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富士と家康

武田討伐を終え、兄上に誘われ家康殿の招待を受けることになった。


甲斐中道往還から富士山を眺めながら兄上と並び南下して進んでいく。


「信照、富士と言うのは何と大きく素晴らしい、古来から霊峰と言われているが見ればそう思える」

目を細め頂上を望みながらならんで馬を進める。

「確かにあの広がる裾野、偉大な山ですな、あの上にたてばさぞかし気持ちいいでしょう」

少しだけ笑い、

「日本を統一した暁に登ってみるか、しかし小十郎はすぐにねをあげそうだな」

そう笑いながら叶わぬ願いを思い進んでいく、


途中湧水の出ているところで休憩をして冷たい湧水を飲んだり、野桜が咲き乱れているとこで、富士をながめながら食事をしたり楽しい時間を過ごせた。

浅間神社に到着し宿泊所は家康殿の細やかな気配りと豪華な飾り付けに兄上はいたく喜び、


「この細やかな気配り、流石は家康、道中も道に石さえ転がっておらず邪魔な木は剪定して気配りが凄い」

細心の注意で文句がでないほどの配慮を体験して感心する。

「正しく盟友ですね、兄上明日からも楽しみですね」

ゆっくりと休み疲れを癒した。


その翌日も朝からこの一帯で遠乗りをおこない、細長い滝をみたり源頼朝の館と言われている建物を見学したりし、また浅間神社に戻り接待をうけ、兄上は家康殿の接待に対して秘蔵の太刀や馬を贈り感謝とかえた。


次の日は浅間神社から南へ下り足柄山を横目で見ながらそのまま海へ出ると、浜辺を移動して景色を楽しんだり近習が馬を走らせてみたりとゆっくりと進んでいき、何泊か泊まりながら浜松の手前、天竜川に到着した。


天竜川は川幅が広く昔からの交通の難所である。

そんな事を考えながら川岸に出ると橋が見事に出来上がっていた。

その橋は船を綱でお互いを繋げ船縁には家臣を配置して、絶えず危険がないか家臣に確認させる慎重な家康であり、兄上も私も感動しながら浜松へ向かった。


兄上もいたく感心し鉄砲などの一部の兵を残し大半を国へ先に帰させ、そしてこれ迄の礼として、武田攻め用の兵糧米一万余りを贈呈し感謝にかえた。

「上様の信頼を見事に勝ち取りましたな徳川殿は」

氏郷が目を細め家康を見る。

「最小限の護衛を残して兵を戻すとは最大限の信頼の証と礼と言うことでしょう」

「織田にとっての徳川とはいかに考えておられますか」

「家康殿がいる限りは兄上は盟友として最大限の行動を示すでしょう。徳川殿も同じでしょう」

「しかし今回の報奨は駿河まで、甲斐は織田の将が入ると言うことで徳川の家臣は騒いでいるようだが」

確かに少ないと言えば少ないが、駿河は肥沃であり甲斐は石ころだらけの土地でさほど良いとは言えず、信玄の治水成果が出てきたとはいえたいした実りもなく武田の足かせとなっていたのも事実であり、もう1つは織田には黙っているが旧武田家家臣を織田の命令を無視して匿い家臣として取り立てており、私も見て見ぬふりで駿河へと逃がしていた。


