姉川の戦い
撤退後の兄上の長政に対する怒りは想像以上であり、岐阜へ戻るとすぐに軍議を開く。
「長政め、わしを裏切るとは、浅井と朝倉必ずや滅ぼしてその首をさらしてくれようぞ、皆の者わかったな」
そう言う怒り狂った兄上に今回で少なからず被害を受けた家臣は頷く。
「準備が出来次第小谷城攻略に向かう。」
兄が言い切り評定を終える。私は撤退で痛め付けられた部隊の再編成を済ましていると、六角親子が織田の撤退をききつけ、権六(柴田)が城主の長光寺城を囲んでいると知らせを受けた。
私は兄上からの知らせを受けて援軍のため先行して救援に向かう。
その日の午後には慶次郎と鷲尾が率いる騎兵と共に急ぎ到着してみると、権六が城から討って六角勢に突撃を仕掛けており、私もそれに乗じて慶次郎に後方から突撃させ一気に切り崩した。
慶次郎もだが私も鷲尾もこないだの撤退での鬱憤をはらすがごとくに追いかけ後ろから攻撃する。
「退くぞ、退くぞ」
六角勢は挟み撃ちにあい次々と討ち取られて逃げていった。
六角を追い払い権六と合流すると、
「さすが権六、私が手を出す必要もなかったかな」
顔を赤くした鬼のような形相の権六は、
「いえ、水をたたれてしまったので、つきる前に龜(水かめ)を割り突撃したところに信照殿がこられ助かりました。」
「ならよい、兄上が浅井討伐を行う。準備ができしだい向かうぞ」
権六は頷いたが、
「一日お待ちください、準備できしだい後を追います。」
私は一路北上して鉄砲や長槍を率いた宇部達と合流して虎御前山にいる兄上の元へ駆けつけた。
評定が開かれている最中に私が入ってくると兄上は、
「小十郎ご苦労、権六も無事みたいだな」
「助けるまでもなく権六は六角勢に突撃し蹴散らしていました。」
「さすがは権六だな、来てすぐにだが明日小谷城下を焼き払う、小十郎は横山城を包囲して援軍を出せないようにしてくれ」
「わかりました、それと四日ほどで徳川殿も合流するとの事です。」
評定では損害を受けたとはいえこちらの方が多いと言うことで楽観視している家臣が多いように見受けられたが、権六が数倍に勝る六角を追い散らしたと言うことでさらにそういう雰囲気がある。
兄上も感じているようだがいい意味でとらえているようでそのままなにも言わずお開きとなった。
私は姉川の南にある横山城へ向かい包囲を始めると、美濃三人衆と丹羽を与力でつけてもらい蟻のでる隙間もないほどに取り囲んでしまう。
しばらくすると小谷城方面から焼き討ちの煙が上がり、こちらもさらに柵を造り包囲を強化をした。
二日ほどすると横の街道を徳川勢が通過し、隊列から義兄の忠勝がやって来る。
「信照殿お久しぶり、前回は大変だったな」
「いえいえ、徳川殿が横にいてくれたお陰で耐えられただけですから、徳川殿には感謝しています。」
「伝えておこう、ところで今回は浅井、朝倉勢と戦いになるのだろうか」
「戦いにさせるため横山城を囲み、佐和山との補給道を断ったので、長政は出ざる終えなくなると思います。」
「そうか、もし戦いになった場合に注意することは何かあるだろうか」
「朝倉勢なら徳川勢でも倍はいますが楽に退けられるでしょうが、浅井勢はかなりの強さと、遠藤などの猛将がいますから、もし織田勢なら切り崩されるかも知れませんね、数にあなどると、援軍に向かいにいきますがいかんせん遠いので義兄、お願いします」
「任せとけ、両方とも徳川勢で蹴散らしてやる」
笑いながら隊列に戻っていった。
そうこうしていると、丹羽殿と美濃三人衆がやって来て、丹羽がにこにこしながら
「信照殿の与力で働けるのは面白いときき楽しみに参りました」
「こき使うからね、何が面白いのかわからないけど、美濃のお歴々正式には始めましてですね」
「三人を代表して安藤守就と申す、織田信照殿の与力として横山城の攻略に尽力を尽くします。」
「信照でいいですよ、今回は横山城は押さえれば良いだけです、野戦で勝てば自然と落ちますから」
頑固親父の一徹親父みたいな稲葉一鉄が
「それはどのような根拠で信照殿、自然に落ちるとは」
