表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/40

本当の涙

 そこは戦場。斬る者、貫く者、撃つ者が対峙する戦場。そこにルールは存在しない。生き残るか……殺されるか、その結果が全てなのだ。そんな世界に生まれた以上、生き方も死に方も一つしか知らない。殺せば生き、殺されれば死ぬ。


「……妾……ここは」


「起きたかよ」


「っ!?」


 ベッドから身体をピクリと動かす。反射的に反撃に出ようと手足が動く。が、反撃の武器がない。


「それも条件反射なのかよ?」


「武器は! 妾の武器は!」


「きゅうちゃんが回収したよ」


「〝きゅうちゃん〟? あれは元帥じゃ!」


「知ってるよ。けど僕にとっては〝きゅうちゃん〟なんだよ」


「妾のことも聞いたのか?」


「ウルさんがいきなり現れた時は驚いたよ。あの後、きゅうちゃんから聞いた」


「だったら離れるのじゃ。妾は殺し屋じゃ。貴公を殺してしまう」


「ソアはソアだよ。僕達の友達だよ」


「笑わせるでない。上っ面な表現はよせ」


「じゃあ殺しなよ、僕を」


「!?」


「僕の気持ちは上っ面なんかじゃない。ソアが殺し屋として、この場で僕を殺したいなら殺しなよ。殺し屋が上っ面な表現じゃなければ」


 エクスはソアの手を握る。優しく包み込む。その手を自分の心臓の前まで持ってくると、ソアの手から手を離した。


「殺し屋は、心臓を一撃で止められるって聞いたよ。僕は逃げない」


(何を言っているんじゃ!? これは本気なのか!?)


 震える手。動かない手。エクスの息の根を止めるのは簡単で、素性を知られた以上、殺すのが殺し屋の掟。


「な、何故じゃ……出来ぬのじゃ!」


「殺し屋ってのが上っ面だからだよ!」


「違う! 妾は殺し屋じゃ! 妾は……妾は……」


「女の子だよ」


 エクスがソアを抱き寄せた。頭を撫でて髪に触れる。それからソアの顔を見てニッコリ笑うと、両手でソアの両頬を引っ張った。


「ううぇー!?」


「あはは! 意外とほっぺ柔らかいんだな」


「ふぁめぇるぉー!」


「僕をからかっているお返しだよ。ほれほれ」


「ひぃほぉう!」


 ソアの頬から手を離したエクスは、ソアの肩に手を置いた。真剣な顔でソアを見つめる。


「うん、そのくらいがいい。変な緊張が解けただろう?」


「……うっ……五月蝿いのじゃ」


 エクスに頬を弄られ強張りがなくなる。肩に手を置かれた挙げ句、こうして見つめられているので整理がつかないでいた。


「僕のことを好きって言うのはどうなんだ?」


「そんなの上っ面じゃ!」


 そう言った瞬間、胸の奥がキュンと痛む。チクチクと痛む。訳が分からないくらい苦しくなる。


「そっか」


「そうじゃ」


 目頭が熱くなる。視界がボヤける。涙が止めどなく流れ出す。ソアの心が葛藤している。


(妾は殺し屋じゃ! 殺し以外に世界を知らぬ! 知ってはならぬ! 貴公に近付いたのも殺しのためじゃ! なのになんじゃ……なんなんじゃ!?)


「ソアが上っ面で泣けるくらい器用なら、僕はとっくに殺されてるよ。でも、そうじゃないから僕は殺されてないんだよ」


「妾は……」


「その涙は本心だよ。その涙がソアの本心で、言葉に出来ないから泣いちゃうんだよ」


「……貴公が好きじゃ! 普通に生きたいのじゃ!」


「やっと本心を言ってくれた」


 エクスの胸に顔を埋める。わんわん泣いて身体を震わせて。


「何をしてるのおおお!」


 部屋に入ってきたリームの目に飛び込んだ光景。事情を知らなければ、単に男女が抱き合っているだけである。


「なんとかなったよ」


「へ、変なこととかしてないよね!?」


「してないよ?」


「あああ! なんか複雑ううう!」


「どうかしたのか?」


「どうもしないっ!」


 頬を膨らませながらソアを見るリーム。自分でもよく分からない感情を抱きながらも、ソアが本心を見せてくれたことは嬉しく思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