8.フェアリーリングの話。そして、ポーションを売り捌いていたら竜人族の女冒険者と飲み比べになってしまった話。
この世には、妖精の指輪と呼ばれる代物がある。
それは、妖精女王ティターニャの残した形見の指輪であり、着けているものを不老不死にさせる魔法の指輪である。
森から一歩も出られないはずの樹妖精も、フェアリーリングがあれば森から離れることができる。
火山の妖精も、海辺の妖精も、フェアリーリングがあれば世界を渡り歩くことができるのだ。
千年妖精となり魔力を大幅に蓄えたラナでさえ、契約者からの毎日の魔力供給がなくては、顕現し続けるのは難しい。
しかし、フェアリーリングさえあれば、アルが死んだあとも、世界を渡り歩くことができる。
ラナの願いは、そのフェアリーリングを手に入れることであった。
◆ ◆ ◆
その日の夜はアルとラナが、『仲良しのポーション』を使って仲良くすることが分かりきっていたので、ルッカはちょっとだけ外をぶらつくことにした。
本当に二人には呆れるばかりである。確かに仲が良いことだ、と改めて考えさせられてしまった。
「今夜は外泊かなあ」
ぽつりと呟くと、きゅい? とリュータが返事をしてくれた。竜の赤ちゃんリュータは、本当に人懐こく育ったと思う。最近はアルとラナの二人にも撫でてほしいとせがむようになった。
あの二人はいないの? というようなつぶらな瞳がルッカに向けられた。
「だーめ、あの二人は仲良しさんなの」
つん、とリュータの鼻先をつついてから、ルッカはくすくす笑った。
「……そうよ、あの二人は仲良しさんなの」
再度呟かれた声色は、ほんの僅かに羨むような響きがあった。
◆ ◆ ◆
フェアリーリングには伝承がある。
一つには、指輪を手に入れた者の願いが叶うというもの。そしてもう一つには、指輪には愛の妖精の願いが込められており、それを手にした二人は永遠の愛を得るというもの。
アルとラナは、その伝承を話半分に信じていた。
それこそ二人ともそんな伝承を鵜呑みにしたわけではない、が、ただ一つ、二人は指輪に込められた愛の妖精の願いを知っていた。
二人の見る夢は、とある小さな愛の夢。
契約者同士、心の繋がっている二人は、その願いを叶えるつもりであった。
◆ ◆ ◆
(ここの所、毎日が楽しいなあ)
その日の酒場は、いつにない盛況に包まれており、アルはというと上機嫌であった。
最近色々と上手くいっているためか、懐も温かく、気分もいい。街の勝負師ジョザから巻き上げた金貨三〇枚近く、ゴブリンキングの討伐金およびゴブリンの軍勢の討伐報酬で金貨三〇枚近く、さらにはポーションが全部売れたためか金貨七〇枚近く、合計で金貨一三〇枚ほどの利益を獲得している。
その内、金貨五〇枚をあの職人キュクロに渡して二人分のラメラーメイルを作ってもらっているが、差し引きで金貨八〇枚が手元にあるわけだ。
金貨八〇枚と言えば、向こう八年はぼんやり過ごせる資金だ。
それをこの迷宮都市にきてから五日程度でこさえたのだから、アルとラナは本当に規格外の存在である。
「ねえ、アル。私って重い女かな」
「どうしたんだよ急に」
隣でお酒を飲みながら、ぽつりとラナが呟いた。
「私ね、アルと勝手に契約しちゃって、毎晩魔力も貰って、世界を巡りたいっていう私の我儘のためにアルを利用して、それでお金のことも仕事のことも全部アルに頼りっきりで、凄く申し訳ないの」
「そんなことないさ。俺はラナがいなかったら今こうやって生きてなかったんだ。ラナのおかげだ。百年間ずっと、君が傍にいてくれたから、俺は今こうして楽しい毎日を過ごせてるんだよ」
「アル、私、思うの。私がいなかったらアルはもっと自由なのにって」
「違う。俺は自由だよ。自分の意志で、ラナの願いを叶えたいんだよ」
す、とアルの腕がラナに回された。二人の距離が少しだけ縮まる。
しばらく言葉は交わされないまま、お互いにゆっくりと酒を飲み進めるのみ。騒がしい周囲をよそに、二人の間には無言の空気だけが共有されていた。
(ラナったら、酒に当てられて急に落ち込んだか?)
