命令
あの日も涙を流していた。約束の日を迎えても、約束の日を過ぎても会うことはなかった。かれこれ五年前。五歳のエクスは、偶然出会った少女と約束を交わした。
「また来週、ここで会おうね」
「うん! 分かったよ、お姉ちゃん!」
五歳のエクスにとって、少女は立派な女性に見えた。とても頼もしく見え、とても綺麗に見えた。
「どうして? お姉ちゃん!」
一向に会えない少女を強く想い、いつの間にか惹かれていた。それが恋だとは思っていない。恋がなんなのかも分からない。もう一度会いたいという想いだけが強くなっていく。
「……会いたいよ」
そこに咲く花の香り。花に興味があるわけではなかった。毎日のように来ているため、花の香りを覚えてしまったのだ。香りを嗅ぐ度に想いが膨らむ。その想いが叶わないと思うほど、大粒の涙を流す。
「……お姉ちゃん!」
それからというもの、エクスは景色や花に興味を無くしてしまった。元から無かったのかもしれない。辛くなるから避けているのかもしれない。
※ ※ ※
「殺してやるよー!!」
十歳の少年が五人の大人を圧倒している。子供は加減を知らない。怒りに任せて攻撃しているから尚更だ。大人の身長を越す跳躍力からの蹴り。たったのひと蹴りで気絶をさせてしまうほどの威力。
「何者だ!?」
仲間が次々に倒れていく状況に動揺を隠せない殺し屋。目の前にいるエクスの変わりように驚くしかない。
「僕は僕だ!」
驚異的なスピードで間合いを詰めると、渾身の拳を殺し屋に抉り込む。壁に叩き付けられ腹部を押さえる殺し屋の視線の先には、殺し屋から奪った短剣を握り締めるエクスがいた。
「……殺し屋を舐めるな」
「殺す! 殺して僕も死んでやるよ!」
殺し屋との間合いを詰めて突き刺す体勢に入る。狙うは心臓。エクスの目は血走っている。殺し屋の心臓目掛けて短剣を突き出す。一瞬の躊躇いもなく。だが止まってしまう。止められてしまう。割って入ってきた英雄によって。
「……やめろって」
「ウル……さん!?」
ウルはエクスを宥めると、背後に立つ殺し屋を強く睨んだ。そして戦闘態勢へ。
「セラテシムン元帥からの命令により、お前達を生け捕りにするって!」




