夜の静け
夜な夜な、カムール研究所に集まる集団。円卓を囲みながら話しているが、そこの全員が口元を隠している。電気の明るさをも殺す殺気が渦巻いている。
「ソアが、掟を破ったようだ」
「そんな気がしていたし驚かないが、きちんとケジメはつけないと駄目だ」
「若い老いは関係ない。殺し屋の務めを放棄しただけでなく、仲間を身代わりにしたんだからな」
「〝死んでも殺せ〟……殺し屋の信念を貫けなかった以上、そいつに待つのは死だ。殺し屋が殺しから逃れることは許されない」
「非情になれ、無情になれ、だ。それが出来なくなった時点で殺し屋失格。人の道を歩くなど言語道断」
その場の誰もが批難する。ソアを庇う者はいない。そして、極めの一言が飛び出した。その一言に全員が頷く。
「ソアを……裏切り者を処す!」
言葉を発した男の目は冷たかった。
※ ※ ※
ロンド司令部の元帥室。椅子の背凭れに身体を預けて『にょーん!』と背伸びする女性。〝きゅうちゃん〟から〝にょんちゃん〟の姿へと戻ったテレサ元帥だ。
「随分と疲れているね?」
「誰のせいだと思ってるんですか。元帥が居ないことを悟られないよう大変だったんですよ」
「だらしないよ! もしも私に万が一があったらどうするの」
「それは一理ありますが……ん? 〝私〟ですか? すっかり元帥モードのようですが」
「仮面が壊れちゃったの。代わりの仮面がないから落ち着かないの。ねえ、どこかに仮面ないかな?」
「ないですよ。まったく、大人なのに」
「年齢は関係ないの! 気分の問題なの! にょーん!」
「はあ。なんなら造ってもらえばいいのでは? 生成の娘にでも」
「おお! その手があった! 流石は元帥補佐官だね!」
「そうですか?」
(決めるときは決めるのに、どこか抜けているんだからな。まったく……なんで惚れてしまったんだか)
補佐官は、夜空に浮かぶ月を見る。椅子に凭れるにょんちゃんと月を見比べ、少し口元を緩めるのだった。




