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閑話 迷宮のゴブリン王がオークに下克上を突き付ける話。

 

 古来より、ゴブリンとは弱い魔物の代名詞であった。

 繁殖力の高さは、種としての弱さを意味する。

 弱いからこそ生き残るために繁殖しなくてはならない。

 それがゴブリンという弱い魔物の性である。


 ここに一匹のゴブリンがいる。


 ゴブリンキングの息子、ギーグは、強き者(ジバオ)氏族のゴブリンであった。

 そして彼は、一〇〇〇匹以上のゴブリンの集落、ジバオ氏族の跡継ぎとして育てられ――今や、野良ゴブリンと成り果てていた。


 全ては、前任のゴブリンキングである父ゲハルドが何者かによって殺されたからである。


 それは突然のことであった。

 四〇〇匹ものゴブリンを統率する父の手にかかれば、この森に覇を唱えることも不可能ではない――と、ギーグは信じていた。


 ギーグだけではない。

 父に付き従う四〇〇のゴブリンたちは皆、それを固く信じていたのである。


 そして、それは訪れた。ゴブリンたちを突如襲った神の怒りと千年妖精の怒りが、彼らをことごとく殺したのだ。


 ギーグは恐怖した。

 訳もわからぬ内に、仲間が、友が、弟が死んでいたのだ。

 あまねくゴブリンたちが死んでいた。

 見渡す限り死んでいた。

 悲しみに暮れる暇などなかった。


 そのまま、彼はついに決定的なものを見つけてしまった。

 その視線の先では、死ぬことなどあり得ぬと固く信じてきた唯一の存在――父が死んでいた。




 ◆ ◆ ◆




 族長を失って右往左往しているジバオ氏族のゴブリンたちを支配下において、オークたちは今宵、上機嫌であった。


 長期にわたってオークたちは、格下だと思っていたゴブリンたちに苦しめられてきたのだ。

 名をジバオ氏族。

 憎きゴブリンキングのゲハルドが頭角を現して以来、オークたちは、ゴブリンごときに辛酸を舐めてきたのであった。


 しかし今宵、そのジバオ氏族のゴブリンたちは、このバドゥ氏族のオークたちの元に降参することとなったのだ。


 バドゥ氏族のオークキング、ポルコ・バドゥはほくそ笑んだ。


【――あの憎きジバオ氏族が、我らがバドゥ氏族に降ったのだ!】


 宵闇の中、オーク王ポルコは、大きな声をあげて高笑いした。


【あの、あの憎きジバオ氏族が! とうとう、我らに膝を屈したのだ! ああ! ああ! 何と愉悦であろうか!】


 ポルコの笑いは止まらなかった。

 今までゴブリンに手こずったせいで、さんざん愚王と馬鹿にされてきたポルコにとっては、今回のことは愉快で愉快でたまらないのだ。


【さあ! どうやって復讐してくれようか! 男は奴隷に! 女は全て慰みものにしてやろう! ああ! 実に、実に愉快だ!】


 笑い狂うポルコ。


 今や、ジバオ氏族には戦士はいない。

 話を聞くと、森の精霊ドリュアスに手を出したジバオ氏族のゴブリンたちは、突如狂いだし、仲間を蹴り殺したりなどして、最後は溺れ死んだのだという。


 ポルコに言わせてみれば、実に愚かなことである。

 他の種族の女を貪ったツケで、自らの種族の女子供を守る戦士がほぼ全滅するなど、滑稽極まりない。


 それが祟って、今このようにオークたちに、好き放題されているのだから――。


【さあて、今宵は勝利を祝って、祝祭を開こうぞ! なあに、食糧などジバオ氏族から徴発すればよいだけのことだ!

