金ヶ崎口の退き
朝倉は将軍からの上洛要請にはやはり応じずしびれを切らした兄上は領内へ動員をかける。
私も朝倉攻めによる浅井の裏切りに対する対策として百地の草を使い情報収集や資材の準備を行い兵を引き連れて岐阜へと向かった。
兄上の号令により岐阜を二万の織田勢が出発し一路京へ、将軍に若狭の武藤氏がけしからんという口実をもらい名目上の若狭征伐をむかう。これは口実であり朝倉を攻めるための行動であった。
京を出発して北上し朝倉領に入る前に軍議が開かれた。
兄上は重臣たちを前にして、
「明日から朝倉を攻める、先方は小十郎がつとめる。何かあるか」
そう言うと家臣達の間に動揺が走りお互い顔を見ている。私は兄上に頭を下げ、
「ありがとうございます、金ヶ崎までは城はありますが数百も守っていないので速攻落とせると思います。それと朝倉は序列が厳しいためそうそう援軍や共同歩調をとるとは思われません、速攻で攻めましょう。」
兄上の家臣達はまだ朝倉攻めと言うことを消化しきれてないらしく評定の間も発言をすることはなかった。
翌日から周りの城は松永や池田などの大名一万が攻めこみ次々に落としていく。私と兄上の本隊は、金ヶ崎城に到着し囲みすぐさま攻撃を始めた。途切れない鉄砲を撃ち込んでいき猛攻を加えたのち自分自身で使者となり城へ向かう。
城内に導かれていくと将軍を引き取ったときに友となった朝倉景恒が待っており、
「景恒殿久しぶりです、今回は使者として来ました」
「信照殿懐かしいです、しかし敵味方とは悲しいですね」
「立場がそれぞれですからね景恒殿、しかし相変わらず朝倉の反応が鈍いですね、援軍を送る気配もない。」
「たしかに、わたしがここの城主をしているのも気に食わず。援軍を送ることはないと思います。信照殿がこられたのです素直に降伏します。」
援軍が早々には無いと自覚している景恒は戦いたいが自分の配下の心配をして降伏をすることとなった。
「有難い、景恒どのこれで何があっても朝倉にも戻れないと思います。戻れば一族からの罵声があるでしょうし」
「そうですな、間違いなくひどい目をうけましょう、しかし兵の命はかえられません」
「よろしければ私の家臣に加わりませんか、そうしていただければ大変嬉しいのですが」
しばらく考えると
「ありがとうございます。お手数ですがよろしくお願いします。」
そうして城を明け渡し京経由で家族と共に護衛をつけ送り出す。
「小十郎見事、これで弾みがつきようぞ」
「ありがとうございます、しかしながら百地より浅井が朝倉攻めの情報を得たようで急な評定をひらいている様子です。各城主を呼び寄せています。」
兄上はそう言うと嬉しそうな顔で、
「長政(浅井)も我らの快進撃に慌てて援軍を送るか考え始めているのであろう。」
笑いつつ、木ノ芽峠にこもる朝倉勢を攻め立てるため、各武将に役割を振り分けていた。
私は、撤退の準備のため改名した秀吉(木下)に急ぎ面会を求める。
秀吉は慌てて迎えてくれ私は、
「いきなりの訪問すまない秀吉」
私が急いで陣のなかに入ってきたので驚き、
「いえいえ、信照様が急用でこられるとはいかがでしょうか」
「すまんが半兵衛(竹中)も呼んでくれ」
「わかりました、半兵衛殿すぐ来てくれ」
陣屋から半兵衛がこちらに来て私の前に座る。
「お二方、これは内密に至急しなければならず、対応できるのが半兵衛殿がいる秀吉勢にお話しするしかなく、お願いしたい。」
半兵衛は涼しげな顔で、
「そのように信照様が思い詰めるとはもしや浅井でしょうか」
私はさすがは半兵衛と思いながら、
「そうだ、浅井が緊急の評定を開いている。朝倉攻めを受けて」
秀吉が怪訝な顔で、
「信照様、それはさっき殿が我らへの援軍と言っていた事でしょう、義弟の長政殿が裏切るとは思えませんが」
