32.二重人格なのです
ヒモトから南の方に歩いて2週間ほどすると、太陽の光で煌めく海面が現れた。
「すごい…あれが海、おっきい」
「海か、数千年ぶりじゃな」
「綺麗だね!ねぇねぇ、ちょっと入ってみない?絶対気持ちいいよ!」
「ミサキ、何言ってるの?海に入るなんて自殺行為。動きにくい水中に、強力な魔物。そんな中遊ぶなんてできない」
「へー、そうなんだ。でも今から行くのって魔大陸なんだよね?それだったらどうやってこの海を渡るの?」
「それ、私も疑問だった。けど、クロならどうにかするだろうな、って思ってた」
「そうじゃな。クロならどうにかするじゃろ」
「主は異常だからな」
「ま、その通りだ。船は今戦争状態だから出せないから無理だよな。泳いでいくったって距離が距離だし、魔物もでるからスズ達にとっては危険だ。だから、上を行こうと思う」
「うえ?って空のこと?」
「そ、空を渡れば大丈夫だろ」
「でもクロ、どうやって空を渡る?」
「おいおいスズ。この中じゃお前がよくわかってるだろ」
「?」
「まぁいい。みてな」
そう言ったクロの影が伸びその影から這い出すように全長10メートル程の黒い竜が現れた。
「…そうだった。クロは竜を作れたんだ」
「わー!すっごい大きい!」
「改めて見ても普通の竜にしか見えんの」
「主の異常さには限界というものがないのか…」
「まぁ細かいことはいいじゃないか。それとまだこれじゃ乗りにくいかな」
そう言うと黒い竜の形が歪み始める。
ぐにゃぐにゃと丸い形になるとそこから棘が飛び出るように一本棒が生える。その先端がうえ方向に少し伸びその側面に風車のようなものがつく。
変化はそれだけでは収まらず球体の形が先端が丸みを帯びた長方形っぽい形になり、うえを向く面にとこからまたしても風車のようなものがつく。その後も細かなとこが変改していく。
まぁここまで言えばわかるだろうが今竜が変化したのは地球じゃお馴染みのヘリコプターである。
アエロスパシアル式AS355型と言うヘリコプターをモデルに作った。
「なにこれ?」
まぁこちらの世界のスズ達じゃわからない。
「わー、ヘリコプターだ!クロ君こんなものも作れるんだね!」
「へり、こぷた?とはなんじゃ?」
「ヘリコプターだよ。これは俺たちの世界にあった空を飛ぶ乗り物」
そういったクロはヘリコプターの扉を開きスズ達を乗せ自分は操縦席に行く。
「別に操縦席を作る意味もなかったんだがちょっとした遊び心だ」
スズ達が席についたのを確認してアクセルを踏む。
そこまでヘリコプターに詳しくないので操作方法はアクセルで上昇、ブレーキで下降、操縦桿で方向転換と言うとても簡単なものだ。G○A5のヘリ操作と全く一緒だ。
クロがアクセルを踏んだためヘリがゆっくりと浮かび出す。
「う、ういてる」
「まぁこれなら数時間で着くと思うから」
そんな感じで魔大陸向けて飛び立ったのだ。
「そして魔大陸につき徒歩で移動していると平原にでた。そこでは魔族の集団が向かい合っていてその間を通ったらムカつく奴がいた。そいつをボコボコにして今お前達について行って王城にいるって感じだ」
いまクロ達がいるのは魔大陸の魔王城にある応接室だ。あの後王城に向かって歩きついたのは夜遅く。一日中城に泊まってその翌日に話をしていた。
「そ、そうでしたか。と、ところで、クロ様方はどど、どうして魔大陸の方へ?」
「あー、ちょっと迷宮に用があってな」
「めめ、めいく、迷宮と言いますと、じごきゅ、地獄の門の事ですか?」
「…あぁ」
「しょ、それでしたら、迷宮までの、あ、案内をおつけしますが?」
「……あー、そうだな。別にいらないかな」
「も、申し訳ございません!」
「…………なぁ」
「は、はいっ!」
「ちょっとビビるのやめてもらっていいだろうか?」
「ごごご、ごめんなさい!」
「はぁ」
先程からクロに対して怯え続けるアナのせいで気を使うクロは大変疲れていた。
