54.迷宮第120層
「ガぁっ!」
「ん?どうしたのじゃ?まだ本気出しておらんのじゃがなぁ」
ちょっと鼻を潰しただけなのじゃがなぁ。
この偽物は見た目もステータスも真似することができている。が、やはり使い慣れていない体なのか動きがぎこちない。一般人には見分けがつかないレベルだろうが私レベルのステータスになると一挙手一投足がミリ単位で見えてしまう。
「なんっ、で……同じステータス、の、はずなのにっ!」
「ステータスがすべてじゃないのじゃぞ?」
全く、妾も久しぶりに楽しめるかと思ったのじゃが。
「オラぁッ!」
偽物が殴り掛かってくるが妾にはすべて見える。妾より腕の動きが大振りすぎる。足幅も少々小さい。腰をうまく使えていない。何もかもが妾より少し違う。それだけですべての力を出し切れない。
「ダメじゃダメじゃ。もっと腕を小回りに。足幅も少し広めに。もっと腰を使え!あーダメじゃダメじゃ。全然変わっておらんじゃないか」
「う、うるさいうるさいっ。だまれぇぇ!」
はぁ。素直にアドバイスを聞いてくれれば楽しめるかもしれないのじゃが。
偽物がめちゃくちゃに攻撃してくるがすべてが当たらない。一発一発が当たれば巨大なクレーターを作る威力があるのだが、当たらなければ意味がない。
「くそっ。なんで当たらないんだよぉっ!」
「言っておるじゃろ?ちゃんと妾の言うことを聞いておればもっと戦えるというのに」
「ガァァァァァl」
おぉ、なんきキレおった。どこから取り出したのか右手に白い短剣を握っている。
「おうおう。武器を持ったからって強くなるわけじゃないのじゃぞ?」
「うぐぅぅぅぅうう!」
獣のようなうめき声をあげながら短剣を振り回す。
「ほれほれ。こっちじゃぞ」
手拍子しながら呼ぶと跳ねるように突っ込んでくる。
「まったく、イノシシのような奴じゃな。猪突猛進はよいが一対一じゃ逆に不利になるだけじゃぞ?」
「うるせぇぇぇええ!」
また突っ込んでくる。つまらんのぉ。
「ちゃんと言うこと聞けばよいものお。阿呆なのか?お主は阿呆なのか?」
「ぐ、がぁぁぁぁぁぁ。くそくそくそぉ!クソガァっ」
「むぅ……、もう飽きたのじゃ。もういいか」
「ぬ、な、なにを……!」
「ふんっ」
「グはッ」
一気に踏み込んでアッパー。
「ほれっ」
「うぐっ!」
少し浮いた偽物の腹に一発。
「ほいさっと」
「がぁぁっ!」
クの字に折れた偽物の顔を廻し蹴り。
偽物が吹っ飛び壁にめり込む。
「ふっ」
「------っ!」
その偽物を負いめり込んだ偽物の顔面に全力のストレート。
それが最後に偽物は声すら出さなく動かなくなった。
「……おりゃ」
「っ……」
一応最後に顔面に蹴り入れてみるが……うむ、死んでおるな。
「ここは……」
偽物が死んだことを確認していると背後から声が聞こえてきた。
「あ、ロベリア」
「おぉ、スズか」
背後を振り返ると真っ白な髪に頭の上にちょこんと狐の耳を乗せた少女、スズがいた。
「終わったのか?」
「ん、少し疲れた」
「こっちは手ごたえが無さ過ぎてつまらなかったなぁ」
妾がそういうとスズは苦笑する。
「ではいくとしようか」
スズと話している間に壁が開き扉になっていた。
「ん、次はだれ、かな」
「クロとゼロ、あとミサキはどうにかなるとは思うが……エマが心配じゃな」
「ん、急ごう」
「無事でおれよ」
妾たちはそう言って扉をくぐった。




