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将軍義昭上洛二

1568年秋、ようやく準備も整い織田家では類のない数の軍勢を兄上は引き連れ上洛を開始した。


途中浅井家の佐和山城で、織田家と徳川家と浅井家の同盟国と周辺の城主と土豪が出揃い、なんと三万以上の軍勢となって一路六角氏攻略に向かう。


佐和山での評定通り、兄上の本隊と私、滝川一益、丹羽長秀、木下秀吉が箕作城に向かい、丹羽勢と木下勢が東と北から攻め登ったが反撃にあってしまい追い落とされその日の戦いは終わる。

兄上に呼ばれ本陣へうかがい私が座ると、

「小十郎、そなたが押したサル、今日速攻で攻め落とせず終わったのう」

私は手をふり、

「兄上せっかちはいけません。今日はまだこれからですから」

そう言うと無表情なのだが左の眉だけ気になるときの癖で少しだけ動き、

「まだ終わらぬとは」


そう言うか言わぬかのときに、いきなり北の登り口で一斉に松明がつき、松明は一斉に登り始める。

兄上はその動きを見て、

「ほう、サルもなかなかやる、あれは小十郎の案か」


「いいえ、藤吉郎殿から聞きました、兄上を驚かせることができるのですから六角勢も驚き攻め落とすのも容易いでしょう。」

そう言われ少しだけすねたように不機嫌となり、

「ふん、どうせ竹中が裏でサルを操っているのであろう」


そう言うと一転して上機嫌になり、城を攻め上る松明の明かりが頂上に到達するのを一緒にながめた。

箕作城落城の知らせは両軍にすぐに伝わり、六角親子は甲賀へ落ち延びていき、

三好勢にも伝わって京から撤退を開始してあきれるほど素早い逃げ足であった。


しかしながら唯一日野城にいる蒲生賢秀は開城せずこもっており、上洛を続ける兄上が私に、


「蒲生を味方につけよ」


命を受けると降伏した旧六角勢を先頭に私は後方から日野城へ向かうと、そのまま日野城を囲んだ。


「進藤賢盛殿、確か伊勢の神戸に蒲生の縁のあるものが嫁いでいたと聞いたが」


「はい、蒲生殿の妹が嫁いでおります。」

私はすぐに百地を呼び、

「急ぎ神戸具盛殿に蒲生を説得してほしいと伝えてくれ」


「すぐに向かいます」


三日ほどで神戸が到着して単身説得に向かう。話はすんなりと決まり、降伏の条件である人質を差し出し降伏すると丹羽にあとを託し、私は人質をつれ京に入った。


兄上の代官に蒲生殿の息子を引き渡すと、書状で今度は兄上の名代で松永久秀が配下に入るということであり、久秀の居城だった信貴山城は三好に落とされ、それを取り返せとかいてある。

よほど兄上は気に入ったのか私に取り返すように指示されていたので、芥川山城で久秀と会うこととなり信隆と新たに近江で召し抱えた弓削義家をつれて向かった。


京から西へ川沿いに下っていき、堤防からは戦火に焼けた村なども見える。ようやく兄上の本隊に追いつき芥川山城へ入城すると兄は不在で近くを見に行っているようだった。

私は久秀の居場所を聞くと一室に向かい、

「松永久秀殿はご在宅かな。」

そう言いながら無作法に襖を勝手に開ける。私の行動に動揺することもなく悪人面の男がこちらを振り返る。


「松永弾正久秀でございます。織田殿には今回の上洛おめでたく、よろしければ配下に加えていただきたいと思い書状をつかわしました。織田家一族筆頭で、高名な信照殿が自らこられるとは嬉しい限りでございます。」

