天目山
1582年
飛騨の木曽義昌が度重なる出兵に嫌気をさし弟を人質に信忠に寝返った。
「勝頼も一族を押さえきれんとは、信玄が武田はないと言うことだ」
珍しく兄上は興奮しており茶室で私と二人の前だからなのだろうか、
「勢いがなくなったときに行動を誤ればおいう典型的な事でしょう」
「信照、信忠を頼むぞ」
「はい、でも十分織田の棟梁としての采配がふるえると思いますので心配はご無用かと」
そう言って安土から岩倉に向かった。
兄上は急ぎ信忠に総大将を任せ出兵させる。
伊那谷から信忠が、私が飛騨から、浜松から家康が、北条も出て約二十万の動員らしく兄上もその後をゆっくりと向かう予定になっていた。
私は木曽からの援軍依頼を受けると金森を与力に向かう、木曽路をぬけていくと鳥居峠と言うところに武田勢の先方五千がおりその手前に陣をかまえ木曽勢と合流する。
「織田信照と申します、今回は内応ありがとうございます。」
私と同じくらいの武将が裏切りを行った事への緊張なのか頭を下げて出迎えてくれる。
「木曽義昌と申す、織田殿には援軍を出していただきありがとうございます。」
「いえいえ、木曽殿が道を作っていただけたからこそ美濃からすんなりはいることが出来ました。感謝いたす」
丁寧に挨拶するとようやく気が抜けたのか武田勢の方向を指差し、
「武田勢の先方は武田一門の武田信豊です。どのように攻めましょうか」
木曽は恨みがましい顔で信豊のいる峠をみて、
「今武田は木曽の寝返りに怒り心頭でしょう、木曽が姿を見せれば間違いなく攻撃をしてくると思います。そこを左右から鉄砲を撃ち混乱させたのち突撃をし一気に倒しましょう」
私は怒りを押さえきれないだろうと提案すると頷く、
「わかりました、準備ができしだいすぐに始めましょう」
私は左右の林に八百ずつの鉄砲隊と長槍を千ずつ移動させ、木曽殿と木曽勢、岩倉勢そして金森勢を陣から出て待ち構える。
武田勢から武将が進み出て、
「木曽よ今までの恩を仇で返す不忠義者よ、今なら首を差し出せば許そう、いかがかな」
そう言われ怒りを抑えている木曽が進みでる。
「恩とはいかがなものでしょう、先代様には恩がありましたが、勝頼には度重なる出兵と新府城の造営をかせられ、しかも勝頼は高天神城を見捨て信頼を持てるとおおもいか、顔を洗って出直して参れ」
武田の名をもつ一族の武将は怒りを露にし、
「その言葉忘れるな、勝ったあかつきにはその方の首を新府城でさらしてやろうぞ」
そう伝うと武田勢は峠を一気に下ってきた、すぐに本陣を十町ほど下がらせ、武田勢が鉄砲の射程に入ると私は合図して両側の林から鉄砲を撃ちかけ混乱させた、
「木曽殿、武田は弱くなったあの程度で混乱などしなかったのになあ」
そう言うと寂しそうに、
「長篠で中核は亡くなり残るのは名のみです」
私は手を挙げてそして前に降り下ろし、
「よし、うちかかれ、前と左右から包み込め」
そうして混乱しているところへ左右からさらに長槍隊が突撃して、混乱に拍車がかかった半刻程で武田勢が退却を始め、それを木曽と金森が追撃を始める。
手を緩めずそのまま峠を下り深志城を包囲した。
力攻めをして短期間に向かいたいのだが兵力が足りない、なかなか深志城は規模も大きく速攻で落として次に行きたいと考え使者も送ったがなしのつぶて、
「木曽殿、どうしますか」
相談すると、
「お任せくだされ、武田はもう終わりと言うことを伝えれば開城しましょう」
何か功を立てたいと思っている木曽はすぐに承知してくれた。
「木曽殿にお任せします」
木曽は自ら使者となり深志城に入り、一刻程で城主をつれ戻ってきた。
勝頼の城代の男は落ち着きなく木曽とこちらにきて、
「無事開城いたしましたが、城の方はいかがいたしますか」
「上様の命が決まるまで代理として治めてください」
木曽は嬉しそうに
「ありがとうございます。これからどのように動かれますか」
