信長包囲網と絹衣相論
1576年
正月明けから安土の城造りが始まり、兄上は岐阜を出て張り付きっぱなし
ようやく家でごろごろと(濃姫は見逃してくれてます)できて幸せと思っていたら、光秀(明智)が攻略していた丹波で与力だった波多野兄弟が謀叛、どうやら光秀を手伝っていた時から準備していたらしく、兄上が三万もの援軍を送り、早期に解決しようとしたが、かなりの悪どく波多野兄弟が抵抗しているらしく収まりがつかなくなって兄上もイラついている。
そうしてもう一つ、絹衣相論、去年公家に解決を一任した揉め事が、なあなあのまるくおさめまっせをしたら、もめている同士の天台宗と真言宗からさらにもめてしまい結局兄上に泣きつき、
「小十郎、官位をあげて天皇に直接的会えるんだから、双方の話を聞いて解決をしろ」
その一言で公家と坊主の揉め事の仲裁にのり出した
元々、絹でできた法衣を天台宗の許可した者だけ着ていいよだったのを真言宗が勝手に着てしまい天台宗が怒った。
真言宗に対して禁止を勝ち取ったのが先代の天皇の一言。
しかし、真言宗が今度は訴え、着てもいいよと言ったのが今の天皇の一言。
反する事を言ってしまって揉めて裁定を任せた公家が、お茶を濁して解決しようとしたが天台宗も真言宗も御墨付きを頂いているので納得していないと言う経緯である。
はっきり言えばめんどくさい、先代も今も生活費を捻出するためお墨付きを与える代わりにお金を納めさせていると言う切実なものである。
私はまず当事者である天台宗と真言宗を呼び寄せて意見を聞き、やはり聞いても解決には結び付かないから天皇にお礼をかね内裏にお伺いをたてる。着なれない服と礼儀に少し戸惑いながら、真言宗を許可する理由を御聞きしたら特に無かった。私は昔の慣習にのっとり天台宗のみ許すと言うことで了承いただき、礼としていくつかの金品を贈り、さらに毎年の生活費としての増額を約束した。
双方の坊主を呼ぶと、
「結論を言おう、昔のままとする」
天台宗の僧は笑顔で礼を言い、真言宗の僧は不満を持ち意見をのべてくる。
わずらわせないでと言うことで、今までのはいつさい無し昔のままの道理とすると伝え、真言宗の坊主には睨まれましたが比叡山のように焼かれますよとにこやかに言うと了承してもらいました。
ようやく一件落着、大岡裁きと自画自賛して岐阜へ戻ろうとしていると、百地が緊急で伝えてきた。
内容は本願寺勢が反撃してきて天王寺砦が落とされそうだと報告を受けた。急ぎ岐阜に知らせるのと、慶次郎と渡辺了に騎兵をつれて急いで京まで来いと伝える。
京周辺の豪族に集結するように京奉行の村井にたのむと安土にいるであろう兄上にいそぎ知らせに向かった。
安土は城の普請で人々がごった返しており、その中で丹羽と嬉しそうに縄張りを行っている兄上を見つけると、
「兄上、本願寺の逆襲にあって多数の死者をだし天王寺砦が危険だそうです。」
兄上は驚き、
「なに、持ちこたえられるのか」
「かなり厳しいと思われます。どうやら雑賀衆が肩入れしており危ないかと」
重秀の顔を思いだし火力は織田よりもあり集中で運用してくるのでかなり厳しいと言わざる終えなかった。
兄上はすぐさま近習を集め動員の使いを出すと、河内若江城に向かうと言いわずか百騎で向かった。
私は京にいる慶次郎に言付けでその事を伝えると必死にあとを追う。
若江城に翌日には到着したがまだ少しも集まっておらず、物見の報告でもいつ落ちてもおかしくないと言うことであった。
兄上は難しい顔をして、
「どのくらい集まるかわからない、本来は後三日あればかなり集まるが明日朝には援軍に参る。」
そう伝え寝所に入ってしまい、不安そうな近習に早々に寝るように伝え、何かあれば起こすように伝え、私も寝てしまった。
夜遅くになんと慶次郎と渡辺了、宇部等と騎兵百五十が到着して、
「慶次郎早すぎるぞ、助かったよ」
私は眠い目を擦りながら寝所から出迎える。
「聞きつけ取りあえず騎兵三百をつれて走り、佐和山で無理矢理上様(信長、権大納言を頂き呼び方が変わった)の船奉行の協力をえて素早くし京へ渡りここまでこの時間でついた。」
わたしは嬉しくなりながら、兄上と船奉行にあとで礼を言わないとと思いながら、