そこへガチャッという音とともに扉が開き少女が入ってきた。
「ん?エマじゃないか。どうした、遊びたいのか?」
入ってきたのは黒い角を生やした金髪の少女。赤と黒のチェックのワンピースを着ている。
「あーゴホン。私は今代の魔王、魔王エマ・S・ハイアットだ。宜しくお願いします、だ」
「「「「「は?」」」」」
ここに来るまで普通の少女だった子が急にしゃべり方も変わり大人のような口調で話し出したことにクロたちは揃って疑問符を上げる。
「あーそのー。先程まで貴方方の相手をしていたのは私であって私ではないのだ」
「…どういうことだ?」
「あ、あのぉ。簡単に言いますと、エマ様は二重人格なのです」
「二重人格?」
「その通りだ。私にはいまの私と子供のままの私がいるのだ。まぁ何故そうなったのかはよくわからないがな」
「んじゃ本当にお前がさっきのエマなのか?」
「まぁ見てもらった方がわかるだろう」
そういって目を瞑るエマ。数秒後。
「っ、ん?あ!おにぃちゃんなの!おにぃちゃん遊ぶの!」
「……本当にエマなのか」
「ん?どうしたのおにぃちゃん」
「いやちょっとな」
「ふーん。変な…」
突然言葉が切れるエマ。首がカクッとなる。
「ふぅ。どうだ?信じてもらえただろうか」
「もどった。それは自由に変えれるのか?」
「変えれるが自由にできるのは私だけだ。子供のエマではいまはできない。まぁそのうちできるようになるだろう」
「なかなか便利なもんだな」
「だろう?この二重人格のお陰で子供のエマに魔王という重みを背負わせなくて済んだ。まだ20歳なのに自由を奪うなどしたくない」
「は?20歳?」
「?あーそうか。人間は100歳ぐらいしか生きれないんだったな。私たち魔族は200程度まで生きれるから人間で考えると10歳だな。だからそんなちっさなエマ重荷を背負わせたくない」
「頑張ってるんだな、お前は」
エマの頭を撫でる。
「な、何をするのだ!頭を撫でるな!」
「いいじゃねぇか。減るもんじゃないし」
「子供扱いされるのは苦手なのだ!それに頑張るのは当たり前だ!あんな奴に国を預けれるわけがない。まぁそいつを貴方が倒してくれたので問題が減った。ありがとう」
「あいつか…あいつは何だったんだ?」
「奴は元魔王の宰相だったのだ。仕事もでき人望も厚く優秀な宰相だった」
「嘘だろ?」
「本当さ。あの時が来るまでは、だがな」
「あの時?」
「6年前前魔王、エマの父親が何者かの手によって殺されたんだ」
「っ、犯人は?」
「わからない。という事になっている。犯人はクルドだ。だが証拠がない。表向きは優秀な宰相だから証拠なしで罰することができなかった。だからそのまま放置していたんだが、最近何やら裏で動いていたらしかった。それは昨日の準備をしていたのだろう。一昨日に魔王殺しからと言う手紙が送られて軍を連れてそこに向かえば待っていたのはクルドとクルドの手下。そして戦いが始まろうとした時に貴方方の登場。本当に助かった。あのまま行けば確実に我らの敗北。本当に礼を言う」
「構わない。ついでだ」
「ついでで戦を止めるとは…なぁクロ殿」
「どうした?」
「迷宮に行くのだろう?よければ私も連れて行ってはくれまいか?」
「っ、姫様!」
エマの言葉を聞いてアナが声を上げる。
「アナは少し黙っていてくれ。それでどうだろうか?」
「どうしてだ?」
「あなたに興味が湧いたからだ。人間なのにとてつもなく強い。魔王である私を殺せるほど。今や人間の敵である私を殺そうとしない。それどころか親しく接してくれる貴方に興味が湧いたのだ」
「……本当にそれだけみたいだな。まぁ別について来るのは止めやしない。ついてきたけりゃ勝手にしろ。出発は明日の朝。遅れるなよ?」
「勿論だ!ありがとう!」
笑顔なエマを見て表情を和らげるクロ。
そこで解散となり各自自分の部屋に戻っていく。
そして早朝。




