信長包囲網
「麿は将軍であるぞ、そちにそのようなこと言われたくない」
横を向く相変わらずプライドだけは高い将軍義昭、いい加減にしてほしいのだけど、
「お願いをしているはずです、書状を諸侯に出す場合は必ず信長の書状の裏打ちをして一緒に送ってくださいと、承知なさったはずです」
「何故に将軍がいちいちそのようなことをしなければならんのじゃ、そちは嫌いじゃ」
嫌いでもなんでもいいけど私的には、面倒を起こさなければと思いながら、
「勝手に色々命令されたり約束され我々は知らなかったですまないのですから、それはわかっておられる筈です」
「あ、もういい麿は知らん」
そう言いながら出ていってしまった。
あとに残った幕臣の細川幽斎が
「信照どの、誠に申し訳ない、我らも停めようとしたが停まりません。」
「わかりますが、どうやら書状を受け取った三好が四国から再上陸したと言う話もあります。このままいけばどうなることやら」
「我らもできうる限りお諌めします。信長様にはよしなに」
自分の居間に戻り百地に摂津、和泉の情報を収集するように依頼して町へ出て見廻りを慶次郎とともに始める。
途中大きな商家の裏手に来ると織田の兵士と思われる足軽三名が番頭と思われる者に
「おいおい、少しだけでいいんだぜ俺たち織田には日頃から世話になっているだろう、お礼ともって出してくれるだけいいんだぜ」
「このようなこと禁止されておられるでしょう、お止めくださいませ」
「うるせえ、お礼をしろといってるだけだ、出来ねえならどうなっても知らないぞ」
そう言いながら脇差しを抜こうとした瞬間、私は慶次郎に顎でしゃくった。
慶次郎はめんどくさそうに進み、後ろから槍の柄で脳天を次々と叩き気絶させる。
「織田の家中のものだ、すまないことをしたすぐに回収させに来るから置いといてくれ、何かあれば二条城にいる信照を呼び出してくれればいいぞ」
ため息混じりに表通りにでて村井配下の者をみつけ裏手の足軽を回収し裁きを頼むと伝える。
慶次郎はつまらなそうに、
「しかし信照も暇ですな、こんなことをしておられるんですから」
「それはお互い様、慶次郎の力を足軽の束縛に使わないといけないんだからね」
そう顔を付き合わせていると、後ろから声をかけられた
「お二人とも暇そうですな、それと信照様先程はありがとうございました。」
振り向くと京奉行の村井殿が立っていた。
「村井殿のお手伝いを少ししただけですよ、あのお方の頭を押さえるのと治安を言われてきただけですから」
そう言うと笑うところを見たことがない村井が、
「なかなか難しいですな、そう言えば信照様、山城の守護就任おめでとうございます」
「これは、あの方がいて配慮して空席にして来たけど、私に就任させて嫌がらせをしてこいと言うことでしょうかね、実際嫌われましたし、気にしてませんけど」
慶次郎が嬉しそうに
「織田山城守信照、本人をみると威厳なし、姉川で磯野に追いかけ回されべそかいただけはあるな」
図星だが面と向かって言われるのはしゃくにさわるので、
「自分だって弱いものばかり追い回していただけじゃないか、よき相手に出会えなかったって運がないと言うか、日頃の行いが悪いと言うだけだと思うけどね。」
村井が真面目な顔で進み出てきて、
「まあまあその辺で、ところで前田殿は公家に出入りして、古今和歌やなどを披露してなかなかのものと細川幽斎殿が感心しておられましたぞ」
慶次郎は私を見ながら、
「いやいやこのくらいは、武士のた・し・な・み・でございますよね、山城守殿」
私は大いに頷き、
「子守唄には丁度よい、すぐ眠れるからな、和歌はすばらしいぞ」
そう言うと慶次郎はあきれ顔で、
「こんな主君に使える我が身の悲しさでございます村井殿」
そう言うと始めて村井が笑い、
「信照殿と前田殿はなかがよろしいですな、それでは会合に出席しなければならないので失礼いたします。」
村井がいれば京は安心と思いながら見送ると将軍とのやり取りで疲れたので、
「なんか疲れたから、揚屋でお酒のんで寝ようか」
慶次郎は嬉しそうに同意して
