一致団結し、秀吉殿からの援軍依頼があれば積極的に動き功をあげよ」

皆は私の抽象的な言葉に不思議におもいながら頷き、姫路方面へ進軍を開始した。


私は、慶次郎と伊奈そして百地をつれ本能寺へ向かう。

本来は信忠殿が一緒に堺にいく予定だったが急遽信忠は兄上と行動を共にすることになり、案内役の私と慶次郎、後ろに伊奈と百地で堺へ向かった。

堺では今井宗久と会合衆が盛大に出迎え、珍しい金平糖がだされたりして甘さにみんなで喜んでいた。


しかし、私は兄上が気になり少しうわの空になっていると、義兄の忠勝が横にきて、

「小十郎、時より考え事をしているようだがどうした。」

猛将と言われているが細かい気配りができる義理の兄の優しさを感謝とほっておいてほしいと言う気持ちが入り交じりながら、


「気になる人がいまして、それの心配事です」

少しだけ眉をひそめ、

「女の事ではないだろうな」

真顔でのぞきこむ義兄

「いえいえ、男ですというかやな予感が消えないのです、それで考え込んでいたのです。」


「心配なら、手紙を書けばよかろう」

この胸の中の気持ちをどう手紙にすれば良いのかと思考不全になっており、

「何と書けば、不安ですのでお気をつけくださいとかですか、漠然としているかと」

義兄は少しだけ微笑み背中を叩くと、

「気苦労だな、気になった点だけ短くでもいいから書けば良いだろう」

忠勝なりの元気を出せと言う行動に感謝しながら、

「わかりました、ありがとうございます」


そうして南蛮船を見学し、京の商人茶屋四郎次郎の招きでの茶会に出席するために向かい、少し時間がとれたので、


「兄上、キンカン頭が気になります、ご注意下さい」

それだけ書いて、百地がたまたま居なかったので今井宗久の奉公人に頼み、本能寺へ届けるように碁石金を渡し急ぎ頼んだ。

その後は、茶屋四郎次郎の茶を徳川家の皆さんと楽しみ、織田の常宿である寺にはいるとゆっくりと寝た。


「誰かいるか」

やはり眠れない夜であり京まではすぐと言う堺なので行くことにして百地が現れると、

「お忍びで出掛けるから慶次郎を馬屋に呼び出せ」

そう言って着替えると馬に乗り慶次郎と出発した。

「これからの事、一切他言無用」

それだけ言うと百地の先導で京へと急ぐ、


今日の北側には松明の列が京へと入っており始まったと実感した。

「馬をおりて本能寺へとむかう」

そう言って東寺の門に馬を止めると本能寺へと走った。


「桔梗、明智か」

慶次郎は暗闇のなか旗印を見て呟く、

「驚かんと言うことは知っているのか」

それだけ言うと塀を上りそこを私をつれて移動する。警戒している明智の兵に見つからないように本能寺の外に到着した。

「これは中に入るのは小十郎をつれては難しいな、どうする」

慶次郎は明智勢の多さに聞いてきた。


「逃げ道の1つを使う、この家の床下から行けるから」

そう言って戦いが始まるのを見たこの家の持ち主は家財を積んで逃げ出しており、がらんとした部屋の床を露出させ少しだけ掘ると板があり外すと穴が現れる。

「信長とその周り一分しか知らされてないのだろう、切り殺されるぞ」

慶次郎が難しい顔をするので、

「もう使わない、私達が行って私達だけが帰ってくるだけだから」

それだけ言うと穴へ飛び込み走り抜け兄上の寝室の下に出る。


「慶次郎、押し上げてくれ」

そう言うと床板ごと持ち上げ始めたが途中で止まる。前を見ると刃先が突きつけられているが慶次郎は平然と隙間からその人物を見ていた。


「兄上、ちごが参りました。」

わざと自分でちごと呼ぶと隙間から兄上がこちらを見る。

「最後を見に来たか」

そう言って刃先で床を持ち上げ私達を見下ろした。


「光秀にやられたわ、本人はそうするつもりは無かったが、何者かにそそのかされたのであろう」

