82.チュウ・ソンサン
ジンとミーシャの村に来てから3回目の朝を迎えた。明日はこの村を出て神創国へと向かう予定だ。
「すぅ……はぁ〜。やっぱこの村は空気がうまいな」
「だね。地球の空気と比べるとこっちの空気の美味しさが身に染みるよ」
「そんなに、クロの世界、空気、悪いの?」
「あぁ、うちのそばにある国じゃ空が黄色くくすんでるからな。大気中に埃が舞ってるんだ」
「それは……なんとも言えな、いね」
「まぁそれでも技術力はあるからこっちの世界より何倍も住みやすいんだぞ。色々規則があって縛られるが」
「だね」
「行って、みたい」
「異世界間の移動手段が見つかればいつか連れて行ってやるよ」
と、そんなことを話しながら清々しい朝を堪能していたその時。
イギャァァァアアア!!
切り裂くような断末魔が村の中に響き渡った。
「っ、あの声、ジョーリじゃないか?」
「多分そうだよ。行ってみよう!」
「ん」
声の元に向かう美咲達について走る。すでにあの声の原因が何かは分かっていた。それは腐人の襲来だ。さっきまでは寝起きで頭が寝ぼけていたため気づかなかったが断末魔によって目覚めた脳ははっきりと腐人の気配を捉えていた。そして消えて行く気配も。
事件を荒らさないように手加減して走ったおかげで現場に着くまで少し時間がかかってしまった。
声の元、村の入り口に辿りついた俺がみたのはボロいローブをまとった大男の腕がジョーリの胸を貫いた場面だった。ジョーリは口から血を垂らし全身の力が抜け大男の腕にぶら下がっていた。
「っつ、ジョーリ!」
俺たちが入り口に着くと同時にやって来たジンが叫ぶ。そして即座に身を落とし大男へと接近する。ジンの表情は歪み怒りにまみれていた。冷静さを失ったジンの大剣は昔のように力任せに振られた一撃だった。ただただ威力のあるだけのそれを大男はフラッと避けるが、大剣の切っ先が大男の被っていたボロいローブを撥ねとばす。
中から現れたのは豪奢な司祭服を着た腐った人間だった。
「まさか……チュウさん!?」
遅れてやって来たミーシャがローブの中身を見て驚きの声をあげる。
「だれだ?」
「多分、彼はチュウ・ソンサンって言う異国生まれの司祭様だわ。あの司祭服には見覚えがあるもの。でも………」
ミーシャの反応からしてチュウと言う男はそれだけいい人だったのだろう。しかしロベリア教、ロベリアを騙っていたアビスを崇拝していたがせいで腐人になってしまったのだろう。
「一先ず、ジョーリとセキヤを回収しよう」
そう、チュウはジョーリだけでなくセキヤも殺害していたのだ。セキヤは首を潰された状態で殺されていた。そのため俺たちの元には悲鳴が聞こえなかったのだろう。
「ジン!一旦離れろ!」
「あいつはジョーリとセキヤを殺したんだぞ!?ほっとけって言うのか!」
「そうじゃない。いったん離れて落ち着けって行ってるんだ。今のお前じゃそいつを殺す事は不可能だ」
怒りで我を忘れたジンは昔のジンより劣るだろう。ステータスが高かろうが今のジンではステータスの力を出しきれていない。例えるなら伝説の聖剣を戦いも知らない素人が扱うようなものだ。
「くっ……、わかった……」
ちゃんとした判断をできるほどには頭が冷えたのだろう。チュウを攻めることをやめ俺たちのそばにまで戻ってくる。
「クロ、さっきはすまん。頭冷えた」
「そうか」
「だけど、奴は俺に、俺たちにやらせてくれ」
「ええ、私たちでセキヤさんとジョーリサンの仇を取らせて」
「端からそのつもりだ。あの男はお前らと同等程度の力は持っているだろう。でもお前らならやれるだろ?」
「あぁ、絶対にやってやる」
「必ず、仇を取るわ」
静かに、されど熱い決意を持ってジンとミーシャはそれぞれの獲物を握る。
チュウと言う男は腐人化して影響でステータスが跳ね上がっているだろうがこの2人ならやれるはずだ。
「行くぞ!」
「行くわ!」
もう1話ぐらいでジン達の話は終了です




