表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/40

僕と私と妾

 レイラとの再会を果たしたエクスは、カムールの病院へと戻っていた。リームとティタが目覚めたと聞いて一目散に駆け付ける。


「リーム!」


「エクス!」


「よかったよ! 一昨日怪我をして昨日も起きなかったから……安心したよ!」


「心配させちゃったみたいね」


「そりゃそうだよ」


 ベッド側の椅子に座って深呼吸。ロンドで買ったリンゴを剥いてリームに渡した。


「エクス、リンゴの皮剥き出来たんだね」


「このくらいは出来るよ。リンゴなら食べれるだろう?」


「ありがとう」


 エクスからリンゴを受け取り食べる。リンゴの甘さに頬が緩み、リームに自然と笑顔が浮かんだ。


「俺からは葡萄だって」


 ウルは、リームとティタに葡萄を渡すと、ティタの側の椅子に座った。


「にょんちゃん、何か言ってたの?」


「取り敢えず、殺し屋はロンドに移送だって。俺が送ってもよかったんだけど、『軍のことは任せるにょん』だそうだ」


「それならいいけど。今回は慌ただしかったわね」


「いつものことって」


「それもそうだね」


 ウルとティタが見つめ合って笑い出す。一緒にいると辛さが吹き飛んでしまう。お互いが、二人にとっての特効薬なのだ。


「羨ましいね~」


「その内お前にも来るよ」


「その内なの?」


「その内だよ。相手がいないから鐘を鳴らしたんじゃないかよ」


「まあ、ね」


「そんなに慌てなさんな。きっと現れるよ、運命の人が」


 エクスは立ち上がると退室した。リームはエクスが離れてしまって寂しさを感じる。


「ウル。私さ、ちょっとだけ外の空気を吸いたいんだけど」


「そうなのか。じゃあ待ってろ。先生に訊いてくるって」


 ウルも病室を出た。再び静かになる病室。その沈黙を破ったのはティタだった。


「……少し散歩してくるよ。その間にエクス君が戻ってくる筈だから、そしたら決めちゃいなさい!」


「何をですか?」


「もう分かってるんじゃないの?」


 ティタがリームにウインクする。病室の扉が再び開いてウルが入ってきた。


「車椅子でならいいって。三十分くらいが限度だけど」


「三十分もあれば充分だよ。行こ、ウル」


 ウルに車椅子を引かれてティタは病室を出た。と、入れ替わるようにエクスが戻ってくる。リームの心臓が高鳴る。


「リンゴは旨いけど喉が渇くだろう……顔が赤いよ?」


「そう……かな」


「ほれ。これでも飲んで冷やせばいい」


 エクスはリームに缶ジュースを差し出す。それを受け取って喉へと流し込むが、リームの顔の赤みは引かない。それどころか心臓の高鳴りが激しくなる。缶ジュースを持っている手が震えている。