「そうだな、酒を飲もう」
吉原のきらびやかな花魁のいる揚屋にいくが、太夫なんか来てくれるわけはなく芸者等を呼んで慶次郎や店の者を呼んで酒を飲み踊りあかした。
それから京の屋敷に戻るのは着替えの時だけで、時々嫌がらせかと思う様に将軍へ挨拶と釘を指しにいき激怒させることを繰り返している。
「もうよい、山城守に任じられたからとて毎度毎度言われる筋合いはない、麿は将軍ぞ名門足利の」
「ですから守っていただけると確約がとれればこんな面倒なことをしなくていいのですから、吉原通いのほうが楽しいですし」
余計な一言を言うと義昭は青筋をたてて怒り狂い幕臣に私をつまみ出せと言う、しかし織田が居なければたち行かないと言うのがわかっているので黙って下を向くかいさめるかしかなく将軍は奥へと下がってしまった。
幕臣の一人である和田が、
「織田殿は公方様をわざと怒らせているようにしか見えませんが」
私はここにいる幕臣を見回して、
「そう見えるのならそうなのでしょう」
「それは不敬に当たりますぞ」
「不敬と言うなら公方のしていることは非礼と言うことですな、織田が居なければ京にとどまることもできないのを自覚していただきたい」
「他の大名もおるではないですか」
私は名前が出て来ない幕臣を見て、
「武田は私利私欲息子さえ殺す不信のかたまりですし、西国の毛利は自分の事しか興味はなく上洛してこず、朝倉も自分本意で小京都と言って自分の谷から出てこず、三好に頼みますかまた焼かれてむごい状態になりますよ、唯一義の上杉謙信公は信玄や北条と関東や善光寺の取り合いをしており安定的には京を納められませぬ、いい加減現実を見つめ仕える方に状況を解くべきと考えます。」
「そんなことはないはずだ、将軍からの檄文を見て動かない大名がおろうか」
不味いことを言ってしまったようだが自分に酔っているのか気づかない、
「勝手な妄想で御座いますればその様なことはありませぬ」
細川が慌てて訂正するが私もおさえがきかずに、
「それは織田に対する敵対と受け取ってよろしいのでしょうか」
発言した本人はしまったと言う顔で焦る。
「いえ、その様なことは言葉の上でのざれ言にございますれば真に受けることないと、なあ御一同」
私は、
「戯れ言ですか、もしざれ言でないときは臣下の罪を問わねばなりませぬがよろしいかな」
自分ではなく将軍に罪を問うと言うことを言われ本来なら反論して不敬と言わねばならないはずだが、下手なことを言えばいくらでも口実を与えると今更ながらに気がついてようで沈黙をする。
私は、
「敵対をしないのなら履行をお願いします。それ以外は求めませぬ」
本人たちではなくその後ろにいる将軍に向けた言葉を伝え退出した。
午後にはやなことは忘れようとのんきに和歌を読みながら揚屋にいる慶次郎に合流して、酒と踊りでやなことは忘れようとした。
「信照、評判悪いぞ面白いがな」
慶次郎は人の悪そうな顔で私に大盃を渡すと周りの者から酒が注がれ飲み干す。酒はたしなむが慶次郎のように底無しとはいかず酔っぱらっているとふすまが開く、育ちのよい公家の息子なのか挨拶をすると、
「来たな親さん、中へ入るのには芸をしてもらわないとな」
慶次郎はいつ決めたのか知らないが言うので私も大盃を明けながら同意する。
「それでは」
そう言うと踊り始める。
「おっおみごと」
皆がそう呟くほどの美しい躍りであり見いってしまう。躍りが終わりをつげ誰もなにも話さず青年を見ていると、
「いかがでしたでしょうか、お気に召されなかったのでしょうか」
私はその声で正気に引き戻され、
「いや、見事です。ここで踊るような芸ではないですな」
青年は嬉しそうに、
「芸はどこで行っても不変に御座います。八百万神はどこにもおられますから」
清々しい笑顔で座ると私は大盃を渡して酒で満たす。
青年は一気に飲み干すと、
「酒は初めて飲みましたが中々ですね、私は親さんとお呼びください」
私は返杯をもらいながら、
「ちごと呼んでください、兄からよく言われるので」
お互い本名は名乗らない方が楽しい時間が過ごせるということでそう名乗った。
