39.アブート騒動4
薄暗く高級感のある調度品が並ぶ悪趣味な部屋。そこに二人の厳つい男たちがいた。一人は豪華な机につき一人はその前に立つ。
「頭!」
「あ?なんだ?」
「うちの敷地内にこんな手紙置いてあったんですけど」
「どれ」
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お母さんを返してください。お金はきちんと払います。お願いします。お母さんを返して。場所は街の倉庫で待っています。
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「これは……あぁ、あの親子のガキの方か。確か逃げられたんだったな。顔がそこそこ整ってるから変態貴族にでも売ろうかと思ってたな」
「どうしやす頭?」
「丁度いい。会いに行ってこいつを攫っちまえ。金払うって書いてあるがあのガキに金なんて払えやしねぇよ。まぁ持っていたとしても一緒に奪っちまえばいいしな」
「わかりやした」
そう言って手下風の男は部屋を出て言った。
「ふっ。金が戻ってきたなぁ」
頭と呼ばれた男はニヤニヤとこの後に起こる地獄のことも知らずに笑うのだった。
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街の外れにある倉庫街の倉庫の1つに10歳程度の少女と黒で全身を覆っている男、そして向かい合うように厳つい男が10人。一人は服装がギラギラと悪趣味で金のかかってそうな服を着た、いかにも厳つい男たちの親分ですよ。と言う感じの男。
「やー久しぶりだね。確かフィリスちゃんって言ったっけ?」
「ひっ」
頭風、もう頭でいいや。頭は顔をニヤニヤさせて下卑た笑いを上げながら話しかけてきた。少女、フィーは頭の顔に怯えたようにクロにしがみつく。
「おーすまねぇなぁ。怖がらしちまったか?ひひひっ。んでそこの男はなんだ?」
「あー。俺が金を出すんだよ。こんな小さな子がすぐに大金を用意できるわけねぇだろ?ちゃんと考えたらわかるでしょ?」
クロは挑発するように罵倒する。頭は額に青筋を浮かべ口元をヒクヒクさせている。
「お、おおう。てメェが金を払ってくれんのか?ちょいと見せてみろよ」
頭にそう言われたクロは懐からジャラジャラ言う袋を出す。その口元を緩めれば中にはキンキラリンと輝く金貨が所狭しと詰めてあった。
「これでいいのか?」
「ひひっ。かまわねぇぜ」
男はその金貨を見た瞬間、先ほどまでの怒りを忘れたかのようにニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべる。
「じゃぁその金貨とガキ、置いて行ってもらおうカァ?」
男たちはグヒグヒと下卑た笑い声を上げる。フィーは怯えているがクロは冷めたように男たちを見るだけ。
「断る」
クロのその声に男たちはピタッと笑い声をやめる。そして何を言っているんだ?とクロを見る。
「聞こえなかったか?断るって言ったんだゴミが」
さらに煽るクロ。
「て、んめぇ。今の状況わかってんの?この場には俺たち10人。ガキとてメェしかいねぇこと」
「何言ってんだ?10人?喋って動くゴミが10個転がってるだけだろ?」
その言葉を聞いた男たちは急に表情をなくす。額にはこれでもかと青筋を浮かべながら。
「殺れ」
頭の一言に鎖を外された獣のようにクロに飛びかかる男たち。
だがその前に立ちはだかる小さな影。フィーだ。
男たちは急に飛び出て来たフィーに何してるんだ?と訝しげな視線を向けていたがその視界から突如フィーが消えた。そして何故か男たちの視界が反転しているのだ。
何故か。簡単なことだ。フィーが男たちを投げ飛ばしたのだ。
「さぁ、蹂躙劇の始まりだ」
クロは一人、ニヤっと笑うのだった。