 ジバオ氏族の食糧庫を空にする勢いで、飲み食いし、騒ごうではないか!!】


 オーク王ポルコは、負け続きだった兵たちの士気を上げるため、また長年の努力を労うため、盛大な祝宴を開くことに決めた。


 その考え自体は妥当なものであった。

 兵法においても、兵の士気はとても重要な要素である。


 魔物たちには兵法なる概念はない。

 が、感覚としてオーク王は兵士の扱い方を知っていた。

 生き物は、ときに休息を取らねばならないのだ。

 大いなる勝利に兵たちが歓喜している今こそ、英気を養うとき――とオーク王ポルコは考えたのだ。


 その選択を後悔するのは、随分と後になってからのことであった。




 ◆ ◆ ◆




 それは、宴というよりも、狂態であった。

 言葉にするならば、もはや略奪という方が近いかもしれない。


 オークたちは、飯をたらふく食らい、酒をしこたま飲み、そして騒ぎに騒いで、深夜を迎えた。


 騒ぎ疲れのためか、見張りのオークの数も少ない。

 引き換えに、ゴブリンたちがその見張りの役目を買って出ていた。


 否、オークの末端の兵士たちはこれ幸いと、ジバオ氏族のゴブリンたちに見張りを押し付けたのである。


 無論、オーク王らはそのようなことは知らない。

 もし事実を知っておれば、即座にその兵士たちを打ち首にしていたところであろう。


 こういった饗宴の後こそ、騒ぎ疲れた無防備な兵士たちを守るために、見張りを強化しておくべきなのだから――。


 一寸先も見通せないような、深く暗い夜闇の中。


 夜目の利く一匹のゴブリンが、月明かりのみを頼りにして、弓を構えた。


【今だ】


 ひょう、と空を切る音がして、見張りのオークの脳天に矢が刺さった。

 叫ぶ間もなく、オークは死んだ。


 騒ぎの気配はない。

 どうやら、他のオークはここにはいないらしい。


 そのことを確認すると、ゴブリンは後ろに向かって告げた。


【ここの見張りは死んだぞ。行け、ここから突入せよ】


 おう、と応じる背後のゴブリンたち二〇匹。

 並びに、ダイアーウルフ五匹と、ハーピィが一匹。


 彼らは、この集落に訪れた二〇〇余りのオークを殲滅しようと目論んでいるのだった。


 先頭のゴブリンは、矢継ぎ早に指示を下した。


【ダイアーウルフ騎兵。お前たちは強襲役だ。眠りこけていて、装備すら着込めていないようなオークたちを片っ端から殺せ】


【盾兵たち。お前たちはダイアーウルフ騎兵どもに続け。お前たちはうち漏らされたオークたちにとどめを刺すのだ。分かったな】


【そして、ハーピィ。お前は空から異変がないかを見張れ。この笛はオークには聞こえない音の笛だ、異変があれば吹け】


【さあ、俺に続け! 憎きオークどもを始末してくれようじゃないか――!】


 そのゴブリンの檄と共に、夜の戦いは静かに幕を開けた。

 目的は、餌に引っ掛かったオークどもの殲滅。


 ダイアーウルフにまたがって先陣を切るそのゴブリン――ゴブリン王の息子ギーグは、かつてない高揚感を胸に、丑三つ時の闇の中を駆け抜けた。




 ◆ ◆ ◆




 ――何だ、これは……?


 ――何だ、何だというのだ……これは……っ!?


 目を覚ましたオーク王の眼下には、信じられぬ光景が待ち受けていた。


 オークたちが、ゴブリンたちにいいようにやられているのだ。

 ある者は槍で喉を突き殺され、ある者は寝ているうちに首をかっ切られ、ある者は胸や脳に矢を生やして死んでいる。

 酒で酔っ払っていたり、騒ぎ疲れて深く眠っていることをいいことに、ゴブリンどもはオークたちを、これ幸いと殺し回っているのだ。


【一体どうなっている!? 俺は見張りを徹底せよと厳命したはずだぞ!】


【お、お言葉ですが王、皆は今日までろくに羽目を外して騒ぐことはなかったのです。今日ぐらいは、と多目に見てやっても……】


【その結果がこれか!? ふざけるな! どこのどいつも、油断しすぎだろうが! 何故見張りの重要性を理解できないのだ!?】


【は、はあ。しかし夜見張るのは二、三体だけでもよいではありませんか。何かあればその時に起こせばよいのです】


【阿呆が! 見張りは即座に動ける戦力ぞ! もしその二、三体のみの見張りが一斉に殺されてみろ! 誰が我々を起こすのだ!

