堺と千利休
翌日、朝早くに目が覚めばあさまの所に挨拶に行くと、爺はすでに積み込みのためにみ湊へ向かったと言うことなので、用意された朝御飯を急いで食べ湊へ馬を飛ばした。
中根の廻船は「白綿丸」と言い七百石ほどのなかなかの大きさのもので中根の所有している中では一番の大きさであり、これで堺や博多などにも回船している様で上方は騒がしいため最近は駿河との廻船が主になっていて堺へはかなり久しぶりと言うことで、
「ようやく台風の季節も過ぎ比較的安全に過ごせそうなので爺もお供しましょう」
爺はうれしそうに言いながら積み込みを見つめていた。
昼前には準備が整いいよいよ出発である。
「さあ、小十郎殿よ先ずは伊勢の下り途中、九鬼などの関所を通過し紀州沖を周りの根来の湊にはいる予定です。」
「初めての廻船、楽しみなんですけど、船酔いが」
前世で何度か船にのって三十分ほどで収まるけれど逆に陸酔いがきついことを思い出して自分でも少し青くなるのがわかり爺は心配そうに、
「もし酔いそうなら早めに寝ておきなさい、九鬼で一度起こしますから」
そう私の顔をのぞきこみ心配してくれるのを、
「はい、お言葉に甘えて寝ます」
そう言い、白綿丸に上がると船主用の部屋で寝むる事にした。
どのくらい時間がたったか水夫に爺が呼んでいると起こされ、船首側に行くと爺と真っ黒に日焼けをした男がいた。
「小十郎起きたか、紹介が遅れたが白綿丸の頭の後衛門だ、この男のお陰でこの船はいままで事故もなく過ごしてこれた。」
そう言い後衛門の肩を叩き信頼を寄せていることがわかる。
私はお辞儀をすると後衛門は赤銅色に焼けた笑顔で、
「小十郎殿でございますね、船頭の後衛門ともうします、何かあればおっしゃってください。」
「織田小十郎です、普段と同じ話し方でいいですよ、なにも知らないので色々聞きますがよろしくお願いします。」
「わかりました、今日は潮の流れがいいのでもうそろそろ九鬼が来る頃と思います。」
私はふと心配になり、
「海賊と言われますが襲われたりはしないですよね、いきなり」
そう言うと後衛門は大笑いしながら私に頷き、
「兄弟分ですからね挨拶と税をはらえばすぐにとおれますよ。」
そんなことを後衛門と話していると水夫が、
「お頭、九鬼が来ましたぜ小早船が二艘」
そう言われ舷側からこちらの頭を押さえるように近づく船を確認しながら、
「二艘とは息子がきたな、受け入れてやれ、さっさと行え」
船頭の指示が飛びしばらくすると舷側から九鬼の赤銅色に日焼けした男たちが上がってくる。その中に私より少し上の少年がおり、私たちの前に元気よくやって来ると船頭が代わりに前に進み出て、
「九鬼の三男坊が出てくるとは珍しい何かありましたか、それと浄隆どのは元気でしょうか。」
そう言うと元気よく偉そうに私の前に立つと、
「後衛門、こないだのオヤジの葬式色々助かった、兄からもよろしくと言うことだがそこの青白いひょろっとしたのが知らせにあった中根とこの青瓢箪か」
そう私を下からにらんでくる。船頭が、
「小十郎殿、九鬼の三男坊の嘉隆。口は悪いがまだ小さいが腕はたしかだ。」
私は兄のようなうつけ者の姿に少し笑いながら、
「織田小十郎ともうしますこんな青瓢箪ですけどよろしく(海賊大将まだかわいいな)」
そう言うと笑われたことに少し機嫌を損ねたようだが、
「中根じゃなくあのうつけものの弟か、それにしてはうつけの弟にみえないな、中根。」
そう言われ嬉しそうに私を見るような顔で
「お久しぶりでございます、孫の小十郎はまだなれぬ者ですがよろしくお願いします」
そう言われ機嫌を直したのか嘉隆は嬉しそうに、
「おう、俺の弟分にしてやる、気に入ったからついていくことにした。」
そう嘉隆は言うと、自分のところの水夫をよび、
「中根の船で堺まで行くことにした、弟分の面倒を見なければならないしな、兄貴に伝えておいてくれ。」
そう伝い私の胸を叩き笑いながら帆を張る準備を手伝い始めた。
船頭は爺に
