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約束

 カムール司令部の側にある病院の一室で眠る二人の少女。病室を一瞥して状況を理解する。手術を受けた背中の傷が痛むものの、生きていることに安堵した。


「痛いよ」


「背中を斬られたのは覚えているんですけど。そこから先はスッポリ」


「それは私もだよ。リームちゃんには情けなく映っちゃったかな?」


「そんなことないですから!? ティタさんは勇敢でした」


「そう言ってもらえると安心する」


「私達は無事みたいですけど、他の皆は?」


「無事だとは思うけど……。取り敢えず、私達が起きたのを知らせないと」


「それもそうですね」


 看護師を呼んで説明を受ける。術後、皆して様子を見に来ていたことを聞いた二人は、皆が無事ということが分かりホッとした。一週間は入院していないと言われ凹むが、充電期間と割り切る。看護師が退室して静かになると、途端に寂しさが襲ってくる。皆が無事だと分かったので会いたくなったのだ。


「ウルの奴、今はどうしてるのかな?」


「やっぱり、気になりますか?」


「やっぱり?」


「ウルさんのことが好きなんじゃないかと」


「バレちゃった? ウルと付き合ってるんだよ」


「付き合ってる!?」


「そんなに驚くことかな?」


「驚きますから! つ、付き合うとかって……憧れはあるけど……」


「そんなこと言ってるけど、リームちゃんだってそうじゃないの? 彼、エクス君だっけ?」


「違います違います! 私とエクスはそんなんじゃ!?」


「ちょっと慌てすぎじゃない? 否定すればするほど墓穴を掘るよ」


「嘘じゃないですから!」


「……満更でもなさそうだけど」


「だって……エクスと出会って……今日で一週間ですし! そう! 一週間!」


「出会った時間とか関係ないよ。時間じゃなくて想いだと思うけどなあ」


「想い、ですか?」


「うん。リームちゃんはさあ、エクス君と一緒にいて楽しい?」


「うーん。確かに楽しいですけど、それだけじゃないです。ちょっとしたことで口論になっちゃうし、疲れることもあるし」


「だけど一緒にいるんだ?」


「なんだかんだ、ですけど。初めて会った時に口論になっちゃって。だからその分遠慮が要らないというか……素直になれるというか」


「居心地が良いんだ」


「そうなんです。自然体で接してられるんです」


「ふーん。じゃあソアちゃんが一緒に行くってなった時はあせったりしたのかな?」


「ソアの前にきゅうちゃんが来ましたけどね。きゅうちゃんが正体を言ってくれるまではハラハラしちゃいました。やたらとエクスに引っ付きますし」


「ハラハラねえ。そういう気持ちが芽生えるってことは、リームちゃんが焦ってたってことなんだよ」


「焦り?」


「リームちゃん。エクス君に会いたい?」


「それはまあ」


 ティタに問われてエクスの顔を、声を、リバルナの頭に襲われた時、身を挺して守ってくれた背中を思い出す。すんなりと思い出せるくらい覚えていることに自分でビックリする。心臓がドキドキと高鳴るのを自覚して目を閉じる。


「離れた時に分かることもあるんだよ。どう? リームちゃん」


「……会いたいです、エクスに」


※ ※ ※


 ロンド司令部の地下牢。薄暗い檻の中に座る女性が一人。柵を挟んで立つ少年は複雑な顔をしていた。


「ショック?」


「そりゃあショックだよ! こんな再会望んでなかったよ」


「もう五年前になるのか」


「ずっと待ってたのに。約束の日を過ぎても会えなかった」


「殺し屋として疲れていた時だった。誰かに救いを求めたんだろう。その相手が君だったわけだ」


「どうして殺し屋なんて」


「ソアと一緒だ。殺しの世界以外に知らなかった。沢山殺してきた……沢山だ。こんな汚れた手で、五才の君に触れるのが怖くなったんだ」


「約束なんかしなくてよかった。そうすれば辛くなかったんだよ」


「随分と苦しめてしまったようだ」


「……名前を教えてよ。僕はエクスだよ」


「名前を知ってどうする。もう会うことはないだろう」


「それでもだよ。知らないままじゃ後悔すると思う」


「……レイラだ」


「教えてくれてありがとう。五年越しの約束嬉しいよ」


「こんな私にも感謝するのか」


 柵越しにニッコリ微笑むエクスを見て、レイラは涙を流す。殺し屋という世界に生まれなければどうなっていたのだろう? 叶わぬ思いを胸に秘め、嗚咽を漏らすのだった。

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