気になること
ライドから色々な話を聞いたエクスは、意気揚々とリイムのホテルへと来た。憧れのウルがホテルに泊まったのが自分と同じ十歳だったことを知り、なんだかウルに近付けたようで嬉しいのだ。ホテルのフロントにウルのことを訊いてみると、『昨日泊まったよ。今朝チェックアウトしたよ』と言われて驚く。
「ウルさんが泊まった部屋、空いてる?」
「空いてるよ。部屋は二つかな?」
「今回はラッキーだな、リーム。きゅうもいるのに、一つしか部屋が取れなかったらどうしようかと思ったよ」
「友達とホテルに泊まるのは初めてきゅう」
「私も昨日が初めてだったから緊張した~。一つしか部屋が取れなくて大変だったんだ」
「エクスクンと相部屋だったきゅう!? 大丈夫だったきゅう!?」
「大丈夫だったね。まあでも、エクスをナンパした娘がいたんだ。そしたらねっ! エクスの顔にキスしたんだよ!」
「ほう! それは大胆だきゅうね」
「リーム! フロントで話すことないじゃないか!?」
「へえ~。そうやって焦るってことは、やっぱり、気になっているんだね~?」
「気になってなんかないよ!」
「まあ、私には関係ないけどね」
フロントから鍵を受け取ると、各々部屋へと入っていった。ウルが泊まった部屋に入ったエクス。ソファーに座ったり、ベッドにダイブしたりと大はしゃぎだ。
「ウルさんが泊まった部屋……。どんな風に過ごしてたんだろう? どうやって過ごせば、軍人と肩を並べて戦えたんだろう?」
窓を開けて風を取り込む。気持ちのいい風が身体を撫でる。ウルが泊まっていたイメージを頭に浮かべながら深呼吸する。
「……僕も何かを始めないと駄目か?」
※ ※ ※
「きゅうきゅうきゅう!」
「駄目だって! ベッドの上で跳び跳ねたら!」
「普段は出来ないことだから……あはは」
「家ではベッドじゃないの?」
「ベッドだきゅうよ? 普段出来ない理由は別だきゅう」
「そうなんだ。けど、ホテルでも跳び跳ねるのは駄目だね」
「えへへ。……控えるきゅう」
ソファーでダラけるきゅうちゃん。仮面をしたままダラける姿は滑稽だ。思わず苦笑いするリーム。どうして仮面をしているのか気になってはいるのだが、なかなか訊く勇気がなかった。
「リームクン、きゅうちゃんのことが気になるきゅう?」
「えっ!? い、いや……うん。エクスが訊いたときには、色々で片付けられちゃったからね。きゅうちゃんが追っているのと関係してるの?」
「さっきも言ったけど、素顔で出歩くと、勘の鋭い人に気付かれちゃうきゅう。きゅうちゃんが追っているのに、きゅうちゃんの正体がバレるのは避けたいきゅう」
「正体……って。何か隠しているみたいな言い方だね」
「隠してるきゅうよ? この仮面は、きゅうちゃんの正体を隠す為の盾だきゅう」
「私やエクスにも言えない?」
「教えてもいいきゅう。絶対に信じないと思うきゅう」
「これからも一緒に過ごすのなら、知らないより知っている方がいい」
「しょうがないきゅうな~。その代わり約束してきゅう。絶対に誰にも言わないって! 出来るきゅう?」
「うんうん! 約束するね!」
きゅうちゃんは仮面を外して話始めた。さっきまでの感じは消えて、大人が子供に話すように。
※ ※ ※
「……二十回……限界だよ」
エクスは腹筋に挑戦していた。普段運動をしていないのがバレバレである。力尽きて床に寝そべってしまった。
「疲れるのは嫌だよ」
腹筋で痛めたお腹を擦りながら座る。気分を変えてシャドーボクシングを始める。やり方など分からなかったが。
《えええええ!!!?》
「……ん? なんだ今の声?」
※ ※ ※
「声が大きいきゅう!?」
「はっ! ごめん……なさい。びっくりし過ぎて」
「エクスクンにもこっちから言うきゅう。それから、敬語はよしてきゅう。名前は〝きゅうちゃん〟でお願いきゅう」
「……はい……じゃなくて、うん。それにしても驚いちゃった!」
「アッサリ信じてくれたことに驚いてるきゅう。まあ、これからもよろしくきゅう」
「それにしても大丈夫なの? その……セラテシムンは」
「大丈夫になるように動いてるきゅう。頼もしい協力者もいるきゅう」
「きゅうちゃんが言うなら信じるしかないね」
「信じてもらうと助かるきゅう!」