私は小谷城を指差し、
「今回はようは小谷城にこもる浅井勢を引っ張り出すだけのために横山城を囲みました。それにより長政は横山城を助けなければならないため、出陣してきましょう、これを野戦で織田、徳川同盟で横山城の目の前で破ればおのずと横山城は降伏してきましょう」
もう一人の氏家ト全が
「今回は包囲しているだけになるのでしょうか」
「いいえ、多分重要な予備兵力となりましょう。相手の兵力は少ないと思いますが、それにより織田家中はかなり敵をあなどっております。その為下手をしたら崩れる可能性も考えなければなりませんし、その為戦いが始まると同時に迂回し敵の横からくさびを打ち込み、勝利を確実にするんです。丹羽殿には横山城のおさえとして残っていただきますが」
そう言うと心配そうな丹羽が、
「信照殿、織田勢は本当に崩れるでしょうか、権六や佐久間等もおりますし」
「丹羽殿、はっきりいえば敵の遠藤などの突撃を食らえば私も持つ自信が無いですから、権六を越える突撃と考えた方がよろしかと、なので基本は囲みますが、浅井勢がでてきたら東側に集結し突撃します。」
「わかりました、さすがは我婿の半兵衛が一目おいているだけはありますな、期待しておきますぞ。」
そんなことを急に言われて顔が赤くなるのを感じながら配備についた。
翌日には、朝倉勢が到着したのを受け兄上は陣換えを行っていく。
さらに次の日の明け方に姉川方面に朝倉勢が出てきたと言う知らせを受けたので、美濃三人衆に集結するように伝えると丹羽に包囲をたのみ東側から姉川を渡り北上していく。
霧のなか遠くで鉄砲の音や喚声が聞こえ野戦が始まったことを知らされる。
霧を抜け戦いが見えてくると、兄上の本陣の方まで浅井勢に押し込まれているのが見える。
織田勢も必死に建て直そうとしており権六の声が木霊する。
しかし後がない浅井の勢いは留まることをしらず開いた傷口をえぐるように織田勢を倒していった。
秀吉の姿も見え兄上のいる本陣に浅井が攻撃をしているのを見て慌てたらしく混乱に拍車をかけていた。
私は勢いを削がなければこの戦いは負けると感じて一鉄に振り返り
「稲葉殿は二人を率いて浅井の真ん中に楔を打ち込み勢いを止めてください」
「わかった、三人衆の力を見せましょうぞ」
そう言うと突撃をしていく、
少しだけ勢いを削いだがまだ浅井勢は衰えをしらず建て直そうとする織田勢を切り崩していった。
「慶次郎、あの二番と三番目の陣、あそこを分断して先頭を孤立させろ、私は三番目を押さえ込んで勢いを削ぐ」
慶次郎が頷き、何時ものように単騎突撃を開始しそこに空いた隙間に宇部の騎兵と共に突撃して傷口広げていく。そこへさらに兼松の長槍隊が統制がとれない敵を叩きまくり浅井勢を横から崩していった。
私は必死に慶次郎を追いかけ浅井勢の中を抜けていると横から武将が馬ごとぶつかってくる。
とっさに馬を返し避けるとそこには磯野員昌がにらみつけ立ちふさがり、
「織田信照殿とお見受けした、この槍をご馳走しましょう」
そう言うと槍をくりだし、払い叩き、一方的に私は防戦するしかなく落馬しないようにするにも困難な状況になってきたので逃げようかと考え始めると、
「もうそろそろ息も絶え絶えとみた、首をあげさせてもらおう。」
そう言い磯野は下から繰り出した槍で私の槍を弾き飛ばし、私は慌てて太刀を抜こうとしたその時、
「信照が兄、本多平八郎忠勝と申す。弟のかわりに槍をご馳走になろう」
槍を繰り出しながら義兄が割り込んできた。
磯野は邪魔物が入って悔しそうな顔をしたが直ぐに義兄へと槍をつき出す。
忠勝は蜻蛉切りを磯野員昌以上の槍を右へ左へ上へと変幻自在に槍を繰り出したじたじにさせると磯野は撤退を開始した。
「義兄・・・ありがとう・・・ございます・・・もうだめかと・・・・思いました」
新鮮な空気を吸うのに息も絶え絶えで答えると、
「信照の危機に間に合ってよかった、間に合わなかったら日和に何を言われるかわからないからな」
そう笑いながら言うと、浅井勢を追撃していった。
