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笑顔の別れ

 朝のロンドは早い。街が、人が目まぐるしい。眠気を覚ますために吐き出される不満に聞き耳を立てる少女が一人。


「テレサ元帥はいつまで持つかな?」


「さあ? あんだけ可愛いんだ。どこかのボンボンに貰われていくのが落ちだろうぜ」


「お飾りで終わらないでほしいけど」


「この間の改革が最初で最後の花火だったり」


「「あはは! 」」


 ジュースを啜りながら聞いていた少女は溜め息を吐いた。不満や愚痴を言われるのは想定していたが、ひとつのワードは想定も納得もしていないからだ。


「どうしてにょん? どうして〝可愛い〟って言われるにょん」


「言葉通りって。にょんちゃんは可愛いって」


「納得いかないにょん」


「そこは納得しとこうって」


「じゃあウルクンは、にょんちゃんを可愛いと思ってるにょん?」


「俺、十二歳だって。一回り以上離れてる人間に訊くのは野暮って」


「答えてにょん!」


 きゅうちゃんの姿で迫るため、ウルの面前に立っているのは、仮面を取った十歳の少女である。ウルは照れてしまう。ウルのその反応が答えであった。


「ウルクンもにょん! 天使に申し訳ないにょーん!」


「面倒な人だなって。仮面の天使」


「それを言わないでにょん!」


「あはは。ま、それはそうと、まだまだ不満がなくなりそうにはないって」


「それはしょうがないにょん。そこは頑張るしかないにょん」


「そっかって。そんじゃ一旦戻るって」


「大丈夫にょん? ちょこちょこ皆と離れて」


「大体のことは伝えてるから。にょんちゃんのためって」


「ありがとうにょん。皆にもよろしくにょん」


「うん」


 ウルはにょんちゃんの前から姿を消した。にょんちゃんは、仮面が壊れてしまったため、代わりの仮面を求めてお店を巡るのだった。


※ ※ ※


 ホテルをチェックアウトした三人は、ロンド駅の前まで来ていた。


「本当に行くのかよ?」


「もう決めたのじゃ。殺し屋から足を洗うということは、裏切り者として追われること。貴公と嬢を巻き込みたくはないのじゃ」


「ソア……」


「なんじゃなんじゃ、妾と離れるのが寂しいのか?」


「誰が寂しいもんですか!」


「エクスと戯れるチャンスじゃぞ?」


「誰が戯れるもんですか!?」


「動揺しちゃってうぶじゃの。ま、そこがいいのじゃがな」


 ソアはリームに握手を求める。いつものからかいかと思ったが、ソアの目は本気だった。


「誰かをからかうのも程ほどにね。……またね!」


「ああ、またじゃ!」


 握手に応じたリームに嬉しさを感じつつ、柔らかい笑顔を見せたソア。颯爽と駅の中へと消えていくのだった。 

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