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家督相続

1570年正月、年賀を済ませ去年の伊勢攻の功をに対する加増等がそれぞれあり家臣は嬉しそうにしている。


その後に兄上が岐阜城の茶室に、私と九鬼信隆、九鬼嘉隆を呼び出す。

兄上は座った

「小十郎、九鬼家についての話だが」


「はい、先程の加増で呼ばれると思い信隆を連れてきました。」


九鬼信隆は自分がつれてこられ、叔父の嘉隆がいることでさっしがついたような不安な顔をしている。


「兄上、信隆には私からお話ししますが、よろしいでしょうか。」


兄上はうなずき、お茶をたて始めた

私は信隆に向きなおし


「九鬼信隆、これから理不尽なことを言わなければならない。」

私は信隆の目を見つめなおし、

「たとえそれにあがなったとてそれは覆らない、受け入れることにより新たに道が開けよう。」


信隆の動揺する目を見て厳しい話になることをまず伝えた。


「今日、伊勢での九鬼嘉隆の働きにより嘉隆殿に志摩を使わすと兄上からのお達しがあった。」


嘉隆がうなずく、


「これは九鬼家再興でありめでたいことだが、ひとつだけ問題が出てくる。」


黙ったまま私の顔を見つめていた


「本来は信隆の父が当主の時、北畠に攻めこまれ討死して織田を頼った。本来なら嫡男である信隆に九鬼を継ぐ事が普通だが、今回はそうもいかない」


「何故なら功を上げたのは嘉隆殿であり、嘉隆殿に志摩の所領と九鬼の再興を許可したと言うことだ、信隆ではなく。」


そうあらためて言われ信隆はさらに顔が青くなりながら、


「しかし、九鬼はわが父が守りわたしがその意思を継ぐのが当たり前でございましょう信照様」


「そうだ、だが先程言った通り普通ではない。織田家のことを決めるのは当主である織田尾張守信長であり、そう決められれば従うのが当然である理不尽なことであっても」


「もし、異を唱えるなら謀反を起こすか他の大名に頼るしかあるまい、そう言う覚悟があるか信隆」

私から面と向かって言われ、

「ありません、ですが父上の無念をはらせなく、悲しく思います。」


「それは叔父の嘉隆どのが北畠で功をあげ領地を取り戻した。」


「そこで、ここからは兄上の承諾は得ていないが、私は信隆を大切に思うからこそしたいことがある。」


「鷲尾にその方より少し下のさえと言う娘がいる、それを私の養女としそなたにめとらせようと思う、そして私の母方の実家の姓、中根をついでもらい中根信隆とし、私の家臣でなく兄上の直臣とし、私の領地にある丹陽の五百貫の土地とその南にある丘陵に館をたててもらいたいがいかがかな。」

悲しい顔をしたが、

「はい、信照様の心遣いありがとうございます。しかし九鬼の名を捨てなければならないのでしょうか」


「やはり九鬼の古い家臣も困るだろう、お家騒動になり双方が最悪な結果になればそれこそ目もあてられない、中根をついでくれ信隆。」


信隆はしばらく下を見て涙を流していたが、顔をあげ


「中根を次がさせていただきます、九鬼は叔父上にお任せ致します。」


「よく言った信隆、ということになりましたが兄上よろしくお願い致します。」


「小十郎わかった、中根をつぎわが一門として扱おうぞわしの方からも同じだけ領地を与える。嘉隆もいいな、それと希望するなら九鬼から中根に何名か移動させよ伝えよ。」

嘉隆は甥をしっかり見つめると、

「わかりました。信隆、九鬼は任せてもらおう信照殿、信隆をよろしくお願いします。」


「それでは兄上、鷲尾の娘を養女とし吉日を選び織田の一門として祝言(結婚式)をあげたいと思います。」


つぎの週には鷲尾の娘を養女とし翌月に結婚式をあげることになり大忙で準備を行った。それとは別に伊奈を呼ぶと、


「来月までに丹陽の南にある川に挟まれた丘陵に織田一門として恥ずかしくない館を建ててくれ、兵を動員しても構わん。」

そばに控えている中根の爺には、

「爺、生糸で作った反物があるだろう、鷲尾の妻と日和と相談し、娘のさえに着させる着物を作れ、織田小十郎信照の娘として恥ずかしくないように」


「正信(本多)、古渡、祝言をあげるに辺り海の幸等をつかい豪華にしようぞ、酒は京に灘屋と言う酒問屋に頼んで樽でいくつか送ってもらうように、兄上も出てくださるので頼むぞ」


