聞き耳
二人は、ロンドからカムールに向かうべく列車に乗っていた。カムールで評判のスイーツを食べるためだ。
「カムールまでは長いよ。退屈しのぎが欲しいよ」
「飲み物も食べ物も準備万端! 心配要らないね」
「それでも退屈だよ。リーム、トランプ持ってる?」
「持ってるわけないじゃない。私は便利屋じゃないの!」
「だよなー。なんだかごめん。うーん」
「ねえ、エクス。気になっていることがあるんだけどね?」
「何?」
「リバルナ盗賊団の頭と遭遇した時、身を挺してまで私を守ってくれたのはなんで?」
「そんなの当たり前だよ。友達を守るためだ」
「……それだけ?」
「それだけってなんだよ?」
「自分の身も危なくなるのに?」
「そんなの覚悟の上だ。何もしないで殺されるくらいなら、友達の盾になって殺されるよ」
「エクスの友達は、私以外にもいるでしょ?」
「それはそうだけど」
「命を安売りしないの! あの時は嬉しかったけど、もう無茶はしないでね」
「う、うん」
エクスは疑問を浮かべていた。何故、今訊いてきたのか? その日の内に訊いてきてもいい筈なのに。
「なんだか久し振りだね。二人きりなの」
「そうか?」
「そうだよね。そうなんだよね。精進の儀を始めてから数日なのにね」
景色を眺めるリーム。その横顔を眺めるエクス。ロンドからノランに行くために乗った車内でも見た横顔。大して何かが変わったわけではないのだが、エクスの、リームを見る目が変わったのかもしれない。
「さーて、食べよう!」
「やっぱり景色に興味ないわけ?」
「僕の興味は食べ物にある。空腹には勝てないよ」
「花より団子なんだね」
「なんとでも言えよ。ほらほら! リームの分も食べちゃうよ」
「それは駄目~!」
※ ※ ※
二人はホテルに泊まるために途中下車する。チェックインを済ませてロビーのテーブルについた。他のテーブルにも宿泊者が座って話をしている。何の気なしにジュースを飲んでいたが、とある単語が耳を突いてきて驚く。
「聞こえたかよ!?」
「聞こえたね」
二人は耳を傾ける。そうやって単語を何度も耳に刷り込んでいく。ジュースを飲み終わった頃には会話は終わっていた。
((黒髪に褐色の女の子))




