笑顔のシチュー
ロイズから三時間掛けてノランに到着した。ガイドブックを確認しながら歩き出すリーム。その後を付いていくエクス。歩く道が静かなことに驚くリームだが、後ろを付いていくエクスは顔色を変えない。腕を組ながら辺りをキョロキョロしてもだ。無反応というよりも無関心という感じだ。
「随分と静かだよね、エクス」
「そう?」
「意外と無口?」
「何にもない所だからな。喋る切っ掛けがない。家とか畑とか田んぼとかに興味ない」
「こういうのも旅の醍醐味! もっと進めば変わるから!」
それから更に歩くと、レストランが見えてきた。『あれだ!』と言って駆け出すリーム。エクスも釣られて駆け出す。レストランの前に立つだけでシチューの匂いが分かる。それだけ注文されているということだろう。
「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」
「二人なんですけど空いてますか?」
「ちょうど空いたところなのでご案内出来ますよ!」
「よかった~。待たずに座れるなんてラッキーね」
「それには同感だよ。行列なんて嫌だ」
テーブルに案内され座る。メニューを渡され見るものの、頼むものは決めている為、直ぐに返す。リームがシチューを二人分注文すると、ピッチャーからグラスに水を注いでエクスに渡す。見事な流れに感心するエクス。
「ありがとう、リーム」
「水を注いだだけでお礼?」
「感謝することは大事なんだよ。自分がされて嬉しかったら感謝する。その気持ちを言葉にする。今の僕、おかしかった?」
「ううん! おかしくないから! 感謝されて嬉しい」
「安心したよ。嫌な気分にしたのかと思った」
リームの言葉を聞いて安心するエクス。水を一口飲んで店内を見る。パスタやハンバーグを頼んでいるお客もいるが、やはり人気はシチューである。パンを一緒に食べている。
「今思ったんだけど、牛乳平気?」
「冷たい方が好きだけど。シチューは好物の一つだよ」
「それなら安心。心置きなくシチューを堪能出来るね!」
五分程で来たシチュー。パンを手で一口大に千切ってシチューに浸すと、冷ましながら口に運ぶ。浸して軟らかくなったパンを噛むと、パンの香りと共に広がるシチューの味。
「美味しいね~!」
「正直侮ってたよ。うん、三時間の価値はある」
「気に入ってくれたようでよかった」
「評判通りでよかったな」
「本当だね!」
ニコニコしながらシチューを食べるリーム。本当に嬉しそうに食べているのが分かる。
(たまにはアリかもな……こういう食事も)
リームの笑顔を見て嬉しくなるエクス。食事の新たな楽しみを発見したのだった。