攻勢は止まり浅井勢も朝倉勢も撤退を始め、織田勢と徳川勢は小谷城まで追撃をしていく。
私は追撃には加わらず慶次郎と鷲尾を呼ぶと美濃三人衆と合流して横山城へと戻った。
丹羽と合流後、
「丹羽殿すまないが横山城に降伏を進めてきてくれ、今なら開くであろうから」
「信照殿了解いたしました。すぐに向かいましょう。」
目の前で味方が惨敗したのをみて横山城はすぐに降伏してしまう。
直ぐに私は横山城を丹羽に任せ兄上に合流するため小谷に向かった。
休憩をと思っていると兄上から呼び出しがかかり私を見ると、
「信照、横槍ご苦労、聞いたところによると家康家中に助けられたと」
「義兄の忠勝殿に助けられました。磯野員昌に撃ち取られそうになりまして」
「もう少し立場を考えよ、今死なれたら困るからな、ついでに去年からの功に対し五千貫を新に尾張で増やす。励めよ」
私は礼を言うと、
「そなたが下した横山城を誰に任せるのが良いか」
「横山城は北に小谷城、南に佐和山城とくさびでもあり死地でもあります。機転が利くものをおかなければなりません、それができるといえば秀吉か光秀しか居ないでしょう。」
「サルかキンカン、確かに他には確かに勤まらんな、浅井攻略のあとも考えサルに入らせる、伝えておけ」
「わかりました、それと将軍の行動が怪しくなっており三好が動くかもしれません」
「わかった、小十郎はこのまま京へ向かい、将軍ににらみを利かせるとともに、治安に村井と勤めてくれ、わしは岐阜へ戻る。」
家臣達は驚き、当然このまま小谷城を攻めると思っていたが兄上はすでに馬にまたがり出発をしており、それを見て慌てて陣払いをおこなった。
私は秀吉を呼ぶと必死に走ってくるのを見て私は笑い慶次郎もそれを見て笑っている。
「信照様なにようでしょうか、この秀吉、何時でも小谷城を落として城主となるよう何時でも準備はできておりますぞ」
私は少々調子に乗ってる秀吉をいじめたくなり、
「墨俣の城代を免ずと兄上からの言葉だ」
そう言うとへなへなと崩れ落ちる秀吉、
「何故でしょう信照様に言われて頑張ったのに、もしや浅井に切り込まれ支えきれなく本陣まで行かせてしまったのを怒っておられると言うことでしょうか」
慶次郎が横から、
「そうだ、我らと徳川が横槍を入れなければ壊滅していただろう」
「そうですがしかし頑張ったのですぞ」
秀吉が言うので、
「そうだ、だから墨俣城城代から横山城城代として浅井の抑えとなるようにと兄上からの命令だ、文句があるのか」
私は嬉しそうに言うと、なにがなんだか未だにわからない秀吉は、
「えっ、なっ、ほえー、えっ」
目を何度もまばたきさせてようやく、
「それがしに前線である横山城城代ですか、ありがとうございます」
そう言うと気が抜けたのか涙めになる。
「兵糧などは丹羽に言って回してもらうように指示しておくから北近江のおさえを頼む」
「はい、必ずや全うさせていただきます」
こうして秀吉は小さな砦に毛が生えた城の城代から、支城の1つだが立派な郭を備え城の城代へと出世を遂げた。
ちなみに秀吉から、
「信照、ひとつお願いが」
「なんだい城代の秀吉殿」
「いえいえ、秀吉いやサルでいいです。かわりにお金を貸していただけませぬか」
「あれは兄上からの」
こないだ金をもらったはずだけどと聞くと、
「皆にお祝いで配って借金を返したら無くなりまして、あはは」
気前がいいのはいいけどあれを即使いきるとは、私は感心しながら、
「わかりました中根の爺に言ってください十一で貸しましょう」
「十一ですか、でも金を借りるのに時間がないし、お願いします」
「冗談です。出世頭の秀吉に恩を売ったと言うことで良しとしますからね」
安堵の顔をした秀吉は嬉しそうに何度も礼を言うと小六達のもとへおおはしゃぎでもどっていった。
私は京に上がらなければならないが、あの将軍とまた不毛な話し合いをしなければならないので落ち込みながら向かった。
新に加増されたが領地へ戻るわけでもなく、伊那に新しい領地の整備を頼み京へ向かう私でした。




