同盟
1561年春、美濃の国主斎藤義龍が急死した。兄上は直ちに兵を繰り出したが、敵の竹中半兵衛の策にはまり手痛い損害を出すと退却を余儀なくされてしまう。
兄上は方向転換を行い先ずは斎藤家内部の不和を利用し、調略をかけていく。森家、坂井家、堀家など東美濃の豪族を斎藤家から離反させていき、弱体化させていく。
しかしまだ弱体化していってると言っても美濃三人衆も健在でありなかなか勝利に結び付かず、更なる調略を行ったりと兄上はしていたが、なかなか思うようには進まずイライラは頂点に達しているようだった。
私は岩倉城下の内政を重点的に行い、清洲城下のように区画で分けられた町を小規模ながら造り発展の準備を着々と進めていき、領内の道の整備等も進めていく。
あけて1562年、織田家からのかねてからの要請により義父の水野信元が重い腰をあげ、松平元康に同盟の誘いをかけると長い交渉の結果ようやく家康が清洲に来ることになった。
酒井忠次からの手紙でかなり元康の家臣が疑心暗鬼になっているようで、配慮をお願いしたいと言うことを知らされ、清洲へ行き兄上に面会を求め城へ上がった。
久しぶりに茶室へ通され兄の前に座ると私は早速話を切り出す。
「急ぎの用件なのですが、松平家との同盟にございます。」
兄上は静かにお茶をたてて私の前にお茶を出すと。
「ようやく竹千代(松平)との同盟がかなうな、向こうも家臣は疑心暗鬼になっておろう、信照その方接待役として迎え入れよ。台所はさる(木下藤吉郎)というのがいる使いたおせ」
「わかりました、尾張と三河の国境まで迎えにいきます。」
「頼んだぞ、それと犬山の信清はどうしてるか。」
「かなりイライラがたまっているようで、夏か遅くても秋には攻めてまいりましょう、こちらは速攻で丸裸にするように準備はしております。」
兄上は満足したようで、
「任せるぞ、美濃が滞っている、これで一気に美濃をおさえたい。」
再度お茶をたてながら兄上は笑いながら答えた。
兄上の前から下がり、清洲城の台所へいくと帳簿を持ちあっちへこっちへとちょこまかと動いている者がおり、すぐそばにいる者に聞くと木下様ですと言われる。
「木下殿はおられますか。」
そう言うと、ちょこまか動いていた木下殿が顔を向け私の顔を見るなり脱兎のごとく私の前に来て平伏する。
私はその行動に笑いをこらえながら見ていると顔をあげ、
「私が木下藤吉郎ともうします。信長様の弟で一族の筆頭である信照様ですね、私のような者の名前を覚えていただけ嬉しいです。ちなみにどのようなご用でしょうか。」
そう一気に言うと笑顔でこちらを見る藤吉郎に、
「今度、三河から松平元康殿と、家臣の方々かこられます、私が担当しますので、木下殿は食事を慰労なお願いしたく木下殿に会いに来ました。」
「そりゃすごいことです。三河の松平様に織田家のすごいところを見せましょう。」
そうはりきり始めたので、
「そんなにきばらなくてもいつもの兄上に出しているもので十分ですよ、お酒は多目に準備をお願いします。」
そう言われ少ししょぼんとしたがすぐに笑顔に戻ると、
「わかりました、他に何かあれば申し付けてください、何でも致しますよろこんで。」
「なんかあれば頼むよ木下殿」
「藤吉郎かサルと呼んでくだされ、信照殿」
「わかった藤吉郎、来週辺り一度試食させてください。じゃあ頼みます。」
そう言って何度も頭を下げる藤吉郎と別れそのまま城を出て岩倉城へともどった。
鷲尾がで迎え信清の動きはないと報告してきて、そのまま爺や日和がいる奥へ向かう。
「戻りました、日和いるかな」
「小十郎兄おかえりなさい、何でしょうか」
「しばらくは岩倉へ帰れない一ヶ月ほどかな、今度日和の故郷の松平家との同盟をすることになり、松平元康殿と家臣の酒井殿、本多殿などがこられる。接待役として清洲につめなければならない。」
そう言うと少し寂しいのか、