「徳川の家臣が騒ぐのも毎回だ、その度に家康殿が諌め聞かなければ長子であってもだからな」

「それと北条と徳川の婚姻により織田の戦略に不備が出ませぬか」

「それもそちも解っていよう、従臣しなければ姫を離縁してでも我らにつこう。この一貫性は兄上がいる限りは変わらない」

氏郷は目を細め、

「信照様の徳川びいきは織田家にとっての弱点となりかねないと考えます」

確かにその通りなので、

「私は兄上と信忠に仕えているのであって織田家に仕えているのではない。そこを間違わずに」

「織田家ではないと」

「兄上以外がもし棟梁になっていたら今頃中根の姓で商売をしていた。」

氏郷が合点がいった顔をして、

「信照様が普通の考えや行動を越えて行動できる理由が今わかりました。この様なことを話していただきありがとうございます」

そう言って氏郷は一礼して部屋を出た。


浜松では家康からのこれでもかと言うくらいの接待を受け、家康の兄上に対する気持ちと家の危うさに慎重になっており、そのしたたかさに感心をした。


翌日浜松を出発し整備された道を進みながら岡崎をへて清洲に到着すると兄上から、

「この返礼を家康にしなければならない、光秀を接待役にし信照は浜松まで迎えに参上しろ」

私は笑顔で頷き、

「わかりました、光秀殿と相談し接待をさせていただきます。」


「まあ、最近キンカン頭(光秀)は丹波を落としたり、四国の田舎者(長宗我部)と親戚になったりして調子にのっているからな」

長宗我部との開戦が間近だが親戚を切った訳でなく未だに説得を続けている光秀の言葉を、自分達が自ら勝ち取った領地を手放さなければならないため受け入れられぬと突っぱね、滅亡への道を進んでいるのがわからない田舎大名の長宗我部元親、この辺りが家康と大人と子供位の危機感のなさであると考えながら兄上と光秀の関係が壊れていく様を見るのが忍びなかった。


翌日、鷲尾に織田家の使者とは別に迎えの日時を家康に伝えにいってもらい、兄上の隊列を追い抜いていき安土へ戻ると報告と祝いのため待機していた光秀に面会を求めた。


「信照殿いかがなご用でしょうか」

清廉な清々しい態度で私を迎える光秀に、

「兄上からの家康殿に対する饗宴の接待役に光秀殿を指名された。抜かりなくお願いします。私は家康殿を浜松からお連れするよう言われております。」


「おお、接待役とは光栄にございます、早速準備にとりかかりますが何か注意することはありますか」

相変わらずそつなく考え何事もなきように私に聞いてくる。

「今回は奇をてらさず、豪華ですが普段食べられているものでいいかと」

そう言うとすでに献立を考えていた光秀は少しだけ眉をひそめ、

「しかし、色々この近江にも美味しいものがございます、それを今回は出して楽しんで貰おうと思いますが駄目でしょうか」

ここで話し合っても良いとはならないのにと考えながら、

「そうですか、三河の食事は質素でお腹がふくれるのと何かあれば保存がきく物を食べているので癖のあるものは取り扱いに注意を」

秀才の光秀は相手の気持ちを自分の考えを元にして考えるため、兄上は見透かされたと思い激怒してしまい、他の事でも思惑が外れた時の問題を的確にだがそれをどのまま伝えて酷い目にあっているのだがなおらない、秀吉ならその場で頭を板に打ち付け謝罪して次を取ると言うことができ、お互い羨ましいのか裏では仲が良くはなかった。


