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――理論で殴れば大体勝てる―― 数理魔術師アルヴィスの旅  作者: Richard Roe
第一章 ゴブリンを一気に殲滅したり、ポーションを売ったりして荒稼ぎしていたら、いつの間にか国王(勇者)と戦うことになった数理魔術師
12/22

12.小手先の技術で渡り合ったものの、何か普通に勇者が強くて、それでもあの頑固職人から受け取った鎧の力を借りて、これが短剣使いの戦い方だと見せつける話。

 

『光の勇者』の得物は両手剣、アルの得物はナイフである。

 生憎、アルの愛用のナイフは武具屋に点検に出してしまっているので、今は予備のナイフで戦うほかない。


 が、ナイフと両手剣ではまともな戦い方はできない――というのが道理である。


 以前、ルヴィルと剣を交えたときは室内であった。

 故に、ナイフでも何とか両手剣のルヴィルと渡り合えたのである。

 そうでなければまともに戦えたかどうかさえ怪しいものだ。


 両手剣は単純に質量がある。

 鋭い鈍器という方が喩えとして正しいのだ。


 片や、ナイフは、小回りが効くが用途は限定的である。

 アルのナイフは、マンゴーシュのようにガードの部分がついているため、防御向きではあったものの、以前として不利である。


 即ち、この戦いでもし勝ちを求めるのであれば、アルの方から奇策を仕掛けるほかなかった。


「――strobe light」


「!」


 第一手は目眩まし。周期的に点滅するストロボの閃光魔術を発動。


 そこから即座に横に跳ぶ。刹那、アルの元いた場所を鋭い刺突が走った。

 間一髪の攻防。反応が遅れていれば死んでいた。


(――速い!)


 次いで、アルを狙って二撃三撃と剣が唸った。

 目が見えていないはずなのに――と思ったアルだが、これもまた心眼か、と直ぐに悟る。

 流石は光の勇者、伊達に勇者を名乗っているわけではないらしい。


 そこから始まる瞬間のやり取り。

 爆ぜる剣戟、散る火花、そして甲高い鉄の音。

 両手剣とマンゴーシュが激突してしのぎを削る。

 両者逼迫して間隙の緩みもない。


 突如、アルは気配を誤魔化した。

 ルーシェルの心眼を欺いて不意打ちの一手を与えるためである。


 気配は総じて三つに分けられる。即ち音、影、魔力である。

 足音とラメラーメイルの音を遮断。

 ストロボ浮遊体を他に二つ浮かべて、光情報を攪乱。

 そして自らの体内から漏れでる魔力を遮蔽。

 これにて気配は隠匿できた――という安堵も束の間、ルーシェルの剣は尚も衰えない。


 精彩は欠いている。が、油断を依然として許されないほど、剣は正確にアルの位置を捉えている。


(――音の反響!?)