「そうなんですか」
そう言うと日和は小さくなりしばらく考えていたがおもむろにきちんと座り直し
「いずれ話すと言いましたがこれから話したいと思います。ただし兄が私と結婚を約束してくれるなら。」
そう急に言われたが、日和が真剣なまなざしで私の目を見つめてきたので、
「日和がいずれ話すと言っていたことだね、そして私との結婚の話。結婚をすると言うことはこれから私が修羅になり日和が悲しむこともある。それでもいいかい。」
「小十郎が生きていてくれれば、わたしはどんなことでも大丈夫。」
そうまっすぐ私を見つめ頷くので、
「わかった私と結婚してください。辛く悲しいこともあるが嬉しいこともある。それを一緒に分かちあおう。」
そう言うと日和は泣きながら抱きついてきたのでしっかり抱き寄せると、
「うれしいよ、私にもようやく家族ができたよ」
日和はしばらく泣きそして落ちついたようなので、座りなおすと改めて挨拶をし話始める。
「私の身の上についてなのですが、私の母親は私を生んですぐ亡くなりました。そして父親と名乗る本多忠高がやって来て身寄りのない私を引き取ってくれました。しかし義母の小夜殿は私を気に入らないのか、無視をされいじめられ耐えられなくなり家を出ました。鍋の介兄さまは優しかったのですが、ほとんど家におらず悲しかったのです。」
私は日和の頭をなでながら、
「そうか、それは確かに話したくないのもわかる。私も庶子で兄上と数人の兄以外は無視されていたからな、必ず幸せになりいい家庭を築こう。」
「はい、たぶん鍋の介兄も清洲に来ると思います。そこでお会いしたいのですがお願いできますでしょうか。」
「それは大丈夫だと思う、酒井殿にお願いをしておきますから、ところで鍋の介兄さんはなんと言う名前なんだい。」
「本多平八郎忠勝ともうします。」
その名前をきいて私は固まってしまう。えっ忠勝と、
あの本多忠勝、徳川四天王の同姓同名の人なんだと思い込みながら確か平八郎とか本で読んだ覚えがあるなと色々と頭の中を駆け巡っていく。
そんな私を日和はいぶかしげに見て、
「小十郎兄さま、どうされたのです、鍋の介兄を知っておられるのですか。」
「いや、直接は知らないけど、うん、全然、しかし日和が忠勝殿の妹とは、うん凄い」
そう頭の中は混乱してしまい言葉も途切れ途切れになり、妹をかどわかしたと言われないかとも考え始めていると、
「へんな小十郎兄です」
そう笑った日和を見ると覚悟を決め、
「よし、結婚も決まったことだし、兄上にも爺にも皆にも報告をしないとな、日和は清洲の館に入って待っていてください。兄上に挨拶と酒井殿に頼んで忠勝殿との再会も準備しないといけないし、忙しくなるから」
そう言うと嬉しそうに日和は立ち上がると、
「わかりました、爺に話してきます。」
そう言って出ていった。
私は兄上にこの事を急いで話しておかないとと思い、すぐに清洲に戻るため馬を用意させると清洲へ向かった。
夕方には到着し兄上に面会を求めると城内の練兵場に通される。兄上は鉄砲の訓練をしており、鎧を立ててそれを撃ち抜いていた。
「小十郎どうした、朝話をしたばかりだがなにか問題でも発生したのか。」
兄上は鉄砲を射ち振り返る。私はあらためて結婚の話をしようとして自分の耳が赤くなっていくのを感じながら、
「問題と言うか報告なのですが、結婚することにしました。勝手なのですが」
兄上は驚いた顔でこちらを見て射つのをやめ近習に鉄砲を渡すと、私の顔をのぞきこむ。
「ちごの癖にいつのまにやら女人を近づけた、と言うか相手は誰だ。」
私は私の心を見透かすような兄上の眼差しに心臓の鼓動がさらに早く大きくなっていくのを感じながら、
「岡崎にいったおり拾った娘にございます。私も今日知ったのですが、松平元康が家臣、本多平八郎忠勝の妹にございます。当然相手の家もこの事は知りません。」