「百地すまぬが堺の今井へ信隆の為に作らせた鎧兜を急ぎ受け取ってきてくれ」


次々と指示を出すと慶次郎が、


「なんか小十郎は自分の時より気合いいれているな」

そう言われ笑いながら、

「自分の時ならこんなこと恥ずかしくてできるか」


「まあ、変なところで変なこと言うのはいつものことか、婚礼にあわせて何かかんがえるか」


「慶次郎はじゃまじゃま、祝いで高砂を舞ってくれればいいよ」


と解散したが、兄上からの呼び出しがかかり、岐阜城へ向かう。

茶室に何時もの様に呼ばれ茶を出されると、


「小十郎、これから上洛して将軍に釘を指すために殿中御定を伝えよ、それと今年中にもう一度朝倉に上洛せよと将軍から命令を出させるように」

あの将軍は調子にのって色々大名に勝手に書簡を出している。兄上からは出すのはいいが兄上の書簡と一緒に出すようにと言われていたが無視しているようでさすがに兄上も無視できなくなったようだ。


「義昭は怒るでしょうな、しかし自覚無が厄介でしょう。それと朝倉は無理でしょうから無駄だと思いますが」

兄上からすれば従うのは当然と思っているので少しだけいらついている様で、

「それなら攻めるだけだ。来年になるがな」

やはりこの流れになるのかと思いながらも、

「それでは浅井家が黙っていないと思われますが」

何を言うかと言う顔で私を見て、

「長政なら大丈夫だ」

「長政は大丈夫と思いますが遠藤などの重臣が危険だと思いますが」

かんしゃくを我慢している様子の兄上は、

「小十郎も心配性だが大丈夫だ。」

人の感情を計算にいれず自分の自信が絶対な兄上を留意させるのは難しいので、

「わかりました、それでは先方をお任せください、将軍をお迎えに上がったときの経験を披露しましょう。」

私が腹を決めてそう言うと笑いながら立ち上がり出ていった。


そうは言ったものの、裏切り決定についての対策をたてておかなくてはと言うことで、百地の草に浅井と朝倉の情報を集めるように伝える。



翌月、岐阜城で祝言が行われ、まず小野寺と長谷川が養女となった娘を迎えに来て、


「中根信隆の名代として嫁のさえ殿をお迎えに上がった、準備のほどはいかがでございますか」


「お役目ご苦労、娘の準備と引出物の鎧兜、太刀、馬の準備はできています」


そう伝えると信隆のもとへ養女となったさえを三三九度を行い送り出した。


本来なら嫁側は終わりだがそのまま城までついていくと、さえを乗せた輿が門を入り、座敷に輿を入れる。女房は輿をかついで、二の間、三の間まで担ぎ入れて輿寄せの儀式を行い、さえが輿から出ると、婿方の待女房、中臈(女官)がろうそくに点火して迎えて祝言の座敷へと導いた。