甘えるようにこちらに身を預けてくれるあたり、別に自分のことが嫌いになったわけではないらしい。
そう考えてちょっと安心したアルは、無言でラナの頭を優しく撫でることにした。
訳もなく、少し心細くなっただけなのだろう。であれば、とやかく言葉を弄するのではなく、こうやって頭を撫でるなりして安心させてあげる方がいい。
そう思っての行動であったが、反対の隣に座っていたルッカにとっては気にそぐわなかったらしく「うへぇ」と舌を出していた。
「うへぇってお前な」
「はいはい、ごちそうさま」
「もう料理、食べないのか?」
「そうじゃないけど、別の意味でお腹いっぱいってこと。まあ、犬も食わないってやつだよ」
ルッカはそう言うなり、「はい、あーん」とリュータに餌を与えていた。
フードを目深に被って顔を隠した彼女は、どこからどう見ても、すぐにはルッカだとは気付けない。アルの調合した染髪料を使って髪の色も染め直しているため、随分と外見の雰囲気も変わっている。フードで顔を隠しているのは念のための警戒である。
「そんなに人前でいちゃいちゃしてたら、絶対にごろつきに因縁つけられるよ」
「? それが美味しいんじゃないか。トラブル上等さ」
「……本気で言ってる?」
「上手に料理すれば、トラブルは儲け話になるさ」
しれっと涼しい顔でとんでもないことを言うアル。隣のラナはそんなアルを「素敵……」とか何とか言っている。甲斐性がある、頼れる人、とかそんな風に脳内変換されているのかもしれない。
とんでもないカップルだ、とルッカに思われていることは露も知らない。
酒のおかげか、アルの口舌は少しだけ滑らかになった。
「昔、交渉人に憧れて、司法官資格(弁護士免許)を取得したことがあってな」
「え? は?」
「交渉人って知ってるだろ? 人と人のトラブルがあったとき、その間に入ってトラブルを解決する人間。司法官(弁護士)の資格があれば、法律上の書類手続きとかも色々と自由が利くんだ」
「え、え? 嘘?」
「そりゃ、個人融資業と賞金稼ぎなんてトラブルになりそうな仕事をやってるんだ。司法官免許があった方が絶対便利だろ?」
「待って。え、司法官、ほんとに? アンタって何者?」
気を良くしたアルは「昔は『闇金融』なんて言われてたな」なんてことを口にして、酒をあおった。
「まあ、そうは言っても実態は法律ヤクザ崩れさ。事件屋みたいなこともたくさんしてたし」
「……アンタって本当に面白い経歴してるのね」
ルッカは呆れながら苦笑を浮かべた。
そんなときだった。
「――おい、そこのイチャイチャしてるお前! 何だ、お前! アタシに見せつけようって腹かい! ええ!?」
突然、大きな声が酒場に響いたかと思うと、アルの目の前にずんずんと大股で女がやってきた。
ルッカの鞄から顔を出していたリュータが、慌てて首をひっこめた。それほどに、その女は威圧感がたっぷりと漂っていたのだった。
酒に悪酔いしているためか、どうにも怒りが頭にきて収まらないらしく、一種危険な怒り方をしている。目は吊り上がった三白眼、口は不機嫌なへの字、とどうにも恐ろしげである。
そのまま、女は酒瓶を机に叩きつけた。めでたく目論見通りトラブルが舞い込んできたというわけである。
「失礼。貴方はどちら様ですか?」
「あ? アタシは竜人族のルヴィルだ。アタシを知らないってどういうモグリだ?」
「個人融資業と賞金稼ぎのアルヴィスです。名の知れた人だとは、失礼致しました」
アルが丁寧に応対すると、ルヴィルの様子が、ちょっと怪しくなった。微笑を浮かべて、ちろり、と舌をなめずらせている。
「……良い面構えしてやがるな? え?」