私は兄上が気を引かれた久秀に嫉妬しているのを自覚しながら、

「兄上から、大仏を焼き、将軍を殺害し、君主を殺し乗っ取った悪人の面を見てこいと言われて会いに来ました。」

そう言われ十分自覚していても動じることのない久秀は、

「この顔を実際見てどの様な感想をうけたかな」

いらっときてしまう自分は、

「愛らしく子憎たらしいじじいの面ですな、兄上も気に入りましょう。」

こにくらしい笑顔のこの男は、

「誉められたととっておくことにしよう、しかしながら京におる将軍はわしを兄殺しとして許すかな」

私は気にもせず、

「それは問題ないかと、まあさっさと信貴山城を取り返せばいいでしょう。」


「わかった、九十九髪を手みあげにしたかいはありますかのう。」

そう私を値踏みするこの男、憎たらしいが服を着ているが気になってしまう。

こうして与力を従え信貴山城へ向かう久秀の供を見ると知った顔の本多正信がくわわっており、大和へとはいる。


二万を率いているが殆どは近畿に入って参陣してきた将兵であり烏合の衆なので統一性がなく不安はある。


信貴山城には三好勢が籠城しておりどうしようかと思ったが久秀の城なので、

「お膳立てはするがさっさと落とせ、どうせ何時ものように悪巧みを考えているのだからこれだけの兵力がいればすぐだろう。」

そうわざわざ久秀に喧嘩を売るように評定の時言うと、

「はい、正面からお願いします。早々に落として見せましょう。」

そう憎らしいほど落ち着いた面持ちで言われ挑発した側なのに嫉妬してしまう。


他の諸侯に私は正面から攻めるように指示をして戦いを見守る。

配置に着くと私は陣太鼓を鳴らすと、本陣から前進する部隊を後ろから見つめ、正面では少数だが鉄砲が鳴り響き喚声と共に突撃を開始しする。

三好勢は撃ち返し必死に反撃をしておりなかなか近づけない。


こないだまでは三好の配下として互いに一緒の場所にいたが、一方は自分達の利益を守るために、もう一方は新興の勢力に自分達の力を見せるために戦い、そしてあの男が気にもとめずにいる。


今見ているこの戦いは自分にとって他人事で遠くの出来事のように思い、不思議な感覚にとらわれていく。

その時信貴山城の搦め手に当たる部分で喚声があがり徐々に正面の反撃が弱まっていき、しばらくすると降伏すると城から言ってきた。


「信照殿、無事にわが居城取り返すことができ感謝いたします。さすがは織田ですな」

そうこの男はその言葉と裏腹に織田に借りを受けたと思っていない兄上と同じ誇り高い男なのだから、嫉妬は止めることは出来なかった。


私は諸侯と事務的に言葉を交わし久秀を連れて京へと向かった。


京へ到着しすぐに兄上がいる清水寺に向かうと公家や諸侯が面会待ちで並んでおり、私はその横を通り面会の手配をしている近習を無視して広間として使っている本堂に入る。

近習はなにか言いたそうだが私はなにも答える気も起こらず次の面会として待っている公家を見ることもせず入る。


兄上は私が黙って入ってくるのを見ると、

「茶」

それだけ言うと出ていく。私は久秀を連れてその後ろを行く。

兄上に続いて中に入り久秀を気にせず座り、久秀は私を気にもせず座った。


「久秀取り返せたようだな、岐阜に戻るのでついてこい。」


それだけ言うと兄上はたてた茶を私ではなく久秀の前におき、久秀も私が居ないように気にせず茶をいただき兄上に返す。

一見他の人から見れば無言でやり取りをしている兄上は怒りからだと思われるが、この場合は嬉しくなおかつ黙っていても意思の疎通は事足りると言わんばかりであり、嫉妬に拍車をかける。