さていよいよ夫婦の盃である「式三献」が始まり

盃は先ずは婿から始められ、

三日目に「色直し」といって、白装束を脱ぎ、艶やかな着物に着替える

そしてこのあとに、婿方の一家(兄上が一門当主として)で、初めての挨拶が行われる。


自分のでない祝言は無事おわり、疲れて布団に現実逃避しようとしたが兄上から引っ張り出され京へ不満たらたら向かった。。


私は護衛の慶次郎と共に京へ向かう。

道中何があるわけでもなく京へのぼると慶次郎は婚姻で飲んだ灘酒を飲みに行ってしまい、私はいやいや二条城へと入った。


「信照ご苦労、義兄上は元気かな、急な訪問いかなるようか」

上座で威厳を一生懸命保とうとしている将軍に、

「今日は公方様に政務の上での行動についてのお話であり、信長から殿中御定を預かって参りました。」

そう言って幕臣である細川に書簡を渡す。

公方は受けとるとそれを読み始め、次第に顔が赤くなり怒りで震えている。


私はわざと笑顔で待っていると、

「これはなんじゃ、これは。わしに意見するのか何様だわしは将軍であるぞ」

そう私を睨み付け書簡を投げつける。

「公方様はその政務に対し真摯におこなってください。対外的なことでもそこに書いてあるとおり織田家に知らせていただきます。」


上座から音をたてながらおりてきた将軍は、

「わしが何をするのも知らせろと、信長をよべ今すぐにじゃ納得いかぬわ」

私の顔の前で顔を赤くして叫ぶ、


「お伝えした通りです。くれぐれも短慮を起こして下さいませぬようお願い申し上げます。京にとどまれるのは織田家あっての事とお忘れなきよう。」

それだけ言うと呆気にとられている公方と幕臣を残して退出した。


まず守られることはないのだが、自分の立場をわきまえてくれればと思いながら二条城を出て慶次郎が飲んでいるであろう灘屋へと入っていった。


何時ものように楽しくのんでおり、近所の人々も集まり賑やかでありゆっくりとしていると京奉行である村井が訪ねてくる。


「信照様、将軍から怒りの抗議がありましたが本当でしょうか」

私は酒を飲み干し、

「兄上からの指示だ。間違いなく守ることをしないからその時はもう一度ですけどね。村井殿には苦労を掛けるがよろしく頼む」

村井は少し難しそうに、

「押さえつけるわけにもいきません、公家と禁裏には私から働きかけるように致します。」

「内裏を押さえることは大切だから任せるけど天子様の跡継ぎである親王に挨拶を私からもしといた方がいいかな」

村井に言うと横から、

「やめろやめろ、どうせ和歌も出来ない田舎者なのだから挨拶するだけ無駄だ、出来る奴に任せればいい」

慶次郎がきつい一言をいってくるのだがその通りなので、

「慶次郎は出来るやつと言うことだな、親王に挨拶して和歌友達にでもなってこい」

嫌みを言うと立ち上がり、

「おう、行ってくる」

慶次郎は出ていってしまい、村井に慶次郎を頼むと藤吉郎に会うために奉行所に顔を出した。


「藤吉郎元気にしてるか」

私の顔を見るとすっ飛んできて、

「信照様いつ京へ、言ってくだされば出迎えたものを」

「兄上の名代で公方に釘を指しに来ただけだからね、しかし会わない間に大分垢抜けたかな」

藤吉郎は慌てて手をふり、

「いやいや私なんて明智殿の足元にも及ばない田舎者ですから茶やら和歌やらなんやらの付き合いはてんでだめにございます」

泣きそうな藤吉郎、

「私だって茶はいいけどさっき慶次郎に言われたとおり和歌はダメだし同じさ」

慰めては見たものの藤吉郎の精神的な疲労はかなりあるので、


「よし、藤吉郎に茶の師匠を紹介しよう、ただし気難しいから断られたら諦めること」

そう言うやいなや藤吉郎は大喜びで私の手をもってお礼を言いまくる。

「所で摂津は相変わらずなのかい」

藤吉郎が秀吉となったときに築城した大阪城の北側に位置するところの摂津は群雄割拠真っ盛りであり将軍が言おうが織田が言おうが統一性もなく争っており悩みの種と言っていいところで兄上との話でもちょくちょく出てくる。


「あそこの連中は一癖も二癖もあるやつらでして手を焼いております」

「まあ、外敵がいればまとまるだろうけど三好は逃げ出したからねなかなか難しいよね」

藤吉郎は大きく頷き、

「わが織田勢の様に統一した行動をとれない愚か者は困ります」

「そんなに統一されてるかなうちは、ただ兄上が怖いだけでしょ藤吉郎も」

手を横にふり、

「いえいえ皆が上様に喜んで慕っていますから」

「あっそ、藤吉郎は兄上が恐くないと、それなら兄上に藤吉郎は調子にのって恐くないと言ってると伝えておくよ」

意地悪をして見ると藤吉郎は慌てて涙めになりながら、

「そんなことございませぬ信照様、ただでさえ摂津の事で上様からにらまれているのです。そんなことを上様に聞かれたら手打ちにされてしまいます。」

藤吉郎の肩をたたきながら、

「藤吉郎はいじりたくなるよな、何かあれば知らせてくれ」

そんなことを言ってると揉め事が起きたらしく藤吉郎は町へと出ていった。

光秀にもと思ったが忙しいらしく捕まらなかったので翌日、どこに消えたかわからない慶次郎をおいて岐阜へと戻った。


領内での鉄砲生産も目処がつき始め国友からも鉄砲鍛治を呼び寄せることができ、生産力の増強を考えながら領内を行き来した。

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