 そうでなくとも、生き物は即座には眠りからは起きられぬ! 起きてすぐには兵装だって整えられぬ! 飛び起きたところで、武器も持たぬまま裸で出ていけば、そのまま殺されるのが関の山だ!】


【で、ですが、ゴブリンごときに我らが遅れをとるなど……】


【目の前の光景を見よ! これが! 現実だ! 腹も苦しいほどに満ち、酒に酔い、騒ぎ疲れて眠りの最中、武器も持たないオークが、復讐に怒りを燃やすゴブリンとどうやって対等に戦えるのだ!】


【しかし、連中はゴブリンですぞ!】


【――それほどいうなら! 貴様! さっさとゴブリンどもを殺してこい!】


 もはや言葉では埒が明かぬ、とオーク王ポルコは諦めた。

 代わりに、側近たちに矢継ぎ早に、武器をとって連中どもを殺せと命じる。


 いつもこうなのだ。

 オーク王ポルコは、自分と周囲との物の考え方の違いにいつも苦しめられてきたのだ。


 ――何故連中は見張りの重要性を分からぬのだ! 夜襲の恐ろしさを理解できぬのだ!


 歯噛みするポルコは、どうやってこの場を切り抜けるかを必死で考えていた。


【は、我々の命に代えてもゴブリンどもを殺してみせます!】


【行け!】


 幸い、接近戦ともなれば、オーク一体でゴブリンを三体は相手にできる。

 正直なところ、体格が違いすぎるのだ。


 これで当座は凌げたか――とオーク王ポルコは考え、まずは自らの装備を整えることにした。




 ◆ ◆ ◆




 戦ってみれば、オークどもは実におろかであった。

 ギーグの予想では、三〇体も殺せば上等だと考えていた。


 当初は、襲撃で一〇体ほどを殺したころに、見張りの誰かに気付かれるだろうと思っていた。

 それを防ぐため、上空にハーピィを待機させ、伝令に走るオークを射殺すことで時間を稼ごう――と、ギーグは考えていたのだ。


 が、蓋を開けてみたら、三〇も四〇も殺しても兵どもが慌てて起きる気配がない。


 ――これはうれしい誤算だ。今のうちにオーク王の首まで取りに行くべきか……?


 ふと胸の内に欲が生まれて、即座にそれを打ち消す。

 まだ慌てる時間ではない。

 今は、ひたすら殺して敵の兵力を削ぐのが目的だ。

 焦っては事を仕損じるのだ。


 そんなことを考えていたときであった。


【! ギーグ!】


 空からハーピィのピピの声がした。

 ギーグは思わず【笛を吹け! 声でバレるだろう!】と怒鳴りそうになって、何とか飲み込んだ。


 ピピは困った顔をして降りてきていた。


【違うの、ゴブリンたちが暴れているの!】


【! 何だって!? どういうことだ、俺の命令は絶対遵守を徹底したはずだぞ!?】


【この集落のゴブリンたちが、私たちに便乗してオークを殺し始めたの】


【――――!】


 小声で怒鳴る、という器用な芸当を行う二人。

 その声を潜めた会話で、ギーグは大体のことを理解してしまった。


 騒ぎに気づいたジバオ氏族のゴブリンたちが、それぞれ勝手に動き始めたのだ。

 正直ありがた迷惑だ。

 だが、兵力は喉から手が出るほど欲しい。


 逡巡して、ギーグは決断した。


【……俺たちは俺たちで動くぞ! 欲をかいてはダメだ! あくまで俺たちは、当初の予定通りに動く!】


 応、と背中のゴブリンたちが続いた。

 そして、眠っているものや寝起きで武器も持たない無力なオークたちを、一体一体着実に狩っていく。


 今は、魂の欠片を喰らうのだ。

 そうしなくては、勝ち目はない。




 ◆ ◆ ◆




【……何だこれは! もはや、我々の半数が殺されたようなものではないか! 一体どうなっている!】


 オーク王ポルコは激怒した。

 手元に集まったのは、僅か三〇体のオークたちのみ。


 あくまで最悪の場合の計算でしかないが――その場合は、二〇〇体のオークのうち約半数が殺されているであろう。

 あくまで感覚的なざっくりとした試算ではあったが、そう外れてはいないだろう。


 このとき、ギーグたちは六〇体あまりを殺しており、ギーグに便乗しだしたゴブリンたちも二〇体あまりを殺しているため、奇しくもこのオーク王ポルコの読みは大体当たっていた。