久秀は一礼すると出ていき、兄上と私だけになり私に茶をたててくれ前におくと、


「ちごも嫉妬するか、狂い死にそうな顔をしおって」


そう言われたが胸が一杯で言い返す言葉も見つからなかった。



上洛した将軍義昭は本圀寺を仮御所として住まうこととなる。

後日、朝廷に十五代足利将軍として認められ幕府を開き、義昭は兄上を「兄上」と呼び私をさらに不愉快にさせた。


兄上は、京の奉行に明智光秀、丹羽長秀、そして今回の金星である木下秀吉を指名し

摂津を池田勝正に管理させたのち、岐阜への帰途へとついた。



私は5ヶ月ほど京で仕事をして岐阜へと戻るとすでに信玄が駿河へ進行を始め、家康も遠州へと兵を進めたと知らせを聞いた。

寿桂尼様が亡くなり喪も開けぬうちにの侵攻であり、私は約束を果たすために兄上に許しをもらい慶次郎と共に出発をする。


津により船で進む、呆気なく今川勢は崩れており引馬城も落ちて氏真が籠城している掛川城を包囲している家康の元へと赴いた。


「信照殿、こんなに早くお越しとは」

「今回は兄から銭を預かっただけですから身軽によせさせていただきました」

「ご苦労、上洛も成功され嬉しく思います」

「現状はどうでしょうか」


家康は包囲している掛川城を指差し、

「駿府を追われた氏真が朝比奈と共にこもっており攻めきれない」

「なかなか難しそうですが」

「信照殿には何か気になることがおわりかな」

家康は私の言葉を気にして聞きに来る。

「信玄がこのままおとなしくしているでしょうか」

家康はほっとした顔で、

「それならば安心してください、武田が駿河を我らが遠州を落とすと取り決めておりますから」

私は首を横にふり、

「あの者が駿河だけで大人しく引き下がるとは思えませぬが」

「信用ならないと」

「今川を攻めるために自分の長男を殺す男です。信義は無いと考えることが自然かと」

「ここで時間をかけすぎている。わかりました直ぐに確認させましょう。半蔵、武田の動きを調べよ」


急ぎ調査させることにした。

「それと家康殿、信玄が動いているなら早々にここを決着つけるつもりで動かなければなりますまい」

「しかし直ぐに落とせるとは思いませぬが」

「攻め落とそうとするからです。救援もないこの状況で助命すれば氏真も下ると言うものです」

家康は頷き忠次に使者にたつようにと命令をした。


三日ほどたち家康から呼び出しがかかり本陣へ向かう。中へはいると座るように言われ評定が始まる。

家康が、

「信玄はこちら側に兵を送り込んで火事場泥棒を行うつもりだ、至急対応しなければならないが氏真がうんと言わない、どうすればいいかな」


忠次が失敗しているので中々良い代案も浮かばず時間が過ぎていく。

私は意を決して、

「家康殿、私に任せていただけませんでしょうかつてはないですが当事者ではないので交渉しやすい部分があるかもしれません」

家康は頷き、

「申し訳ないがお願いしよう」

評定がおわり向かおうと支度をしていると義兄である忠勝が顔を出す。


「信照、一人で向かいと言うがついていこうか」

慶次郎も連れていかず単身で向かうと聞いたのか護衛を申し出てくれる。

「大変ありがたいですがこんな時は一人の方が相手も気を緩めますし、助けの北条も駿府の手前で武田勢と対峙して動けないと言うことですから氏真が無茶なことをしてくるのは少ないと思います」

