気配
昼寝から目を覚ました二人は、ノランのホテルを探していた。寝起きで頭が冴えないものの、ガイドブックを読むことは出来ている。少し足取りは覚束ないが。
「ちゃんと歩けよ」
「ちゃんと歩いてる」
「真っ直ぐ歩けてないよ。左右にフラついてるよ」
「そんなことない……そんなこと!」
寝起きで身体は起きておらず、リームは後ろに倒れそうになる。動きを警戒していたエクスが支えると、焦って離れるリーム。
「ごめんね!」
「別に気にしちゃないよ」
深呼吸をして頬を叩く。寝起きの自分に渇を入れて歩き出すリーム。ガイドブックを閉じて走り出す。
「早くしないと部屋がなくなっちゃう!」
「急に走ると身体に毒だよ!」
※ ※ ※
「「えっ!?」」
「お一人部屋が一つのみです」
無事にホテルに着けたはいいが、空いている部屋は一つのみ。しかも一人用のだ。一人で使うことを想定した広さの為、子供とはいえ、二人で使うのは厳しい。
「なんとかなりません!?」
「申し訳ありません。精進の儀での利用者で一杯ですし、この時間からだと他所も満室でしょう」
「リーム。僕は適当にするから大丈夫だよ。ちゃんと寝ないと駄目だよ」
「どういうこと?」
「僕は男だから我慢出来る。だから、リームはベッドで寝るべきだよ」
そう言って部屋の鍵を受け取って移動する。シングルベッドと一人掛けのソファーが置いてあり、小さなテーブルも置いてある。一人で泊まるには申し分ない。
「僕はこのソファーで寝るよ」
「でもそれじゃ」
「野宿より何倍もマシだよ。お! こっちにはシャワーもあるよ!」
「シャワー!?」
「そんなに驚くかよ? シャワーなんか珍しくないだろう」
「エクスは男の子で私は女の子! 分かる?」
「恥ずかしいのか? 心配する必要なんかないよ。リームの風呂なんか覗かないし、そんな暇があるんなら寝る」
「へっ?」
顔を赤らめると思っていた為、あまりの素っ気ない反応に肩透かしを食らうリーム。なんだか傷付いたような気もする。
「飲み物でも持ってこようかな。リーム、何飲む?」
「オレンジジュース」
「氷は?」
「入れない」
「分かったよ」
スタスタ飲み物を取りに出るエクス。ベッドにダイブして考えるリーム。どうしてショックを受けたのかと考えるが疲れるだけなのでやめた。
※ ※ ※
「……ん?」
ジュースを取りに向かうエクスだが、なんだか気配を感じて振り返る。しかし、そこには誰もいない。
「気のせいかな?」
フロント横のドリンクバーに着いても気配は消えない。リームのオレンジジュースと自分のコーラをグラスに注いで部屋に戻るべく歩く。
「……気のせいじゃないか。ちょっと待ってて。このジュースを置いたら応対するよ」
感じる気配に話し掛けるエクス。確証があるわけではないが、自分の勘を信じてみることにした。