「相変わらずの行動ですな、中根様すいませんがそういうことになりました。」
爺は笑いながら私を見て、
「小十郎に兄貴分ができよかったではないか、それでは根来へ向かうとしますぞ。」
私は兄上で慣れているので嘉隆の元気のよさにもついていくことができ、
「はい、それでは早速兄貴を手伝って参ります」
そう伝い嘉隆の手伝いを始め、翌朝には筋肉痛になってしまったのであった。
数日後紀伊にある根来の湊に入る。
ここは私の知識でも雑賀と共に鉄砲で有名であり多宝大塔などの仏塔が出迎えてくれる。
根来寺の津田算長にあいさつに出向くと、坊主だががっしりした顔に火傷がある男が出迎えてくれる。私は丁寧に礼をしながら、
「御初に御目にかかる、織田小十郎ともうします津田殿には今回の配慮ありがとうございます。」
そう言うと強面の顔が笑顔に代わり
「いやなに中根殿にも世話になっておるし堺衆の要請もあったれば通過は特に問題ない、しかしながらわざわざわしに会いに来たとはいかような用件でしょうか。」
そう言われ私にとっての重要な案件である事について質問をする。
「今回堺での目的は鉄砲の購入なのですが、どのようなものがあるかお教えいただきたく思いまして、先見の目があり鉄砲に精通している津田殿にお聞きしようと思い会いに来ました。」
そう言うと嬉しそうに頷き、
「幼きがなかなかの考えをお持ちだのう。それならばわしの教えられることを教えて差し上げよう。これは根来の大切な知識だがおしえようぞ。」
私は、
「ありがたき幸せにございます、よろしくおねがいします」
そうして実際の鉄砲と持ってこさせると、まずは鉄砲の種類、二匁の消耗品のような使われかたをする鉄砲や耐久力があり威力がある新しい三匁の鉄砲の話や、実際鉄砲を撃ち注意点や早く撃つ技術などを教えてもらい楽しい時間をすごすと、予定をかなり超過して二日後にやっと堺へ向かうことになった。
「津田の師匠、これ程のことを教えていただき幸せにございます、機会があればまた会いに来たいと思います。」
師匠と呼ばれ嬉しそうな津田は私に自分が愛用している鉄砲を差し出し、
「まだ幼いがよう頑張った、師匠からの手向けとしてこれをやろう、わしのお古じゃがまだまだ使える三匁目の鉄砲じゃ、そちにはまだ支えきれないから鉄砲の先端に棒をつけておいた、これなら打てるはずじゃ、今度来るときには技を磨いておけ。」
と、可動式の棒がついたよく手入れがされた鉄砲を頂き礼を言うと根来寺を後にした。
出港しその日の夕方には堺に入ると、私と一行は堺衆である能登屋の証久に挨拶にうかがう。
能登屋は堺では中堅程の商いで南蛮とのやり取りを最近主に行っていると言うことを教えてもらう。
津の商家よりも大きく立派でありこれで中堅かと驚いていると、柔らかい物腰の主人から
「明日、会合衆の寄り合いがあるのでそこで皆に挨拶にうかがうことになっておりますればゆっくりとお休みくだされ」
そう言われその日は爺の定宿に入り休むこととなり、嘉隆はぶらついてくるといい寝るのは船と言うことで早々に別れどこかへ走っていってしまった。
食事を終え寝床にはいるとその夜遅くに船頭が訪ねてきて、
「嘉隆が町衆と問題を起こしたのですいませんがお願いできますか」
そう言われ慌てておきると爺と二人、船頭の案内により一軒の商家に向かった。
能登屋よりも少し小さい商家であり引き戸を叩いて名前を名乗ると中へ入れてくれる。
そこには縛られ転がされてさらに顔が青アザだらけでもなお悪態をついている嘉隆がおり、その横には数人の男たちが顔をはらせこちらをにらんでいた。
私は進み出ると、
「私は嘉隆の弟分織田小十郎ともうします、申し訳ありませんがこの者の縄を解いていただけませんでしょうか。」
そう言うと男達の後ろから商人が進み出てきて、
「中根殿のお孫さまでしたか、私は六度屋の主でございます、この者店で暴れ店の者に怪我を追わせたため縛っており解くことできませぬ。」
そう言われそれまでの経緯はわからないが嘉隆が私を見て大人しくなったので、
