63.デニス・ヴィルソン
今回は人族軍総指揮官の一人称視点です
今回初登場
「現時点にて魔物及び魔人族からの襲撃は確認されていません。視認範囲にもそれらしき影は確認されてません」
「わかった。引き続き警戒を頼む」
俺の名前はデニス・ヴィルソン。今回人魔大戦にて俺は全体の総指揮を任されていた。
つい先日までミズトで物資の補給やら船の手配をしていた。そして昨日、それらのすべてが筒なく終了し船に乗り込み魔大陸に向けて出港したのだ。魔大陸にはもう数時間もすればつくだろう。ここまでに公開にはそれほど大きな問題も起きず安全な船旅だった。怪しいほどに。この二日間で起きたこと言えば魔物の襲撃ぐらい。それも大物によるものは二体。大きな損害を出すこともなく討伐は成功した。行ってみればそれぐらいしかこの公海での問題はなかったのだ。
普段なら運がいいと喜べるのだが……現在の状況でこれはおかしすぎる。俺たちは今敵国である魔国に攻め入っている。その情報を魔国が知りえないはずがない。だからきっと何かしらの対策をしてくると思っていた。例えばこの戦いづらい海の上での襲撃だとか。魔族の中には羽をもち空を自由自在に飛ぶこともできる種族がいるはずだ。それがこの船を襲われたら海の上で戦い慣れていない俺たちでは大損害を出すことになり魔人族にとっては嬉しいことだろう。しかし、奴らは攻めてこない。
一体何故?
もしかしたら今回の総指揮を執る輩が無能なのかもしれないと考えたが、それはないだろう。少し前まで魔人族との交流があったのでそちらの情報を握っているが、その中に地位が高いくせに無能な輩などいなかった。ではほかに考えうることと言えば安全な航海で終わりが近く油断した俺たちに奇襲を仕掛けるといったものや、すでに陸地で迎え撃つ準備をしているかだが……、そんなことをするより海の上で襲った方が簡単かつ俺たちの損害も大きくなるはずだ。まぁそうならない様にいろいろ準備をしてきたが、それでも被害は大きくなるはず。
「怪しい………」
怪しいといえばこの戦争もだ。なぜ魔人族は今になって人族を襲い始めたんだ?少し前のことだが魔人族と人族は交流もあってそれ程中の悪い関係ではなかった。それは魔人族にとっても利益のある状態だった。
「確か前魔王が失脚し、新しく幼い魔人族が魔王となったと聞いていたが……もしかしてそいつが阿呆だったのか?」
前魔王には一人娘がいたはずだ。そして前魔王の死後、その娘が魔王となったと聞いたことがある。
しかし、その魔王がいくら度が過ぎた阿呆だったとしても、こんな魔人族にとって不利益極まりないことをしでかそうとして周りの者が抑えないわけがない。
「だったら、何故……っ」
今まで、今回の件に関わっているのは二つの組織だと思っていた。その二つとはもちろん魔人族と人族だ。しかし、それが二つ以上あったとしたら?仮定としてその組織がこの二つの組織を潰し合わせることが目的だとしたら?
なぜ俺たちはそんな簡単に予想できてしまえそうなことを考えなかったのだ?俺がただ考えていなかっただけかもしれないが、全員そのことについて話さないというのはおかしくないか?魔人族との関係が悪化しだしてすでに何年もたっているというのに、その議論が出てきたことは一度もなかった。
「思想を、操作されていた……?しかし、そんな大規模な魔法を使える奴なんて」
大勢の対象に対して精神操作魔法を使えるものはいるわけがない。そんなものがいれば伝説になるはずだ。だが、ある一定の考えに行かないようにするぐらいなら片手で数えきれるほどだが確かに存在する。しかし、それを何年にもかけて維持することができる奴なんて……。
「……ッまさか!」
たしか魔人族とのいざこざが始まりだす少し前から急に能力が上がりだした奴がいたはずだ。確か名前が……、
「女神教の教皇、イウラン。だったか?」
あいつは確かに精神操作系の魔法が得意だとか聞いたことがある。
「あいつはかなりの狂信者っぽいところがあったからな、もしかしたら女神関連で何かあり、この戦争を自作自演しているとすれば……」
魔人族の中にもイウランと繋がっているかもしれない奴がいるかもしれないということか。
「まぁすべて仮定として、だがな」
しかしこれはいい線いっていると思う。
「それが本当だと分かったとしても、今更この戦争を止めることなんて俺なんかにはできそうにないがな」
俺は一兵士でしかない。少し立場が上で全体を指揮することができるが、それは俺じゃなくてもできる。つまり、俺が怪しい行動を見せれば代役が出てくるかもしれないということ。
できることなら、この戦争を止めたい。もともと俺はこの戦争についていい認識をしていなかった。この騒動が始まる前には仲のいい魔人族の友人も沢山いたというのに。これのせいですべて失った。
「もしもこの戦争を止めようと考え」
あまつさえ止めてしまえる奴がいるならば。そいつは
「異常者としか言えないわな」
「魔大陸を視認できました!」
「もうそんなところまで来ていたのか」
考え込みすぎていたらしい。
「総員上陸準備!」
もしも本当にそんな異常者がいるとするならば、
「どうかこんな戦争を止めて、黒幕をボコってくれないか……」
俺、デニス・ヴィルソン。今回の人魔戦争にて人族の総指揮を担う男は、いるかもわからない異常者にそう願った。
戦争開始まで、あと少し。