「南下し茅野経由で高遠に向かい合流しようと思います。金森殿は木曽殿と共に、ここから北を制圧してくれ、上杉が出てくるとは思えないがもし出てきたときにはここで籠城し援軍を待つように」
命令を伝えると南下し大きな湖が見えてくる。
「あれが諏訪大社のある諏訪湖にございます。」
案内役からの言葉よりもその姿に見いられ、武田の滅亡に関係なく静かに湖面をたたえていた。
「たしか諏訪大社の棟梁は勝頼であつたな」
「諏訪勝頼、武田では無いものが仮に棟梁についたと言うことです」
木曽の案内役からは悪意の混じった言葉がはかれ、これが今の現状を作っていると言うのに気がつかない武田の武将に呆れながら諏訪湖と大社を見つめた。
諏訪湖を望み休憩をしていると前方に結構な煙が上がる。木曽の案内役に聞くと、新府城の方になるということだった。
しばらくすると百地の草が高遠城を信忠が自ら落としたと報告してきた。
「信忠も将にあるまじき行いだ、言わねばなるまい」
自ら先頭に立ち高遠城を落としたと言われ思わず言うと、
「誰かさんは腕に覚えがないくせに突撃してよく助けたものだな」
慶次郎が横を向いて呟くのを無視して進む、しばらくすると新府城が燃えていると知らせを受けた。
「慶次郎、勝頼は信忠お進撃の早さに驚き新府城を捨てて逃げたな」
武田の猛将と槍合わせが出来ると勇んできたが出番がなくへそを曲げており、
「つまらん、昔の小十郎がちびった武田はもうおらずか」
昔の事を思い出させ珍しく八つ当たりのごとく小言でささやいてくる。
「まあ、これ以上ちびる相手はいないと思いたいが、さて一番乗りで甲斐にはいるか、信隆すまないが駿河に向かい徳川殿に現状の報告と甲斐に入るので北条に伝えてくれと、」
「わかりました、義父上すぐ向かいます。」
信隆は駿河へと馬を走らせる。
「鷲尾は本隊をつれ甲斐に入ってくれ、私は慶次郎、初陣の利照と宇部をつれ騎兵五百で先行する」
私の不在の時には本隊を指揮してそつなく戦い抜いておるので安心して任せられる鷲尾は頷き、
「信照殿、お任せください何かあればすぐにお知らせします」
そうして茅野をすぎ木曽家臣の道案内にあの煙が上がっているのが新府城と教えられ、三十人ほどに本隊が来るまで新府城の周りを警戒と怪我人がいれば救護を行うように命じ先へ急ぐ、甲斐にはいるまで抵抗らしい抵抗も受けず、躑躅ヶ崎館まで到達したがもぬけの殻といっていい状態であり、勝頼の行き先の確認と躑躅が崎の中の捜索(略奪)を行い、情報収集と織田勢の到着を待った。
「しかし武田の本城とは思えない小さい城ですな」
宇部が斜面を登った城と言うよりは館に感想をのべる。
「武田は昔から甲斐を支配してきたから織田のように城を民に見せてと言うのはしなくてもよいし、何より人は石垣、人は城と信玄が言っていたらしい」
「それを忘れ新府の城を建てようとした勝頼はと言うことでしょうか」
「時代が変わったから一概には言えないが、勝頼の苦労がその辺りにあったのだろう」
そう言って戦国の世に名をはせた武田家の終わりを見つめ続けた。
翌日、勝頼は岩殿城へ向かったと言う知らせがもたらせされ、他の部隊の到着を待っていると鷲尾の本隊と一益(滝川)の隊が一緒に到着した。
「一益殿ご苦労、勝頼は岩殿城をめざし東へ向かっている、すぐ追いかけよう」
私が先行していると思っていた一益は喜び、
「信照殿早いですな、わかりましたすぐに向かいましょう」
休むまもなく馬を進ませる一益、
「鷲尾はここに残り信忠殿を迎えてくれ、頼むぞ」
そう言って岩殿城に向け出発した。
躑躅が崎館から丘陵地帯を南東に進み山々の間を抜けていき、細くなっていく道が山への峠道へ続く所に入ると、前方で鉄砲の発射音が聞こえたので停止させ緊張した面持ちで物見が戻ってくるのを待った。
物見からの報告は、前方の峠で武田同士がにらみあっており、一方は我らが到着したのを知って北側に向かい始めたと言うことであった。
「この先の岩殿城主は小山田とか言うものだったな、一益殿」
