殺し屋退治
二人組は人混みの中へと消えていく。狙いを定め駆けていく。口元を隠してはいるが、殺気に満ちている目は隠していない。殺し屋として、狙った獲物は逃がさないという表れである。
「あの物陰で実行だ」
「処す」
ターゲットが路地に入っていく。人目の付きにくい路地へと。ロンドでも昼間は静かな通り。夜に目覚める通りは閑散としていた。周りに人の気配はない。短剣を持ってターゲットに迫る。音も立てず静かに。背後から突き刺すだけの簡単な殺しだ。
「……誰?」
((気付かれた!?))
咄嗟に短剣を袖口に隠し、やり過ごそうと横切る。が、腕を掴まれ肩を外され、隠した短剣を奪われた挙げ句、地面に叩き付けられ動きを封じられた。鋭い目付きは驚きのものへと変わる。殺し屋としての絶対的な自信を一瞬で打ち砕かれた。
「誰?」
(いや、まだだ)
殺し屋は二人組。様子を窺っていたもう一人が飛び出していく。音を立てず静かに。背後から確実に。
「だーかーらー!」
ターゲットが向きを変える。背中を狙っていた筈なのに、気が付けば仮面を突き刺していた。一瞬の動揺が命取りになる。鳩尾を拳で突かれ悶えると、短剣を奪われこめかみを殴られた。
「あーあ。仮面が駄目になっちゃったきゅう」
(馬鹿な奴だ)
肩を外された方が背後から首を締め上げる。そのまま息の根を止めようとするが、きゅうちゃんが跳び上がり背中から地面に落下した衝撃で背中を強打する。
「うっ!」
「見た目で判断は駄目きゅう。子供だって大人を背負い投げ出来るきゅうから、大人を抱えて跳ぶことも出来るきゅう」
奪った短剣で二人組の両手を突き刺すと、血塗れた短剣を消滅させた。
「……殺しを失敗するとは!」
「……ヘマしやがって」
「きゅうちゃんに向けられた殺気には気付いていたきゅう。あえて無視していたけど、襲われた以上は仕方ないきゅう」
「……お前の正体は……テレサか?」
「元帥を殺そうと? それは困ったきゅう」
「……殺しの依頼だ……」
「テレサ元帥を快く思っていない人間はいるきゅう。殺し屋に依頼してまでってのは驚ききゅう」
「質問に答えろ」
「きゅうちゃんは、きゅうちゃんだきゅう」
傷付いた仮面を着けて二人を引きずっていく。小さな身体の少女が、二人の大人を引きずっている光景は異様だ。
「……どこに連れていく……」
「決まってるきゅう。ロンド司令部だきゅう」
「……ケッ! ヘマしたのは痛え」
ロンド司令部の門番に事情を説明して二人組を引き渡す。立ち去ろうとするきゅうちゃんを呼び止める門番。詳しい事情を話させるためだろう。
「よろしくきゅう!」
面倒に思ったため、きゅうちゃんはその場を走り去った。
※ ※ ※
「馬鹿な奴等だ。結局自分で動くのか」
口元を隠したソアの視線の先に映るのはきゅうちゃん。きゅうちゃんを見つめるソアの目は、殺し屋の目をしていた。