「協力ね本来なら口だろうけどその二の腕を使ったのだろう頭ではなく、兄上には後で謝っておく、ささいなことであるし、皆一杯だけ酒を飲み休め」
そう言うとすねたように口をとがらせた慶次郎が、
「一杯とは言わずケチケチするな小十郎」
そう言うと渡辺も頷く、
「兄上は明日、ここにいる兵力だけで本願寺勢に突撃する、なので一杯だ」
慶次郎は嬉しそうに、
「それは豪気なことだ、なら益々飲まなければ了付き合え」
そう言うとどぶろくを片手に奥へ消えていった。
眠い目を擦りながら広間に戻ると兄上が馬の鳴き声に出てきており、
「小十郎なんだ、天王寺砦に何かあるか」
「いえ、慶次郎と家臣が騎兵百五十をつれ着陣しました、それで佐和山の軍船を勝手に借りましたのでお礼申します。」
少し嬉しそうに兄上は頷き、
「そうか、慶次郎が良い家臣を持ったな、佐和山の件はわかった。」
そう言って寝所へ戻っていった。
翌朝、三千程しか集まらなかったが、兄上の号令と共に天王寺砦へ出発した。
先方は我々が騎兵と佐久間、くそ爺の弾正久秀、細川幽斎と若江衆
二陣は一益、秀吉、一鉄、長秀、三陣は兄上自らが指揮をし、これが全滅すれば織田家は瓦解すると言う事にもなりかねない陣容である。
「慶次郎、本願寺の鉄砲衆は雑賀だ、義兄弟の孫一も出てくるだろうな、きついぞ武田のやることを我らがするのだからな」
そう言うと嬉しそうに、
「雑賀の孫一か、朱槍をご馳走してやろう、小十郎の義兄弟ならばなおさら楽しみだ」
間違いなく単騎で突撃するつもりなので、
「了(渡辺)よ、今回はなるべく私の横にいてくれ、私が助かるから」
渡辺は無言で頷き、そして敵が見えるところまで迫る。
「よし、慶次郎斬り込み任せた、後ろから必死に食らいつくから」
そう言うと慶次郎は怒号をあげ私は私とわかるように旗を背中に立て突撃を始める。
天王寺砦に向いていて背中を見せていた本願寺勢も私達に気がつき、孫一であろう鉄砲隊もこちらに展開を開始した。
「くっ、流石に展開が早いな」
独り言を呟くと孫一らしい黒い鎧の武将を見つめ続け、孫一は手を振り上げ鉄砲を何時でも撃てる状態になった。
「慶次郎、右だ鉄砲隊と槍の間に入り込め」
通常は横をここまできてさらす事は危険だったがとっさに口にでると、
右へ曲がりこんで左前にいる孫一を見ると、こちらの旗で私だと確認したらしく手を下げようとしていたが躊躇して止まったのを見逃さなかった。
「慶次郎、切り込んだら左へ雑賀衆を横断し混乱させよ」
そのまま本願寺の隊列へ入り込み、圧倒的な武勇で切り崩していく慶次郎、私は何時ものようにその真後ろを必死についていき了に護衛を任せる。
本願寺勢の隊列の半分ほどで唐突に慶次郎が左へ進路をかえ雑賀衆に切り込んでいき、私は雑賀衆の後列にいた孫一を見つけるとそちらへ走りながら、
「孫一、戦場では躊躇は駄目ぞ」
「小十郎がいたので昔の礼をしたまでだ、弾をご馳走しようぞ」
そう言葉を交わしつつそのまま本願寺勢を横断し、反転すると慶次郎は横断し始める。
三陣が丁度敵に入り込み左へ続いていたが、兄上が左足をかばいながら馬に乗ってるのが見えたので、
「了、信隆、吉田、兄上が怪我している。援護して天王寺砦へ入れ、私たちは横断してから入る、急げ」
三人と、信隆直属の10人の騎兵が左へ別れ兄上の方へ向かう。
そうして横断をしさらに右に旋回し、雑賀衆の中から砦の正面に進路をかえ砦へと入った。
砦に無事入ると光秀が待ち受けており、
「信照殿、援軍感謝する。」
馬からおりると奥へと向かいながら、
「それはいい、兄上は大丈夫か」
「弾が左の太股の外側に当り軽く抉っているので治療しています。」
そう言われ大事無いとわかり、
「わかった、兵と馬の世話を頼む」
そう言い、兄上の元へ向かった。兄のいる部屋に入ろうとすると、
「ええぃ、大丈夫だと申しておろう」
そう苛ついている兄上の声が聞こえたので慌てて中に入ると、
「兄上」
「小十郎か、重臣たちがうるさい、直ぐに砦の兵と共に再度突撃をかけようと言うのに反対するわ」
佐久間は進み出て
「信照殿お諌めください、怪我もしておられますし、ここはこもって援軍をさらに待った方が」
