美濃平定
1567年、墨俣の城をたてたことにより、西美濃を始めかなり動揺をしていた
小牧山の広間では評定を行い今後の方針を決める。
兄上は、
「今回のサルの働き見事だ、これにより西美濃の豪族もなびこう」
藤吉郎は末席から顔をだし、
「はは、これも重臣の方々がご尽力をしていただけたからです。柴田さまありがとうございます」
みえみえだが藤吉郎のよいしょが始まり兄上は少しだけ笑い権六は苦虫を噛み潰した顔で横を向く、
「サル、美濃三人衆を寝返らせろそうすれば美濃は自然と落ちよう」
「必ずやこちらに寝返らせましょうぞ。上様、大船に乗ったつもりで藤吉郎にお任せくだされ」
またも兄上が少しだけ笑う、
「他の者はいつでも出陣できるようにせよ」
他の事を指示して評定は終わった。
翌日に戻ると私は岩倉城で惰眠をむさぼっていた。
日和が起きなさいと大声でお昼頃私の布団の横に来たので、
「眠い、三人衆の調略がなったら教えて、すぐさま出陣するからね、兄上にもそう伝えて、おやすみ、あと鷲尾にも準備よろしくと、おやすみ」
そう伝えて寝てしまった。
三日ほどすると藤吉郎からの知らせで寝返りに美濃三人衆が同意したと、私はすぐ起きて、鷲尾に準備を指示してから小牧山の城へ向かった。
城へ上がると大広間で急な評定が開かれるようで家臣たちが次々と入っていき私も入っていく。
皆が揃い兄上が上座に座ると、
「サルから美濃三人衆が寝返ったとの知らせが来た。人質の受け取りは村井に直ちに向かわせる。すぐに攻め落す」
ようやく稲葉山攻略の算段がついた兄上はいつも以上に興奮しており私は逆に冷静になりながら、
「兄上、岩倉勢準備できております。先発で参りますが瑞竜寺山が手薄とのことなのですぐに攻め上がり確保したのち、兄上を待ちます。」
私をチラッと見ると、
「こもっていると聞いていてもうそろそろと思うたが、幸先よし小十郎よすぐにむかえ、与力として直属をつける。」
私は頷き、
「ひとつお願いが、奪った斎藤勢の旗をすべてお渡しください、それにて敵をだまし神速をもって行きましょう。」
少しだけ兄上は笑い
「わかった、すぐに準備させる、他の者も小十郎に遅れるでないぞ」
兄上が退出し私が退出すると大騒ぎしながら重臣達も続いて退出する。
すぐに馬屋で旗を大量に受けとり、急ぎ岩倉に向かうと旗を斎藤勢のに入れ替え与力が合流後急ぎ向かった。
途中斎藤勢の関所はあったがそのまま旗を掲げ通りすぎ、同時に押しつつんで関所を破壊しながら進むと、我々を斎藤側が「これは敵か味方か」と戸惑っているうちに、稲葉山の守の要である瑞竜寺山へ登ってしまった。
そのあとで来た兄上の本隊は稲葉山城下の井口まで攻め入ってこの町を焼き討ちし、稲葉山城を裸城にしてしまった。
到着した織田勢は直ちに周りを柵で取り囲み、蟻の這い出る隙間もないように囲ってしまい、おっとりがたなでやって来た美濃三人衆はこの状態に驚きながら着陣したと百地が知らせてきた。美濃三人衆が織田についたと知れわたると、稲葉山の城からは次々と脱走者が増え、斉藤龍興は降伏し木曽川を下っていった。
ほとんど戦いらしい戦いをせず落ちてしまった稲葉山城、私も兄上の本陣に向かい兄上のすぐ後ろを佐々と共に入城する。
「信照殿、ようやく美濃を落とせましたな、鉄砲隊を率いた頃には考えもつきませんでしたぞ」
「確かにね。でもこれからもっと私達が考え付けないことを兄上がなさる。成政頼むぞ」
そう言いながら大手門をくぐった。
稲葉山城の大広間では満面の笑みを浮かべている兄上
「皆の者大義であった、こうしてこの岐阜をとることができ満足のいくものである」
林佐渡が
「信長様、今岐阜と言いましたが、井ノ口ではございませんか」
