桶狭間
数年がたち、とうとうこの年、1560年になり気合を入れ待っている自分がいる。
この間には義銀が蔑ろにされていると自覚をして今川勢を海より引き寄せようとしているのを中根のじいから知らされ追放をしたりしたが平静な時を過ごせた。
簗田正綱に百地配下の草(忍者)を与力とし要所要所の情報を収集しており次々と今川が軍勢を動かす準備を進めており兄上に情報が次々と上がってくる。
兵糧を集めていたので侵攻は間違いないが兄上は何をするわけでもない。
ようやく五月になり今川義元が駿河を出陣したとの知らせがあり情報通りそのまま沓掛城へ入るようであり、それをふまえて清洲城の大広間では軍議が開かれており、籠城か野戦かで大いに紛糾していた。
自分は犬山城と斎藤義龍の押さえに鉄砲隊と足軽を残し兵三百を清洲城の近くのお寺に入れ臨時で与力として頼んだ慶次郎と評定には出ず館の茶室でお茶を飲んでいる。
「城は相変わらず大騒ぎだが兄上は気にすることもなく放置していて、慶次郎には早速で悪いがわが隊の先方を頼む。本体には私と兼松がついていくから今回は速攻と突撃力が必要となるから、慶次郎なら全然心配してないが訓練を重ねた足軽がついていけるか心配だ」
「お歴々は籠城と騒いでおるが、上様も小十郎も野戦と決めているようだな」
慶次郎が茶をたて私が再度いただきながら、
「まあ籠城しても援軍のあてもないし、破れかぶれでかな」
そう言うと見透かされたのか笑いながら、
「わかった、先陣は戦場の華だ喜んで勤めようぞ、寺の兼松と合流し指示があるまで待つとする」
そう言うと、慶次郎は駐屯している寺に向かった。
私は清洲城の大広間に向かい中をのぞくと、重臣などが集まってあいかわらずまとまりもせずその中の佐渡(林)が私を見つけ、
「信照殿、殿はいかがお考えなのだ。軍議が始まっても出てこず小姓に聞くと奥で奥方たちとお茶を飲んでいると、このままでは今川に尾張を取られてしまいますぞ。」
そう悲鳴のような抗議に私は落ち着くようにと手で制しながら、
「私もまだ会ってもおらずわかりません。奥にいると言うことは籠城なのかと思いますが、いずれにしてもどちらでもてもいいように準備は怠らないようにお願いします。」
そう今川の間者に織田は籠城に傾いていると伝わるように発言すると横から大声で、
「丸根、鷲津両砦も落ちそうで援軍はまだかと矢の催促があり、ここは砦のため討って出ましょうぞ。」
権六(柴田)が繰り返し発言すると、佐渡等の重臣と言い合いになっていく。
そうしていると小姓が、
「上様のおなり」
そう言われ、慌てて重臣一同は座り兄上が上座に座るとどちらかなのか言葉を待つ。兄上は、
「権六、こちらは集めても四千いるかいないか、これで勝てると思うか。」
「戦いとは数と言うこともありますが、いま攻め立てられている丸根、鷲津両砦のためにも出陣をお願いします」
顔を真っ赤にして権六は言い放つと兄上はめんどくさそうに、
「今川勢は二万をこえる無駄なことはしまい」
そう言うとそのまま出ていってしまった。
権六は
「おおうつけじゃ、織田もおしまいじゃ信行様が生きておられたら」
と叫びながら暴れ始め他の重臣も逃げ出したり腰を抜かしたようにへたりこんでしまいました。私は貴様が信行を見殺しにしたのだろうと喉まででかかったのを押さえながら大広間から下がった。
私は城の奥手前の一族の控えの間に行き畳の上にねっころがるとそのまま寝てしまう。
夜も更けた頃、鼓の音と共に兄上の敦盛の舞の声が聞こえてきたので私は急ぎ立ち上がると、城下の集結している寺に向かう。
寺に入り皆を起こし慶次郎に鎧を着けるのを手伝ってもらうと城の方から、
「殿出陣、皆すぐに迎え熱田じゃ」
その声を聞き慶次郎と共に兵を率いて熱田神宮へ向かった。
兄上は小姓をつれ先に向かったらしくようやく出陣の太鼓が鳴り響き慌てて出てくる者の横を走り抜けると夜の道を月明かりだけで後を追う、暗闇のなか那古屋城下を通り抜け朝方には熱田神宮で兄上に追い付いた。
境内の岩に座って近習と休憩している兄上が、
「さすが小十郎、わしの敦盛を聞いていたな」
そう静かに私を見つめ私は馬を降りると、