そう言うと嬉しそうに私の頭をくしゃくしゃにすると、
「小十郎は毎度驚かされることがあるが今回は特にだのう。よかろう祝おうぞ。」
そう言うと近習に祝いの手配を命じ風呂に入ってからと言う指示を与える。
私は、
「ありがとうございます。酒井殿には書簡で話をするとともに、本多殿にはこちらにこられたときに話をします。」
「わかった、その時は同席しよう。それと娘を一度つれてこい。」
「すでに清洲に呼び寄せましたので近いうちに連れてきます。」
「楽しみにしておくぞ、色々な意味で」
そして風呂に二人で入り久々に昔の事を話しながらゆっくりとすごして夕食に部屋にはいると、さらに綺麗になったお市ねえ様と、いまだ可愛いお犬が同席しており、兄上の心遣いに感謝をする。
先ずは兄上から、
「ちごが嫁をもらうと言うことになり身内だけの祝いの席をもうけた。まだまだ部屋にこもっているちごだと思っていたが結婚するとは」
何時ものとおりからかわれたので、
「兄上の言うとおり武功もあげたのにちごですか、小十郎でお願いしたいのですが。」
兄上は笑い、
「そう思ったが未だに部屋にこもると言うのがな稚児のままだ。」
そう言うとお市姉さまが、
「兄上あまり小十郎をいじめないでください。城主にもなり結婚もするのですから。」
そう言ってもらって私は大きく頷くと、
「小十郎兄さま、兄上の家臣からも馬を沢山に見せるために繰り返し洗って笑い者になってると聞きました。なので兄上からちごと呼ばれてしまうのもしょうがないです。」
お犬から言われかなり心に突き刺さり、お市ねえ様に思わず泣きつく。
お市ねえ様はお犬に、
「お犬そんな事を言うものではありません。小十郎は今川との戦いでも見事な働きをしたと兄上から聞いております。」
そう言われお犬がしょんぼりしてしまうと、兄上が立ち上がって私の背中の上に乗ると頭に梅干しを食らわせ始め、私は悲鳴をあげる。
「お犬を困らせるとはちご許さんぞ、お犬にかわり成敗してくれる。」
そう言いながらお犬は大喜びして私は泣き叫びお市姉さまは兄上を止めながら私の頭を撫でてくれた。
ようやく落ち着き祝いのご飯とお酒を飲むと兄上が立ち上がり大好きな敦盛を舞いはじめる。
「人間五十年・・・」
私達は兄上の敦盛をいつまでもうっとりとながめこんなことがずっと続けばいいなと思う私でした。
その夜は兄上と同じ部屋に寝て幸せを噛み締めて寝ていたが、朝は兄上が私の頭に水をかけ、
「朝だぞちご、いつまで寝てるつもりだ。」
そう言いながらびっくりしている私の顔を見ると笑って行ってしまった。
私は松平家の迎えや饗宴の支度を指示しながら岩倉へ戻る算段をしていると、馬に乗り一人で岩倉から日和がやって来た。
私は嬉しい反面、
「危ないな日和一人で来るとは、皆が心配するから気をつけないと。」
そう言うと嬉しそうに馬から私を見て、
「爺には伝えてきたから、馬は宇部殿にしっかり教えていただいてますし、騎馬隊の兵に混じって遠乗りしましたから大丈夫ですよ。」
そう言われまだこちらに来てあまりたっていないのに、
「知らぬ間に末恐ろしいさすが忠勝の血かな」
そう呟いてしまう。
「なにか言われましたか小十郎兄」
そう言いながら降りて馬を家臣にわたすと、使者が城から来ていきなりだが兄上が午後来ると聞いていたので茶室の準備をし待つ。
「殿のおみえでございます、すぐに茶室へ通します」
と言うか言わないかで兄上が入ってきた、まずはと思い茶をたて兄に差し出す。
「小十郎もなかなかやる、さすがは中根にしごかれただけはあるな。」
そう伝い飲みほしたものを私に返すと丁度障子の向こうから、
「小十郎兄さま、日和でございます」
兄上の顔を見てから
「入っていいよ」
日和は入ると私の横に座り兄上の顔を見ると驚き、
「上総介兄様はないですか、もしかして小十郎兄の兄上の信長様」