たしか真田が自国にと薦めたのを勝頼をはめるために裏切った武将の名を思い出しながら峠を見つめる。
「そうですな、そのような名前の者でしたな、しかしこの時点での裏切りですか」
一益も私の言わんことがわかっているようで、
「木曽殿なら加増もあり得ますが、小山田は領地没収ですまないな」
何処にでも利己中な裏切り者はいると怒りをおぼえながら、
「そうですな遅ければただの裏切り者でしかないのに愚か、それでは勝頼を追いますか」
笹子の手前で川が北の方から流れておりその上流へ勝頼たちは向かったようだった。この土地の農民を連れてきてこの道はどこへ続いているかと聞くと、天目山へだがそこから奥にはとてもじゃないが険しくて無理と教えてくれる。
「一益、ここで小山田や北条、織田勢を止めてくれ、この先はもう越えられまい武田の最後を見届けるぞ、慶次郎と利照ついてきてくれ。もし無理矢理押しとおるなら私の名を使い、それでも駄目なら力でだ頼むぞ」
後方を一益と宇部に任せ山道を進む、二人を引き連れ多数の足跡がつづく小川沿いに歩いていくと、先にある林の手前で二人の武将が小山田勢数百の足軽相手に切りまくっており主君を必死に守ろうとしている忠臣とみてとれる。
慶次郎が朱槍を担ぐと、
「小十郎、手前は小山田勢で奥が勝頼か」
「そうだろうな慶次郎、多分勝頼の首でも取って功とし、信忠殿に許しを貰おうとしているのだろう。」
慶次郎は朱槍の石突を地面に叩きつけ、
「気に食わん、小山田勢を蹴散らす利照ついてこい」
そう言うやいなや小山田勢に突撃し怒りをぶつけ次々と槍で蹴散らしていく、私は二人の後ろを見ながら逃げてくる兵を槍で倒しつつ勝頼の忠臣と思われる二人に近づいていった。その間に慶次郎と利照、そして勝頼の忠臣二人で小山田勢を壊滅させたが、かなりの怪我をおっており、こちらへの警戒を怠らない二人に
「織田家家臣、織田信照と申します。武田家家臣とお見受けするがお名前をお聞きしたい」
「織田信照、織田一門か殿を害する気なら」
そう言いながらじりじりとよってきた
「今すぐにどうこうするつもりはない、我々も三人できたが小山田が気にくわなくて勝手ながら倒させて貰った」
そう言うと少しだけ緊張がとけて、
「そうか、いま殿は息子信勝殿の元服をしており私たちが時間を稼いでいる。」
勝頼は覚悟を決めたと言うことを知らされ緊張する。武田の武将に、
「そうですか、少し話す時間を貰えないだろうか、それとお名前を出来れば教えてもらえると助かる。」
武将は頭を下げ一礼すると、
「失礼した、私は武田家家臣土屋昌恒そして小宮山友晴と申します。すまないが水をいただければ助かる」
利照が腰から竹筒をわたし、土屋と小宮山は喉を潤しほっと一息つくと、
「すまないが奥にも殿や武王丸殿や正室、侍女などがおられるその方にも届けたいのだが」
私と慶次郎の分では足りず、倒した雑兵からも集め五名で持っていく。
林の中に入り少しいくと開けた場所があり、一番奥に勝頼と鎧を着て元服の義を行っている武王丸、弟と思われる子供、その周りに正室や奥方、侍女、家臣が座っていた。
土屋と小宮山は我々から水筒を受けとり配り始める。
勝頼が水筒をもらい喉を潤してからこちらを見て土屋を呼び何事か確認をしてこちらに土屋とともに来ると、
「家臣の危機に助けていただき感謝する、私は武田四郎勝頼と申す。」
「初めてお目にかかる、織田一門、織田信照と申す、武田殿の最後を見届けに参った」
そう言うと少しだけ寂しそうにしながら、
「これから長子信勝の元服をするのでお待ち願いたい、そして烏帽子親を信照殿お願いしたいのだが」
そう言われ頷き、
「武田の長子の烏帽子親を光栄に思います、是非に」
広場に入り、慶次郎は息子と坂下から邪魔が来ないか見張っており、
奥には緊張した面持ちの少年が座っている。顔つきは勝頼ににて美男子であり利発そうな顔つきをしている。本来は信玄の正式な跡継ぎはこの若者なのだと思いながら一礼をした。