【ああくそ! 外で寝ているような奴は放っておいたが……それでも、この様か! くそ、くそ!】


【王よ、気を確かになさってください。我々は依然有利です。ゴブリンごとき、我々が平らげて見せましょう】


【ダメだ! こちらは慣れない地形、向こうは地形を隅々まで把握している。適当に散開して暴れるだけでは奴等の思う壺だ! 陣を組んで戦う他ない!】


【しかし! 我々は暴れたいのです! どうか、暴れさせてください!】


【……っ! くそ! それなら三人一組を徹底させよ! それなら容易には負けるまい! いいな! それを遵守しろ!】


【は! この命に代えてでも!】


【――それと! 俺と共に戦いたい奴は、一〇体ほどこちらに来い! 連中に、地獄のような戦いをお見舞いしてやるぞ!】


 オーク王ポルコの怒声に、オークたちは心を震わせて、目を輝かせた。




 ◆ ◆ ◆




 ――――――――――――!


 上空から鳴り響く笛の音が、ついにオークたちが動き出したことを知らせた。


 と、同時に、ギーグは僅かに歯噛みした。


 ――本来ならば、このピピの笛の音で、この集落のゴブリンたちが目を覚まして異変に気付く、という予定だったのだが……! やむを得まい!


 そうなれば、もっと上手くいったかもしれない。

 そんな皮算用をいつまでも引きずっている場合ではなかった。


 ギーグたちは、前もっての打ち合わせ通り、隊列を組んで敵を待ち受けることにした。


【――――ったか! いいか! お前らは――で、この――――で、――だというのだ!】


 遠くから聞こえてくる声は、明らかにオークのものである。

 何やらの罵声だが、内容はよく分からない。


【そして、お前らは――――おっと、お出ましのようだな、ゴブリンどもめが】


 ついに、向こうはこちらに気づいたようであった。

 相手の顔には、憤怒と喜悦が混じったような奇妙な感情が現れていた。

 少なくとも、戦意だけは有り余っているように見える。


 ギーグは遠くから吐き捨てた。


【……オーク王ポルコと見受けた。その首、もらい受ける】


【は、舐めるなよ三流ゴブリン。俺が負けるとでも思っていたか】


 そのまましばらく対峙する。

 動かないのは、お互いがお互いを観察しあっているからであろうか。


 夜の闇は、誠に恐ろしく深い。

 お互いの陣形は、あまりよく見えないというのが実情であった。

 だが、それでも少ない情報から相手を探ろうとするのは、お互いの冷静沈着な所であった。


 ――恐らく、相手は強い。生半可の相手ではなさそうだ。


 お互いにそう評しあって、空気の緊張は増した。


【王よ、早く戦いましょう! 奴等は腰抜けです! 今です!】


【黙れ。敵が何体いるのかを探っておるのだ】


【何体いても同じこと! 我々の武勇で一〇〇も二〇〇も殺してみせましょう!】


 ギーグは、闇の中から聞こえてくる会話に警戒をますます募らせた。


 みる限り、オーク王ポルコは兵たちを御しきれているとは思えない。

 が、一〇〇や二〇〇を殺せる、とあっさり言えるとは、どれほどの手勢なのだ――と冷や汗が垂れる。


 ここから見える情報では、あまり多そうには思われない。

 軍の影に隠れるとしても、一〇体が限度だろう。

 ギーグは相手が三〇体以下だと見当をつけて、素早く弓を構えた。


 ひょう、と矢がとんだ。

 オークの誰かに命中した。


【! ゴブリンの虫けらめが! 許さんぞ! 】


 幸い(・・)、致命傷じゃなかったようだ。

 オークたちは憤慨して、その瞬間に突撃を始めた。


【馬鹿! 挑発に乗るな!】


【ええい! 王よ! とくとご覧あれ! 我らが武勇を!】


 うおおお、と大声をあげて敵のオークが突進してきた。

 ゴブリンたちの盾兵で受け止めきれるだろうか――とギーグは考えたが、南無三、どうにでもなれと彼は覚悟を決めた。


【――盾兵! 構え! 受け止めろ!!】


 ギーグは仲間を信じて賭けに打って出た。ここは盾兵を信じて、当初の予定通りに嵌めるのだ。


【うおおおおおお!! 突撃せよ!!】


【盾兵! 来るぞ! 耐えろ!】


 激突。