「こう縛られてしまっては話もできません、あらためてお願いします解いていただけませんでしょうか。」
そう再度お願いをしたが六度屋は首を横にふると、
「また暴れられてはかないませぬ解くことはできませぬ」
そう言うと周りの男たちがまえに出てきた。
拒絶されこれは困ったと思っていると私の後ろから、
「六度屋さんこんな時間になんの騒ぎですかな、この方たちも困っているしおさめてはどうですかな」
と後ろからなかなかの男前な恰幅の良い中年の商人が進み出てくる。
「これは今井様、騒がしくして申し訳ございません、この者たち狼藉を働いておりそれを捕まえようとしていたところです」
そう六度屋は今井と言う商人に言うと、
「それはおかしいですね、一人はたしかに捕まっていますが、こちらは中根様とそのお孫さんと見受けられますが、六度屋さんの話は相違があるようですが、なればそれぞれに話を聞いたほうがよろしいかと。」
そう言いながら今井は自分の手代を中に呼びこんでいき、
六度屋は汗をぬぐいながら、
「いえいえ、今井様のお手をわずらわすほどのことでもありませぬ、こちらで処理致しますから。」
今井は首を横にふり、
「しかしながら六度屋さんこの者たちは会合衆のお客様ですぞその様な勝手は許されません」
そう言うと私達を手代に連れ出させるとようやく嘉隆の紐をとく。
嘉隆がここで妹のお見上げに髪飾りを買ったが船に戻り見てみると中には買ったのと全く違う粗悪品が入っておりそれで怒鳴りこんだら知らぬ存ぜぬで喧嘩になったと言うことだった。
今井はもう一度六度屋に入り、
「六度屋さんについては前から苦情が出てましたが、これでは堺の商いの信用にかかります。明日の会合できっちりさせていただきますれば証拠の品として嘉隆殿が購入された物をお渡しください。」
そう言うと六度屋は渋々品物を渡して言い訳をしていたが今井は気に止めることもなく私達のところに来たので私は、
「面識もない私達を助けていただき感謝します。」
「いえいえ堺の大切なお客様ですしこの様なことを許すわけには行きませぬのでまことに申し訳ありませんでした。」
そう言って深々と頭を下げてきたので私も慌てて頭を下げ、夜も遅く改めて朝にお礼にうかがうと話をし宿に戻った。
翌朝、今井殿の所にいこうと思い外にでると船に戻ったはずの嘉隆が座っており、
「中根の爺、小十郎昨日はすまなかった。助けてくれなかったらどうなってたか、それと昨日の商人のところにいくんだろ、俺もお礼に行く。」
と言うと私の横に並んで今井のお店にむかうこととなる。私は移動しながら嘉隆に、
「昨日のことは、兄貴の妹思いから出たことなんだから気にしなくていいよ、でもあれだけの大人相手にすごいな、私なんて一人でも無理だし。」
そう笑いながら誉めると嘉隆は悔しそうに、
「あいつらだいの大人がよってたかってだもんな、でも噛みついたりとかしてぼこぼこにしてやった。」
と、青アザだらけの顔を誇らしげにして笑いながら今井殿の屋敷へ向かった。
昨日の商家よりもさらに大きい今井屋敷へ到着し茶室に通されると今井殿ともう二人同席しており、三十位の商人が私達を見つめており爺が、
「今井殿、昨晩は助かりました、しっかりとお礼もできず申し訳ありません。」
そう言うとお茶をたてながら今井が、
「中根様気になさらずとも、謝らなければならないのは私どもの方です、あのような商売人の風上にもおけないようなことを、堺衆を代表しお詫び申し上げます。」
そう言うと他の二人と共に頭を下げてお詫びをして来た。
私の横の嘉隆が今井に、
「昨日はありがとうございます、これで妹に安心しておみあげをわたせます」
そう言いながら素直に頭を下げてると、
「いえいえ、嘉隆殿にも大変なことをしてしまい誠に申し訳ありません。こちらが昨日購入したはずの品物にございます。」
そう言いながら桐の箱を嘉隆の前におき、その中を確認した嘉隆は何度も礼を言うと大事そうに懐にしまった。