「慶さんが会わせたかった友人とはこの方なんですね、それと吉原の揚屋に初めて参りまし華やかなのですね」
慶次郎は煙管で煙草を最近吸うようになっていて体に悪いよと冗談混じりにいっているがやめる気配はなく、
「そうだろう華やかだ、しかしその裏は悲しみがある。だが今は楽しもう」
店の者をすべて呼んで三味線を奏で踊る。
禿や女郎、手代や店主に私達も何時までも踊り続けた。
「頭痛い」
見事な二日酔いで昼に起きる。京は午後には誠仁親王との初めての話し合いが行われるのを思いだし井戸にいくと水浴びを何度も行い身支度を行う。
内裏に入り親王の住まわれている場所へと通された。内裏はみすぼらしく天子であっても貧しい暮らしのようで献上品を持って伺った。
「誠仁親王です。お初にお目にかかります」
いたずらっ子のような顔で挨拶をしてくる親さんに慶次郎の笑う顔が頭をかすめる。
「織田山城守信照と申します。お初にお目にかかります」
お互い和やかな雰囲気で始まり献上品の目録を渡す。
「慶が失礼なことをして申し訳ありませぬ」
おもむろに謝ると嬉しそうに、
「私から頼んだことなんです。またお願いできますでしょうか」
親王は少しだけ心配な顔で聞いてくるので、
「慶がまた誘うでしょう。よろしければまたあの芸を見せていただければ嬉しいです」
「そう言っていただけるとありがたいです」
楽しみにしておられるようで笑顔で何度も礼をいってくれた。
内裏に援助をすることを約束して下がった。
二週間ほど過ぎたある日、何時ものように見廻りと言う暇潰しをしていた私に百地からの知らせがあり、三好勢が河内の古橋城を攻め落としたと言う報告をうける。すぐさま兄上に知らせたらかなり驚いたらしく、すぐさま四万を引き連れ野田と福島城へ向かう。
私は兄上と別れてにすぐ調略を始める。細川昭元、三好政勝、讃岐藤尾城主、香西佳清があっさり寝返り、三好勢は窮地に立たされ講和を求めたが兄上は拒否し三好勢は風前のともしびとなっていたところに一番やなことが起こった。一向宗の参戦である。
本願寺顕如が命令して突然襲いかかる。
まさか戦いを挑んでくると思っていなかった織田勢は逃げ出し兄上が青筋をたてて叫んでも逃げることしかしない。
お経を唱え散発的に鉄砲を撃ち合いはじめる。
「慶次郎、鷲尾と共に一向衆の真ん中を横断して勢いを削いでくれ」
何時ものように頼み私は鉄砲を構え目の前に迫る一向衆にはなった。三河で経験したとおり足を止めずに向かってきており倒すが怯まない相手に織田勢は混乱にはくしゃがかかる。
兄上は天王寺に入ると、
「信照、急ぎ京へもどれ」
兄上はなにか思ったのか私に命ずるので急いで京へと戻った。
一息つこうとしているところへ廊下を走ってくる足音がして鎧姿の兵が入ってくる。
「報告します。朝倉、浅井が三万の兵で京の北にある宇佐山城を攻め立てて来ており、一部は京まで進出してきております。」
兄上に急ぎ知らせるとともに、私はすぐさま二条城で立てこもるべく準備を始めた。
準備を始めていると将軍からの呼び出しがあり面倒だが会いに行くと、
「織田はなぜ籠城の準備をしているのじゃ」
そうのんきと言うか裏で手を回したのはお前だろうと言いたいがここで言い争う時間はないので口には出さず、
「朝倉、浅井が京へ攻め上ろうとしているためもしやの時のために籠城の準備をしているだけです」
そう言うと勝ち誇った顔で、
「朝倉と浅井が麿を害するはずがないではないか」
私は呆れて、
「元々上洛にも応じず、急に攻めてきたこと事態悪意のかたまりでしょう。誰か間抜けなのが手を引いてるかは知りませんが、それに私は山城守ですよ、京を守るのは当たり前ではありませんか忙しいので失礼します。」
後ろで何かカン高く叫んでいたが無視をして城の各所を見廻り、宇佐山には百地を派遣し状況の確認を行った。
宇佐山城は囲まれかなり危険な状況なので、慶次郎と鷲尾と宇部を騎馬だけで援軍とすることにした。
「兄上に知らせ次第私も行くが数は圧倒的にこちらが不利なので夜襲をかけよ」