私は岩倉に戻り、岩倉に一泊してもらうため本丸御殿を綺麗にし家臣に徳川殿がこられるから、道や家屋、橋を点検するように伝える。

中根信隆と前田利照に騎兵をそれぞれ五十ずつ引きいて出迎えることに決めると、

宮城には津島であがる魚や猟で仕留めた肉、新鮮な野菜などを指定日に準備するように指示し、期日道理に浜松へお迎えに上がった。


浜松の大広間では家康が出迎えてくれ、

「信照殿お迎えご苦労さまです、家臣一同楽しみにしております。」

丁寧に挨拶をしてくれる。

「私も家康殿をお迎えに上がることができ、嬉しく思います。」

私も丁寧に礼を言うと、

「今回は供廻りは、五十名程で向かいますよろしくお願いします。」

家康は兄上に気を使い信頼の明かしとして少数で向かうと言ってくれる。

「そこまで信頼をいただきありがとうございます」

私は喜びながらも内心はこれが大人数なら光秀を討ち次のと考えたくなるがそれも夢であり出立すると途中、家康と並びながら色々と話をした。


「そういえば、甚三郎は家臣の土井利昌の養子とし家をつがせ、長松(徳川家忠(秀忠))の守役とした」

家康に引き取られた弟は次期将軍の側近となると報告を受けすごく嬉しく、

「ありがとうございます。家康殿のご配慮、甚三郎も幸せにございましょう」

家康は頷き、

「後々、長松の側近として手腕をふるってもらうことを、期待している」

「徳川家が末長く続くように甚三郎には頑張るように手紙で伝えたいと思います。」

「有難い、織田家と末長くと言うことですな、ところで忠勝から信照殿は後を譲り隠居をすると言う話が有りましたが」

「はい、武田が倒されたあと毛利も長宗我部も九州の島津も、そして東の上杉や北条等は自然と消えるか従属するしかないでしょう。なれば息子に譲り母の中根の名をもらい商人か何かで暮らしていきたいと考えております。」

家康は驚き信長殿は知っているのかと聞かれ、

「知りませぬ、怒られると思いますが家督を譲り既成事実を積み重ねれば小言ですむと思います。それと徳川殿にお願いが」

「なにかな、頼っていただけると嬉しいですぞ」

家康は驚きながらも嬉しそうに頷き聞いてくる。

「名前を変えても織田の領地なれば息が詰まります。出来れば徳川殿の領地で館を借り受け住めれば助かります」

「そうですか、わかりました。その時はお任せ下さい」

その他色々な話をしながら岡崎にその夜は泊まり、翌日も岩倉に移動しながら話し込んで道中を進む、


「そう言えば長宗我部は厳しいですな、信照殿」

私は四国の姫武者と呼ばれた光秀の娘婿の顔を思いだし、

「本願寺や武田がまだいるなら利用価値もあり、その間に四国を統一をすればだが、勝頼と一緒で売り込む時季が遅すぎましたね、勝頼も和平を模索していましたが、長宗我部も今降伏すれば半分はですが、これをすぎれば土佐半国でも残ればですから」

家康は目を細め、

「長宗我部と婚姻を結んでいる明智殿は辛いであろうな」

安土で会った光秀を思い出しながら、

「今からでも説得をすればでしょうが、明智殿はかなりきついでしょうな、今更で板挟みに丹波の時と同じです」

あの時も勝手に和議を結んだと人質を殺され、代わりに自分の母を報復として殺されてしまっている。

「信長殿はこれからどの様にしていくのだろうか」

家康は心配そうに私に尋ねる。

「近畿周辺は信忠殿を中心とした一門で固め、東海道は家康殿、越前の柴田は上杉を倒したあとに越後へ、光秀殿と秀吉殿を競いあわせ中国地方におき、統一した後は海外でしょうか」

家康は核心を話始め、

「信照殿、柴田殿はさておき、明智殿が阪本城と丹波を取り上げられいさぎよしとしましょうか」


「まあ何時ものようにバレバレの嘘泣きで兄上を激怒させてでしょうね光秀は」

理不尽な事に言えなければ泣くのだが秀吉と違いタイミングが悪すぎて兄上の逆鱗に触れている。

「本人はばれてないとと思っているところが救いようがないですな」


「今回も接待役を兄上から任されましたが、変なことはしないで何時ものようにと光秀殿には伝えましたが自分がよいと思うことを進め、自分が間違っていなければ問題はないと考えておりますから」