今度は横の二人のうち体の大きな頭を綺麗にそりあげている商人が、
「お詫びというか紹介もかねて、お茶を一つたてましょう」ということで商人の一人が今井の代わりに茶をたて始める。
嘉隆が耳元で、
「おれ茶の作法なんて知らないぞ、どうしよう小十郎」
私は微笑みながら
「気持ちよく今井殿に敬意をもち飲めばいいよ、兄の信長もそう言ってたし。」
そう言うと、爺そして私と順番にお茶を頂くと、私が渡したお茶を嘉隆は少し飲んだときに苦いことを気付き、一気にのみほし顔をひきつらせ飲んだ後に、
「苦い苦い水水」
そう言って騒ぎわたしは腰の竹筒の水筒を渡すと一気に飲んで、
「あーっ生き返った、こんな苦いのよく飲むな」
そう言いながら返すとお茶を点ててくれた御仁はにっこりと笑い受け取り、私と嘉隆を交互に見ながら、
「なかなかののみっぷり、嬉しく思います。手前魚問屋の宗易(千利休)ともうします」
と温和な顔で話しかけてきて千利休と驚き商人だったんだとなぜか感心をする。
もう一人の商人は、
「天王寺屋の宗及ともうします、お見知りおきを」
そう言うとまず爺が、
「津の中根でございますお三方に会えるとはありがたくお礼を申し上げます。」
そして私が、
「織田小十郎ともうします会合衆の筆頭と言われる方々に会えるとは嬉しく思います。」
そして最後にぎこちなく、
「九鬼嘉隆でございます、苦くて濃すぎです」
そう言われた宗易は高笑いをして、それではもう一度と言うことで嘉隆にお茶をたててそれを飲んだ嘉隆は飲みやすいと喜んだ。
私はようやく本題にと思い伊勢屋からの手紙を渡そうと思い、
「今井殿、伊勢屋から手紙を預かっております、よろしくおねがいします」
と緊張からぎこちなく手紙を渡し、それを今井殿が読み、他の方々にもみせる。
「鉄砲の購入のことわかりました、それについては午後の会合衆の場でお話ししましょう、それと宗久でよろしいですよ」
私は深く礼をすると、
「何よぞよろしくおねがいします、わたしも小十郎でおねがいします。」
と言うことで最近の三好と将軍家の争いやその他の情報などを話をし、そのまま会合が開かれる場所へ移動した。
到着したところは二階建ての大きな茶屋であり中に入ると商人が並んでおり私たちは末席に座る。
今井が話をいくつか報告するとようやく本題を話はじめ、
「それでは会合を始めますが、今回は尾張の国から織田上総介信長殿の弟君織田小十郎殿がこられ鉄砲の購入を希望されており、代価は津の木綿、これは伊勢屋から購入し中根殿の回船で持ってきたものです」
会合衆の中の一人が
「織田に鉄砲を売るのはどうかと、勢力も今川に押さえられ当主はうつけとの話ですが。」
そう言われ今井は、
「まだまだ小さい勢力ですが小十郎殿のような有望な家中と聞いておりますし、伊勢屋からの紹介状もありますれば、極端な肩入れをしなければ売り渡しても問題ないと思います。」
次に鉄砲を商いしている商人が、
「今回お持ちいただいた木綿での購入ですが高騰しており三好からもかなりの高値で購入の話もあり昨晩のお詫びとして、最大で三百丁は譲り渡せますがいかがでしょうか織田殿。」
私はその商人に礼をして、
「はい、お売りいただけると聞いて大変ありがたいですが、その鉄砲は二匁目でしょうか、それなら申し訳ございませんが三匁目にしていただきたいと。」
そう言われ商人は驚きながらも、
「三匁目はまだ数も揃わず高価ですが二匁目のほうがすぐ揃いますしそちらの方がよろしいと存じ上げます。」
私は、
「実は先日、根来寺の師匠津田殿に堺の三匁目は耐久もあり素晴らしい出来だと言われまして、それならばと申してるのです。」
そう言うと今井も昨日のこともあるのか、
「気梶屋さん、われら三人からもお願いしたい」
そう言われた気梶屋は頷き、
「今井殿からのお願いならば三匁目をまわしましょう、ただし百丁を先に引き渡しますがもう百丁は他の注文を頂いていますので再来年の春には渡せます。」
私は丁寧に再度頭を下げると、