「……エクス……あのね?」


「どうした?」


 椅子に座ってジュースを飲んでいるエクスは平常心でいる。


「……私ね……エクスのこと……好きになっちゃった」


「ゴフッ! な、何をいきなり!?」


 エクスの平常心は簡単に乱れてしまう。飲んでいたジュースでむせ、持っている缶を床に落としてしまった。慌てて雑巾で拭いていくが、雑巾を持つ手は震えている。


「目覚めてエクスがいなくて寂しくて。まだ一週間しか一緒にいないのに、一緒にいるのが当たり前になってた」


「……頭でも打ったのか?」


「そうかもしれないね。けど、私のこの気持ちは間違いない。紛れもなく恋なんだ」


「言い切るんだな」


「言い切るんだから」


 エクスは床を拭き終え座り直すと、照れ隠しに頭を掻きながらリームを見る。見られて照れるリームの手を取ると、優しくその手を包み込んだ。


「ソアから言われたんだけど、リームが斬られた時、無意識に『僕のリーム』って言ってたらしい」


「ふぇっ!?」


「無意識にってことは、心の奥底で思ってたってこと。僕のことが好きだと言ったソアが言ってきたんだから本当だろう。僕は惹かれてたんだよ、リームに」


「そ、それって!?」


「うん。僕はリームのことが好きだよ」


「……エクス……嬉しい!!」


 エクスの告白に嬉し涙を流す。リームの涙が嬉しさから来ていることを分かっていないエクスは、オドオドと落ち着かないでいた。


※ ※ ※


 カムールでの一週間の入院を終えたリームとティタは、退院早々スイーツを食べていた。メルとメリーも一緒である。


「美味しいのだよ!」


「ほっぺが落ちるしょ!」


「退院祝いで来ているのに、私達よりも二人が食べてる」


「メルさんもメリーさんも幸せそうですね」


「幸せなのだよ!」


「メルに同意しょ!」


※ ※ ※


 カムール司令部の鍛練場で向かい合うエクスとウル。


「我が儘を聞いてくれて感謝です」


「本当に良いのかって?」


「はい。僕のコアを伸ばすには、ウルさんと戦うのが近道だと思うから」


「そっかって。そういうことなら応えなくちゃなって。おもいっきり来い!」


 赤炎へと変身するウル。エクスを見つめる目は本気である。


「いきます!」


 エクスの髪が若干逆立ち、目付きが鋭くなる。床を蹴ってウルに拳を突き出す。エクスの動きを見切って拳を受け止めると、ウルはエクスの腕を掴んで宙に放る。


「……はあっ!」


 体勢を立て直して狙いを定めると、ウル目掛けてかかとを落とした。ウルに避けられてしまうが迷わず動き、ウルが避けた方向へ先回りする。再び床を蹴って拳を突き出す。ウルはエクスに背中を向けたままだ。


(当たる!)


 エクスが確信した瞬間、ウルの姿が消えてしまった。このパターンには覚えがあったため、咄嗟に振り返った。


「ぐっ!? ……キツい!」


 ウルの拳を腕でガードしたものの、その威力はとてつもなく、エクスの両腕は痺れてしまった。


「俺の攻撃を受けて立ってられるとは凄いって! 紫炎状態の一撃をだって」


「そのわりには余裕そうに見えますけど。まだ隠してるのがあると見ます」


「あるにはあるって。ただ本当に奥の手だから、変身してられる時間は一分。加減も出来ないって」


「……この目で見てみたいです……ウルさんの力を。ロイズの英雄の力を!」


 キラキラと目を輝かせるエクスを見て、フッと笑いが込み上げてくる。精進の儀に出た頃の自分とエクスを重ねる。


「これが俺からお前への激励だって!!」


 黒炎を纏い構える。床を蹴って拳を突き出す。エクスも床を蹴って拳を突き出す。そこに手加減はない。全ての力をぶつけていく。


「「うおおお!!」」


 二人の拳がぶつかり合う。辺りは眩しい光に包まれた。


※ ※ ※


「バカなんだから! 組手なんだから程ほどにしないと!」


「「ごめんなさい」」


 エクスとウルは、ティタの生成を受けていた。案の定、お互いの拳を痛めたのである。ヒビが入っていたみたいだが、幸い折れてはいなかった。


「無茶しないでよ」


「分かってるって」


「分かってないでしょ!」


「あはは」


「ティタさんの言う通りです! ウルさんが怪我をして一番悲しむのはティタさんなんですから!」


「そうですよ、ウルさん」


「エクスも他人のこと言えない! エクスが怪我をしたら私が困るんだからね!」


「……肝に銘じとくよ」


 ウル達は出発の準備を終えた。ティタが熱心にガイドブックを見てウルに訴えている。


「南かって!?」


「まだ行ったことないもん」


「しゃあない。皆がいいなら行くって」


 メイル、メル、メリーが頷いたことで、ウル達の行き先が決定した。


「ウルさん達の行き先が決まったみたいですね」


「まあな。俺は本当にタクシーだって」


「頼られてるってことですよ」


「なんだっていいけどな。お前達はどうするって?」


「僕達は列車でのんびり行きます」


「そうかって。気を付けてな」


「はい!」


 エクスとウルは、軽く拳を突き合わせた。そして、ウル達は瞬間移動していった。


「行っちゃったね」


「ウルさん達には、ウルさん達の旅がある」


「妾達には、妾達の旅があるのじゃ」


「そうだな。それじゃ行こう!」


「「うん!」」


「えっ!?」


 エクスの腕に引っ付くリームとソア。『妾は諦めてないのじゃ』と言えば、『エクスは私を選んだの!』と張り合っている。


「そんなに引っ付くなよ!」


 三人は次なる地に向けて歩み出した。言葉に反し笑顔を浮かべるエクス、素直な想いを表すリーム、年相応に友達をからかうソア。どこにでもいる少年少女の旅は始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