 ルーシェルの芸当は常軌を逸していた。

 即ち、剣戟の残響、足音、その他の音を聞き分け、どこの音が不自然に(・・・・)吸い込まれて(・・・・・・)いるのかを狙っているのだ。


 剣戟が木霊する。戦いの場面はますますの激しさを見せている。

 既に十数合あまりの命のやり取りが行われた。


 ルーシェルは恐ろしく強い。

 それはアルも認めるところであった。


 だからこそ更なる、だめ押しのフェイクが必要となる。


 音の吸収を四方向から同時に発動。

 これで、音の気配の手がかりをすべて殺しきることに成功。


 あとは不意打ちを叩き込むだけで勝てる――そう考えたアルがステップを僅かに変えたその刹那であった。


「アークライト流奥義――」


 ルーシェルの身を煌めく光が包み、小さな剣菱がひしめき渦巻く。

 剣菱、剣菱、剣菱、剣菱――踊る燐光は輪を描いて唸った。


「――爆ぜろ、『聖なる楔』(ホーリーウェッジ)!」


 風切り音。

 剣菱が四方八方に牙を向いた。




 ◆ ◆ ◆




 アークライト家は、両手剣術と光魔術でのしあがった名家である。

 故に、魔術一辺倒、剣術一辺倒とはならず、どちらも極めることが求められた。


 父ルーシェルの得意は、剣術にあった。

 剣を扱わせると見惚れるほどに素晴らしい――反面、光魔術は分相応の程度。


【王国七剣】の一つに数えられる『光の勇者』ルーシェルは、しかし、アークライト家からすれば不出来な方の子であった。


 努力の人、という認識が正しいだろう。

 光魔術とて人に劣るほどではなく、むしろかなり闊達なほうでさえある。

 しかし、魔術に才能はなかった。

 ルーシェルが今のように剣術と並行して光魔術を使いこなすまでには、想像を絶する修練が影にあったのである。


 ルーシェルは、剣術でアークライト家を『光の勇者』にしたと言っても過言ではない。


 元々アークライト家は多くの勇者を輩出してきた名家である――が、秀でる一つには欠けていた。

 即ち、アークライトは面白味のない優等生、と軽んじられていた節があったのだ。


 ルーシェルはそれを鮮やかに塗り替えた。

 剣術一つで【王国】を沸かしたのである。

 それも、【王国七剣】に入るだけではなく、アークライト家の最強の代名詞『光の勇者』の看板まで背負い、尚且つ大陸の『剣聖四位』まで上り詰めたのだ。


 誰もが文句なく、【王国】の勇者はルーシェルであると認めた。


 国民は皆してルーシェルを称えた。

 大陸五大国のうち、やや憂き目にあった【王国】にとっても、ルーシェルの活躍は誉れめでたいことであった。


 絶好のプロパガンダ材料。

 そして、稀代の才の持ち主。

 ルーシェルが王家の血族として迎え入れられたのも、自然な流れであったと言えた。


 故に――――。




 ◆ ◆ ◆




 剣菱の雨の中を、掻き分けて踏み込む。

 アルは怯まない。

 この程度、大した攻撃ではない。


 アルはキュクロの作ったラメラーメイルを信じていた。

 竜の鱗を繋ぎ止めて作ったラメラーメイルの防御性能は、はっきり言って異常の一言に尽きる。


 キュクロはあの時、背を向けながら言った。


『俺は、ルッカのことが心配でならん。この前もジョザって野郎に捕まりかけたって話を聞いたばかりだ。いつか、あの子はとんでもねぇへまをしでかすに違いねえ』


『だが、俺はルッカの気持ちだってよく分かるつもりだ。あいつぁ、親父さんと同じだ。馬鹿たれだ』


『俺には剣しかないから剣をくれって、ルーシェルの坊主は泣きついてきたんだ。ま、俺は打ったんだがな。俺も、ひたむきなやつのために打つことぐらいあるもんだ』


『ルッカときたらよ、あいつも同じように泣きついてきやがるのさ。私には何もないから、防具を頂戴ってよ。ひたむきだったぜ。俺ぁ、まだ昨日のことのように覚えてやがる』


『二人とも、向こう見ずでひたむきだ。適性や才能はまったく似てない二人だけどよ、親子だぜ、あいつら。親子して馬鹿たれだ』


『お互いに、問題の本質(お互いの気持ち)が見えてやがらねえんだ。馬鹿たれめ。亡くなった母親が不憫でしゃあねえぜ』


『俺は二年黙った。ルッカのことを泳がせてやるつもりだった。俺にできるこたぁ少ないからな』


『……ルヴィルには見破られちまった。俺は、嘘はつけねえ性分らしい。つい、ルッカのことを心配しちまった。また人拐いにでもあってしまえばどうなるかってな。それを見破られた。抜かったぜ』


『……そいつは、ルッカにやるつもりだった鱗を使った鎧だ。硬さは保証する。最高に硬い』


『そいつの銘は「不器用(ゴーシュ)」。冗談が利いてるだろ――』


(冗談が利いてるぜ、こいつは)


 アルは、頬を切り裂く剣菱の雨を走り抜けて思った。

 この鎧は、本来はルッカのための鎧だったのだと。


 ルッカが、父ルーシェルと本気で喧嘩するときのために、ちょっとあの職人気質のドワーフがこしらえた不器用な鎧なのだと――。


(ほら、傷一つ付いちゃいない! これは、あのルーシェルの剣術からルッカを守るための鎧だったんだ。

 不器用なルッカが、それでも親離れするために喧嘩を決意したとき、その背中を押してあげるための、そんなあの頑固親父なりの偏屈なお節介だったんだ――)


 肉薄したとき、アルの体に四度の剣の線が走った。

 そのうち致命的なもののみをマンゴーシュのナイフで弾き、二つを体で浴びる。

 こんな無謀をやっても、鎧は無傷。


(ほら、ルッカ。頑固で不器用なお前にぴったりじゃないか)


 アルは短剣を斜に構えて刺突の形を作った。

 ストロボが一瞬止んで、ルッカにも見えるようにその姿がはっきり浮かび上がる。


 それはルーシェルにも同じことであり。

『光の勇者』は予想を上回る事態に、緊急的に本気の構えを素早くとって――。


(ルッカ、今から教えてやるさ。短剣使いの戦い方、よく見とけよ――)


 ルッカのためにも、短剣使いの勝ちかたを見せつけるようにアルは飛びかかり――。


 一閃、剣戟が交差して戦いが静止する。


 一瞬だけの会合、感覚として恐ろしく長いときが、その緊迫した空間を支配する。

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