93.消失
「っ、す、すごい。おっきな樹」
私たちは広場の中央に進み、世界樹が見えるようになるという境界に立つと突然目の前に途轍もなく大きな樹が現れた。根元に樹と同様大きな扉が付いた巨大樹。
それは境界に立った私たちの眼前にまで樹皮が迫っているほどだ。
驚いた私たちはいっせいに飛びのいて樹を見上げる。
「ホントだね。まさかここまで大きな樹になるなんて」
「……確かに大きいのぅ。しかし、何やらおかしくはないじゃろうか」
「ん、変、かな?」
「変な所?」
「確か、あの男が言っていた限りでは世界樹というものは見る者によって姿が違うのではなかったか?」
「そう、ゼロの言う通りじゃ。世界樹は姿が違って見えるはず。だというのに妾たちには同じ姿が見えているようじゃ。それに、妾たちだけじゃないようじゃ。周りの反応からしてこの場にいるものには同じく大きな、大きすぎる世界樹の姿が見えているようじゃ」
ロベリアと同じように辺りを見回す。確かに先ほどまで中央を見つめ呆けていた人が目を見開き上を見上げている。
「確かにあの、おじいさん、そういってた。なんで?」
「分からぬ」
「あ、あのっ、旅の方々!これはいったい……?」
疑問を浮かべていると広場の外にいたはずのおじいさんがこちらに駆けてきていた。
「あ、おじいさん。私達にも何が何だか……。お爺さんたちにもこの大きな樹が見えてるの?」
「え、えぇ。私のも同じく、巨大な樹が見えております」
「これは何なのかわからぬか?」
「………今までにこのような現象が起こったという話は聞いたことがありません。が、一つだけ、心当たりというか、もしかすると、というものがあります」
「何?」
「先ほど話していた試練ですよ。私が聞いた言い伝えでは試練が課せられるとき世界樹が姿を現す。という文があるのです」
「それって」
「今の状況にピッタリ?」
「はい。この現象と一致するのです」
「と、言うことは今試練が課せられたという事じゃろうか?」
「確定、ではありませんが。この状況で今ある判断材料で考察すると、それが一番可能性があります」
確か試練とは創造主の御使いを選定するものだった。
もしこのおじいさんの言うことが本当ならばいま試練が始まったという事。
「ねぇ、クロ」
あの時、巨大な樹が現れたときにこの広場に入ってきたのは私たち。つまり、御使いを選定する試練は私たちの誰か、あるいは私たちに課せられた。
「どうする?」
この試練を受けるのか。それをクロに問う。
「……クロ?」
返事を待ってもクロの声は返ってこない。
不思議に思い隣を見る。いつも、クロはスズの隣にいてくれたから今も隣にいるはず。はずなのに、
「クロッ!?」
いない。隣にも、どこにも。広場にクロの姿は見当たらない。
「ど、どうしたのスズ。って、クロ君?」
「む、クロはどこじゃ」
「わ、わからない。クロが、いなくなった……」
全く気付かなかった。さっきまでずっと隣にいたはずなのに、消えたことに気付かなかったのだ。
「ほ、ホントにいない。でもクロ君なら私たちに気付かれずにどこかに行けても不思議じゃないね」
「そうじゃな。こんな時にどこに行ったのやら」
「違う」
「違う?」
クロは確かに常識はずれで、異常で、私たちに気付かれずにどこかに行くなんて朝飯前。
気まぐれで、気分屋だから急にいなくなってもあり得ること。時々ふらっと消えて魔物を狩ってくることもよくあった。
だけど今回は違う。そう私の感が言っていた。
「クロが、連れ去られた……」
しばらくクロ不在