「恐縮です」
「ふぅん? 坊やにしては体つきも悪くなさそうだ……。そういやお前、ゴブリンキングを狩った大物ルーキーだとか言われてたね……」
先程までの激昂もどこへやら、相好を崩したルヴィルはとたんに目を細めて、不穏に笑んだ。
瞳の奥に意味深な光が宿っており、値踏みするような視線を遠慮なくアルに飛ばしている。
が、アルとしても、突然因縁をつけてきた彼女が急に機嫌を良くした理由も分からないので、無言で静観する他ない。
(何だ? この前の因縁男ダグラスのような絡み方をしてきやがって)
確かに数日前、ダグラスとかいう男冒険者に、人前でいちゃつくなんて俺への当て付けか、と同じような理由で絡まれたことがあった。
が、あの時はラナのお陰で何とか暴力沙汰にはならなかった。
今回はどうだろうか。このルヴィルという竜人属の女冒険者、なかなか強そうな気配が漂っている。
ダグラスもけして弱そうではなかったが、しかし目の前のルヴィルからは、それ以上の油断ならない気配がする。
それに、ステータス解析魔術の結果を見ても、驚くほど高い数値が出ている。
保有魔力量がずば抜けて高く、筋力なども遜色ない。
はっきり言って只者ではない。
(それに、周りの反応も妙だ……囃し立てるような奴がいない)
前回、ダグラスに絡まれたときは「だはは! 因縁男のダグラスか!」とか何とか周囲が騒いで楽しんでいた。
が、今回は打って変わって、皆が関わり合いたくないかのように静かである。
どちらかというとこれは、前回、勝負師ジョザとトランプ勝負をする羽目になったときの空気が近い。
例えるならば、こいつヤバい奴に目を付けられやがった、というような空気だ。
あの勝負師ジョザは、詳しくは知らないが平凡陳腐の筋モノではなさそうであった。
となると、同じく目の前のルヴィルも、平凡陳腐という訳ではなさそうである。
「あの、お姉さんはどういったご用件で」
「――お姉さん!」
がば、と目を輝かせて手を取ってくる竜人の女に、アルは思わずたじろいだ。
何が嬉しかったのかは知らないが、この女は「今の、いい」とか何とか訳のわからないことをしみじみと呟いている。
アルとしては、ほとほと困り果ててしまった。
というのも、隣のルッカが冷や汗を浮かべているのが、フードの隙間から見えてしまったからだ。
恐らくルッカは、このルヴィルという女の恐ろしさを知っているに違いない。しかもC級冒険者のルッカをこれほど警戒させるとは、相当の手合いである。
それともう一つ、アルが困っているのは、反対側の隣にいるラナのことであった。
恐ろしいほどの無表情で、ルヴィルを見つめている。どうやらアルの手を握られたことで嫉妬と警戒を露にしているらしい。
酒場全体が、千年という悠久を生きる妖精の凍てつくような殺意に満たされた。
「な、な、アタシのこと、もう一回お姉さんって呼んでくれないかい?」
「あの、ご用件をお伺いしたいのですが」
「かー、つれないねえ。アタシの頼みだってのに無視ってかい。……まあいいや、用件だって?」
「特になければ、今日はお引き取り頂けませんか」
「なあアルヴィス」
ずい、と身を乗り出して、ルヴィルは耳元でささやいた。
「お姉さんとちょっぴり、イイコトして遊ばないかい?」
瞬間、殺意が憎悪となって、酒場全体を吹き荒れた。
千年妖精を中心に渦巻くそれは、今にも人を憎悪で呪い殺さんばかりの濃密なものであった。
◆ ◆ ◆
「酒飲み勝負?」
「ああ、そこの嬢ちゃんもそれなら文句はないだろ?」
どか、と目の前に大きな酒樽――竜殺しというどぎつい酒だ――をおいて、ルヴィルはいとも簡単に言ってのけた。
