褐色の少女
オレンジジュースとコーラを部屋まで持っていく。リームにオレンジジュースを渡すと、もう一度部屋を出た。やっぱり気配を感じる。キョロキョロ見渡すが姿はない。
「僕の気のせいなのかな?」
すると、う~んっと考えているエクスに近付く人影。トンッとエクスの背中を叩いてくる。驚いたエクスが振り返ると、その人影はクスクス笑う。
「あんなにキョロキョロと周囲を見ていながら、背後に迫る人間の気配に気付かないとは。鋭いのか鈍いのか分からん奴じゃ」
黒髪に褐色の肌の少女。悪戯っぽく人差し指を口元に当ててエクスを見つめている。
「僕に何か用か!」
「そんなに敵意を剥き出しにするでない。折角の可愛い顔が台無しじゃ」
「お、おい!?」
エクスの顔に触れる少女。からかうように耳や鼻、それから唇と触れていく。
「そんなに照れんでもいいんじゃぞ?」
「照れてなんかないよ!」
「隠さなくてもいいんじゃ」
「何が目的だ!」
「目的じゃと? 好みの男子をナンパしているだけじゃ?」
「好み!?」
「そうじゃ。妾と出掛けるチャンスじゃぞ」
「連れがいるから」
「あの嬢か。あの嬢といるよりも楽しいことを誓うのじゃ」
「まだ会って間もないのはお前も一緒だよ。僕はリームと行くって決めたんだ」
「ほう、リームという名前なのか。恋敵の名前を知れただけでも収穫じゃ。ついでに貴公の名前も教えてくれるか」
「……エクス」
「あっさりした名乗りじゃ。妾の名前はソアじゃ」
エクスに抱き付くソア。ソアがエクスの肩越しに少女を見てニヤける。してやったりという顔をする。
「なっ……何をしているの!?」
オレンジジュースを片手に通路に出ていたリームの視界に映る男女の抱擁。エクスは離れようとしているが、ソアは抵抗している。エクスの耳に息を吹き掛け、そのまま頬にキスをした。
「お前!?」
「頬にキスなど挨拶じゃ。次に会った時には、その唇を奪うのじゃ」
不敵な笑みを浮かべながら去っていくソア。エクスの背後では、オレンジジュースを片手に震えたまま立っているリーム。振り返ったエクスにオレンジジュースを差し出す。
「オレンジジュースは飽きた。これあげるから、コーラを私に頂戴ね」
「分かったよ」
だいぶ残っているオレンジジュースを渡され首を傾げるエクスだが、喉が渇いていたので普通に飲んだ。
(ソア、か。あいつも精進の儀を。また会うかもしれないから警戒しないとな)