「一族の控えの間で聞かせていただきました、さすが兄上神速ですね。」
まばらにまだ少数の兵が来るがしばらく集まるのには時間がかかるにで、
「さて味方が集まるのを待つとして、どうやら丸根、鷲津両砦が落ちたようだのう。」
報告があったのか兄上がそう言うと近習は皆緊張をした顔つきになる。
「これで気を良くして今川義元が油断してくれればですね。」
私は軽口をたたくと兄上は、
「あとは義元の所在、それがあれば勝てるぞ。」
私は慶次郎が率いてきた私の兵を見ながら、
「はい、先方は我らにお任せを、本陣までの道つくります。」
「期待してるぞ。」
そう言いながら戦勝祈願の準備をして味方の集結を待つ。
ようやく情報が入り兄上から
「敵は桶狭間方面にいる。中嶋砦まで移動し再度確認の後で義元の首を取りに行く。」
と皆に伝えると、ようやく味方が大方出揃い兄上の戦勝祈願の後、急ぎ中嶋砦まで軍をすすめた。
慶次郎の後ろを追って馬を走らせると、ふと横に誰かが並んだので見ると犬千代(前田利家)がおりなんでと思い声をかけた。
「そこにいるのは犬千代ではないか、兄弟の拾阿弥を斬殺したまま出奔まま行方知れずの」
そう言うと手入れがしっかりされた具足をまとい前をしっかり向いて走り続けている犬千代は、
「それがしは名も無なき犬でございます、慶次郎が厄介になってると聞いてついていこうとおもい勝手ながらいさせていただいてます。」
そう言われ笑いながら
「そうか、ならよし慶次郎と共に戦功をあげよ名も無き犬よ。」
そう言うと一瞬こちらに振り向き笑顔を見せると、
「ありがたき幸せ、それでは」
と、列の先頭にいる慶次郎の横に走っていった。
やがて中嶋砦に到着をして一息ついていると、桶狭間で義元が休息中であるとの知らせを受け降り始めた雨の中先鋒として進む。
前がみにくいどしゃ降りのなか正面から進軍してくる今川勢に出会うと慶次郎と犬千代が切り込んでいく。
「一番槍、滝川慶次郎利益がもらった」
「ちっ、二番槍前田利家がもらい受けた」
そう叫び声が上がり槍を振り回して蹴散らしていき水飛沫が進んでいく。
こうしてできた隙間に次々と兵士が切りこませ、
「進めや進め、遅れをとるなよ我らで勝利をとるのだ」
私が叫び鷲尾も声をあげる。ずぶ濡れで身に付けている物も重く体も冷えているが声をあげるときつい体も動き隊列の中心で進む、何度も今川勢を突破しそれを繰り返しながら桶狭間の本陣があるとお思われる小さい丘の手前に到着すると簗田政綱が現れた。
「報告いたします。この先で今川勢が雨のため休憩を取っております。」
「ご苦労、兄上にも知らせてくれ」
そう言うと後ろへと走っていく。
後ろはまだ追い付いておらずここで水を飲み慶次郎が頷くとゆっくりと馬を駆け始めそのあとに続く、丘の下まで達すると陣が敷かれており突破をはかる。
周囲の今川勢を蹴散らし本陣間際まで来ると柵が立てられており慶次郎の体当たりでも倒れず、柵の向こうから槍を繰り出されて苦戦する。
突破口を作るために慶次郎に突撃を繰り返させていると、ようやく兄上直属の部隊が後詰めに到着して一気に押し出すと柵を突破して本陣へとなだれ込む。兵の疲労が激しく私は一旦下がるように指示をして移動すると、犬千代は武功をあげるためそのまま敵の武将に無茶苦茶と言える突撃していき、慶次郎と兼松には義元をうち漏らした場合に備え、三河へ続く道に陣取らせ小休止をとらせた。
少し休憩をとり待機していると騎馬に守られた武将が雨の中こちらに向かってきており、長槍で道をふさぐと後ろから迫る兄上の手勢が襲いかかる。
叫び声や悲鳴等があがっておりしばらくすると、
「毛利新介、今川義元が首討ち取ったり。」
その声を聞き私は慶次郎と兼松共に勝ちどきの歓声をあげようやく勝利した事を噛みしめ喜び、
「慶次郎、兼松そして足軽たちよ、ご苦労今川との戦いに勝利しこれからが楽しみとなる。」
慶次郎はけろっとした顔でまだ降りやまぬ空を見上げながら、
「さすがに疲れたな、さっさと帰って酒でものもう小十郎。」
私は頷き、
「慶次郎、私達はついていけばいいようなものだった。被害が怪我人ですんでいるのも慶次郎のおかげだ。」