 大地が揺らぐほどの衝撃が生じ、オークたちの突撃とゴブリンたちの大盾がぶつかる。


 痺れるような空気の圧。

 耳をつんざく恐ろしいほどの衝突音。


 身の丈を遥かに上回るオークの突撃を前に、ゴブリンたちは――驚くほど粘って押さえ込んでいる。


 好機。

 ギーグは、このときばかりは賭けに勝ったことを喜んだ。


【ダイアーウルフ騎兵! 今だ! 回り込め!】


 その怒号が発された瞬間、オークたちは、脇から何者かに襲われることになった。


 ダイアーウルフ騎兵。

 俊敏なダイアーウルフの突進と、その加速を利用したゴブリンの武器の一撃が、オークの側面から牙を向いた。


 オークたちは、武器をとって応戦する暇もなく、慌てふためいて次から次へと殺されていった。


【! 馬鹿な! 馬鹿な! ゴブリンが戦術だと!? いや、何だあれは! ダイアーウルフに乗るだなど聞いたこともない!】


 オーク王ポルコが、目の前の光景に絶句していた。

 暗闇の中でも、ダイアーウルフにまたがったゴブリンたちは見えるらしい。


 明らかな動揺と狼狽えを顔に浮かべ、ポルコは歯噛みをしているようであった。


【馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な! ゴブリンがオークの突撃を食い止めるなど、そんな馬鹿な! 大盾か!? 否、それでも食い止めきれるはずがない……! ――まさか!】


 やがて、オーク王は気付いたらしい。

 集落のゴブリンたちが勝手に暴れだしたというのに、何故、ギーグたちが自らの手で一体一体オークを殺すことを優先したのかを。


【そうだ、貴様らの魂の欠片を喰らうことで、俺たちは並大抵のゴブリンよりも強力になったのだ……!】


 それこそ、オークの突撃を食い止めることができるぐらいに、である。


 ギーグは、勝利の予感にほくそえんだ。


 今回の戦術の肝は、盾兵と騎兵である。

 盾兵が敵の突撃を食い止めているうちに、それを包囲するように騎兵が走り込んで、相手を側面から電光石火で仕留める。


 これぞ、有名な名戦術『金床戦術』である。


【……俺の負け、だと……?】


 オーク王ポルコが、眼前の光景に顔をひきつらせているその最中に、ギーグは弓を引き絞って、オーク王ポルコに放った。


【!】


 流石にポルコは速かった。

 矢の一撃を腕で防ぐや否や、彼はこちらに向かって強烈な勢いで突進してきたのだ。


【! まずい! 盾兵! 構え――――】


 流石にオークキングの突撃は盾兵たちが持つかどうかが怪しい――とギーグが考えるその隙を、オーク王ポルコは鮮やかに突いていた。


 走って、そして、跳んだのであった。


 剣を地面に突き立ててそれで跳ぶとは――と、流石のギーグも意表を突かれ、そのオーク王に二の矢を放てなかった。


 オーク王ポルコは、そのまま走り去って逃げてしまった。


【な、何てやつだ……】


 オークの癖にあんなに軽やかに走って跳ぶなど、誰ができるというのだろうか。

 やがて、ギーグは直ぐに現実に引き戻された。


 ――まだ戦いは続いている。オーク王ポルコを追いかけたいところではあるが、それどころではない、この集落のオークたちを殲滅する方が先だ。


 ギーグは、最後の最後で負けてしまったか、と苦渋を舐めさせられた気分になりながら、残ったオークの残党を狩ることを決意した。




 ◆ ◆ ◆




 これは、迷宮の中に多種族の魔物を従える国を作った、ギーグという名のゴブリン王の話である。


 後にこの戦い『ジバオ氏族の戦い』は、ギーグが歴史の舞台に初めてその頭角を現した戦いとして知られることとなる。


 ギーグの好敵手、オーク王ポルコは、しぶとく逃げ回りながらも、何度もお互いに鼻先をあかしあい――そして最後には、オーク王ポルコが、ゴブリン王ギーグのもとに配下として加わることで、決着がついたという。




 だが、このことは、ちゃらんぽらんな数理魔術師アルと花丸能天気の千年妖精ラナの二人の預かり知らぬままであった――。

 そしてこれからも、しばらくはそのような日々が続くのであった。



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