ルールは簡単。手に持った杯で酒を掬い、お互いに同じタイミングで飲んで、飲んで、飲む。
ただそれだけのことだ。
それ以上もそれ以下もない、どちらが先に降参するかというものだ。
「アタシが勝ったらお前は一晩アタシと付き合う。お前が勝ったらアタシは身を引く。いいね?」
「ええ、結構です」
先程、ルヴィルが酒樽を持ってくるまでの短い時間に、アルは必要最低限のことをルッカから聞き出した。
ルッカ曰く、ヤバい奴だとのことであった。
(A級冒険者、『火竜』のルヴィル。酒癖が悪く、よく男漁りに酒場に顔をだす。後輩の可愛い男冒険者を、半ば強引にさらっては好き放題するという女傑)
何でも、年の頃が一五ぐらいの少年が一番好みらしい。
アルに声をかけたのも、年の頃がまさしく外見年齢一五程度で、見た目も爽やかだったからであろう――中身は百歳を超えているのだが。
要は、このルヴィルという女の好みのタイプど直球だった、ということであった。
アルは溜め息をついた。
このルヴィルとやらは、自由奔放にも程がある。
「さ、さ、さ、早くやろうぜ! アタシはあまり気が長い方じゃないんだ!」
このルヴィルという美しい女が、未だに録な恋人がいないのも、その男癖の悪さ故であった。
ほぼ毎晩こうやって酒場に繰り出しては、よさげな男にちょっかいをかけたり、男娼を買い込んだりする。
飽きも早く、すぐに男を取っ替え引っ替えする始末。
さらに言えば、『火竜』という二つ名の意味こそが、彼女ルヴィルの周りに男を寄せ付けていない原因でもある。
全く女らしくもない破天荒ぶりである。
(酒呑み勝負、ねえ。話の筋から言って、ラナに勝負を挑むのかと思ったが、敢えて俺の方に勝負を挑むとは……)
こちらを酒に酔わせるつもりなのだろう。
ルヴィルの腹の底が透けて見えるようで、アルは思わず苦笑した。
「酒に酔わせて男を襲い込むとは、天下の『火竜』も悪いお方だ」
「あん? 何でアタシの二つ名を知ってやがる? アルヴィスはアタシのことを知らなかったんだろ?」
アルは、さあね、と適当にはぐらかした。
「まあ、とりあえず勝負といきましょうか」
「へ、そうでこなくちゃな。アタシは威勢のいい男は好きだぜ?」
両者、杯を墫に落として一杯分の酒を掬った。竜殺しの強い匂いがつんと広がった。
(匂いだけで酔いそうだな……)とアルは思ったが、この際腹を括るしかなさそうであった。
「では」
「乾杯」
お互いの杯が目線と同じ高さにまで持ち上げられてから、すぐに勝負は始まった。
◆ ◆ ◆
観客は目の前の光景に、言葉を失っていた。
竜殺しといえば、ニガヨモギを主原料とした薬草を使ったリキュールで、度数は80%を越す。
火気が近くにあれば引火するほどに危険な酒で、例えば煙草を吸いながら飲んだりすれば事故に繋がる。
そんな竜殺しの主な飲み方は、カクテルにして割って飲むものだ。そのまま飲むだなど、阿呆のすることである。
そして、その阿呆が今二人、ここに対峙していた。
「は、四杯目まで持ちこたえるとは上等だな……!」
「意外と美味しいですね、これ」
全然平気そうな二人が、もう一杯とばかりに竜殺しを飲んでいる。
顔色を全く変えないルヴィル。竜人族は、元々酒に滅法強い種族で、ドワーフに並ぶほどの酒豪の種族でもある。
が、その竜人族をも殺す、と言われている竜殺しを、ルヴィルはもう四杯も飲んでいる。周りの観客の方が心配になるほどであった。
では、もう一方のアルはどうなのか。
種を明かすと、こちらも全然平気であった。
(アルコールはその二割が胃で、八割が腸で吸収される。が、吸収を阻害すれば大体の問題はクリアーできる)
