朝疲れ
なんだか身体が重く感じる。金縛りなのかと思いながら、少しずつ目を開けていく。仰向けで寝ているエクスに覆い被さっている仮面の姿。朝の目覚めには悪い姿が視界に入る。その正体が誰だかは直ぐに分かった為、恐怖は引っ込んでいく。
「退いてくれない? きゅうちゃん」
「駄目きゅう。ちょっと驚くことを言うきゅう」
仮面をしたまま耳打ちをするきゅうちゃん。
エクスの目が瞬く間に見開かれる。あまりの告白に疑いの視線を向ける。
「嘘、冗談だよ、な?」
「嘘じゃないきゅう。本当きゅう」
仮面を外してニッコリ笑うきゅうちゃん。どこにでもいる少女の笑み。そんな少女から発せられた衝撃の事実。
「……なんで? 今言うんだよー!」
「ジタバタしないできゅう!?」
「エクス、おはよ……う!?」
エクスの部屋に入ってきたリームに映る光景。少年少女がベッドで朝から戯れる様子が映る。起きている時は外さない仮面を外して素顔なきゅうちゃん。寝起きのエクスを襲っているようにしか見えなかった。
「何をやってるのー!!」
※ ※ ※
「あはは。ちょっとやり過ぎちゃったきゅう」
「ちょっとどころじゃない! 私が入らなかったら、きゅうちゃんはエクスをどうする気でいたの!?」
「起こすだけだったきゅう」
「きゅうちゃんの正体を知っているから慌ててるの! だってそうでしょ? 色々と、ね」
「エクスクン。リームクンって、エクスクンのことが好きなのきゅう? ちょっと慌てすぎきゅうよ」
「はあ!? きゅうちゃんのことだけでも混乱してるのに、これ以上混乱しろと!?」
「きゅうちゃんの勘違いきゅう?」
「会って三日だよ!? そんな簡単に惚れるもの?」
「恋に時間は関係ないきゅうよ? 一目惚れかもきゅう!」
「そこ! さっきから私のことを面白おかしく言ってるね! 私がエクスに惚れるわけない! 絶対に!」
ビシッと言い切るリーム。そんなリームに『絶対に? じゃあ妾が貰ってもいいのじゃな?』と声を掛ける人物。髪を後ろで一本に纏めたソアだった。
「ソア!? どうして」
「そんなに驚くこともないじゃろう? ほれほれ、挨拶代わりの抱擁じゃ!」
初めて会った時と同様、ギュッと抱き付いてくるソア。エクスは顔を赤らめて照れてしまう。
「ソア!? やめろ!」
「何を照れておるんじゃ? 口では嫌がっていても、男の子は男の子じゃの」
「離れなさい! いつまでもくっついてるんじゃないの!」
「エクスは妾が貰うのじゃ」
「誰があげるもんですか!」
ビリビリと睨み合う二人。『しょうがないのじゃ』と言いながら離れるソア。渦中のエクスは二人の仲裁に入るが、『エクスは黙ってて!』とリームに追い返された。
「どうしよう!?」
「子供のことは子供が解決するきゅう」
「助けてよ! きゅうちゃん」
「原因はエクスクンきゅう。全てはエクスクン次第きゅう」
「……なんで面倒な……」
再び仲裁に入る。門前払いされるものの食い下がり、リームを落ち着かせてソアに向く。エクスからマジマジと見られて照れるソア。
「ソア。僕は誰のものでもない」
「今は、じゃ」
「好きになってくれているのは嬉しいよ。けど、その気持ちを一方的に押し付けちゃ駄目だよ! ……どうしても僕と一緒にいたいなら、お前が僕達と一緒に来るんだ」
「僕達、か」
「うん。旅の仲間として」
「やれやれじゃ。貴殿からの誘いを断るのは嫌じゃ。折角のチャンスを逃がすわけがあるまい。が、妾は諦めないのじゃ。絶対に貴公を振り向かせてみせるのじゃ」
「えーっ!?」
「付けられるよりかはマシだよ。悪い奴じゃない」
「……うう~! エクスがいいなら」
「ありがとう、リーム」
リームの承諾を得てホッとする。きゅうちゃんとソアのことで、朝からドッと疲れるエクスであった。