「お忙しい中こちらの希望に沿っていただきありがとうございます、それとあわせて火薬とあと整備をするのに誰かしばらく尾張で指導をしていただきたいのですが、気梶屋さんお願いできますでしょうか。」
気梶屋はしばらく考え、
「わかりました、娘婿夫婦に独立させようと考えていたところですしばらく勉強もかねて尾張へ行かせましょう。」
話がまとまり私は会合衆に向きなおすと、
「会合衆の皆様、織田家としてお礼を申し上げます、これからもよろしくおねがいします。」
と言うことでそのまま食事となり、昨日の件を話て対応を今井に一任すると言うことになり開きになった。
翌日、朝一番に急いで気梶屋へ向かうと店の裏手から鉄の打つ音が聞こえてきて活気が溢れる店であり私はのれんをくぐる。
「おはようございます、織田小十郎でございますが店主殿はご在宅でしょうか。」
そう言うと番頭が立ち上がりこちらへ来ると、
「はい、織田様ですね、主人から伺っております、作業場におられますのでこちらにどうぞ。」
そう言われ、裏庭から作業場に入ると熱気で野外なのに汗が出てきてしまう状況であり、沢山の鍛冶職人が鉄砲を作り出しており早く尾張でも同じものを作りたいなと思っていると気梶屋がこちらへ来て、
「織田様よくいらっしゃいました、熱いところにお呼びして申し訳ありません。」
私は嬉しそうに手をふり、
「いえいえ、こうやって製作している所を見ることができありがたいです。」
そう言うと気梶屋は作業をしている男を呼ぶと、
「娘婿の紀一郎にございます。」
そこには二十前半の顔は優しいが体はしっかりしめられている娘婿がおり、
「紀一郎でございます、義父から伝えられましたがこのような機会を与えていただきありがたき幸せにございまする。」
そう言われ私はあまりの嬉しさと興奮に紀一郎の手を取ると、
「織田小十郎ともうします、最先端の技をよろしくおねがいします、小十郎とお呼びください。」
紀一郎は嬉しそうに私の手を握り返し、
「ありがとうございます小十郎様、私たちの私物等は中根さまの廻船に載せていただきました。準備ができ次第、最初の納入分の鉄砲と共に尾張へいきたいと思います。」
そう言って紀一郎は作業に戻っていった。
「紀一郎は、あの通り根が真面目で、融通が利かないところもありますがよろしくお願い致します。」
私は偉そうに頷き、
「若輩者の私が言うのもなんですがしっかりした婿様ですな、それではしっかりと面倒を見させていただきます。」
その後、気梶屋と話をし木綿は魚問屋の倉庫に今日中には納品させ、今井殿と津田殿に買い取りをしていただいたのでそれで支払いと火薬の購入にあてると言うことを確認し船まで戻った。
午後から人足総出で魚問屋の倉庫に運び込み、代金を頂きその足で気梶屋に支払いいそぎ戻って火薬、鉛などの購入をおこなう。
私はその中で火薬もだが弾となる鉛を確保しなければと思い前世で修学旅行に行った南紀白浜に鉛の鉱山があったことを思いだし、いそぎ鉄砲を馬にくくりつけ借り受けた馬を走らせ根来寺の津田の師匠のもとに走らせだ。
出たのが遅く根来までは近いがさすがに日もくれており、暗い山道を松明をもち急いで向かう。
もう少しで山を越え川原へ出られると思っていると目の前に三名の鉄砲を持った若者が立っており道をふさいでいた。
その中の一人が鉄砲を構えながら進み出ると、
「こんな夜更けに誰が急いでいると思ったら小僧じゃねえか、俺らの土地に何かようか。」
火縄で私と同じような幼い顔が照らし出され話しかけてくる。私は馬を止めると、
「私は織田小十郎ともうします、根来寺の津田師匠にお話がありこのような遅くになりました。よろしければ連れていっていただけないでしょうか。」
そう言うと鉄砲をそらして馬のまえまで来ると、
「へー津田のオヤジはいつ弟子をとったんだ、だいたいお前みたいな小僧に撃てるわけないじゃねえか。」
そう言いながら馬に下げている鉄砲を見つける。私は、
「まだまともに撃つこともなりませんがここにある師匠にいただいた鉄砲があります」