兼松も、
「前田殿のおかげで殿の横についていればよかった。助かった。」
そうこうしていると兄上の元に味方が集結すると勝ちどきをあげ重臣たちに命令を伝える。
「権六、沓掛などの各城を落とせ、義元が首取ったとふれまわれば今川勢も逃げ出そう。」
城とはうって変わって権六は、
「今までとられた城を直ちに取り返しましょうぞ」
そう言うと佐渡と共に元着た道を戻る。
桶狭間での敗戦は瞬く間に周辺に知らされ逃げるように引いたあとに織田勢が入り順調に取り返していった。
しかし未だに頑強に抵抗する者もおり、主君の首を持ち帰れないのならこのまま居座ると言う岡部に兄上は、
「首など価値もないただこの義元の太刀をて手に入れられたことは嬉しい。」
そう言って呆気にとられている重臣を後目に私に義元の首を渡すと清洲へど戻っていった。
兄上から城の受け取りを命じられ私は岡部がこもる鳴海城へと急ぎ向かう。
鳴海では直ちに岡部との話し合いが持たれ城を明け渡すかわりに100人ほどの岡部の手勢については見逃すことにして義元の首を渡すと岡部は直ちに三河へと退却を始めた。
私は周辺に今川の残党などが残っていると思い兼松に残敵を掃討させていると水野からの援軍の依頼があり驚きながら使者を通す。
「刈谷城を岡部勢が襲いかかり反撃する暇もなく落城致しました。つきましては至急援軍を城を取り戻していただきたい。」
そう言われ慶次郎と兵を100人率いて向かう。到着すると緒川城の水野元信がすでに城を取り返しており私は義父に挨拶をすると元信の配下が、
「緒川城にむけ松平勢が向かっていると言う知らせがあります。」
そう報告を受けると義父が、
「来たばかりですまないが松平勢を追い返すのに力を貸してもらいたい」
「わかりました。私達はまわりこんで横から攻撃して押し返しましょう」
そう言うと急ぎ緒川城へと入った。
広間に入り評定を行う。
「どうやら松平の小倅が千人程でこちらに向かっているようだ。」
そう言われ先程提案したとおり、義父が手勢を率いて正面から攻撃している間に私が迂回して側面から攻撃することとなり、案内役を先頭に慶次郎と共に側面へと走た。
すでに到着する頃には両軍ともぶつかっており、松平勢は強く義父は押し返されており徐々に崩れとうとう、
「ひけい」
義父は後退を始めた。
我々が伏せている場所を水野勢が逃げていき松平勢は追撃してくる。半分が過ぎた所で、慶次郎を先頭に松平勢の後方から襲いかかることになった。
「織田家家臣滝川慶次郎利益、松平殿に朱槍をごちそういたす」
そう言いながら背後から襲った。
「織田だ、後ろから織田が攻撃をしてきたぞ」
悲鳴のような声が上がり、そこに慶次郎が飛び込んで松平勢を追い散らす。
半ばまで切り込むと慶次郎の前に若武者が現れ、
「本多平八郎忠勝推参」
そう言いながら慶次郎に槍を繰り出し一騎討ちが始まった。
その横から崩しにかかるが、崩れそうになるのを必死に松平勢は耐えており慶次郎も突破できないでいる。
私はこれ以上は損害が増えるばかりと思い慶次郎に、
「これまでだひけい」
そう叫び右に兵をまとめながら移動を開始する。
松平勢も追撃をかけずに三河方面へと退却を始め、待機していた義父の元へと向かう。
「信照、引くのが早いぞ、もう少しであの若造の首を取れたものを」
「自分にもだが相手にもかすり傷を負わせられない状況でよく言う」
私が笑うと、
「次回は奴と決着をつけたいものだな」
そう言って三河へと移動する松平勢を見つめ、私はそのまま義父に挨拶だけすると鳴海城へ戻りかわりの城代が送られて来たので清洲へと戻った。
清洲城の大広間では、兄上の前に重臣や家臣一同ならび喜びに震えており私が入ってきて上座のすぐ下に座ると、
「今回は皆のものご苦労、勲功は簗田政綱、その方には沓掛城城主とその回り三千貫あたえる。信照は先陣で今川までの道を切り開き見事な働きだ、正式に岩倉城城主とし新たに五千貫、合わせて七千貫を与えるものとする。」
そう言われ皆からは驚かれ同時に一族の筆頭となった。
その後は各武将に報奨をあたえこうして桶狭間での戦いは終わったのである。