忠勝は頷き、

「そうか、ただな単身でいかせて何かあれば日和から何を言われるかわからないからな」

少しだけ笑い私もつられて笑う。

「確かに私に何かあれば義兄が攻められますな」

「それは困る。武田勢に単身で突撃する方がどれ程楽か知らないわけではあるまい」

「そうですね、義兄を困らせないように行ってきます」


包囲を抜けて掛川城の大手門へと向かう。この城には天守閣は見当たらず戦国の頃と言うもので、もう少しあとの見せるための城とはちがう。

「止まらんと射つぞ」

城から声が上がり、

「外交の使者だ、今川氏真殿に面会を求めたい」

しばらく待たされると門が開き武将が出てくる。

「掛川城城主、朝比奈泰朝と申す。使者ご苦労にございます」

「尾張国主織田尾張守信長が弟、織田信照と申します」

「信照、寿桂尼様が言っておられた方ですか」

どうやら寿桂尼の姪が泰朝の正室と言うことで私の名を聞いていたようで通される。


ほっそりとした四十代ほどのお歯黒をした疲れきった男が上座に座っており、

「麿が今川治部太輔氏真じゃ、使者としていかような用件か」

私は今川家家臣達の真ん中に座ると、

「織田家家臣、織田信照と申します。降伏を求める使者に御座います。」

私が名乗ると皆が動揺する。


氏真が、

「織田、それも信長の弟が使者だと」

父親を討った仇の弟が来たと言うことで氏真は動揺している。仇が討てなく家臣の離反をされた男はその程度なのか口をパクパクさせて私を見ている。

これでは話が進まないので、

「本日は織田家家臣ではなく寿桂尼様からの使者として参りました」

さらに自分の祖母である名前が出て氏真は混乱してしまい家臣もそうであった。

ため息をつきたくなっているところへ泰朝が、


「信照殿の事寿桂尼様から伺っておりますれば使者の用向きは氏真様の助命と言うことでよろしいでしょうか」

さすがに泰朝は今川家で忠義と老練な戦人であり話がわかりそうな人物である。

「はい、掛川城を開城すれば命はとらず北条方へ送り届けましょう」

「逆に北条の援軍が来ると言う可能性も残ってはいるが」

泰朝は氏真や家臣に聞かせるために聞いてくる。

「すでに籠城を始め5ヶ月、北条の援軍の気配も無いことは感じておられると思います。氏真の正室早川殿の父氏康は援軍には出ていますが駿府の手前で武田勢と対峙しており突破できずにおります。」

私は周りの家臣へ伝えさらに、

「このままいけば全員討死となりましょう、それと強欲な信玄もこちらをうかがっておりこれ以上抵抗するなら降伏をしても命の保証はできかねます」


「その方はなぜ祖母である寿桂尼を知っておる」

氏真は話を聞いていなかったのか聞いてくるので、

「以前駿府でお会いしたときに遺児の助命と保護をお願いしました」

「遺児、だれだそれは」

「泰朝殿に殺された井伊直親が息子虎松に御座います。」

氏真は驚き、

「寿桂尼がお願いした事にお前が関わっていたのか」

まだ納得してくれないのかと思っていると泰朝が、

「殿、まことにございます。寿桂尼から亡くなる間際にもしもの時には信照殿が来られたおりには頼りなさいと言われましたので」


それを聞いた氏真は肩を落とし、

「そうかお婆様はこうなることを予期しておられたのか、わかった降伏する何処でも連れていってくれ」

私は平伏し、

「英断見事に御座います。早川殿の父氏康殿の元へと私が責任をもってお連れしましょう」

こうして開城が決まり泰朝と忠次との話し合いが決まり中根の船に氏真と早川、泰朝やついてくる家臣をのせて出港した。


私は泰朝に、

「北条に行かれたあとどうされるのかな」

「最後まで氏真殿に仕えたいと思います」

肩の荷がおりたのか泰朝はほっとした顔で答える。

「もし行き場を失ったのなら私を訪ねればいい、何時でも歓迎させてもらうぞ」

「信照殿には何から何までしていただきお礼の言いようもございません、もしそのような機会が来たときにはお願いします」

お互いの武運を祈りつつ由比の漁村に入った。


知らせを受けた氏康が信玄と対峙している人から直ぐにやって来る。

50を越えている目の鋭いが娘の顔を見て安堵した氏康が現れ婿の氏真の無事を喜び家臣につれていかせこちらへ来た。

「北条氏康と申します。娘夫婦を助けていただき感謝します」

私も丁寧に一礼して、

「織田尾張守信長が弟、織田信照と申します。無事届けられ寿桂尼様に顔向けができます」

氏康は驚き、

「寿桂尼殿を知っておられるとは、しかし信玄もここまで用意周到にするとは」


私も頷き、

「欲の権化ですな、息子を殺してまでも恐ろしい、相手にはしたくはないです」

「同盟をしていたが気を許すことが出来なかったからな」

「北条はどうされますか一度手切れとなりましたが」

氏康は少しだけ考え、

「私も老い先が短い、息子には敵対せず同盟を組むようにと伝えますが織田はどうされるかな」

私もため息をつきながら、

「とにかく贈り物やよいしょをして敵対意思を示さないようにします。力をつけるまでは」

氏康は優しい顔で頷き、

「よう考えておる。息子ももう少し思慮深ければ」

少し考えると私に身に付けていた脇差しを差し出し、

「お礼とお願いがあるのだが」

私は受け取ると

「この先は闇、祖父である早雲が国を作りここまで大きくなった」

歴史上知っている人物の名が孫から出ると緊張してしまう私、

「だが関東管令である上杉のように北条も滅ぶかもしれない、もしその時にその場所にいたならば息子か孫かわからないが引導を与えてやってくれ、これを見せれば愚息もわかろう」

寂しそうに言いながら娘夫婦のもとへと戻っていった。


私はそのまま船を出して尾張へと戻り氏康が懸念したことについて実際起こるのがわかっていたのでため息と共に腰に身に付けるようにした。

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