91.世界樹へ
「さぁて、神創国に来たはいいが……世界樹ってどこにあるんだろうな」
「知らないで、来たの?」
「いや、世界樹っていうからにはめっちゃデカいんだろうと思ってたんだよ」
話の中に登場する世界樹って大体デカいからな。近づけばわかるだろうと思ってきたのだが、王都にそれらしいものはどこにもない。
「やっぱり町の中心にあるんじゃないのかな」
「そうじゃのう。世界樹と言えば神創国の象徴じゃからな。やはり警備も頑丈なのじゃろう」
「我も世界中を回っていたが、世界樹がどこにあるかなどという話は聞いたことがない」
「んじゃまずは町の中心を目指してみるか」
かなりの賑わいを見せる大通りを歩き適当に中心を目指す。
現在いる場所から中心を眺めると城と言うより教会っぽい大きな建物が鎮座している。
「あの中に入るのは、正攻法じゃ難しそうだな」
「忍び込むなら簡単だろうね」
「ま、一度行ってみてから考えるか」
もしかしたら期待薄だが民衆に公開されてるって可能性もあるからな。
世界樹見れたらそれで満足だからな。
露店を冷かしたりタレの効いた串焼きを食べたりしながらも中心に向かう。
しばらくすると開けた場所に出た。
中央広場といった感じの場所だ。
そして先ほどの大きな教会のような建物につながる橋があった。
その橋は沢山の民衆が渡っており何かしら渡るために必要なものなどはなさそうだ。橋の入り口に武装した兵士が立っているがただ立っているだけで審査的なものは何もしていない。
「なぁ、あの建物にはだれでも入れるのか?」
突っ立っている兵士に声をかける。声を掛けられた兵士は人のよさそうな笑みを浮かべ俺の問いに答える。
「はい、この教会は民衆に公開されているので入場は自由です。入場料もないのでご安心を。見たところ旅の方ですか?」
「あぁ、ここに世界樹があるって話を聞いてここに寄ってみたんだが、世界樹を見ることはできるのか?」
「はい、見ることは可能ですよ。しかし少し寄付することになりますが。払えないことはない金額ですので。私も一度見たことがありますが、あれはとても美しい物でした。是非旅の方も見てみてください。きっとその美しさに心奪われることでしょう」
「へぇ、そりゃ楽しみだ」
懸念だった世界樹を見ることができるかどうかだが、金を払うだけで見れるとはよかった。金なら腐るほどある。道中討伐した魔物の素材をちょくちょく売ってきたからかなり金はあるのだ。
「んじゃその世界樹とやらを見てくるよ。貴重な話をありがとな」
「いえいえ、それでは」
親切な兵士に礼を言い橋を渡る。
「よかった、ね」
「あぁ、ここまで来て見れないとか言われたら、無理やり忍び込むことになってたからな」
「今更だけど、そこで引き返すって選択肢がないところがクロ君らしいよね」
「じゃな、そこで引き返すなんて言ったらクロじゃない」
「……否定する気はないが、何だかなぁ」
ま、それは置いておいて世界樹拝みに行きますか。
四人を連れて教会の中に入る。ボロイローブを纏った真っ黒な男と二又の白狐の獣人、金髪オッドアイの少女に黒髪の少女、そして全身を漆黒の鎧で包んだ大男。
そんな異様なメンバーの俺たちは教会内に入った瞬間注目される。
町の中でも注目されていたがここではその倍は注目されてるな。
ってか今気づいたがスズは白い髪を隠していない。だというのに町の住民は全然忌避の感情を見せない。
禁忌と言うのは世界共通じゃないのかもしれないな。
周りの視線を無視しながら進む。巨大な建物と同じく講堂もかなりでかい。普通の体育館よりデカいぞこれ。
入り口からまっすぐ奥には木の像がある。
神々しさを醸し出すその木に向かって講堂内の人は拝んでいた。
もしかしてあれが世界樹?と考えたが兵士の言葉を思い出す。
世界樹は寄付しないと見れないらしい。神聖なものと考えている存在を見世物に金を集めていると考えられない行為だが、教会を維持するのに金はどうしてもかかるのだろう。
木の像の根元に一人の老人が跪き祈りをささげている。服装からして教会の関係者のようだ。
その老人に近づくと老人はすっと立ち上がりこちらに振り向き笑みを浮かべる。
「旅のお方、世界樹をご覧になられますか?」
「あぁ、そのつもりで来たんだが、よくわかったな」
「あなた方の服装からしてただの旅人ではなく冒険者の方々だと推測したのです。冒険者がこの教会を訪ねてくる理由と言えば世界樹をご覧になることが主ですから」
「やっぱ多いのか?」
「そこそこですね。冒険者は好奇心旺盛な方が多いですから。では世界樹の元へご案内しましょう」
そういって進みだす老人。俺たちは顔を見合わせた後老人の後を追う。
いよいよ世界樹とご対面だ。




