怒りの鉄拳
迫る百人の殺し屋。普通ならば絶体絶命である。リームが恐怖で震えてしまう。十歳の少女の反応としては当然のことなのだが、リームを守りながら戦っているのも少女なのだ。茶髪を振り回しながら槍をブンブン振り回す十二歳の少女は、こういう修羅場を幾つも乗り越えてきた。
「私の側を離れちゃ駄目。怖いのは解るけど、意識をしっかり保って!」
床や壁を変形させて足場を作ると、足場を駆け上がり敵の背後に回る。問答無用で攻撃をすると、こん棒を生成して撲っていく。
「……凄い……」
「褒めてくれてありがとう。けど終わりじゃないわ!」
「あの! 名前を……」
「こんな時に? ある意味大物だね。私はティタ」
「ティタ!? ロイズの英雄の!」
「その肩書き恥ずかしいよ。貴女の名前は?」
「リームです!」
「リームちゃんね? なんだか初々しいよ」
「ティタさんだって子供です!」
「そうなんだけどさ。そんなことを忘れちゃうくらい大変なんだ、毎日。無茶をするのが一緒だから」
ティタの向く先にはウルがいる。リームは、ティタの後ろ姿を見ただけで理解した。女の勘というものだ。
(ティタさんは、ウルさんのことが好きなんだ)
「危ないのだよ!」
リームに襲い掛かる殺し屋達。ティタの反応が遅れてしまうものの、リームを囲むように現れたバリアによって、殺し屋達は跳ね返された。
「ごめん、メルちゃん」
「無茶をするのはティタちゃんも一緒なのだよ」
「あはは」
「えーと……あ! お花屋の!」
「ボクがどうかしたのだよ?」
「ノランのお花屋で花束を買ったと聞いたんです」
「うん。確かに買ったのだよ」
戦場で話をしだす女子達。メルがバリアを張っているが、話に夢中になるあまり、バリアの方の集中力が切れていた。強度が落ちたバリアが破られてしまい慌てだす。
「「うわあああ!?」」
「世話の掛かるお姫様だな!」
空間に出現した穴に殺し屋達が吸い込まれていく。背中に背負った剣を抜いた銀髪の少年は、穴から出てきた殺し屋達を斬っていく。
「ありがとうなのだよ! メイル」
「戦いの最中に気を抜く奴があるか。命取りになるぞ」
「メイルが守ってくれるのだよ……でしょ?」
「……調子のいい。ティタ、メル、リーム。僕から離れるなよ!」
「「うん!」」
四人から少し離れた場所では、ライドとキリナとにょんちゃんが戦っていた。一人の少女の的確な読みで殺し屋達を倒していく。
「殺し屋が聞いて呆れる。まるで歯応えのない」
「そうやって舐めていると死にます」
「キリナ少尉は厳しいな。少しは強さに酔わせてくれないかね」
「自惚れるのも大概にしてください。ワタシが大尉を撃ちますよ」
「それは怖いな。殺し屋よりも怖い」
ライドは稲妻を纏い攻撃していく。殺し屋の動きをキリナが銃で止め、武力はにょんちゃんが削ぐ。三人を襲う殺し屋達は、三人に触れることも叶わないでいた。
「上から来るしょ!」
「もう! しつこい男は嫌われるにょんよ!」
「押して駄目なら引くのも手。恋の駆け引きの基本だ」
「大尉が言っても説得力ありませんが」
あっという間に片付けると、ライドは煙草を吸い始めた。苦しみに悶えながら倒れている殺し屋達。
「助かったよ、メリーちゃん」
「礼には及ばないしょ。残るは一人だしょ」
「君の予知で視えるかね?」
「今の戦いで視すぎたから無理しょ。けど、視るまでもないしょ」
「それもそうだね。彼が負けるところが想像できん」
仲間が、百人の殺し屋達の姿に絶句しているリーダー。それでも殺意が消える様子はない。目を大きく見開いて戦場を確認すると、両腕を伸ばして動き出す。
「殺し屋を……舐めるな!」
殺し屋は、リームとティタを引き寄せて人質に取る。二人の首元に針を突き立てて笑う。
「動けば最後、この二人は死ぬ! いいか、動くな!」
靴に仕込んだ刃を露出させ、右足を伸ばして蹴っていく。刃には核を封じる薬が塗られており、メイル、メル、メリー、ライド、にょんちゃんの核が封じられてしまった。
「次は貴様等だ!」
エクスとウルに蹴り出す。しかし、その蹴りは途中で止まる。リーダーの手にリームとティタが噛みついたのだ。
「……処す!!」
リーダーから離れて走るリームとティタだったが、靴の刃によって背中を斬られてしまう。殺意が籠った刃は鋭く、背中は血塗れになってしまった。
「……エク……ス……」
「……ウ……ル……」
そのまま意識が途絶えたリームとティタ。リーダーは蹴りをエクスとウルに向けてきた。
「よくも……俺のティタを……」
「よくも……僕のリームを……」
「「……許さねえー!!」」
リーダーの顔面を二人の拳が抉っていた。




