至福の一服
リイムに着いた三人は、国軍大佐の件で事情を聴かれていた。聴取を担当しているのは、ロイズ司令部のライド大尉とキリナ少尉である。
「リイムに向かう列車で起きたことを処理するのがロイズの人間とは。リイムで処理してくれた方が楽なのだが」
「我が儘を言わないでください。身内が起こしたことの処理を任せるのには相応しくないという判断です」
「多少の口論ならば厳重注意で済ませるが、大佐の件はそうはいかない。面倒なことを起こしたものだよ」
「キミ達が大佐を取り押さえたのよね。お手柄だけど、あまり無茶はいけないわ」
「無茶はしてないきゅう」
「あらあら。随分な自信家のようね」
(この仮面、どこかで見たような?)
「どうしたきゅう? キリナ少尉。きゅうちゃんの顔に何か付いてるきゅう?」
「いいえ、そういうわけではないわ」
(気のせいよね。それにあの仮面、今は一般向けに販売もされているし)
「ライド大尉だっけ? さっきから僕をジロジロ見てきて気持ち悪いよ」
「ジロジロ!? す、すまない。私の知り合いと初めて会った頃を思い出していたんだ」
「思い出していた? その知り合いと僕が似てるの?」
「ああ。軍人に対して物怖じしないところとか」
「僕が怖がる理由がない」
「フッ。そういうところだよ」
「その知り合いのことを教えてよ。気になってしょうがないよ」
「個人のことをペラペラ教えるのは気が引けるのだが」
「ざっくりでいいよ、ざっくりでいい!」
「まあ、彼も有名になっている。その知り合いの名はウル。私の弟子でもある」
「ウル!? ウルって……あのウルさん!?」
「そうだが?」
(彼の名前を聞いただけでこの反応とは)
「前言撤回! ざっくり撤回! 言える範囲で教えてよ!」
目を輝かせてせがむエクス。エクスの顔を見て、出会った頃のウルと重ねる。
「私は相変わらず弱いようだ。そういう眼差しに」
「お話は構いませんが、先に大佐の件を片付けましょう、大尉」
「そうだったね。大佐は煙草が吸えなくてイライラしたらしいが、同じ喫煙者としては、喫煙のマナーを守ってもらいたいものだ」
スタスタ大佐の元へ行くライド。縄で縛られている大佐の前にしゃがむと、煙草を一本くわえてニヤる。
「何の真似だ! 俺様は大佐だぞ!」
「ええ知ってますよ。大変なヘビースモーカーであることも。短気を起こさなければ、至福の一服を堪能出来ただろうに」
「大尉、貴様!」
「短気は損気、ですよ」
ライドはライターで煙草に火をつける。大尉である自分が大佐を見下せるひとときと共に味わうのだった。