「皆の者よくきけい、古代中国で周王朝の文王が、岐山によって天下を平定したのに因んで城と町の名を「岐阜」とし、城も岐阜城とする。」
そうして、来年をもって小牧山城から岐阜城へうつることにきまり、城下町の区画割り振りと尾張と美濃を結ぶ道の拡張整備を村井が奉行となり重臣たちの協力をえて、進めていく事となる。
私も洲股での戦いで木を切り倒しその後が放置されており兄上から、津島までの道の整備を命じられ、木下藤吉郎と津島の代官、佐久間と共に整備を始めた。
「藤吉郎殿、こちらは墨俣の手前までは大方木もどけて岐阜の私の館の材料に運び込んだ、そちらはあとどのくらいかかるか」
「こちらも津島の手前までは終わっておりますが、まだ佐久間殿は動いてございません、拙者の言うことはおききになりませぬ。」
「わかった、兄上には我らは終わったと伝えておく。今年中に北伊勢を攻めると思うので、この道も重要なことになろう、そのつもりでいてくれ」
「わかりました。それと殿から竹中殿の登用を命じられまして、直臣となってしまうのですね。」
そう寂しそうに言うので、
「大丈夫だ竹中半兵衛は兄上にはなびかない、藤吉郎の人たらしをつかい自分に引き付けろ」
しょぼくれていた藤吉郎を元気づけて小牧山の兄へ報告に伺った。
「小十郎戻ったか、そう言えば岐阜攻めでの功に江南の一万貫を与える。そして村井の手伝いをして岐阜の町を東西比類ないものにせよ。」
「ありがたき幸せ。それと報告が、私と藤吉郎の道の整備終わりましたがまだ佐久間殿は手もつけていない状態で、伊勢攻めにも少々影響があるかもしれません。」
そう言うと青筋をたてた兄上は
「なに、佐久間め来ないだの人さらいの件もある。わかったわしのほうから伝えておく」
「それと竹中半兵衛ですが去年浅井に仕官しましたが、一年持ちませんでした。かのものは野心より人を見ます。藤吉郎に登用させ与力として働かせた方がいいと思います」
しばらく考えた兄上は、
「わかった。それはその方から伝えてくれ、そして上洛をしたいがその大義が乏しい何かないか」
私は待ってましたとばかりに、
「将軍義昭が朝倉に身を寄せ上洛を迫っていると聞きます。朝倉は動かないでしょう内々に織田を頼るように仕向けるようにします。」
前の将軍は松永久秀に弑虐され弟の義昭が朝倉にいたが当主である義景は愚鈍で上洛しようとしないで織田に来ること、それもあの明智が来ると言うことで自分で興奮する。
兄上はそんなこと知りようもなく感心したように頷き、
「頼むぞ、来月末一益からの要請で北伊勢を攻める。」
そう言うと話は終わり、岩倉城へ戻る。
家臣を大広間に集め
「美濃攻めの功により兄上より加増をたまわり、皆にも増加していく。まず鷲尾その方は五百貫とし岩倉城代とする。兼松は四百貫とし岐阜詰めとする。宇部は同じく四百貫とし鷲尾の補佐として岩倉常駐とする。百地は三百貫としいままで通り草の経費はこちらで持つものとし岐阜詰めとする。古渡は二百貫とし岩倉城での内政奉行とする。伊奈その方は三百貫とし鷲尾の補佐と私の補佐両方を頼む、小野寺と長谷川はそれぞれ百五十貫とし岩倉常駐とする。そして九鬼信隆は百貫として岐阜常駐とする。信隆これは期待も含めたものであり頼むぞ」
鷲尾を含め私に平伏して、
「加増ありがたき幸せにございまする、これは奉公で返したいと存じ上げます。」
「うむ、そして領地の公式は二万貫だが、古渡と伊奈と皆の頑張りにより二万千八百貫となった。
兵力は、古渡とうちの爺から、領地に対して多すぎると言われ、まあ堺との回船で利益をだしており問題なかったが、健全な収支をと言われたのでいままで通り、