そう言いながら馬をおりると鉄砲を馬から下ろして渡すと後の年長者が確認を始めた。
しばらくすると鉄砲を返してきて、
「たしかに津田のオヤジのだ、オヤジの弟子なら俺らの弟分だつれてってやる。重秀つれていってやれ」
そう言われた幼い少年は体にあわない大きな鉄砲を持ち上げ、
「えー、孫市のあにい何でおいらが」
そう口を尖らせ孫市と呼んだ青年を睨み付けるが、
「お前と同じくらいの小僧で丁度いいじゃないか行ってこい」
そう背中を叩かれ仕方がないという顔で、
「ちぇっ、織田とか言うのお前の馬に乗るから手伝え」
そう言いながら青年に自分の鉄砲を投げつけるともう一人が私を馬に押し上げてくれたので、
「小十郎でいいよ、手を出して」
そう言って引き上げると鉄砲を重秀の分もくくりつけ指示道理に道を走らせる。
走らせながら後から
「俺のことは重秀でいいよ、いま五つだけどおまえは?」
私は指示を聞き逃さないように必死に馬を操りながら、
「六つ、どのくらいかかる?」
そう大声で言うと、
「なんだ年上か、つまんない半刻かからないくらい。まあいいか津田のおじきの弟子なら小十郎が兄貴分で俺が弟分だ。」
といい始め一方的にきめると、いろんなことが質問で飛んでくる、元々陽気な性格らしくつくまでひたすら話しを続け私はへとへとになりながら寺ノ前に到着する。
「お、話してる間についたついた、津田のオヤジの小言をもらう前に行くわ。」
そう言うと重秀は鉄砲を受けとると急いでもとの道を戻っていった。
夜分に押し掛けたが師匠は暖かく受け入れてくれ
「そのうちが昨日の今日か小十郎、このような夜中に如何様かな」
そう優しく迎えてくれ暖かいお茶を出してくれ私は礼を言うと、
「師匠夜分にすいませんが尾張に帰る前にお願いがあります。」
私が何を言うのかと興味深く優しい顔で、
「そのような急ぎかなり大切なことのようだのう。」
そう言われ私は堺で貰った簡単な地図を広げると、
「はい、実は鉄砲の弾の鉛についてなのですが、紀州に鉱脈があると情報を頂きまして、師匠に採掘をお願いすると共に四割ほどを譲っていただけませんでしょうか」
師匠は驚きながら私が示した場所を確認し
「ほう、この国に鉱山があると、それは非常に重要な情報だな、練習をさせるにしろ、火薬と弾はかなり必要であるからな、よろしい出たなら四割とその分の火薬も譲ろうではないか」
私は驚き、
「火薬もよろしいのですか、とてもありがたいことです、これで気にせず練習できます。」
地図の近くの村の名前を示して、
「瀬戸村の湯之谷、御坊をさらに下り名前の通り天然の湯が出る所で、見つかったと言う話です。」
そう言うと嬉しそうに頷き、
「知っておるここからでも船ですぐではないか、さすが津の中根の情報網だ伊勢商人は侮れんのう。」
そして嬉しそうにしている師匠にとどめとばかりに、
「それと丹後の大江山、鬼退治で有名なあの東側に小規模ながら鉱山が出ると、そこも鉄砲の材料やらもでると聞きましたよろしければお調べください。」
そう言うとその場所を紙に書き止めた師匠は、
「少し遠いが、よいものが出るなら日本海から回航すればよいな、よかろう増産して材料もいくらでもほしい探してみようぞ小十郎、わしはいい弟子を持ったな」
そう言うと嬉しそうに私を見てくれ私は、
「いえいえ、私にはまだ力がありません、師匠のお力を借りるしかないだけです」
師匠は何度も頷き、
「こんな可愛い弟子をもち頼られれば嬉しい限りだ、所でここまでよくこれたのお最後は迷いそうなものじゃが」
そう気になったのか聞かれたので、
「途中雑賀衆の孫市殿と重秀殿に出逢い重秀殿につれてきて頂いたのです。まあ小言が苦手と言われそこで別れましたが。」
そう言うと笑って、
「重秀らしい、あやつは普段明るく陽気で皆を楽しませるが、鉄砲を持たせるとかなり凄いぞ小十郎もあやつに負けぬように精進せよ。」
そう重秀の事をかなりかっており嬉しそうに話す師匠に、
