勝利の拳
エクスとウルの二人に殴られて吹き飛ぶ、殺し屋のリーダー。隠していた口元を露にすると、口端が切れて血が流れていた。
「殺し屋の血を出させたな!」
腕と足を伸び縮みさせながら攻撃を仕掛けるリーダーに対し、赤い炎を撃ち近付くウル。両手に炎を纏わせ殴り掛かる。リーダーの顔が火傷を負うも気に留めることなく、怒りのままに拳を振っていく。
「火傷なんかじゃ済まさないって! 皮膚を剥がして肉を抉り、骨を抜いて突き刺してやるって!」
ウルの怒りは頂点に達していた。さっきエクスを制した人間が、同じように怒りに任せて戦っている。ロイズの英雄だなんて言われているとはいえ、そこはやはり十二歳の少年である。
「ウル! あくまでも生け捕りだというのを忘れるな!」
「……分かってるって! 大尉は、少尉とにょんちゃんと皆と逃げろって! 核を使えない人間は邪魔だ!」
「……分かった。無茶はよせよ」
ライドは、倒れているリームとティタを連れて、キリナ少尉とにょんちゃんと皆と共に研究所を出る。ソアにも声を掛けたものの、『見届けたい』と断られた。
「うおおお!!」
ウルの攻撃を受けてフラフラなリーダーに対し、追い討ちを掛けるように殴り掛かるエクス。目を吊り上げて獲物を狩る獣の如く。左右の拳は血塗れになっている。リームから貰ったピンクの革手袋が血で染まっていた。
「……リーム……」
「よそ見……いい度胸……だな!!」
「がはっ!?」
拳を見つめていて注意力を切らしたエクスは、リーダーの拳をモロに食らってしまう。一瞬の油断が命取りになる。まともな戦闘経験がないエクスは仕方ないのかもしれない。
「そいつは俺の台詞だ!」
エクスを殴ったリーダーを殴るウル。隙を突けば狙われる。数々の戦いを経ているウルだからこそ、複数人での戦い方を知っていた。
「……ぐっ!?」
「お前の能力は通用しないって!」
「随分と威勢がいい。だが子供だな。詰めが甘い」
リーダーは注射器を取り出すと、自分の腕に突き刺した。筋肉や血管が浮かび上がる。無理矢理に隆起した身体は、殺し屋としての速さを殺していた。速さを捨ててでも勝ちにこだわる信念。殺し屋としてのプライド。それが今、リーダーを動かしていた。
「狂ってるよ!」
「殺し屋が狂ってないとでも?」
太く頑丈になった腕を振り下ろしてくる。研究所が衝撃で揺れるほどのパワーである。そんなパワーを持つ手足を伸ばして振ってきた。咄嗟に動けなかったエクスが吹き飛ばされてしまう。
「うあああ!!」
「エクス!?」
「よそ見をするな!」
エクスに気を取られていたウルに襲い掛かる蹴り。間一髪避けたウルだが、続いてきた拳を避けきれず受けてしまった。
「がはっ!?」
「はーははは!! やはり子供だ! 大人を舐めるのも大概にすることだ。……処す!」
床に背中を預けているウル目掛けて振り下ろされる拳。子供のウルを殺すには充分な攻撃だ。その拳は床に振り下ろされ、研究所を揺らした。勝利を確信したリーダーは笑う。高らかに声を上げて。
「ははは!」
「……そんなにおかしいかって? 油断大敵って!」
リーダーの背後で燃える紫の炎。リーダーが声に反応し振り向いた瞬間、ウルの拳がリーダーの腹部を捉えた。
「がはっ……ああ!!!?」
「子供だからって舐めるなって! 大人だって子供だって人間だって! 弱くて強い人間だって!」
ウルは変身を解いてエクスを起こす。エクスに大した怪我がないことに驚きながら、同時に感謝する。
「俺だけだったら殺してたかもしれないって。一緒にいてくれて助かったって」
「僕、ほとんどウルさんのおこぼれでしたけど」
「エクス。お前は強いって」
「……はい!」
見届けていたソアと共に研究所を出ると、にょんちゃんの要請で駆け付けたカムール司令部の軍人に出迎えられた。




