花の香り
レストランでシチューを堪能した二人は、道をゆっくり歩いていた。近所では有名な花屋があると聞いて向かっている最中だ。
「花屋か~。色んな花があるんだろうね」
「選べるくらいの種類がないと成り立たないよ。花を買う人なんて多くはないだろうし」
「そういう現実を言わない。色々と想像するのがいいんじゃない!」
「あんまり期待しすぎるとガッカリするよ。僕は経験がある」
「どういう経験をしたわけ?」
「……冗談を本気にしちゃったんだよ……子供だから」
なんだか寂しい目をするエクス。悲しみを含んだ瞳でリームを見て笑う。
「なんかごめんね!?」
「気にしなくていいよ。過ぎたことだし」
リームを追い抜いて振り返る。『置いていくよ?』と冗談を言いながら歩く。『待ってー!』と追い掛けるリーム。横に並んで暫く歩いていると、一軒の花屋が見えた。
「ここか?」
「間違いないね。聞いた店名と同じだから」
「てっきり、店先にも並んでるのかと思ってたよ」
「外に置いとくと盗られちゃうから?」
「用心に越したことはないよ」
「兎に角入ろう」
扉を開けて中に入った途端、花の香りが襲ってくる。色んな花の香りが混ざった香りを嗅げるのは花屋の醍醐味である。
「いらっしゃい! そのバッジをしてるということは……」
「はい、精進の儀です」
「精進の儀か……」
「どうかしましたか?」
「前にも来たの。精進の儀の女の子が」
「そうなんですか!」
「友達がお父さんに花束をあげたいから、店員さんがセレクトしてって。金髪の女の子だったなあ」
「精進の儀の子は、よく来るんですか?」
「ううん。そのまま通り過ぎちゃう。だから余計に記憶に残ってる。……そういえば……ああ!」
店の奥に引っ込むと、新聞を手に戻ってくる。新聞に載っている一枚の写真を指差して頷く。
「うんうん! やっぱりこの娘だ!」
「『ロイズの英雄現る!』……これは僕も見たよ! そうだよ! ウルさんをこれで知ったんだ!」
「わあ~! これは運命を感じるね」
「記念に買ってもいいんじゃないか?」
「そうだよね! 店員さんのセレクトで包んでください!」
「分かりました。待ってて」
色とりどりの花を慣れた手付きで丁寧に包んでリームに渡す店員。渡されたリームが笑顔になる。
「ありがとうございます!」
「精進の儀、頑張って!」
「はい!」
手を振られながら花屋を後にする二人。花束に鼻を近付けて香りを堪能するリーム。隣を歩くエクスにも嗅ぐよう言うが、断られてしまった。
「いい香りなのに~?」
「散々嗅いだからいい。鼻がムズムズしてるんだよ」
「それは残念だね。嗅ぎたくなったら言ってね」
「そうさせてもらうよ」
(花を嗅ぐと思い出すよ……あの人を)