半兵衛は私の言うことに同意したが、秀吉の考えが今の織田の主流なのはわかっていてそれがもどかしいので、
「それなら聞くが、なぜ浅井は援軍を送るにしても一言もない、そして長政は裏切らなくても遠藤などの重臣が朝倉を助けるため、挟み撃ちにできる好機を見逃すはずはあるまい」
半兵衛が秀吉に、
「秀吉殿、信照様の言う通りです、私も一年ほど浅井家に扶持を得ていましたが、長政殿は別にしてほとんどが反織田です。この好機を見逃すとは思えません。」
驚き、
「半兵衛、どうすれば良い、このままでは我らは袋のねずみだ」
秀吉は青くなり半兵衛にすがった。
「その為に信照様がこられたのです、お話を聞きましょう」
私は頷き、
「明日、遅くとも明後日には裏切りが伝わり、兄上から撤退の指示が出るでしょう。当然しんがりを秀吉殿、池田殿、明智殿、が指名されると思います。
金ヶ崎城は光秀をいれ、街道に残りの方が、そこで今のうちにいくつもの柵を造り、簡易の砦を造り撤退に備えたい。私の長槍隊は既に街道沿いに柵を造りはじめさせている。こういうことは慣れているから一両日中に終わらせるので秀吉も加わっていただきたい、兄上には木ノ芽峠を突破した後の速攻のため借り受けると話をする。」
秀吉は何度も頷きえらいことだ、えらいことだと連発してい落ち着かなくなり半兵衛が落ち着かせると、
「もうそこまでされているとは、秀吉感服いたしました、直ちに合力させていただきます」
「半兵衛殿には現地での柵や砦の作製の指示をお願いします。」
「わかりました、無駄になれば良いと思います。」
こうして半兵衛は秀吉の一部の兵を引き連れ後方の街道に向かった。
翌日、百地より浅井が兵の動員を始めたと書状が参り、兄上には伝えたが織田家への援軍ではと取り合ってもらえなかった。そう言われると思っていたので、お市ねえ様に、浅井の状況を知らせてもらえるように頼んでおり、それが到着するのを焦りながら待っことになった。
我ら以外の織田勢は木ノ芽峠を攻め始めたが狭い土地に攻めあぐねているようで兄上はかなりイラついて指示を与えているが突破は難しそうだった。
そうこうしているうちに待ちに待ったお市ねえ様からの書状が百地により届けられ、内容は「浅井反意あり」の一言のみかいてあった。
すぐさま兄上の本陣へ向かい、攻めがうまくいっていないイラついてる兄上が重臣を怒鳴り入ってきた私をにらんでいる。
「小十郎いい加減にせい、また浅井の裏切りの情報であろう、今は目の前の攻めに集中しなければならんときに」
と、立ち上がりこちらへ来た
「兄上、お市姉さまからの書状です」
そう言って渡すと、読んだ兄上の顔に驚きが浮かび上がり私を見る。
「こうなれば何時までもここに、止まるわけにはいきません、撤退を」
兄上はすぐに同意すると、
「わかった、信照撤退の手はずは任せた、わしはすぐさま京へ戻り周辺を押さえる。」
兄上は言うやいなや馬廻衆と松永等を引き連れ朽木の谷方面から京へ撤退をしていく。
私はすぐさま味方を引かせるため引き太鼓を打つように指示して織田家家臣と、徳川殿を呼び出した。
何かと言うことで皆慌てて集まってくると、兄上の代わりに私が座っているのを見てけげんな顔をして座った。
「意見不要、時間がない。事実だけ話すが聞いてほしい」
各武将の顔を見つつ
「浅井が裏切り、兄上は急ぎ京へ戻られた。私が代理で退の大将をする。」
皆の顔が青くなるのを確認し
「しんがりの準備は秀吉殿と済ませている、そこでおのおのの役割を伝える」
「光秀、金ヶ崎城に入り敵の動きを遅らせてくれ、その後はしんがりに合流し交後退する。」