日和は私を覗きながら兄上を改めてみる。兄上も嬉しそうに、
「確かに上総介だ日和が信照の相手とはな、馬に乗るについては小十郎より日和の方がうまいな」
そう言われ遠乗りでたまたま出会って野山を走り回っていたと言うことにようやく私は気がつく、
「お互いを知っておられるのですか、いつの間に」
兄上は面白そうに、
「よく遠乗りをしていると馬で色々なところから現れる。まさしくじゃじゃ馬だ。」
日和も頷くと、
「わたしの行く先でよくお会いしました馬に乗るのがすごく上手なのです信長様は」
そう言われ私は上手とは今でも言えず苦笑い
「いままで通り上総介で良い、しかし信照の嫁が日和だとは。日和よ弟は目をはなすと直ぐ部屋にこもり寝て過ごす。しっかり見張ってくれ、何かあれば構わん直接言いにこい。」
そう言われ私は首に縄がついた状態になってしまったようで、
「日和お手柔らかに、そう言うことなのでよろしくお願いします兄上」
それぞれが頷き、兄上が
「同盟がなった暁には結婚式をあげようぞ、楽しみだ」
笑いながらお城へ帰っていく兄上でした。
すぐに日和との結婚の敬意と義兄になる忠勝に説明をするための根回しに、松平家の家老忠次(酒井)に書簡を送る。
数日後、一週間後にはこちらに向けて出発すると言うことが忠次からの返信に書いてあり、試食をしながら準備の確認を藤吉郎と再度話すと、翌々日には尾張と三河の国境に兼松と共に向かう。
国境の境川まで来ると、まだ松平家の方々は到着しておらず一日ほど寝てすごし待っていると松平家の隊列が見えきた。
馬を降りて待っていると、松平元康を先頭に酒井忠次や他の家臣が続いており元康と忠次は余裕があるがその他の家臣は緊張しており織田勢がいつ襲ってくるかも知れないと言う影に怯えており私を睨み付けたりと緊張している。
元康が馬からおりて私の前に来たので、
「松平元康殿とお見受けする、私は織田上総介信長が家臣織田小十郎信照と申す。岡崎からようこられました。兄である信長も松平殿が来られるのを清洲城で待っております。」
元康も、
「信長殿の配慮いたみいります、先日改名し松平二郎三郎家康と言います。」
「しつれいしました松平家康殿、それでは案内しましょう。」
そう言い、馬に乗り家老の酒井忠次殿に挨拶をすると、清洲に向かう。
道中、お互い親戚で今回同盟をとりなした水野信元の話や桶狭間の戦いの事、そして元信と共に松平勢を迎撃したことを話すと、
「そうですか、岡部が城を落としたと聞き我々も通り道の城をと思っていたら、水野殿の迎撃ともう一隊別のが横槍を入れてきたのであの時は焦りました。」
そう言われ、
「その一隊は私だったのですが、義元公の本陣までひたすら今川勢を切り崩した者をもってしてもあの時は突破出来ませんでした。」
「そうですかあれは信照殿でしたか、あの時は私を守ろうと家臣たちが愚直に守りまして、損害も今まで戦ったなかでは段違いでしたから。」
「敵味方とはいえ味方の損害を少なく勝ちたいと思いますし、ましてや松平勢の力頼りにさせていただきます。」
そんなことを話ながら昼前には清洲に到着した。
控えの間に入り松平家の家臣は騙し討ちをされるのではないかと相変わらず緊張しており、旅の疲れをとっていただこうと思い食事を運ばせる。
食事も運んできたものを私がまず食べそれから家康や家臣の方々に食べてもらうようにした。
しかし緊張がとけることはなく食事を終えることとなり、兄上の待つ大広間に通しいよいよ同盟の儀式が始まる。
兄上の横に席をもうけ、そこに家康殿に座っていただくと兄上から、
「竹千代久し振りだな桶狭間ではなかなかの活躍、そして盟友となることを嬉しく思う。」
家康も懐かしそうに
「吉法師殿もおかわりなく嬉しく思います、この同盟により互いの背中を任せられることができて嬉しく思います。」
「幼き頃のようにお互い助け合っていこうぞ。」
