67.共戦前
私の前にシンプルで実用的な白い鎧を纏う、クシャっとした茶髪の男が立っている。
この人が敵将デニス・ヴィルソンだ。
「はじめまして。私は魔王軍第一元帥アナ・エレべリア。今回の対話に応じてもらいありがとうございます」
「いや、どうせうちもこのままじゃどうにもできなかったからな。はっきり言ってこのままじゃ壊滅は免れない。だから共戦を求めたい」
「よろしいのですか?敵軍と共闘して」
「こんな状況でそんなことも言ってられないさ。敵が何なのか、何が目的なのか、巨人が発したあの雄叫び、それによって起こった人の魔物化。何もかもがわからない。しかも相手は生半可な強さでもない。この状況じゃ知性を持ち話し合えるあんたらのほうが信用できるさ」
「そうですか……。では、こちらからもお願いします。私たちでもあの相手はきつい。それに、腐人化……、あの巨人の雄たけびによって腐った魔物となる現象を腐人化とこちらでは呼んでいます。話を続けるとあの腐人化は巨人の雄たけび以外に腐人化したもの、腐人に噛まれることで同じように腐人化するようです」
「ぬぅ、そうか。情報感謝する」
「こちらの腐人化はまだ少ない規模でしたが、そちらはかなりの規模で腐人化しているようですが。その腐人化したものは協会に関係しているのでは?」
こちらから見ただけでも法衣を纏ったものばかりが腐人化している。もし本当に協会の関係者ならば、クルドのこともありこれは私たちにも関係あるのかもしれない。
「よくわかったな。あんたの言う通り、協会の連中ほぼすべてがそちらで言う腐人化した。何が原因か知っているのか?」
「いえ、ちゃんとしたことはわかりません。ですがこちらで腐人化したものはクルドという犯罪者の一派でして。クルドがそちらの教皇イウランとつながっているという情報がありまして。今回の事件に何か関係がるのかと思ったのです」
私は確実に、この件はクルドに関係がある。それがどうこの巨人につながっているかはわからないが。
「まぁ、今裏を探っても仕方ない。現状をどうにかしねぇといけないだろ」
「そうですね。では戦線を混合させますか?」
「ん~……、いや、それはやめておこう。魔人族と人族。戦い方も基礎能力も姿形も違う。そんなもの同士が即席の連携をしてもどこかでほころびが出るだけだろう」
「確かに、では挟みますか。そちらの腐人化への対応は大丈夫ですか?」
「一般の兵士たちは元々仲間だったものを斬ることに対しては割り切れているが、問題は勇者たちだな」
「勇者、あの子供たちですか」
自軍の陣地からも見えたが、人族軍の一部が乱れていた。不思議に思い望遠鏡を用いて観察してみれば、装備は上物だが中身がまだ未熟。戦場にいるというのにその表情はお遊びのそれ。はっきり言うと、戦場を舐めている。
「上からのお達しでな。今回の一番の不安だな」
「そうですか。では、速く戻った方がいいでしょう。ここから見るだけでも勇者がいる場所だけ乱れている」
「ぬぅ、まったく手を焼かせる奴らだ。んじゃ、いったん戻らせてもらう。早急に腐人たちを始末し、終わり次第合図を送る」
「わかりました。それまで巨人の相手は任せてください。あなた方の準備が整うまではもたせましょう」
さて、実際に対話してみた感じからこの人は信用してもいいでしょう。噂通りの人物です。
「戻って対巨人戦の準備でもしましょうか」
魔王軍だけではきついかもしれませんが、人族が協力してくれるのなら、まだやりようはあります。
これはクロ様の試練。乗り越えた先には魔人族と人族の共存に道が開かれ、姫様の願いが叶う。
魔王軍第一元帥にして姫様のお傍付き、アナ・エレべリア。身命を賭しましょう。
同時更新中の『無影の魔王』
良ければ見ていってください