外では蘭丸の声が聞こえ、敵を未だ通すなと叫んでいる。

「天皇か神父か家臣か」

兄上はそれをきくと笑い続けろとあごを動かす。

「兄上に周囲はついていけなかったと言うことです。人は理解の範疇を超えて行動されると恐怖しか感じなくなりその結果です。」

「そうか、してどうする」

「兄上がしたいように、私はそんな連中の肝を冷やさせ続けるだけです」

「わしの首を持っていくと言うことだな」

「はい、すでに兄上は覚悟を決められていると見たときにわかりましたし」

おい笑いをした兄上は、

「よかろう、慶次郎と言ったな介錯を、それと家のは許せ」

そう言うと脇差しを持ち目を閉じる。


「信忠はどうなる。」

父親として心配した顔で聞いてくるので、

「兄上が自害したと聞けば同じようになされるでしょう」

「そうだな、織田家も朝露のごとく消えるか」

そう言って笑いながら脇差しを腹に突き立て一文字に割いた瞬間、慶次郎が介錯をした。


「兄上お許しください、言えなかったことを。でも兄上と過ごした月日は誠であり楽しく嬉しかったです。ゆっくりとおやすみください」

建物は紅蓮の炎に包まれ、慶次郎に促され兄上の首を箱にいれると穴に入って元来た道を戻る途中、設置した火薬に火が入ったのか爆発がおきて埋もれるのかと焦りながら穴から出た。。


建物から出て壁を上り本能寺を見ると全て火に包まれ明智の将が信長の首を探せと叫んでおり、光秀に兄上の首が探しきれず不安な日々を過ごせば良いと心のなかで叫んだ。


東寺へと走り抜け様とすると慶次郎が、

「信忠殿の事どうする」

そう言うので馬で向かい見届けたいと言うと、近くの明智の兵を倒すと3人とも鎧を身につけて二条城へと走りだした。


慶次郎は大胆にも、

「信長の首を探しだしたものには報酬は思いのままだそうだ本能寺へと急げ」

そう叫び検問をしている明智勢を突破する。

表門がすでに突破されており急がなければと騎乗したまま中へと入った。


廊下を抜け信忠の近習が目を吊り上げ明智勢を防いでおり、その中に信忠を見つけ、

「奇妙丸、小十郎だ」

そう言って面頬を取ると信忠は驚き通してくれた。


「叔父上が来てくださるとは思いもよりませんでした。どうして」

「すまないが奥の部屋で話したい」

そう言って移動をすると信忠の前に兄上の入った箱を置いた。


信忠は緊張した面持ちで箱を開けると泣き崩れた。

「叔父上はどうして父上の」

「明智の動きを監視していたのだが光秀の方が上手だった」

「そう言えば昼間にその文面が叔父上から来たと父上から聞いてました。」

「兄上はこうされたが信忠はどうする。」

「私も父上にならいましょう、1つだけお願いが」

私が頷くと、

「我が子をよろしくお願いします。本来は生き延びなければならないのですが、父上と共に終わらせたく思います。」

そう言って清々しい顔つきになり介錯をお願いしてきた。


「兄上と同じ慶次郎に任せる。」

そう言うと嬉しそうに信忠は礼を言って近習の一人を呼び寄せいくつか話すと、

「それでは慶次郎殿お願い致す。」

そう言って切腹を行い慶次郎が動いた。


「信照様、殿をお願いします」

近習が最後の別れを終え次々と飛び出し明智勢に最後の一太刀と切り込んでいく、

「我らを逃すために、ありがとう」

私は急ぎ馬に戻ると仕掛けていた火薬の爆発で混乱した明智勢を蹴散らして堺へと戻った。


水浴びをしてさっぱりしてから家康の元へむかう。百地にはこれから行うことで一番大事な事を頼む、


「百地、家康殿を浜松まで連れていきたいが伊賀を越えることになる。織田に対する恨みで厳しいが土豪の協力をえてくれ、金は今井宗久にこの証文でもらいばらまいて押さえろ、もし足りなければ茶屋四郎次郎殿にも話をつける。」


