64.デニス・ヴィルソン2
何事もなく、あっさりと上陸できてしまった。
「本当に、相手は何を考えてるんだよ……」
上陸した後、警戒しながら進軍。数時間ほど歩き続けると平原に出た。その平原に魔王軍はいた。
現状はその魔王軍とにらみ合っている。
「相手の思惑が読めねぇ」
迎え撃つなら海上か俺たちが上陸する瞬間がベスト。
なのにこんな交戦しやすい場所で迎えるなんて。阿保のすることだ。
敵総数約1万ちょい。対する俺らは約2万5千。
魔王軍の中には魔族の冒険者も混じっているようだ。明らかに急遽仕立てた感が望めない。
「万全の準備があるための自信かと思ったが、これじゃそれはあり得ないよな」
この平原での交戦に余裕で勝てる秘策や兵器があるのかと模索していたのに、敵の様子を見てそれはあり得ない。
「不気味だ」
得体が知れないものというのはそれだけで人に恐怖を抱く。
本当はこの時点で引き返したい。だがそんなことできるはずもない。
「はぁぁ……憂鬱だ」
ブゥゥゥウウウゥゥゥ
ほら貝の音が平原に響き渡る。
開戦だ。
「魔法師隊!砲撃用意……う--」
ウラ”ァァァアアアアアッッッ!
「っつ、なんだ!?」
開戦直後の定石。魔法による敵軍への先制攻撃を仕掛けようかという時、突如戦場に響き渡る何かの雄叫び。
ゴゴゴゴゴッ。
「な、にか来るのか!?」
耳を劈く雄叫びに立っているのもつらい地揺れ。
大きな、何かが来る。
「うわあぁぁぁ!」
「何か出てきたぞっ!」
「なんだよあれ!?」
そんな自軍の兵の叫びを聞き視線をそちらにやると魔王軍と俺たちの合間の平原に罅が入り土が盛り上がる。
そこから出てきたのは歪な紫色の左手。さらに腐りかけ骨が露出した右手。更に半分頭皮が剥げた頭が現れ顔は口以外がつぶれて原型がわからない。現れた上半身は皮膚が爛れ大きく膨らんだ胸があることから女形だと分かるが方胸がちぎれて垂れている。所々腐ってボコボコにへこんだり骨が突き破り露出していたり。見ているだけで吐き気を催す姿をしている。そしてでかい。まだ下半身が埋まっているが上半身だけで20mはあるだろう。巨人だ。
アァァァァアアア"ア"ア"!!!
「ぐぅっ!」
み、耳がぁ……。
どうする。あの気持ちの悪い巨人は敵なのか?
っ、まさかあれが魔王側の兵器か!?
「いや、違うみたいだな。あちら側も驚いているようだし……」
だったらこいつはなんな--
「動き出した!全員戦闘準備っ」
あいつがまだ敵か味方かわからないうちは警戒しないわけにはいかない。
「こ、こっち向いたぞ!」
「ど、どうする」
ガァァアアアアッッ!!
三度巨人が雄叫びを上げ、巨人が地面を手づかむ。それを大きく振りかぶって、って!
「魔法師隊!防御魔法用意!」
俺が魔法師隊に合図を出すと同時に巨人の手から土や石、岩が散弾となって襲い掛かる。
しかしその散弾は魔法師隊が使った防御魔法によって防がれる。
「正体不明の巨人を敵と認定!作戦変更、魔王軍の前にこいつをどうにかするぞ!」
はぁ、なんたってこんなことに……。




