鐘を鳴らしに
窓に差し込む光で目覚める。二度寝をしようと目を閉じるが、身体を揺さぶられて妨げられてしまう。
「起きてエクス! 朝だから!」
「……ふぁい?」
目を開けて映るピンクの瞳の少女。同じくピンクの髪を揺らしながら起こしてくる少女の声は、なんだか安心を覚える。
「エクスってば!」
「……リーム?」
「私以外に誰が起こすの?」
「それもそうか。おはよう」
「おはよう!」
洗面所に行き顔を洗う。シャキッと目を覚ましたエクスは体操を始める。
「今何時なんだよ?」
「七時だね」
「そうか。うーん!」
グイッと背伸びをして体操を終えると、部屋を出て廊下を見る。ソアを警戒してのことだ。
「昨日の娘が気になるの?」
「ジュースを飲みたいんだけど、付いてこられたら厄介だよ」
「可愛い娘だったからいいんじゃない?」
「そういう問題じゃないよ。また抱き付かれたりしたら面倒だ」
「好かれてるのに?」
「一方的なのは押し付けだよ」
居ないことを確認したエクスは安堵した。朝食も済まそうと思い、リームと一緒に食堂へ向かった。
「朝は食べるんだね」
「食べないと調子が出ないんだよ」
「ふーん」
「ジュースだけでいいのか?」
「私は朝は食べないの。スープを飲むかジュースを飲むかで済ましてる。それが習慣になっちゃった」
「途中で空かないのか?」
「うん。その代わり、お腹の時計は正確だね。お昼になったら鳴るから」
「そいつは便利だな」
「鳴ると恥ずかしいけどね。それはそうとエクス、これからどうするの?」
「どうしたい?」
「う~ん……。ここから近いのはフォインだね」
ガイドブックを見て答えるリームなのだが、どこか歯切れが悪い。
「行きたいのか?」
「行きたいのは行きたいけどね。フォインの名物の鐘を鳴らしたいし」
「ん? 何を渋ってるんだ?」
「この鐘を恋人と鳴らすと幸せになれるってことなんだけどね。私、相手がいないから」
「一人で鳴らしたら駄目なのか?」
「二人で鳴らすことに意味があるの!」
「じゃあ、見るだけ見るか。見るだけでもいいんじゃないかな」
「でも鳴らしたい!」
「どうしても?」
「どうしても!」
「……僕と鳴らすか? 僕だって相手はいない。相手がいない同士、これからの出逢いを願って鳴らすのもアリだと思うけどな」
「そういう手があったね! エクスって天才!?」
「只の屁理屈だけど?」
「何でもいい! そうと決まれば急げね!」
「急がなくても鐘は逃げないよ」
気合いを入れるリームと冷静なエクス。女子は恋愛が好物なのだと改めて思い知るエクスだった。