「そして特に、秀吉殿のことを足軽出身と思って嫌悪していますし、それが競わされ今のところは秀吉殿が一歩先ですなそれが余計でしょう」

お互いにため息をついて、

「短慮をしなければいいですが」

そうして岩倉城へ入った。


先ずは、家康殿には個室風呂に、家臣一同は大風呂を入っていただき旅のアカを落としてもらう。

風呂から出ると料理は海の幸を焼いたものを次々だし、鹿や猪、雉を焼いたもの、酒は京の慶次郎御用達の灘の酒をだし、野菜は煮物に次々だしていった。


途中、日和、平八郎とまき、ゆいとけいが挨拶と舞踊りを可愛く見せ、忠勝の顔をでれでれにさせ、他の家臣から囃し立てられる。

「信照、自分の子以上に可愛いのはどうしてかのう」

嬉しそうにゆいとけいを抱きしめ、

「おじさま苦しいよ、ひげチクチクする」

笑いながら二人は忠勝の手の中でひげをなでて遊び楽しんだ。


夜遅くまで饗宴し、翌朝市ねえ様や三姉妹も出てきて、領民も総出で沿道に立ち見送ってくれて、家康の家臣は整備された田畑や灌漑を見ながら大垣を抜けて安土城へ入った。


「ようきた家康殿、今宵は家臣共々楽しんでくれ」

兄上は上機嫌で迎え、家康の手を取って天守閣へ上がり色々な絵や宝物を家臣共々見せたりし歓迎した。

そして大広間では明智の接待で始まり色々珍しい食材やお酒を次々と出してきて岩倉以上の食に徳徳川の家臣や織田家中でさえも驚き、家康も関心をして家臣も珍しい食べ物を食べて楽しんでいた。


しかし途中、発酵をさせた魚のなれ鮨が出たときにおこった。独特の匂いと味に食べた者は顔をしかめてしまいそれを見ていた兄上は、

「キンカン頭、このような腐った魚を出すとは何事か、ずにのりおって」

そう青筋をたてて怒り、こう言うときに余計な言い訳をしなければいいものを、


「これは近江に昔からあるなれ鮨でございます、腐っているのではございません」

それを聞いた兄上は激怒し、光秀の前に来ると蹴りをいれ、


「客を前に口答えとは、その方の役を外す。ただちに中国攻めのハゲねずみ(秀吉)に合流し攻略しろ」

そう言われ真っ青な顔になる光秀が、

「しかし、まだ饗宴の途中でございます、お願いでございます。」


いつもの嘘泣きをしながら兄上にすがろうとする光秀に兄上はさらに怒り、

「何度も言わせるな、中国地方切り取り次第にするその代わり坂本城を含め丹波もめしあげるいいな」


それを聞いて光秀は真っ青な顔になり兄上を見ていたが本気とわかり、そのまま出ていってしまった。

沈黙がその場に続いたが直ぐに兄上が家臣を使い笑いを取り戻しその日は暮れていくのであった。


「光秀殿お待ちください」

無駄だと思うが城を出て光秀を呼び止める。

「信照様、どうしたら宜しいのですか、上様の怒りをかい、領地も取り上げられてしまう家臣になんと説明をすればよろしいのでしょうか」

大の大人が泣きながら訴えてくる。

「確かに召し上げられたが秀吉も徐々に毛利を圧迫しており山陰地方、銀山も含め任せられれば今の領地の数倍の収益を上げられよう、南蛮人との取引も不適当な交換比率なのでそれを指摘すればさらに稼げる」

「石見銀山でしょうか、しかしそれまでどうすれば」

「私が貸しても良いぞ、利息を取っても十分石見銀山で稼げよう…」

「信照殿、その様なこと勝手にお約束されては困ります。上様は石見銀山は直轄地にすると申しておりましたし」

余計なことを言うバカ野郎は誰だと振り返ると美しい顔の蘭丸が立っており余計なことを言ってくる。

「兄上には明智に任せればそつなくできると申し上げようと思っていたのだから余計なことは言うな」

そう言って黙らせて振り向いたが光秀はすでに走り去っていた。


歴史の歯車は確実に本能寺へと向かう、兄上は京都に家康は堺に向かい口に出して言いたいが歴史が大きく変わってしまうのが怖いので出来ずに消極的に動く自分を悲しく思った。


「信照殿、先程も申し上げた通り一族筆頭とは言え勝手に約束をすれば家の乱れとなりましょう」

蘭丸の物言いに頭に血が上り、

「家の何たるかをお前のような若造に言われたくないわ分をわきまえよ、兄上の寵愛を受けておるからと小賢しい」

普段は言ったこと無い言葉をぶつけ、最後の消極的な方法が上手くいかなかったのを蘭丸のせいにしてしまう。

大きくため息をつくと、

「すまぬ、今の物言い忘れてくれ」

そう言って城へと戻った。

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