怒りの覚醒
ホテルで一泊した二人は、朝一の列車でカムールへと向かった。カムールへの本来の目的はスイーツを食べることだが、昨日の話が気になってしかたない二人に、頼んだパフェの味を楽しむ余裕はなかった。
「僕達と別れてカムールに行ったんなら……」
「……ソアの可能性があるね」
「気になるよ。殺し屋に追われているのかもしれない」
「昨日の人達のニュアンスだとそうかもね」
「リーム。僕……」
「ソアを捜すんでしょ? 顔を見れば分かる」
「……そんなに分かりやすいか?」
「私だから分かるのかもね」
パフェを平らげた二人はお店を出ると、カムール司令部の方向に向かって歩き出す。なんとなく軍人の通りが多い気がする。
「カムール研究所へ見回りに行った奴等が戻らない? 了解。ちょっと見てきます」
連絡を受けた軍人が車に乗ろうとする。その軍人に声を掛けたエクスとリームは同行を志願した。
※ ※ ※
「ここで待ってなさい。それが同行の条件なのを忘れないこと!」
「「はい」」
軍人がカムール研究所の中へと入っていく。車の中で待機する二人。見回るだけなら十分程で済むのだが、二十分経っても戻ってこない軍人が心配になる。
「ちょっと遅くないか?」
「慎重になってるんじゃない?」
「それならいいんだけど」
更に十分が経つが戻ってこない。エクスは車を降りて扉を少し開ける。電気がついているため明るいが、中から物音はしない。
「駄目だって!?」
「もう三十分だよ。いくらなんでも遅いよ。中で何かあったんだ」
「な、何か?」
「……殺し屋が居たりして……」
「変なこと言わないで~」
「……僕は行く。リームは待っててよ」
「私も行く! エクスだけで行かせたくないから!」
リームの目を見てコクッと頷いたエクス。ゆっくりと扉を開けて入っていく。扉が完全に締め切ったと同時に奥から物音が聞こえてきた。抜き足……差し足……忍び足で進んでいく二人の視界に飛び込んできたのは、二人を連れてきてくれた軍人の姿だった。近付いて声を掛けたものの、既に息絶えていた。
「そんな!?」
「エクス……危ない……逃げないと」
恐怖で身体を震わすリームの肩に軽く触れ、奥へと進むエクス。円卓が置かれた部屋へと踏み入れた瞬間、血の臭いが鼻を突く。
「子供が何の用だ?」
口元を隠した者達が立ち上がる。服には返り血がベットリと付いていた。
「軍人が死んでたよ!」
「我々が殺した。口封じだ」
「殺し屋なのか?」
「そうだ。もう一度訊く、何の用だ」
「黒髪で褐色の女の子を捜してる」
「そうか。だが残念だったな。一足遅かった」
そう言って仲間に指示をだす。仲間の一人がエクスの前に放り投げたのは、縄で身体を縛られた挙げ句、何ヵ所も刺されて血塗れなソアだった。
「ソア!?」
「無駄だ。もう虫の息。放っといても死ぬ」
「エクス?」
「来ちゃ駄目だ!」
リームが震える身体を押して付いてきた。エクスの言葉も一歩遅く、ソアの姿を見てしまう。
「……嘘……でしょ?」
「嘘ではない。この状況を見られた以上、貴様等を生かしておくわけにはいかない。処す」
「リーム逃げろ! 早く逃げろ!」
「でも……ソアが!?」
「早くしろ! 殺される!」
「……遅い」
短剣がリームに突き刺さる。一瞬の出来事に反応出来ずに倒れる。服に血を滲ませて苦しむリームに駆け寄ると、エクスは必死に呼び掛ける。
「リーム!!」
「……ごめ……ん」
「しっかりしろよ!?」
「……エクス……生きて……ね」
リームが目を閉じる。エクスが呼び掛けても返事はない。リームの身体が冷たくなっていく。その身体にエクスは涙を溢す。
「直ぐに追わせてやる」
殺し屋の短剣がエクスを狙う。しかし、短剣を持つ殺し屋の腕は受け止められた。涙と怒りを露にしたエクスが受け止めたのだ。
「よくも……リームを!!」
エクスが殺し屋の身体を殴り飛ばす。エクスの髪は少し逆立ち、目付きも鋭くなる。
「フフッ。いい眼だ。いい殺しの眼だ」
「……殺してやるよー!!」
殺し屋達の中へと飛び込む。エクスの身体能力は凄まじく上昇していた。




