気晴らし
リームがシャワーを浴びている間、エクスはホテルを彷徨く。ソアを警戒しての行動なのだが、ホテル内ですれ違う全ての人を怪しく見てしまう。途中でトイレに行った際も個室を警戒して落ち着かなかった。
(どこでソアが見ているか分かったもんじゃない。数いる男から僕をナンパしてたのも怪しい。何か企みがあるに違いない)
そろそろシャワーを浴び終わっただろうと部屋に戻ると、半袖シャツに短パンという格好で寛いでいたリーム。エクスの顔を見るや慌てだした。
「どうした?」
「お風呂上がりを見られるの恥ずかしいんだよね」
「なんで?」
「リラックスして気を抜いてるから」
「僕は気にしないよ」
「私は気にするの!」
「そうなんだ。僕はシャワーを浴びてくるけど、戸締まりはちゃんとしないと。ソアみたいのが入ってくるかもしれないから。開けるときは外を確認してからだよ」
「分かってる」
エクスがシャワーを浴びにいったことを確認すると、ゆっくりとベッドに倒れるリーム。エクスとソアのやり取りが脳裏にこびりついて離れない。
「何だろう? このモヤモヤは」
エクスとは今日知り合ったばかり。お互いの第一印象は最悪で、偶然同じ席でハンバーガーを食べ話が弾み、そのまま流れるように一緒に行くことになった。知り合って日が浅いのはソアと同じだ。それなのにソアは大胆な行動に出た。
「いきなり……あれは」
エクスに抱き付いた時のソアの顔が忘れられない。あの顔が自分に対する挑発ではないかとすら思える。
「凄く負けた気がする。日の浅さは同じ……違う、彼女の方がもっと浅い! エクスと食事をして花屋に行った分、私の方が深い! なのになのになのに~っ!」
なんだか無性に悔しくて堪らなくジタバタする。枕に顔を埋めて叫ぶ。どうして腹立たしいのか分からないが、〝突然現れた転校生に、仲良くしている友達を取られた〟気分に襲われていた。
「見返してやる~っ!」
「なにか言ったか?」
「エクスのバカ!」
シャワーから出てきたエクスと目が合ったリームは、枕を思わず投げてしまった。ゴフッと声を上げて驚いたエクスを見て、お腹を抱えて笑うのであった。