「ありがとうございます、何か有益なのがありましたらお知らせいたします」
そう頭を下げて礼をいい、
「楽しみにしておくぞ。今夜は遅い、ここで休んで明日堺に戻るといい」
そう言って準備をしてもらい夕食を頂き翌朝までぐっすり寝て堺へと帰りました。
昼過ぎに堺につき定宿に戻ると爺が疲れた顔で待っており、
「小十郎、昼に出ていき帰らずいかがした心配させるでない」
そう安堵の顔でしかられてしまい、
「申し訳ございません爺様、弾と火薬の供給について根来寺の師匠に話があり急遽向かいまして話をするのを忘れていました、申し訳ございません。」
なにも言わずに急いで出掛けたのを何度も謝ると、
「仕事での話ならしょうがないが、織田家の一族としても忘れてはいけない、それと鉄砲を積み込もうと思ったがどうやら三好が難癖をつけているらしく運び込めないで魚問屋の倉庫に留め置かれている」
そう難しい顔をしておるので、
「三好ですか、そちらは私が対処しますので爺は船に運び込んで頂けませんでしょうか」
そう言うと爺は何かあるなと察してくれ急いで手はずをするため、
「わかった、すぐに準備させよう」
そう言い、私は師匠に頂いた鉄砲に火薬と弾を装てんすると両手で抱え港へ急いだ。
爺の指示で鉄砲を運び込んでいると、大通りの方から騎乗の武将と足軽を五十ほどつれた者がやって来て、
「鉄砲を運び込んでいる者に告げる直ちに作業をやめよ、止めなければ船に火を放つぞ。」
そう言いながら少しずつ前に出たところへ、私は火縄に火をつけ支え棒を引きずり前に出ていくと、直ぐに撃てる状態んして武将をにらみつけると、
「その方こそ止まりなさいそれ以上動けば騎上の武将を鉄砲の獲物にしてあげましょう。」
そう言いながら狙うと、三好の武将は
「貴様のような幼子に何ができる、痛い目に会う前にどけ。」
大不声を出して威嚇してきたが私は武将を狙うと、
「幼子とて鉄砲を撃つことはできます、それでもまだ申しますか。」
武将は笑い、
「幼子とはいえ確かに撃つことはできようしかし当たるかな」
恐怖より興味の方があるのか引きもせず、
「私は小十郎、師匠は根来寺の津田、その技を存分に味わってみますか」
そう師匠の名を使い再度警告すると、
「腐れ坊主の弟子か、忌々しい」
そう憎々しげに言いにらみつけている間にも鉄砲を運び込んでいく。
そうこうしていると横から会合衆筆頭の今井殿が急ぎやって来て、
「三好康長殿、話は聞きました船に火を放つとは堺を火の海にかえると言うことですぞ、会合衆を敵にまわすと言うことでしょうか」
そう言われ康長は、
「いや今井殿、ただ鉄砲を運び出すことは駄目ともうしているだけだ。」
そう苦しい言い訳をはじめたが今井は、
「中根様の船は私たち会合衆の大切なお客様ですぞ、堺での無法はお止めくださいこれ以上事を荒立てるなら三好家には鉄砲を売ること出来ませぬ。」
そう言われ康長はこちらをにらみつけ、
「中根の小十郎、次回会うときはこのような助けがあればいいがのう、今井殿の顔をたててここは引くが次回はないぞ」
そう言い引き上げていった。
私は火縄を消し腰が抜けたように座り込んでしまい今井が目の前に来ると、
「小十郎殿無理をなさいますな、堺にいて会合衆の目のあるかぎりは三好と言えどもかってにはさせませぬ。」
そう言われ私は火縄を消しながら、
「宗久どの御助成ありがとうございます、腰が抜けたようでこのような格好で申し訳ない」
今井は真面目に、
「いえいえ、中々の者でしたぞあの康長を前に、四国では中々の猛将と聞きます、それを相手に引かぬとは、勇気か無謀かですかな、それと注文されていた生糸ものせておきましたので確認をお願いします。」
爺が船から走ってくるのを見ながら、
「ありがとうございます、積込がおわりしだい直ぐにでも尾張に向かいます、硝石等も追々注文しますのでよろしくお願い致します」
そう言い、嘉隆に背負われて船に上がると数刻後積込が終わり、私と爺、嘉隆、紀一郎夫婦をのせ一路尾張へと帰郷した。