百地は受け取るとそのまま裏口から消えていき、私は慶次郎を呼び伊賀をこえ伊勢にいくから徳川家臣の食料などと一緒に準備を伝えると家老の酒井を呼び出した。


「信照殿、至急とのお話なにようでしょうか」

折り目をただし酒井は顔を赤くし息を切らせながら走ってきた。

「声を押さえてくれ、兄上が明智に討たれ本能寺で謀反が起きてしまった」

私が淡々と話すギャップでさかいはさらに慌てており、

「まさか、明智が謀反、そして信長様が討たれたといわれますか」

しばらく考え込むと私を見て頷いた。


「至急、家康殿にお会いしたいのと、重臣を次の間に集めてくれ」

酒井はあわてて出ていき、私は着替えて少しすると酒井が呼びにくる。

家康も重臣も怪訝な顔をして私が座るのを待っており座るとゆっくりと話始めた。


「急ぎのお話です、兄上が明智に討たれました。京で謀反です。」

全員が何を言っているのかわからないような顔で見つめていたのでもう一度、


「織田信長が、明智光秀の謀反により本能寺で討ち死にしました。」

家康の顔がみるみるうちに青ざめ、じりよってきて両手で私の両手をしっかり握り、


「明智が謀反本当ですか信照殿、信長殿が亡くなられたと、誤報ではないのですか」

私は家康の顔を見ながら頷くと、家康は肩を話し落胆してしまい下を向いてしまう。


しばらくすると生気のない顔でこちらを見て、

「わしはおしまいだ、兵もなくすぐ近くには明智勢が、逃れられるとは思えない、潔く京にのぼり腹を切るぞ」


そう言って黙り混んだ

後ろでは家臣が、「お止めくだされ」「まだ助かる道もございます」「明智に降伏しましょう」など声が飛んできたが、


家康は、

「逃げろというがどこに逃げる、国へ帰るにも明智がいて道と言う道ぬかりはあるまい、逃げ場所はないぞ」

そう言われ家臣は黙りこんでしまった。


私は家康の前にきちっと座り直したずねた。

「徳川殿、この機会に天下を取りませんか」

家康は顔をあげ、何を言っているのかと言う顔をして私を見たので、


「光秀に天下は無理でしょう、織田も信忠が二条城で亡くなり後は器量があるとは思えない甥、残るは秀吉か、勝家が明智を討てば新たに支配者となりましょう。しかしながら徳川も今の三河、遠江、駿河に信濃と甲斐をとれば狙うことも出来ましょう。」


「しかし、現状国へ戻らないとなにもできず、手立てもない。」

現実的には手段はないと言うのは当たり前の事であり家康が一番わかっている。

「それについては今手配をしております。徳川殿私と一つ約束をしてくだされ」


「信照殿、改まってなにかな」

「しぶとく生き残り天下を取ると、先程のように最後まで諦めず、荒木村重のように生き抜き続けると、死ぬときまで」

家康は頷き、

「わかった、必ず生き延びよう家臣たちのためにもな」

そう言ってここにいる家臣一人一人を見ていく、

「そうです、私もこれからは織田家家臣ではなく、徳川家家臣として生きます。」


「信照殿がわが家臣にか、しかし信照殿の才覚があれば天下がとれるやもしれないのに」


私は手をふり

「兄上の下で働くので気力もやる気も勤勉さも使い果たし、あとは余生を寝て過ごせたらなと」


家康は笑いながら

「そう言えば信長殿が、小十郎は暇さえあれば寝ている、何時でも働き続けさせないと駄目だなと言っておったな」


そうして重臣に振り返り、

「そう言う事なので譜代の重臣の方々、新参ものですがよろしくお願いします。」


酒井が進み出て、

「徳川家の家臣として信照殿を歓迎します。」

家臣一同が頭を下げてくれたので私も深く頭をさげ、

「ありがとうございます。」


家康へ向き直し

「私は今日から三方ヶ腹で絶えてしまった中根をつぎますがよろしいでしょうか」

嬉しそうに頷き、

「中根を継ぐことを許そう、名前も忠勝の兄弟、忠実、中根小十郎忠実とする」


「ありがとうございます。」

そうしていると、慶次郎が庭に入ってきて、


「準備ができました、いそぎお願いします。」

そこから、それぞれ部屋に戻り自分の必要な物を準備し、私も愛用の鉄砲と槍、そして謙信から頂いた太刀を腰に下げ、食料と水を入れた皮袋を馬に下げ集合場所に急いだ。

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