83.仇
勢いよく飛び出した2人。ミーシャは魔法を使いやすいポジションを取り、ジンは大剣を握り込んで一気に接近する。
ジンは先ほどの力任せのような感じはせず仮に行った時に見せてもらった戦い方ができている。
鋭く振られた大剣は正確にチュウの喉元を狙っている。普段の獲物ならこれで狩れるだろうが今回は相手が相手だ。普通の腐人とは桁違いの力を振るうチュウはジンの大剣を紙一重でかわし反撃する。チュウの武器は指先から生えた鋭い爪だ。
その爪からは紫の液体が滴っており、その液体が垂れた地面はジュッと音を立てて溶けている。偽神と同じ体液だろう。今までの腐人にはそんな特徴は見られなかったんだが、何か条件があるのか?
溶ける地面を見てその液の危険性を察したジンは一旦距離を取る。一滴二滴ならば問題はないだろうが、その爪が刺さり液が体内に流れ込んだら致命傷は免れない。
ちらっとミーシャとアイコンタクトを取るジン。何か仕掛けるのだろう。
「『フレイムジャベリン』!」
ミーシャの詠唱で宙に現れた9つの炎球。ミーシャの周りをぐるぐる回るそれは突然軌道を変えチュウへ向かって飛んで行く。ランダムに方向を変えながら行く炎球は全方位からチュウへと襲いかかる。
流石にステータスが上がっていようが9つの方向から予測不能な軌道を描いて飛んでくる炎球を避ける事は難しかったようだ。轟轟と燃え盛る炎球がチュウの両手へと命中する。
「ギィィイイイッ!」
耳障りな声を発しながら焼け焦げた右手を眺めるチュウ。その隙を逃すわけもないジンが背後から大剣を振りかぶる。
「これでっ、終わりだぁあ!」
大剣自身の重さを利用した振りは一瞬にしてチュウへと到達する。しかしギリギリ反応したチュウが左手を犠牲にして大剣から逃れる。そして先ほどまで焼け焦げていたはずの右手がジンへと振り抜かれる。
「っ!」
全身の力を注いだ止めの一撃を避けられたジンは体勢を崩した状態だ。そんな体勢でそれを避けられるわけもなく鋭い爪がジンの残った右肩に突き刺さる。
「ぐぅっ」
痛みに顔を歪めるがジンの目はまだ諦めていない。
「あああぁぁぁぁあああっ!」
全身から声を振り絞り叫んだジンが大剣を振るう。至近距離から振られた大剣をチュウは避けることができるわけもなくジンの攻撃を食らう。その一撃はチュウの両足を膝下から切断した。
「ミーシャ!」
「『マグマフィールド』!」
ミーシャの魔法で赤く溶け出す地面。それに触れたチュウの体が発火する。
今のチュウに移動するすべはない。ミーシャの魔法範囲から逃れられないチュウはギャァギャァと叫びながら炭となっていく。
醜く叫びながら炭化するチュウをジンとミーシャは悲しげな顔で見つめている。
腐人化する前のチュウを思い出しているのだろう。ミーシャの言い方からしてかなりいい人だったらしいからな。
それにしてもここ腐人、今までの腐人と何か違った。偽神と同じ酸性の液体に驚異的な再生力。俺たちは観戦していたから分かったが、ミーシャが燃やした両手のうちの片手が急に再生しだしたのだ。偽神と同じように。
俺が今まで見てきた腐人とは明らかに異なる。今までの腐人とチュウ、何が違ったのか。
「まぁどうでもいいか」
チュウと今までの腐人の違いなど知ったところで俺には関係ない。奴らが襲ってきたら残らず殺しつくすだけだ。
「スズ」
「ん」
スズを呼びその場を離れる。今はジンとミーシャ2人きりにしてやろう。