「池田は秀吉殿としんがりをお願いしたい、柵などの設置はおおかた終わっておりそれをつかい撤退をしてくれ」
その二人をすぐに出発させる。
「徳川殿は私と一緒にしんがりの援護をお願いしたい」
「残りのものは街道沿いに簡易の砦を造っている。そこに入りつつ様子を見ながら撤退をお願いする。それと所々に弾薬を置いていってくれしんがりが使うからな」
最後に立ち上がり、
「付け入る隙を与えなければ朝倉勢は何てことはない、落ち着き乱れること無く京まで戻ってくれ、崩壊させる原因をつくった者は京へ戻り死をもってあがなってもらうぞ」
きつめに言うと各武将は金ヶ崎城の横を通り撤退を始めた。私も徳川殿と並び最後に金ヶ崎城を通りすぎ秀吉と池田が待つ所へ撤退を開始する。
最初の柵へ到達すると、秀吉が柵から飛び出してきて、
「信照様、準備は出来ています」
「秀吉ご苦労、明智が撤退してくるそこからが本当の撤退が始まる。鷲尾の鉄砲隊を与力として付ける。必ずや帰って来るように、徳川殿と五の柵で明智殿が撤退するまでは待機し問題なければ退却する。」
「木下殿お役目ご苦労、徳川勢の鉄砲隊も合流させよう。」
「信照様、徳川殿有難い必ずや京まで帰りつきましょう。」
秀吉は感動しながら鉄砲隊を率いて柵へ戻っていき、我々はそのまま丘陵の一番上にある五の柵に上がり明智隊が金ヶ崎城より撤退してくるのを確認すると後方の簡易の砦を目指した。
砦に到着すると各武将は休憩を少しとり、すぐまた撤退をはじめており、その頃に丘陵の向こうから鉄砲の音がこだました。
「始まったな」
そう家康殿がつぶやく。
すぐに兵たちに、しんがりのご飯を作るための準備として水を竹にいれ火にくべたものを準備して残していき、宇部の騎兵と百地と草を守りに残して他の者を京へ撤退をさせる。
鉄砲と喚声が何度も起こり朝倉勢を跳ね返しているようで、草からの状況報告を聞きながら各部隊が残した弾薬等をいくつかにわけ食料と水と共に置いて下がる。
草から浅井勢が小谷を出発したことを聞きしんがりの秀吉が最後の柵に到着するのと同じくらいかと思われ、家康に後を頼むと私は慶次郎を呼ぶ、
「ようやく出番か」
嬉しそうに朱槍を振り回しており、
「浅井の足を遅らせる。騎馬を連れてついてきてくれ」
私も馬に乗るとわざと秀吉が戦っている方向に馬を進めそこから小谷を目指して進む。
草からこの林を抜けたところにいると言われ左右に慶次郎と騎兵を隠す。
「私が逃げてきたら追撃の敵を分断して混乱させたのち退却してくれ」
私が言うと慶次郎は笑いながら、
「逃げるの失敗して捕まるなよ、迎えにいくのが面倒だからな」
そう言われ頷き、慶次郎から使えと焙烙玉を二つ受け取り鞍に引っ掻けると林の入り口に向け馬を走らせる。
入り口に到着すると丁度向こうから先鋒であろう直経が進んできており、私は火種を準備しながら到着を待つ。
私に気がつき直経は隊列を停止させると私の方へ単騎馬を走らせてくるので私は直経に、
「おお、遠藤殿素早い援軍ありがとうございます。三好の時と同じですな。」
とぼけた顔で言うと怒った顔で、
「織田の援軍とはどこまでめでたいやつだ信長の首を取るためにきた。お前もおとなしく首を差し出せ」
槍を前に出して叫ぶので私は笑いながら、
「裏切られると言うことですか、信義もない賊と浅井は一緒と言うことですな」
頭に血が上った直経は、、
「盟友である朝倉を攻める織田にこそ信義がないではないええはないか」
私はさらに大声で笑いながら、
「それでは公方からの上洛命令を再三にわたり無視している朝倉に非がある。以前遠藤殿が申していたであろう主家に従わない織田にこそ非があると、朝倉は将軍に逆らっている逆賊ではないのか」
槍を横に薙いで、、
「それは織田が命令をしているからだ。」