そしてそのまま宴会を始めたが、やはり松平の家臣は緊張しているのが伝わり、
いままだ囲まれて押し切られてしまうのではないかと言う態度でそれが織田家の中にも伝わり緊張し始める。
そこで私は考えていた順番を諦めると、
「兄上、先日の件をここで発表してもよろしいでしょうか。」
私の考えを察してくれたのか、
「家康殿もおられるし丁度良い」
そう言われ私はその場に立ち上がり、
「私事なのですが、結婚いたします。相手は松平家家臣の縁の者にございます。」
そう伝えると、松平家の者たちは騒ぎ始め酒井忠次を一斉に見たので、
「私の娘などではない他の者です。」
そう笑いながら自分の同輩達に否定をしてから酒井殿が私を見る。
「私も先日聞いたばかりで妻の一族の顔も知りません。ましてや相手も私の事を知らないのですが、この緊張が取り除ければと思い失礼になると思いますが発表します。」
そうして一呼吸おいて、
「その相手は本多平八郎忠勝殿の妹、日和殿であります。」
そう言われた瞬間、慶次郎と同じぐらいの巨体である平八郎は驚き顔を赤くして怒りながら立ち上がって私の元へやって来る。
「日和をかどかわしたのはお前か、あまつさえ結婚だと。ふざけるな。」
そう言いながら胸ぐらを捕まれ持ち上げられてしまう。殴られるかなと予想はしていたので冷ややかに心を乱さないように忠勝を見つめ返し、権六等が立ち上がろうとするのを手で制して、
「本多殿の妹は、さらわれそんなのと結婚するような愚かなのですか。」
そう聞くと忠勝は一瞬詰まったが、
「そうではないが、妹はまだ幼く騙されていると考えるのが普通だ。」
そういきなりの事を納得できるわけもなさそうで、さすがに不味いと思った酒井忠次が進み出てくると、
「平八郎やめないか、殿の御前であるぞ。殿、そして織田殿お見苦しいところを見せて申し訳ありません。」
忠勝の方へ酒井殿がふりかえり、
「平八郎、日和殿には私も手紙で確認はしている。信照殿からも経緯の説明は受けており日和殿の意思である。それでは平八郎も納得いかぬこともあろう、後で信照殿の配慮により再会する手はずは整えておる。」
そこまで言われると私を放して上座に向くと、
「わかりました。殿、織田様誠に申し訳ありません。」
そう言ってもとに戻る。
家康は兄上に、
「信長殿、我が家臣の見苦しいところ申し訳ありませんでした。」
兄上は気にするようすもなく、
「よい、信照の急な発表のせいでもある。これからの両家の絆となってほしい日和を泣かすなよ信照。」
そう笑いながら私に釘をさすのも忘れない兄上であった。
そしてその事により松平家の家臣も緊張がすこしとけたようで、数人に話しかけると言葉少なげだが意思の疎通ができた。
緊張は少しは和らいだが愚直と言われる三河武士は最後までそのとおりであった。
さっそく翌日、本多平八郎忠勝殿が館に訪ねてきたので、すぐさま居間に通すと日和を呼ぶと、どうなるか喧嘩になるのかと思って日和が入ってきて私の横に緊張した様子で座ると、いきなり忠勝殿は日和に頭を下げる。
「日和、すまん母親があのような態度をし、私も仕事で開けていたとはいえ辛く悲しい事になってしまって。」
そう言われ、日和は少しだけ緊張がとけたようで、
「鍋の介兄さま過ぎたことです。今は信照様と出会えて日和は幸せにございます。」
まだぎこちないが笑顔で返すと、
「そうか、それでは信照殿、日和をよろしくお願いもうしあげます。」
折目を正した忠勝が礼をしてきて私も返し、
「こちらこそ忠勝殿のような勇将が義兄となり嬉しいです。松平と織田の繁栄のため頑張りましょう。式はあらためて招待いたします」
「ありがとうございます」
その後、忠勝殿と日和は私が離席したあとも話し込んで、家康殿が岡崎へ帰る時刻になり城へと戻っていった。
こうして戦国の世では珍しく、信長と家康が生涯破られることがなかった同盟が成立した。