そう言われ怒りが爆発しているので私は、
「いや、敵もそう考えているだろう、兄上の言うことは的を射てる、すぐ編成にかかります」
そう言うと重臣達は驚き、
「信照殿」
そう叫ぶ佐久間に、
「佐久間が敵なら少数の援軍で入った相手が攻撃を仕掛けてくるとは思うか、佐久間と同じで油断している。」
そう言うと兄上が、
「小十郎頼むぞ、治療がおわりしだいすぐいく」
急ぎ戻り私は門前に皆を集合させ、
「このままここにこもっていてもじり貧になるだけだ、兄上からの命により再度突撃をする。命をもらうぞ」
皆が歓声をあげ私は自分の家臣を中核に先鋒を編成し、本隊は光秀に任せる。
直ぐに編成をおえると兄上が出てきて馬にまたがり、門番がこちらを見て緊張した面持ちでまっており、私は振り返り兄上の顔を見ると私を見返し頷いた。
「門をあけい」
門番が左右に門を開き、慶次郎と共に突撃を開始した。
敵から見て慶次郎に中央、私が左翼、了が右翼に別れ突撃を始め、鉄砲の発砲音がして音が上に飛び去り、左を向くと不思議と損害が見当たらずその瞬間に雄叫びをあげ雑賀衆が構えたところに突撃しにいった。
私も前を見て腹からの怒号を叫び、後ろの声と共に槍を脇に構え突入をかいしする。
本願寺勢はまさか再度出撃してこようとは思っていなかったので、悲鳴をあげ一気に崩れ始めてしまい、私は突入しては抜けを繰り返していく。
最初の一撃で本願寺勢は支えきれずに逃げ始め、織田勢に見事と言わんばかりに蹂躙されており最終的に石山本願寺の門の前まで追撃し天王寺砦へ帰還した。
「信照殿、すごいです感動しました、あそこまでまさか追い詰めるとは」
顔を真っ赤にし興奮している秀吉が両手を握りしめ上下に振り回しており、
「中央の慶次郎が崩れず突破してくれたので、我々両翼も突破出来たのです。設楽原の武田のように中央が崩れたらこのようにはいかなかったでしょう」
「そうかそうか、流石信照殿の家臣、一騎当千ですな、わが家臣にもほしいですな」
「あげませぬぞ、人たらしの秀吉どの」
笑いながら釘を指し、兄上の元へ向かった。
「皆のものようやった、佐久間その方にここを任す。他に砦を作り上げ包囲し本願寺を攻略せよ」
兄上は痛みで目元が少しだけ上がりながらそれを気取られないように光秀達に指示を与えていく、
「ははっ、必ずや上様の意にかなうように致します。」
指示が終わると兄上は京へ我々は岐阜へと戻っていった。
私は一人、石山へと向かう。今回の件についてお礼がしたいと思い酒樽を背負って汚い身なりになり歩いていくと、草むらに倒れている男がおり起こす。鉄砲がそばにあり雑賀か聞くと頷くので肩を貸して進む。
街道を歩いていくと突然槍を持った男達に囲まれたが、雑賀衆とわかったので助けてくれ石山の街の一角にある雑賀衆の寝泊まりしている場所に連れていってくれた。
「小十郎、ようきたな」
孫一である重秀が嬉しそうに出迎えてくれ、
「先のお礼で酒を持ってきた。今日の酒だ」
酒樽をおろすと男達が集まり仲間を助けてくれた礼を次々と言うとその場に座って酒盛りが始まった。
「しかし俺がいるとわかってあんな戦法をとったな」
重秀は私の頭をくしゃくしゃに手でかき回してくる。
「まともにやり合えば助かるのも難しいから、出てくると思ってあえて甘えさせてもらった」
私は樽の酒をすくうと重秀に差し出し一緒に飲み始めた。酒を飲みまくり最後に、
「これが貸しだぞ小十郎」
「雑賀が何かあれば助ける」
酒を酌み交わし、楽しく時間が過ぎる。
「しかし織田はどうするのだ」
重秀はぽつんと聞いてくる。
「天下統一、この戦いもその途中のひとつでしかないよ」
「幕府を開くってことか」
重秀は驚く、
「日本で言うならだけど、兄上は天竺そして南蛮まで進もうとしているからね」
「南蛮までか、しかしそんなこと出来るのか」
「雑賀のように専門の兵がいるし、金もおさえているから」
「我らと同じか、まあ我らは一向衆門徒として織田と戦わなければならないからな、今度は思いっきりいかせてもらうぞ」
重秀の方が年下なのにしっかりとして私の背中を叩くと大笑いして一気に酒を飲み干した。