「始めてお目にかかります。織田家一門筆頭織田信照、武王丸様の烏帽子親を努めさせていただきます」
周囲の者は織田と聞いて短い悲鳴をあげたが、勝頼の妻と息子は黙ってこちらを見ている。
理髪するために勝頼が脇差しを準備して口上をのべると月代を剃る時間はなく、私には兜を渡されを武王丸の頭の上にのせた。
「信玄公の一字を頂き信勝、武田信勝とする。」
そう言うと勝頼も夫人も泣くのをこらえ成人の義を終えた。
「信照殿、感謝する心残りは子供たちだ幼い命をここで絶たなければならない」
私は考え込み勝頼の顔を見て、
「勝頼殿、あそこにいる我が義息子、浅井長政の長子でございます。故あって私がかくまい慶次郎が息子として育て我が娘を嫁としております。」
勝頼は驚き、
「浅井、近江のか」
勝頼の顔に赤みがさし明らかに興奮しており、
「声を落としくだされ、私と慶次郎しか知らぬこと故」
顔を赤くした勝頼は大きく息をはくと、
「すまぬ、あまりにも凄いことで興奮してしまった」
「いえいえ分かります、そこで信勝殿は無理だかもう一人の子を匿うこともできると思う、いかがかな勝頼殿」
そう言うと我が子を見る優しげな父親の顔になり、
「勝千代と申す数えで十一になりました、信照にお願いする筋ではないが、改めてお願いします。」
親として深く頭を下げお願いをしてきた。
「わかりました、私のちから及ぶ限り守りましょう。」
私も深く頭を下げた。
「わかりました、小宮山に任せ逃げる手だすけをさせます」
そう言って、小宮山を呼び出すと、
「小宮山、遺命として聞いてくれ、勝千代を信照殿に託すことにした一緒に生き延び武田の血を遺してくれ」
小宮山は驚きながらも涙をためながら頷き勝千代をつれてきた。
勝頼は息子に話をして、勝千代は涙を流しながら聞いており、兄である信勝も横へ来て何かを幼き弟に伝えており、母親が涙している。
私は百地の名を呼ぶと、草影から現れ勝千代と小宮山を会わせる。こへい(信康)のところで暮らすように伝え数人の草と共に消えていった。
そのあと離れた所に三人で立ち勝頼や信勝そしてその一門が次々と自害していくのを遠くの事の如く見つめ全ての自害を確認し一益の所に戻った。
「一益、少し上った林の中に勝頼と長子信勝の遺骸がある。首を切り後は丁重に葬れ、武田の最後として頼むぞ。」
武田が滅んだと言う事に一益は興奮して頷き、
「わかりました、しっかりと対応します」
天目山を一度だけ振り返ると来た道を戻った。
躑躅が崎館に戻ると焼け落ちており、信忠が到着して主殿の前に武田の一門が引き出され首を切られていくところだった。
最後に小山田信茂が連れてこられ信忠が
「武田勝頼を裏切るとは、小山田こそは古今未曾有の不忠者」
と言い言い訳もさせず、一族を処刑した。
「信忠殿、兄上が来る前に甲斐平定お見事にございます」
兄上は戦後処理をしている時に到着して信忠が武田を滅亡させたことを知り、今回の戦いを大いに喜び、信忠に戦功として与えそれを貴下に分け与えて岐阜、尾張、信濃、飛騨、甲斐を信忠の支配領域とした。
「武田を見事に倒し織田の棟梁として見事な働きをしたな、富士を見ることもできよい日だ」
兄上は私を前に信忠を嬉しそうに誉め、信忠も嬉しそうにしている。
「父上、叔父上、ありがとうございます。まだまだ棟梁として」
これがこのまま続けばと思うが、この先の運命に今を楽しく祝福事にした。
私は林佐渡の旧領地の一部二万五千貫を勲功として頂きこうして武田が滅んで終了した。
北条は相模川をさかのぼり道志と甲州道を通ってきたが鷲尾がすべて押し止め戻ってきた。
「信照殿、北条勢を押さえるのに無理矢理押し通ろうとしたしたので鉄砲を放ちかなりの損害を与えました。」
鷲尾は徳川を介しての北条との関係に水を指さないかと心配しているが、
「気にしなくて良い、兄上も気にされないから何かあれば私が出ればすむから、時間を稼いでくれてありがとう鷲尾」
鷲尾はほっとした顔で礼を述べた。