先発させ兄上からこちらに向かうと言うことが知らされたので慶次郎達の後を追う。
朝倉と浅井が宇佐山城を包囲しており私はその手前の小高い丘の上にのぼると慶次郎達が合流してきた。
「慶次郎御苦労」
「俺一人なら何度も切り込むが味方がいるからな程ほどにしか出来なかった」
「当たり前だよ、追っていけば死傷者が増えるからな、しかし大軍だな」
目の前に広がる大軍を見下ろす。
何も出来ずに三日ほどで兄上が到着すると、
「小十郎ご苦労、状況は」
「森可成、織田信治、青地茂綱の三名は坂元で敵の進行を食い止めるため出陣し討ち死に、しかしながらそのお陰で、宇佐山城は健在にございます。」
「わかった、小十郎は京に戻り治安を強化せよ、わしは朝倉と浅井を追い落とし宇佐山城へいく」
兄上はすぐに陣をはる。
そのまま年末までにらみあっていたが朝倉と浅井が籠城した場所が比叡山、不入の地だったので攻めあぐねていており兄からの書状がくる。
「裏には将軍が手引きをしている。内裏に働きかけ和議を結ぶ使者を送れ」
それだけ書いてあり私は村井に内裏に伺うことを伝えさせ献上品を準備して向かう。
関白に面会を求め献上品の目録を渡すと本題にはいる。
「ただいま比叡山で織田と朝倉、浅井と戦いになっております。戦火を京に及ばないようにするため間を取り持っていただけませんでしょうか」
「麿も気になっていたところでござれば御上に言上して直ぐに使者を送りましょう」
普段から優遇しているかいもあり直ぐに動いてくれ護衛をつけ見送った。
京は不安に乗じて盗賊が入ろうとしていたが警戒を密にしていたので火付けなども未然に防ぐことができた。
朝廷による斡旋で和議が結ばれるとようやく兄上は京へ戻りそのまま岐阜へ帰っていった。
私はそのまま京に居続け、嫌がらせで二条城へ挨拶をして将軍の機嫌を損ねていく、
「義兄上は麿に頼らず内裏に頼って和議を結ぶとは幕府をどう考えなのじゃ」
この人は自分が起こした騒動を抑え込まれたことについて私にばれてないとでも思っているのか、
「今回の事、心当たりがないとおっしゃられますか、なぜ朝廷にお願いしたかわからないのですか」
私は小馬鹿にしたように将軍へ返答するとさらに激昂した様子で、
「麿が今回の事に関わっていると言うのか」
「いえ思ってません、上洛時に将軍が朝倉義景にいくら頼んでも動かなかったのですから、動くはずもございますまい」
「知らぬであろうその朝倉を麿は動かしたのじゃ」
売り言葉に買い言葉で思わず失言をしている。部下もだが上司もたかが知れていると言うことで、
「織田に対する敵対と受け取ってよろしいのでしょうか」
眉を潜め自分がいった意味がわかったのか、だが引っ込みがつかないようで、
「そうじゃ、ないがしろにするから悪い、麿は将軍ぞ当然の権利である」
「わかりました」
私はそのまま一礼して広間からでて行った。
この事は直ぐに二条城やその周辺に知れ大騒ぎとなり周辺の住民は荷車に家財道具をのせて逃げ出す準備を始め、
それを聞いた将軍は私が直ぐに攻めてくると混乱して光秀を使者として私のもとへこさせた。
「信照殿、今回の事いかに納めようとお考えです」
くそ真面目で兄上からは感に障ると言うことだが頭は切れる、
「将軍がそう思っているなら期待道理に動いて見てもいいけど」
ぶっきらぼうに返す。
「信長様はそれを承知されておられますか」
「事後報告でいいかと」
「将軍嫌いはわかりますが将軍殺しの汚名をきるのと、まだ利用できるものを切り捨てようとするのは早いと思われます」
「けんろくか」
「そうです三国志時代のことです。まさしくその通り」
「それじゃあ光秀、将軍の暴発を押さえ、自らは幕臣をやめて兄上に仕えること、それなら今回は何もせずにいよう」
「わかりました。信長様に良しなに」
光秀は安堵した表情で戻っていき、
私は自分の起こした混乱を納めるため街に繰り出し笑顔で民衆に話しかけて落ち着かせた。
怒っているはずの私が笑顔で対応しているのに民は驚き、織田を怒らせると怖いと言うことを認識してくれた。




