76.終戦
遅れてすみません
巨人を消し飛ばした俺はスズたちを囲う影がある場所まで戻る。その途中どこからか悪意に染まった視線を感じ取り、その元を探すと五十嵐がこちらを睨んでいた。
どうせ美咲を連れていかれたことを逆恨みしているのだろう。執念深い男は嫌われるぞ。
相手するのもめんどくさいので一般人レベルで睨み返してやるとビクッと体を震わせ目をそらした。
ふむ、五十嵐との距離は数キロ程度離れているというのに些細な変化まで見逃さない俺の目は異常だな。
改めて自分の異常さを実感した俺は自分で理解しながらやったことだし後悔はしていないのでどうとも思わずにスズたちの元に戻る。
「美咲、スズは大丈夫か?」
「クロ君!スズは大丈夫……といっていいのか」
「どういうことだ?」
美咲の言っていることがわからない。何かあったのだろうか。
影のドームを消し中にいるスズの姿を探す。
「スズ!」
「クロ」
スズはドームの中央で横になって美咲に膝枕をされていた。すでに意識は回復しているようで俺の声に反応してくれた。
「大丈夫かスズ?」
「だいじょう、ぶ。大丈夫、なんだけど……なん、か生えて、きた」
「…………生えた?」
ナニが?いや、ナニなわけないか。何言ってんだ俺は。
スズの姿をよく見てみる。真っ白な髪にちょこんと生えた狐耳。小さな体躯に大きくない胸。お尻からは髪と同じ真っ白な毛がふさふさと生えた尻尾が三本。細い足が伸びどこにもおかしい様子は………………尻尾が三本?
「ふさふさが増えてる」
「そうなの。スズを直してるときは集中してて気が付かなかったんだけど、いつの間にか尻尾が三本に増えてたの」
何か原因が……って、まぁあれが原因としか思えないよな。
「『白狐九尾憑依』、の所為、だと思う。白狐が言ってた。人の体に、力を宿す。宿木となる体には、大きな影響を及ぼす。って、言ってた。多分、これがそう、だと思う」
「白狐?それってあの白狐の九尾テウメのことか?」
「わかん、ない。でも、モフモフで、尻尾が九本、あって、白く、て……狐だった」
どう考えてもその白狐だろう。真っ白な髪に狐の獣人であるスズとテウメ。何かしら関係があるだろう。
「テウメってのは、なんなんだろうな」
「私の頭、に出てきた、狐は、自分のこと、ばぐ、って言ってた」
バグ?
『なぁシルス。そのバグって……俺の推測だけど世界を構成するシステムのバグって感じであってるか?』
コンピュータとかの無いこの異世界でバグとかいう言葉が存在するとは思えないし、小説とかアニメだとそういうのは大抵世界のバグって設定が多いからな。
『主様はなかなか鋭いですね。その通り、テウメが言うバグとは世界を構成するシステムから生じたものでしょう。テウメという存在は世界に生まれる予定ではなかったのです。システムから生じたバグという名の疑似生命が丁度死んで魂の抜けた器に宿ったのです。それが主様の世界で言うアルビノという染色体異常の個体に宿り白狐の九尾という存在に至ったのです』
はぁ、流石サポーター。なんでも知ってるな。
『テウメは何を目的として動いているのかもわかったりするのか?』
『いえ、それは……。個人の意識にまで読み取ることはできません』
まぁ仕方ないか。今でもチートクラスに有能だからな。
「まぁ今テウメのことについて考えても仕方ないか。わからないことを考えたって時間の無駄だしな」
それよりも。
「まずはずらかるぞ。当初の予定とはかなりかけ離れてしまったが、俺たちは元々ここにいない存在。先に城のほうに戻ってアナたちを待とう」
「ん」
「だねっ」
体力の消耗したスズを抱えゼロとエマを影で持ち上げミサキを伴いロベリアがいる場所まで戻る。
「ロベリア、帰るぞ」
「わかったのじゃ。しかし、今回は妾の出番、なかったのぅ」
ドンマイロベリア。
「次、スズたちじゃかなわない敵が現れればロベリアにやらせてやるから。な?そん時は頼むよ」
「むぅ、まぁそれなら。その代わり、また妾と勝負してほしいのじゃ」
「それはこちらからお願いしたいな。力があっても使わなければ意味がないからな」
「わかったのじゃ」
ロベリアを納得させた俺はスズを抱えながら城に向かい走る。
こうしてあっけなく人魔戦争は幕を下ろす。人と魔人族が戦うことなく、最小限の犠牲で争いは終わったのだ。
一応人魔戦争編は終了です
次かその次の章で完結とする予定です
飽き性な自分が完結間近のここまで書き続けられたことが驚きです
それも読んでくださる皆様のおかげです
まだもう少し続きますので良ければ読んでくださると嬉しいです
それと次週は投稿せず再来週から新章の始まりとします