理屈でない相容れぬ話ではあるが時間はなるべく稼ぎたいので、
「幕府からの命令が出ている。よしんばそのようなことを言うのなら将軍を任じた朝廷をないがしろにすると言うことだな、浅井も朝倉と共に逆賊と言う認識で間違いはなさそうだな」
言い合っていると長政が率いる隊列がこちらにやって来た。
「信照殿、遠藤から聞いたと思うがこの様なことになった。浅井は朝倉につく」
そう寂しそうに言うのを、
「長政殿、今からでも間に合います。留意願えませんか、罪は不問にするように兄上には責任をもって言います。」
「大変ありがたいがもう結論は出ている。今なら見逃すので引いてくれ」
「お市姉さまとの家庭を捨てると言うのですね、後悔しても取り返しがつきませぬぞ、可愛い娘もおられるではないですか、それを捨てると言われるか」
長政は苦汁の顔で、
「信照殿本当に申し訳ない、もう決めたことだ」
そう言われわかってはいたが目の前で言われるときつい、
「わかりました。これが別れにございます。長政殿お元気で、」
そう言って馬を返す。
追ってくるかと思ったが長政が餞別に遠藤を止めたようで慶次郎が伏せているところまで戻ると、
「しばらくは追撃がない、退却するぞ」
慶次郎は私の顔を見て察したのか朱槍を肩に担ぎ馬を並べて騎馬と共に退却を開始した。
私は固執する遠藤に怒りを覚えながらお市ねえ様に何度も心で謝りもとの道へ戻った。
秀吉を追って走らせると途中ボロボロの秀吉達が朝倉勢と戦っているところに出会したので後方から朝倉勢に襲いかかり追撃していた敵を混乱させ追い散らした。私がこの場にいることにびっくりしている秀吉に、
「よく耐えてくれた。もう追撃はないとは思うが最後まで気を抜くなサルよ。ここからは我らが最後尾につく、朽木谷を越えれば追撃もないし京はすぐそこだ。」
そう言うと疲れた顔を笑顔にかえて、
「お前たち信照様が守ってくださるぞ、朽木を越えれば京はすぐそこもう一息頑張ろうぞ」
そう言うと疲れていた将兵も元気よく喚声を上げ家康が待つ砦に向かった。
脱落しそうな兵をお互いで支えながらようやく朽木谷へ入ると兄上との話がついているのか朽木の谷を無事に抜け秀吉達を追い抜くと撤退を始めて3日後には京へたどり着いた。
そのまま京の町に入らず町の外で帰還兵を待っことにした。
一日後に宇部の騎兵が、さらに二日後に池田と明智が、遅れること一日、ようやく秀吉と鷲尾の鉄砲が撤退してきた。
秀吉隊は立つのもやっとの状態であり、襲われればひとたまりもない状態であり私を見ると目を潤ませた。
「秀吉殿、よう帰られた兄上が秀吉殿を待っているぞ、疲れているだろうが顔を見せてやってくれ、兵はこちらで面倒みる。だれか秀吉殿に水を」
秀吉を兄上のもとに連れていくと兄上は嬉しそうに出迎え、
「サルよよく帰ってきた、だが倒れるのはまだ早いぞ、直ぐに浅井と朝倉を攻める。働けよ」
兄上は秀吉に黄金を二十枚渡し無事を誉めた。
「信照様、帰ってこれて嬉しいです。一時はあきらめたくもなりましたが半兵衛に励まされたどり着けました」
「強運の持ち主だ、これで浅井との戦いに功をあげれば城主も夢ではないぞ」
秀吉は顔を明るくして、
「まことにございますか、城代でも身に余ると言うのに。頑張らせていただきます」
嬉しそうに言いながら報奨の黄金を見せびらかしに戻っていった。
兄上の元へ戻ると、
「長政め必ずやその首討ち落としてくれよう」
私の目の前を右に左へと動きながら兄上は何度も言う、義弟の長政に裏切られた事がよほど悔しく愛情が憎しみにすべて変わってしまっている。
私はこれからの事を思うと暗くならざる終えず布団に潜り込み慶次郎に布団を剥ぎ取られるまで自室にこもった。