騎馬百五十、鉄砲隊四百、長槍五百とする。
鉄砲は国友から三匁の納品も徐々に始まっており、鉄砲の配備数は多すぎる言われているがまあ倍以上なのは認めるけど、兄上から関にある洞戸の鉱山の採掘権を貰って、上がりはまわすけどかなり稼げると思う。それについての代官は中根の番頭だった土地と同じ名前の関殿に頼んだ、そう言うことなので今年もよろしく。」
そこへ、日和が何時ものようにお茶を持ってきて、
「皆様に報告があります」
「何を改まって」
寂しそうな顔で、
「実は小十郎様の子供が授かりまして、今までのように皆様と出掛けられなくなりました。」
私は日和の遠乗りがそんなにひんぱんとは考えてもいなかったので子供ができたと言うより驚き、
「そんなに始終出掛けてたの私より領地の事知ってそう」
伊奈があきれた顔で、
「信照殿、そう言うことではないですぞ跡継ぎが生まれるのですぞ、喜ばしいことではないですか」
他の家臣は殿の何時ものボケですよという顔で聞いており、
「うんうん兄上と義兄へ知らせないとな、明日兄上には知らせるとして、百地は書状をしたためるので、忠勝殿に知らせてくれ、いやなんか嬉しくなってきたぞ」
と、日和へ抱きつこうとすると兼松に止められ、しょぼんとした私であった。
翌朝、急ぎ小牧山城へ鉄砲の修練中の兄上を訪ね、
「兄上、私もとうとう子供を授かりました。日和から教えられました。」
兄上は大喜びでこちらに来ると、
「小十郎もとうとうか、日和はでかした、あとでなにか贈るとしようぞ、しかしちごに子供か少しは親としての自覚が出ればいいがな、」
そう笑いながら上機嫌で鉄砲を操り的に当てていく。
近習に鉄砲を渡すと久しぶりに茶室に呼ばれ中に入ると、
「これからも忙しい日々が続く、死ぬほどこきつかうからな」
茶を差し出す兄上、
「こきつかうのは何時もの事ですから慣れっこですよ、所で兄上の目的は上洛なのでしょうか」
「いきなりそれをいうか」
兄上は驚き目を細めると、
「上洛など途中でしかない、近畿を押さえそして日ノ本をおさえさらに天竺へと考えておるが重臣達には理解できまい」
バカにしたような顔で兄上は言う。
「それは尾張をまさかうつけが統一して岐阜も捕ってしまった事自体青天の霹靂でしょうから」
兄上は口許をゆるめ笑い、
「上洛もだが、武田の動きを押さえるのに婚姻関係を結ぶことが必要だな」
「そうですね、しばらくは謙信との戦いでしょうが義元が居なくなった駿河をあの貪欲な男が見逃すはずはないと思います」
兄上は私の言葉に驚きながらも頷き、
「ちごとは呼べなくなるかな信照、家康は防波堤になり得るかな」
私は首を横にふり、
「格と経験そしてずる賢さが違うでしょう、おいおい身に付けるでしょうが現状は猪突猛進、我慢が足らぬと思います」
「そうだな、破れたらそれまでと言うことだ、信照ならどこを選ぶ」
私は少し考え、
「尾張では平坦すぎて武田の勢いは殺せませぬ、岐阜の岩村城あたりか三河と信濃の境の長篠か、兄上の考えている鉄砲の大量集中運用で勢いを止める馬妨柵かと」
つまらなそうに兄上は、
「信照は気づいたか上洛のおりの斎藤勢に対する攻撃を」
「はい、十分止めることはできました。ただ3匁が大量に必要となります。2匁では威力不足ですから」
「今から準備をするように命じておく、国友の分はこっちで引き受ける」
あーしまった、ばれてるのねと思いながら、
「その中の3割はください、安定供給と繋がりを大事にしたいので」
兄上は目を細め、
「信照と言うのはやめだちご、欲張りすぎると面の皮が延びるぞ」
「これだけは譲れませぬ、兄上の片腕として動くには」
兄上は嬉しそうに、
「期待してるぞ」
こうして私は茶室を後にした。