アルコールの吸収を阻害する――そんな離れ業を、アルは簡単にやってのけていた。
古来より、バター・サワークリーム・オリーブオイルなどを飲酒前に接種すると、アルコールの吸収を抑えることができると知られてきた。
これらに含まれる脂肪分は、胃や小腸の吸収をゆっくりにさせる効果がある。
アルが実践しているのは、それをより高度にさせたものである。
すなわち、胃・腸粘膜の表面に、マナマテリアルによる粗密多孔膜を張ることだ。
PDMS膜は、エチルアルコールを弾く効果があり、工業的にもアルコール分離に用いられている。
ゆえに、アルの体内にはアルコールが殆ど吸収されていないのであった。
吸収されたアルコールも、体内ナノマシンにより早急に分解して、今は事なきを得ている。
アルが度数80%の酒を前に平然としているのは、それが理由であった。
「ぐ、やるな……! 七杯目までいくとは恐れ入るぜ……!」
「まあ、ルヴィルさんも無理しないでくださいよ」
酒はどんどんと進み、ついに七杯目になって、ルヴィルの方が少し頬に赤みが差してきたようであった。
アルはというと、飲んでばかりいるのでいい加減何か食べたい気分である。
チーズや焼き菓子をつまみつつ、まだ終わらないのかと至極冷静に考えていた。
とうとう一〇杯目で変化が起きた。
「……はっ! やべえ、お前、ザルだな……!」
「恐縮です」
ルヴィルの体がふらふらとし始めたのであった。
これはまずいな、とアルは顔をしかめた。体の自律が聞かなくなった証拠だ。アルコール血中濃度を試算してみたが、随分とまずい数値が出ていた。
あの杯は平たいものなので、一杯40mlもないだろう。だが、一〇杯ともなれば400ml、あの女の体重が70kgと仮定してもアルコール血中濃度は0.4%程度である。
アルコール血中濃度が0.5%もあれば、死ねる量だ。0.4%など、洒落にならない泥酔である。
「だ、……けどよ、……アタシも、面子があらぁ……!」
「一旦水を呑みませんか?」
水を3000ml飲ませれば、気休めにはなるだろう。二日酔いを防ぐ程度の効果が見込める。
だが、ルヴィルはそれを断ってさらに杯を酒樽に沈めた。
「次……だぜ……!」
「死にますよ?」
「上、等……!」
がば、と口に流し込むルヴィル。遅れてアルも酒を煽ったが、ルヴィルはそのまま杯を落としてしまった。
へなり、と料理で体が汚れるのも気にせず、机に突っ伏すルヴィル。もはやそんなことを気にする余裕もないのだ、とアルは気付いてしまった。
(……面子もあるということだし、引き分けにしておこうか)
勝負は引き分け、それでいい。
そう思ったアルは、ルヴィルに「引き分けですね」と耳元で告げた。
返事はなかった。
(寝てるのか? まあいい、なら勝負は終わりだ)
周囲のちらりと見渡したアルは、観客がやや怯えていることに気がついた。
あの『火竜』を酒で潰した男、ザルにも程がある、だとかそんな声がちらほらと聞こえてくる。
きっと明日にでもなれば、もっと噂になっているだろう。
アルはその場で「すみませーん」と店員を呼んで、勘定を頼んだ。
竜殺しがちょっとだけ高くついたが、この程度なら全然大したことではない。
側にいたルッカとラナに「出るぞ」と短く告げ、アルは店を出ようと思い、ふと足を止めた。
「……やっぱこのまま放置はまずいかなあ」
「……」「……」
明らかにこの女の自業自得なのだが、しかし見捨てるのは不穏である。
(……寝てる間に下衆な男が、何やらするかも分からないしな……)
はあ、と溜め息をつきながら、アルはそのルヴィルを背負った。




